「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレート メッセージを掲げ、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」をはじめ、社会課題を解決するさまざまな事業やサービスを展開している株式会社 LIFULL。生成 AI の活用にも積極的に取り組んでおり、「ChatGPT 向けプラグイン」や、住宅弱者の住まい探し支援に特化した AI チャット「接客サポートAI by FRIENDLY DOOR BETA」などをリリースしています。その中でも特に注目したいのが、野村不動産ソリューションズと共同で開発した「AI ANSWER Plus (ベータ版)」です。これは不動産業界では初となる、一般ユーザー向けの生成 AI 活用サービス。不動産情報サイト「ノムコム」のデータと、LIFULL の高い AI 活用技術をかけ合わせることで実現したのです。その基盤として採用されているのが、Microsoft Azure OpenAI Service。高い安定性と安全性、開発スピードの高速化に、大きな貢献を果たしています。
早い時期から AI 活用に着手、2023 年には ChatGPT を活用し、独自 AI から生成 AI へとシフト
「すべての不動産情報が公開され誰でもアクセスできる仕組みを構築したい」との一念から、1995 年に創業された株式会社 LIFULL (以下、LIFULL)。現在では「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレート メッセージを掲げ、LIFULLグループとして不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」や、空き家の再生を軸に日本に新しいライフスタイルを提案する「LIFULL 地方創生」、さまざまな高齢者向けの住まいを探すことができる「LIFULL 介護」など、グローバル向けを含めて 50 以上のサービスを展開しています。これらのサービス提供を通じて、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を感じられる社会の実現を目指しているのです。
同社の活動でもう 1 つ注目したいのが、AI への取り組みも早い時期から積極的に行っていることです。
「AI の活用はかなり前から行っており、独自 AI の開発にも取り組んできました」と語るのは、LIFULL テクノロジー本部 ユーザーファースト推進ユニット 兼 ジェネレーティブAIプロダクト開発ユニットで、エンジニアマネージャー/UXリサーチマネージャーを務める山﨑 顕司 氏。独自 AI を用いた LINE チャットボットや、間取り図から AI で 3 次元画像を生成するサービスなど、さまざまなことを実現してきたと振り返ります。
生成 AI にも登場当初から注目していたと山﨑 氏。2023 年に入ってからは、前述の独自 AI を用いた LINE チャットボットを ChatGPT に移行する、といった取り組みも行われていると言います。2023 年 5 月には、独自 AI から生成 AI へのシフトを進めていくため、「ジェネレーティブ AI プロダクト開発室」を設置。その第一弾のサービスとして、漠然とした希望を適切な物件検索条件に変換する「ChatGPT 向けプラグイン」の提供を、2023 年 6 月に開始しています。
また、ほぼ同じ時期に、高齢者や外国籍の方などの住宅弱者の住まい探し支援に特化した、不動産店舗向けの AI チャット「接客サポート AI by FRIENDLY DOOR BETA」の開発にも着手。2023 年 8 月にリリースしています。
このサービスについて「実は社会課題解決の一環として LIFULL HOME’S で『ACTION FOR ALL』というプロジェクトを行っており、その一環として取り組まれてきたのが『FRIENDLY DOOR』です」と言うのは、LIFULL テクノロジー本部 ユーザーファースト推進ユニット 兼 ジェネレーティブAIプロダクト開発ユニットで、新規事業プロダクトデベロッパースペシャリスト/UXストラテジストを務める有賀 和輝 氏。FRIENDLY DOOR には 2023 年 6 月時点で約 5,000 弱の店舗の不動産会社が参画していましたが、各店舗への細やかな対応には人手が足りないという問題を抱えていたと説明します。「そこで生成 AI を活用してはどうかという話になり、『接客サポート AI』の開発が始まりました。開発期間は 6 週間、この間に 3 回の改善を行っています」。
ChatGPT で直面した 2 つの課題を解決するため、Azure OpenAI Service へと移行
しかしこのような ChatGPT 活用の中で、大きく 2 つの課題が顕在化していくことになります。その 1 つが、安定性の問題です。「お客様に提供するサービスを実現するには高い安定性を実現しなければなりませんが、OpenAI 社の ChatGPT は頻繁に停止してしまい、サービス レベルの明確な規定も存在しませんでした」と山﨑 氏は指摘します。
もう 1 つは安全性への懸念です。開発者が意図しない挙動を誘発させる「プロンプト インジェクション」や、AI 提供目的とは無関係な質問を行うといった「いたずら」に対して、ChatGPT は十分な対処が行えなかったと言います。
これらの問題を解決するため、ChatGPT と同様の機能が利用できる Azure OpenAI Service への移行を検討。その際に行われた具体的な検証内容について、有賀 氏は次のように説明します。
「GPT4 をサポートした 2023 年 6 月に Azure OpenAI Service を使い始め、OpenAI 社の ChatGPT や GPT 以外の対話型 AI との比較を行いました。その結果、ChatGPT や Azure OpenAI Service といった GPT 系の方が他の対話型 AI よりも回答精度が高いことや、ChatGPT に比べて Azure OpenAI Service の方が高い安定性を確保できることがわかりました。また Azure の AI 開発環境には、生成 AI を利用したアプリケーション開発を支援するための『プロンプト フロー』や、Azure OpenAI Service で社内のデータを活用しやすくする『Azure AI Search』も用意されており、プロンプト インジェクションや無関係な質問への対応も容易になると判断。さらに、ChatGPT にはないセキュリティ関連のドキュメントも整備されているため、顧客向けサービスに使ううえで最適だと評価しました」。
このような検証を行った後、「接客サポート AI by FRIENDLY DOOR BETA」の ChatGPT を Azure OpenAI Service へと移行。1 か月余りで完了し、現在は安定的に稼働していると言います。
その後 LIFULL は、さらに本格的な生成 AI プロジェクトを開始することになります。それは、野村不動産ソリューションズと共同で、一般ユーザー向けの不動産取引相談 AI サービス「AI ANSWER Plus (ベータ版)」を開発および提供する、というものです。
「『ノムコム』という不動産情報サイトを立ち上げた際にお手伝いしたこともあり、野村不動産ソリューションズ様とは旧知の間柄です」と山﨑 氏。その後、野村不動産ソリューションズは独自の AI をノムコムに組み込み『住まいの AI ANSWER』というサービスを提供していましたが、お客様の問いかけに対する柔軟さに課題があったため、生成 AI で解決できないかという相談を受けることになったのだと言います。「2023 年 7 月末にお会いしてこのようなお話をいただいたのですが、今回は最初から Azure OpenAI Service を使いたいと考えました。そこでセキュリティや著作権への対応、現時点での法解釈の状況などをご説明したうえで、採用に同意していただきました」。
業界初の一般ユーザー向けサービスでも Azure を採用、高い安定性と安全性、高速開発を実現
まずは簡単なプロトタイプを 3 日間で作成し、野村不動産ソリューションズに見せてから、2023 年 8 月に開発プロジェクトをスタート。その後は毎週のようにプロトタイプを作成し改善。2023 年 11 月に「AI ANSWER Plus (ベータ版)」を完成、一般ユーザー向けへの提供を開始しています。
「まだ提供が始まったばかりであり、ビジネス面での定量的な効果が出てくるのはこれからです」と山﨑 氏。しかし、不動産業界としては初めての一般ユーザー向け生成 AI サービスということもあり、野村不動産ソリューションズの先進性の認知拡大や、『ノムコム』のプレゼンス向上に、大きな貢献を果たしているのではないかと語ります。「ノムコムの最新コンテンツを常に参照するため、回答に関わる知識のメンテナンスを行う必要もなくなりました。提供開始から今までメンテナンスを行うことなく動き続けており、野村不動産ソリューションズ様の運用負荷も大幅に下がっているはずです」。
その一方で有賀 氏は「このようなサービスを短期間で開発できたことは、当社への評価向上にもつながると考えています」と言及。安定性も ChatGPT とは「段違い」であり、回答品質も高く、ChatGPT にはないコンテンツ フィルターや Azure の各種セキュリティ機能によって、安全性もきわめて高いシステムになっていると言います。またコストを抑えながら高い拡張性を確保できたことも、野村不動産ソリューションズから高く評価されていると述べています。
「実際にこのサービスのプレス リリースを行ったときには、業界内がざわついたと聞いています。生成 AI はまだ不確実性の高い技術であり、B to C サービスに適用するのは時期尚早だと考えられていたからです。生成 AI に Azure OpenAI Service を採用したからこそ、このようなサービスも実現できたのだと考えています」。
ただし本当に重要なのは、単に生成 AI という機能を提供することではなく、これによってどのような顧客体験を実現するかだと山﨑 氏。そのためには、これまでに提供してきたサービスの改善を含め、生成 AI を活用した開発を高速に回していくことが求められており、これも Azure なら行いやすいと言います。
「チャットの次は、画像や音声にも取り組んでいきます。既に Azure 上での実験と検証は進めており、マイクロソフトから毎週のように発表される新機能も積極的に活用しています。現在の不動産業界では、AI はまだ特殊な “飛び道具” のような扱いですが、これからは当たり前のツールになっていくでしょう。より良い体験と価値提供につながる開発を高速に進めていくことで、不動産業界✕生成 AI をリードし続けたいと考えています」。
“現在の不動産業界では、AI はまだ特殊な “飛び道具” のような扱いですが、これからは当たり前のツールになっていくでしょう。より良い体験と価値提供につながる開発を高速に進めていくことで、不動産業界✕生成 AI をリードし続けたいと考えています”
山﨑 顕司 氏, テクノロジー本部 ユーザーファースト推進ユニット 兼 ジェネレーティブAIプロダクト開発ユニット エンジニアマネージャー/UXリサーチマネージャー, 株式会社 LIFULL
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