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2024/03/13

9,000 名以上が使う PLM「Windchill」を Azure へと移行、データベースの PaaS 化などで柔軟性と安定性を向上させ、コスト削減も実現

デジタル製品やグラフィック ソリューションなど、多岐にわたる製品やサービスを提供する株式会社リコー。同社では、それら設計開発の基盤として重要な役割を担う PTC 社の PLM、「Windchill」が、プライベート クラウドから Microsoft Azure へと移行されています。その最大の目的は、増え続ける負荷に対応するため、ハードウェア性能の制約から解放されること。それにより、ユーザーが必要とするパフォーマンスを柔軟に提供することを目指しました。そのために、データベースに PaaS を採用すると共に、バッチ処理用サーバーには GPU 付きインスタンスを選択。パフォーマンスの柔軟性と安定性を高めると共に、コスト削減も実現しています。今後も新たなシステムは、すべてパブリック クラウド上で構築する方針。特に CAD データを扱う領域においては、Azure を採用することが多くなるはずだと語っています。

Ricoh Company Ltd

ユーザー数が増え続けていた Windchill、ハードウェア性能の制約が大きな問題に

製品開発に必要な情報管理を行うため、製造企業にとって不可欠な基幹システムの 1つである PLM (Product Lifecycle Management)。その変化対応力を高めるため、クラウド化を検討している製造企業は決して少なくないはずです。これを Azure の PaaSを活用しながら実現したのが、株式会社リコー (以下、リコー) です。同社は PTC社が提供する PLMソフトウェア「Windchill」の大規模ユーザー。開発および設計に携わるエンジニアはもちろんのこと、製造を行う工場やサービス現場などにも導入され、9,000 名以上が利用しています。

Windchill のクラウド化の背景について、リコー デジタル戦略部 コーポレートIT統括センター 設計改革推進室で室長を務める吉村 俊哉 氏は、次のように説明します。

「私達は、リコーグループのコーポレートITの中で、エンジニアリング チェーン領域の IT の企画、開発、サービス提供を担当しています。リコーグループのコーポレートIT全体としては、2020年からクラウドファーストを方針として掲げ、新規システム構築やシステム更改においてはパブリッククラウドを採用したシステム構築を原則としています。その目的は、クラウドのメリットを活かすことで、ビジネス要求/変化に対する俊敏な IT 対応力の確保、インフラリソースの柔軟性/可用性/効率性の確保、ハードウェア調達のリードタイム短縮、ハードウェアの EOS (サポート終了) 対応からの脱却、それらの上で TCO (総保有コスト) を削減することです」。

その一環として着手された Windchill のクラウド化ですが、ここで大きなテーマとなったのが、負荷の増減に対して柔軟に追随できる環境の実現でした。

「PLM は製品ライフサイクルのフェーズによって負荷の変動が大きいうえ、当社ではビジネス拡大に伴い利用者も増え続けています」と語るのは、リコー デジタル戦略部 コーポレートIT統括センター 設計改革推進室 設計3グループの飯田 正史 氏。以前はプライベート クラウドで運用していましたが、ハードウェアがほぼ固定されていたため、パフォーマンス調整が困難だったと言います。

「仮想マシンをやりくりしながら対応してはいましたが、プライベート クラウドでは利用できるリソースに限りがありました。しかしハードウェア増強を行ってしまうと、負荷が下がった時に遊んでしまうという問題が生じます。特に大きなボトルネックになっていたのが、データベースとバッチ処理です。バッチ処理においては、ストレージの IOPS 上限が低いうえに、サーバーに GPU がついていなかったため、期待したパフォーマンスを得ることが年々難しくなっていったのです。これを解決するには、パブリック クラウドへの移行しかないと考えていました」。

検討を開始したのは 2022年夏。この直前に Windchill のバージョンアップを完了、次回バージョンアップに向けた複数の課題に対する解決手段の一つとして、パブリック クラウドへの移行の検討を具体的に着手すべきと判断したと、吉村 氏は振り返ります。

「このタイミングで、次のインフラはパブリッククラウドにすることに決めていました。ただし、リコーではマルチクラウド戦略を採用しており、既に複数のパブリッククラウドを活用しています。それらの中から PLM システムに最適なものを選択する必要がありました」。

「CAD/PDM/PLMのインフラとして Azureのメリットは明らか」と判断、POC では FastTrack も活用

ここで選択されたのが、Azure でした。その理由について吉村 氏は以下のように説明します。

「実はWindchill のクラウド化検討に先立ち、機械系 3D-CAD 環境のクラウド VDI への移行を進めていました。Microsoft Azure Virtual Desktop を利用して、設計者が、事業所や自宅のノート PC から 3D-CAD を利用できる環境を提供していました。ここで Azure を選択した理由としては、Windows クライアント OS が利用できる、かつ、既にリコーグループ全体で利用中の Microsoft 365 のライセンスをクラウド上でも有効活用できるからです。これによってトータル コストを抑えると共に、3D-CAD 等の描画においてもユーザーがストレスを感じないCAD 環境を提供している状態でした。一方で、Windchill は、CAD との間でデータ通信量が多く、エンドユーザーからは高いレスポンス性能が求められます。そのため、Windchill のパブリック クラウド選択においては、CAD とネットワーク的に近い場所であることが必須でした」。

これに加えて飯田 氏は「リコーがWindchill で採用したデータベースがマイクロソフトの SQL Server である点も大きな理由」だとも指摘します。Azure であれば、保有ライセンスをそのまま活かすことができ、さらなるコスト抑制に貢献できるのだと言います。

これらの理由から「CAD/PDM/PLM のインフラとして Azure を選択するメリットは明らか」だと判断。パートナーとして    Windchill と Azure の両方に豊富な知見を持つ株式会社日立ソリューションズ様の参画のもと、Azure移行プロジェクトがスタートします。さらに同年 12 月には、具体的な実装方法についてマイクロソフトにも相談。ここでマイクロソフトの Azure エンジニアによるカスタマイズされたガイダンスを得られる FastTrack for Azure (以下、FTA) の活用が提案され、すぐに支援開始のうえ、3 か月間の POC (実証実験) を開始します。

「FTA は既に VDI での実績がありました。これまでもマイクロソフト様とはお付き合いがありましたが、”顧客と共に成功する” という姿勢が明確で、高い信頼感があります。これも Azure 選択の理由の 1 つです」 (吉村 氏)。

この POC で最も重要な検証項目となったのが、オンプレミスの SQL Server から Azure SQL Database への移行でした。オンプレミス版には「バージョン」の考え方がありますが、PaaS の Azure SQL Database にはこの考え方がなく、短いサイクルで機能がアップデートされ続けます。また以前は手動で行っていたパッチ適用や、バックアップおよびディザスタリカバリ対策も自動化されます。これらは PaaS 利用の大きなメリットではありますが、運用方法は変えなければなりません。また、Windchill は設計開発、生産、サービスで広く使われる「止められないシステム」であるため、システム移行を短期間で行うことも求められました。

「FTA では新たな運用方法と Azure SQL Database への高速なデータ移行方法を一緒に考えていただきました。また、POC で顕在化した問題や疑問に対しても、約9 割は FTA のエンジニアとの週次セッションで即座に解決、関連ドキュメントもその場で提示いただくことができ、驚くべきスピード感でした。こちらが方針を示せば、方針と現実とのギャップを解消する方法は、FTA がすぐに提案してくれたのです」 (飯田 氏)。

2023年3月までに POC を完了し、その翌月からは本番構築をスタート。データベースは PaaS、バッチ処理のサーバーには GPU 付きのインスタンスを採用したシステムを作り上げていきます。そして構築開始からわずか 5 か月後の 2023年8月には、本番リリースを行っているのです。

性能の柔軟性、安定性、コスト削減を同時に実現、Windchill 上での開発も俊敏化

「データベースを PaaS にしたことで、データベース性能を柔軟に高めることが可能になりました」と飯田 氏。またバッチ処理用のサーバーを GPU 付きインスタンスにしたことで、仮想マシンの数を減らすことも可能になったと言います。「以前はバッチ処理に 8 台分の仮想マシンが必要でしたが、Azure では 4 台分で十分な性能を発揮できるようになりました」。

ランニング コストも削減されています。以前はデータベース領域の拡張やパッチ適用のため、1 年に 2 ~ 3 回の頻度でデータベースを停止させて作業を行っていましたが、この作業が不要になったからです。「以前はこの作業に、年間で 2 ~ 3 人月はかかっていました。また購入していたバックアップ ソフトウェアも不要になったため、これも含めるとさらに大きなコスト削減になっています」 (飯田 氏)。

安定性も向上しました。以前はデータベース性能の制約でスローダウンする危険性が危惧されましたが、現在ではその不安が解消されています。また仮にデータベースの処理低下 (スロークエリ) が発生した場合でも、Azure で提供される Query Performance Insight ですぐに検知でき、迅速に対応できると飯田 氏は述べています。

このようにコスト削減とパフォーマンス面の柔軟性向上、安定性向上を実現した Azure 上の Windchill ですが、効果はこれだけにとどまりません。開発のアジリティも飛躍的に高くなったと吉村 氏は指摘します。

「リコーでは、ものづくりの技術情報を Windchill に蓄積、利活用する、この仕組みをスパイラルアップしている最中の状況で、数多くの IT プロジェクトが常時動いています。以前は、ハードウェアの調達やソフトウェアのインストール、各種設定を行うなど、開発環境の準備に 1 ~ 2 か月はかかっていました。現在は、既存開発環境のインスタンスを複製して立ち上げ、DB 等のデータをコピーするという手順になったため、開発環境の準備に必要な時間は 2 ~ 3 日に短縮されています」。

PLM 環境の Azure 移行に合わせて、他の CAD 環境も、Azure に移行していると吉村 氏。機械系 3D- CAD に続いて、電気系 CAD、生産準備で利用する CAD についても Azure 上で稼働しています。

「今後のシステムは、パブリック クラウドを活用してゆきます。リコーグループのコーポレートIT 全体としては、SaaS ファーストですが、CAD/PDM/PLM 領域においては、業務要件を達成した上で SaaS を活用できるようにしてゆくための道のりは、まだ長いと考えています。よって、今、クラウドの価値を享受するためにも、PaaS 機能を積極的に活用したいと考えています。Windchill はパッケージとして Azure のフルマネージド サービス 「Azure SQL Database」をサポートしていますが、他のパッケージにも是非 Azureのフルマネージド サービスに対応していただきたいと思います。また、マイクロソフト様に対しては、クラウドのリーディング カンパニーとして、このような各社パッケージ ベンダーの取り組みを後押ししていただくことを期待しております」 (吉村 氏)。

FastTrack for Azure(FTA)は終了したプログラムで、現在は提供されていません。

“今後新たに構築するシステムは、パブリック クラウド上で動かす方針です。特に CAD/PDM/PLM 領域のシステムは、Azure の PaaS 機能を積極的に活用したいと考えています”

吉村 俊哉 氏, デジタル戦略部 コーポレートIT統括センター 設計改革推進室 室長, 株式会社リコー

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