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2024/03/26

Azure OpenAI Service を活用した対話型 UI を「じゃらんnet」に試験実装、従来型検索ではわからなかったユーザー ニーズが短期間で把握可能に

国内の代表的な旅行予約サイトとして、数多くのユーザーが活用している「じゃらんnet」。ここでは生成 AI を活用した、対話型ユーザー インターフェイス (UI) の試験実装が行われています。そのための基盤としては Azure OpenAI Service を採用、2023 年 5 月に試験提供が始まっているのです。この取り組みで重視されたのが、生成 AI による対話型 UI を短期間で構築でき、ユーザーからの反応などをスピーディに集められること。また OpenAI 社が提供している ChatGPT とは異なり、セキュリティやデータ ガバナンスをしっかり担保できることや、安定的かつ高速なレスポンスを実現できることも評価されています。じゃらんnet の取り組みと並行して、リクルート社内では他にもさまざまな部署が Azure OpenAI Service の活用を推進中。既に 30 以上の利用環境が社内提供されており、利用希望は現在も増え続けています。

Recruit Co Ltd

2020 年から取り組んできた AI 活用、しかし社内開発ではスピーディな検証が困難

1960 年の創業以来、個人と企業をつなぎ、より多くの選択肢を提供することで、「まだ、ここにない、出会い。」を実現してきた株式会社リクルート (以下、リクルート)。その後、提供するコンテンツの幅は大きく広がっていき、2000 年以降はインターネットなどのテクノロジーも活用することで、「やってみたかったこと」「行ってみたい場所」を思い立ったら「すぐに実現できる」という価値を生み出しています。

その中の 1 つとして、旅行に関する情報提供や宿泊予約などのサービスを提供しているのが「じゃらんnet」です。2000 年にサービスを開始し、国内の代表的な旅行予約サイトとして多くのユーザーが活用、登録されている国内宿泊施設数は 2 万軒以上に上ります。宿泊予約に加えて、交通手段と宿泊を組み合わせた「じゃらんパック」やレンタカー予約、ゴルフ場予約などの追加体験を提供していることも大きな特長。さらに、日本地図からエリアを絞り込んで旅行先や宿泊施設を選べるなど、直感的でわかりやすいユーザー インターフェイス (UI) も、ユーザーに高く評価されています。

しかし、じゃらんnet を取り巻くビジネス環境は、常に順風満帆とは限らないと指摘するのは、リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データプロダクトユニット データテクノロジーラボ部で部長を務める高橋 諒 氏です。

「国内の OTA (オンライン トラベル エージェント:実店舗を持たずにインターネット上だけで旅行商品の取引が完結する旅行会社のこと) は価格競争が激化しており、ここからどのようにして抜け出すかが大きな課題になっています。そのためには、顧客の “粘着性 (ユーザーがそのサービスに惹きつけられた状態のこと)” を高めるうえで決定打となる、新たな価値を提供する必要があります」。

そのためにじゃらんnet では、2020 年から AI を活用した対話型 UI に対する取り組みをスタート。大規模言語モデル (LLM:Large language Models) を活用した社内開発も、以前より行っていたと高橋 氏は振り返ります。

その最大の目的は、潜在的なユーザー ニーズの把握です。既存の検索機能では、ユーザーが明示的に設定した条件に基づいた提案しかできないため、把握できる顧客ニーズも限定されてしまいます。それ以外のニーズも集めていくには、もっとふわっとした条件も扱える UI が必要だったのです。

「しかし、自社で対話型 UI の開発および実装を行うには、時間と手間がかかりすぎます。新しい試みを行う場合には、それがお客様の心に刺さるのか、スピーディに検証しなければなりませんが、以前はそれが困難だったのです」 (高橋 氏)。

Azure OpenAI Service で可能になった「わずか 2 週間」での対話型 UI の構築

このような悩みを抱える中、2022 年 11 月に登場し、大きな注目を集めた生成 AI が、ChatGPT でした。

「そのころ既に海外 OTA が、これをプラグインとして組み込んだ新しいサービスを開始しており、じゃらんnet でも一刻も早く生成 AI を活用した対話型 UI を実現すべきだと考えました」と高橋 氏。しかし公開されている ChatGPT をそのまま使い、そこに社内のデータを上げてしまうのでは、セキュリティやガバナンス上の問題が生じてしまいます。また当時の ChatGPT は動作が不安定で、エンタープライズで使えるものではなかったとも指摘します。

その後、マイクロソフトが 2023 年 1 月に ChatGPT と同様の機能を利用できる、Azure OpenAI Service の一般提供開始を発表。これならデータをインターネットに公開することなく利用でき、Azure 上で稼働するのであれば安定性も問題ないと評価されました。

そこで「ユーザー ニーズをより迅速に把握する」という目標を明確にしたうえで、2023 年 3 月 8 日には Azure OpenAI Service を活用した対話型 UI の開発に着手。わずか 2 週間で実際に動くものを作り上げることに成功しています。その後、生成 AI をベースにしたプロダクトのリリース基準などを関係部署と調整し、5 月 29 日にじゃらんnet への試験的な実装とリリースを実施したのです。

その対話フローについて次のように説明するのは、リクルート プロダクト統括本部 販促領域データソリューション2ユニット(マリッジ&ファミリー・自動車・旅行) マリッジ&ファミリー・自動車・旅行データソリューション部 マリッジ&ファミリー・自動車・旅行データエンジニアリンググループの今野 颯人 氏です。

「まず、生成 AI がユーザーが入力したテキストの内容を分析します。分析した結果、ユーザーの入力テキストにエリア情報がない場合は、ユーザーにエリアの大まかな候補を絞ってもらうために "エリア誘発" を行います。エリア情報が複数ある場合にはこれらの候補からさらにエリアを絞り込むために、エリアの魅力を伝えるような "エリアアピール文生成" を行います。単体エリアまで絞り込まれたら、条件に合致した宿についてその魅力を伝えるための "宿アピール文生成" を行い、宿を提案します」。

また、悪意のある質問入力を行うことで生成 AI に意図していない動作をさせる「プロンプト インジェクション」に対しては、「旅行に関係ある質問か」を生成 AI で判定してスコアリングしたうえで、スコアが低い場合には「ご要望には答えられません。どのような旅行をご希望ですか?」などの定型文を返すようにしていると言います。

「OpenAI 社が提供している ChatGPT も実験的に使ってみましたが、Azure OpenAI Service はレスポンス速度が早く、ChatGPT に比べて 1/3 の時間で回答を返すことができます」と今野 氏。またデータ配置場所のコントロールを確実に行うことができるため、セキュリティ面でも安心して使えると述べています。「現在は GPT のモデルをそのまま使い、コンテキスト内学習で回答を生成していますが、今後は社内データを用いたファイン チューニングを行うことも考えています」。

対話型 UI の本質を徹底的に意識、そこから明らかになった国内旅行への隠れたニーズ

現在は月に数万ユーザーが、この対話型 UI を使っていると高橋 氏。それではこれによって、どのような知見が新たに得られているのでしょうか。その具体的な内容について、今野 氏は次のように説明します。

「じゃらんnet ではエリアで旅行先を検索するユーザーが多いため、この試験運用でも “エリア軸” での回答を行っていますが、実際には “テーマ・目的軸” や “移動方法軸” でのニーズが意外に多いことがわかりました。たとえば “〇〇に関するおすすめスポットは“ “レンタカーで楽しめる旅行先は” という質問が少なくなかったのです。また、生成 AI とのやり取り内容に対するコメントを付けることもできるため、改善ポイントに関する声を集めることも容易になりました。その一方で SNS での反響もモニタリングしているのですが、否定的な反応が 1% に満たないことも、大きな発見でした」。

このような知見がわずか半年で得られたことについて「もし社内開発を続けていたら、はるかに長い期間が必要だったはずです」と高橋 氏。その理由は、開発に時間がかかることに加えて、社内開発では自由度があまりにも高いため、対話型 UI の本質を見失う恐れもあったからだと指摘します。「Azure OpenAI Service を使うことで、何が対話型 UI の本質なのかを意識しやすくなり、取り組むべきポイントも明確になりました。その結果、実施内容をしっかりと絞り込むことができたのです」。

Azure OpenAI Service を迅速に安心に利用できる環境とルールを整備

リクルート社内では、じゃらんnet 以外にも、Azure OpenAI Service を活用したプロジェクトが進められています。

「Azure OpenAI Service を利用したいという社内要望に対してはデータ推進室が中心となってその利用用途や方法をレビューし、コンプライアンスなどへの条件を満たしているかどうかを判断したうえで、利用に必要な環境を発行しています」と言うのは、リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データプロダクトユニット データテクノロジーラボ部 データテクノロジーアーキテクトグループでグループマネージャーを務める松田 徹也 氏。既に 30 以上の環境を発行しており、利用希望は現在も増え続けていると語ります。

その具体例として松田 氏が挙げるのが、求人サービスを求職者側が利用する際に必要な「職務経歴書 (レジュメ)」を、ユーザーとの対話形式でのやり取りを通じて作成できるツールです。経験やスキル、希望条件に関する質問に答えるだけで、レジュメを簡単に作ることができます。この他にも、社員が必要とする情報の情報ソースを見つけ出すための社内ツールや、社内開発したプログラムの設計内容やソースコードを要約するツールなどが作成されていると言います。

「今後は Azure OpenAI Service の利用環境の承認/発行の自動化を、社内の承認ツールなどを活用することで推進していきます」と高橋 氏。また、利用中のセキュリティ リスクを自動検知するなどのしくみによって、全体的なガバナンスもさらに高めていくと語ります。

「生成 AI の活用に関しては社内でもさまざまな意見がありますが、重要なことはリスクを適切に評価し、よりよい顧客体験を生み出すための活用を進めていくことです。リクルートはもともとデータを使ったマッチングを得意とする会社であり、その強みをさらに活かしていくためにも、新たなテクノロジーをいち早く活用できる環境を整備したいと考えています」。

“新しい試みを行う場合には、それがお客様の心に刺さるのか、スピーディに検証しなければなりません。Azure OpenAI Service は自社で作り込む必要がないため、対話型 UI がお客様にどの程度の価値を提供できるのか、迅速にデータを集めることができます”

高橋 諒 氏, プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データプロダクトユニット データテクノロジーラボ部 部長, 株式会社リクルート

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