上野 貴文, Author at マイクロソフト業界別の記事 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog Tue, 25 Jul 2023 16:42:43 +0000 en-US hourly 1 物流業界における Sustainability Transformation〜ビジネスモデルの変革を支える DX とは〜Volume.2 (全 3 回) http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/sustainability/2023/04/26/manufacturing_sustainability_2/ Wed, 26 Apr 2023 06:14:36 +0000 今回の Volume.2 では、欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーでパートナーを務めており、物流業界の第一人者である小野塚征志氏にビジネスモデルの変革を支える DX と物流業界に関連する具体的な新規ビジネス事例やテクノロジー活用について、CO2  削減の観点も交えてお話を伺います。

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Volume.1 では物流業界における CO2 削減に向けた環境認識、業界課題、アプローチについて考察し、必要なデータの「見える化」をすることで「削減」を実現していくステップが重要であることを紹介しました。また、「見える化」と「削減」のステップと並行して、サステナビリティを実現するためのマインドセットやビジネスモデルの変革(削減をコストとして捉えるのではなく、新たな収入源として捉えた柔軟な発想・変革)が重要である点について触れました。

物流業界における Sustainability Transformation〜CO2 削減に向けて〜Volume.1 (全 3 回) – マイクロソフト業界別の記事 (microsoft.com)

今回の Volume.2 では、欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーでパートナーを務めており、物流業界の第一人者である小野塚征志氏にビジネスモデルの変革を支える DX と物流業界に関連する具体的な新規ビジネス事例やテクノロジー活用について、CO2  削減の観点も交えてお話を伺います。

株式会社ローランド・ベルガー パートナー 小野塚 征志氏
株式会社ローランド・ベルガー パートナー 小野塚 征志

DX がもたらすビジネスモデルの変革。デジタル化はそのための手段

昨今、DX (Digital Transformation) という言葉が広く浸透し、多くの企業では経営戦略に組み込まれるだけでなく、DX を推進するための組織や役職が新設されるなど、組織形態をも変える動きが出ています。DX について、「IT の導入による業務の効率化」や「事務の電子化による生産性の向上」などが例として取り上げられることがありますが、それらは単なるデジタル化にすぎません。

真の DX とは、「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」です。経済産業省は 2018年 12 月に発表した『DX 推進ガイドライン』において、DX を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけました。

つまり、DX の本質的な目的は「変革による競争優位の確立」であり、「デジタル化」はそのための手段と捉えるべきです。そして、デジタル技術の活用を通じて、新たなビジネスモデルを確立し、今までとは異なる誰かに、今までとは違う方法で、今までにはない価値を提供する。その非連続な成長によりパラダイムシフトを成し遂げることによって新たなビジネスを創造することが DX の神髄なのです。

DX には 4 つの進化形態が存在

真の DX とは、「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」であると述べましたが、DX には DX 1.0 から DX 4.0まで 4 つの進化形態があります。

DX 1.0 は「デジタイゼーション」です。デジタル技術を活用することで、ビジネスプロセスをデジタル化し、業務効率化や生産性を向上して収益力を強化する、いわゆる「デジタル化」の一歩となります。
DX 2.0 は「デジタライゼーション」によるビジネスモデル変革で、収益を得るための方法や差別的優位性の源泉などを変えることで競争力を高める段階に入ります。モノ売りからコト売りへの転換、プラットフォームの構築などが該当します。
DX 3.0 は「コーポレートトランスフォーメーション」を指し、本来の DX の意味合いが濃くなります。DX を通じて「誰に、どのような価値を、どうやって提供する企業を目指すのか」を再考することで、企業としてのアイデンティティを進化させることが重要になります。

そして、DX の最終段階である DX 4.0 は「インダストリアルトランスフォーメーション」です。DX 3.0 の「コーポレートトランスフォーメーション」を実現した企業が社会生活や経済活動に革新をもたらし、業界全体のメカニズムを再編成することで、より豊かで快適な社会・経済を創出することが期待されます。

大切なのは、DX にはこの 4 つの段階があることに留意して戦略を描くことです。目先のデジタイゼーションやデジタライゼーションだけをターゲットにビジネスの革新を進めると、将来使わないデジタル技術に投資をしてしまう可能性があります。DX 3.0 や DX 4.0 を成し遂げた後の目指す姿を具体化した上で、その実現に向けた「DX 戦略」を策定することが重要になります。

DX はサステナビリティの実現を加速させる

DX はサステナビリティを実現する上で最も有効な手段であるといっても過言ではありません。Volume.1 では、物流業界における CO2 削減に向けた最初のアプローチとして、「見える化」が重要であると述べられていました。「見える化」は、DX 1.0 のデジタイゼーションに相当しますが、情報やデータを「見える化」して現状を把握することで初めて CO2 削減に向けたアクションアイテムを検討・判断することができます。CO2 開示義務などの法規に対応する必要があることを考えても、欠かすことのできないステップといえます。

そして、「見える化」することで「削減」への筋道が立ち、DX 2.0 のデジタライゼーションでビジネスモデルを変革し、CO2 を削減したり、環境に優しいビジネスモデルを構築したりすることができます。例えば、サプライチェーン全体を捉えて物流を管理するようなプラットフォームの構築や、配送ルートを最適化するサービス、あるいはモノやサービスを売りたい人と買いたい人をマッチングする新たなビジネスの創出などです。

同時に、さまざまなプロセスが効率化されることで、不要な作業が減少したり、配送距離が短縮されたりして、間接的に CO2 削減につながるビジネスモデルも広がりつつあります。

ここでいくつか具体的な例を挙げてみましょう。

例えば、生花の生産者と花屋の直接取引を可能とする CAVIN が挙げられます。CAVIN はこれまでの伝統的な生花流通構造を効率化し、アプリを介して生産者と花屋をマッチングすることで流通マージンを削減しました。
それに加えて、中間流通業者を介さずに済むので、店頭に届くまでの期間を大幅に短縮できます。より新鮮な生花を消費者に販売できるだけではなく、流通過程での廃棄ロスを低減することでサステナビリティを高めることに成功したわけです。

Amazon は処方箋薬の宅配を起点に新たなヘルスケアビジネスを展開しています。利用者である患者は薬局まで薬を取りに行く手間を省けるだけではありません。朝・昼・夜といった服用のタイミングごとに飲むべき複数の薬が 1 つの袋に封入されて届くため、飲み忘れや飲み間違いを防げます。過去の処方箋情報や購買履歴などを基に、おすすめのサプリメントや保険商品も提案してくれます。
さらに Amazon は 2021 年から、オンラインでの遠隔診療と対面診療を組み合わせたハイブリッド診療サービスの提供を開始しました。ヘルスケアに関するモノやサービスをワンストップで利用できるようになったわけです。

物流の観点からすると、患者の処方箋情報や購買履歴などを基に出荷量を見通すことで、サプライチェーンの効率性を高めることが可能となります。製薬会社にデータを還元すれば、生産量や在庫量をより的確にコントロールできるはずです。薬以外の商品と一緒に運ぶことで、輸送効率の更なる向上も見込めます。社会が便利になるだけではなく、CO2 削減にもつながるビジネスモデルといってよいでしょう。

サステナビリティの実現に向けてこれから必要とされる視点とテクノロジーへの期待

これまでお話してきたように、サステナビリティの実現と DX の関係は密接であり、相互に作用し合う関係にあります。
サステナビリティに対する様々なアクションを起こすためにも、IoT や AI などのテクノロジーを駆使しながら、どのようなデータをどこで蓄積・活用するのかを考えることが肝要です。そのためには、DX を段階的に捉え、サステナビリティを含めた企業としての目指す姿を描くこと、その実現に向けたロードマップを策定することが大切です。

例えば、輸送にかかるコストと CO2 を見える化し、常に最適な輸送手段・ルートを選べるようにしたい、あるいは、最適な輸送手段・ルートをレコメンデーションするサービスを提供したいといったとき、データの一元管理やインタオペラビリティを意識した仕組みを構築すべきです。
Scope3 を対象に CO2 排出量のデータを取得するには、自社以外の企業や団体との連携も欠かせません。データを自社のサーバー以外に蓄積すること、すなわちクラウドの活用拡大を図ること、それと並行してセキュリティを強化することも必要となります。

そして、ビジネスモデルの変革に向けた思考のトランスフォーメーションも枢要です。今後、モノ売りからコト売りへのシフトが進み、人を中心としたビジネス、環境に優しいサービスを軸に変革が進むと予想されますが、その実現には、これまでとは異なる開発手法を用いることも求められます。
システム開発を例に挙げると、従来は手戻りを最小化しやすいウォーターフォール型での推進が主流でしたが、これからはトライ & エラーを繰り返して質を上げていくアジャイル型の開発も増えるはずです。IT エンジニアだけが開発機能を担う時代は終わり、IT を専門としない事業部門サイドの社員も自由にアプリケーションやサービスを開発する、「市民開発」の時代に突入したといってよいでしょう。

DX はデジタル技術を起点に検討するのではなく、目指す姿を描き、その実現に向けて有用なテクノロジーを駆使すること、種々のデジタルリソースを適材適所に用いることが大事です。DX 1.0 から DX 4.0 のように、個別の事業のみならず、業界や社会へのインパクト、サステナビリティも含めた社会課題の解決までも捉えて目指す姿を描くこと、その実現に向けた DX 戦略を策定し、アジャイルに推進していくこと、そういった取り組みが日本の様々な企業に広がっていくことを期待したいです。

以上の通り、Volume.2 ではローランド・ベルガーの小野塚様にお話を伺いました。DX について更に詳しく知りたい方は、小野塚様の著書「DX ビジネスモデル」(DX ビジネスモデル 80 事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略 | BOOKS | ローランド・ベルガー 東京オフィス|Roland Berger Japan)をご覧ください。

Volume.3 では物流業界含むサステナビリティ実現に向けた弊社お客様事例をご紹介していきます。


<編集後記 日本マイクロソフト モビリティサービス事業本部>
昨今注目を浴びている Bing AI チャットに「これからサステナビリティに必要とされる視点とテクノロジーへの期待」についても聞いてみました。

—引用—

  • テクノロジーはサステナビリティ目標を達成するために不可欠であり、企業はデジタル変革とサステナブル変革を同時に推進する必要がある。
  • テクノロジーは人口減少や高齢化などの社会課題に対応し、ウェルビーイングが高い暮らしや安心・安全な社会を実現するために活用できる。
  • サステナビリティ・ネイティブとは、サステナブルな価値観を持ち、環境や社会への影響を考えて行動する人々のことであり、彼らは企業や商品・サービスの役割を再定義する可能性がある。

これからサステナビリティに必要とされる視点としては、自分や組織だけでなく、地球や社会全体の利益を考えることが重要だと思います。また、テクノロジーへの期待としては、環境負荷を低減し、人々の幸福度を向上させることが求められていると感じます。
—引用終わり—

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物流業界における Sustainability Transformation〜CO2 削減に向けて〜Volume.1 (全 3 回) http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/manufacturing/2023/01/11/manufacturing_sustainability_1/ Wed, 11 Jan 2023 05:57:54 +0000 国連は、サステナビリティを「地球の自然界にある資源を長期間維持し、環境破壊することなく、次世代につないでいく行動や配慮」と定義しています。また 2015 年の国連サミットにおいて、持続可能な開発目標、いわゆる SDGs (Sustainable Development Goals) が採択されたことにより、サステナビリティは、私たちの社会・企業活動の中でますます重要で喫緊のテーマとなってきています。

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国連は、サステナビリティを「地球の自然界にある資源を長期間維持し、環境破壊することなく、次世代につないでいく行動や配慮」と定義しています。また 2015 年の国連サミットにおいて、持続可能な開発目標、いわゆる SDGs (Sustainable Development Goals) が採択されたことにより、サステナビリティは、私たちの社会・企業活動の中でますます重要で喫緊のテーマとなってきています。
さらに、2007 年に IPCC、気候変動に対する政府間パネルが公表した第 4 次評価報告書において、多くの自然資源や人間も含めた生態系に甚大な影響を及ぼす地球温暖化は人類の活動が関与していることが示され、その主要因である CO2 の影響が大きく注目されることとなりました。
最新の報告書によると影響はさらに深刻となり、産業革命以前からの気温上昇を 1.5℃ に抑える必要性にも言及されています。その一方で、今後の対策によっては取り返しのつかない事態を避けられる可能性も挙げられており、そのなかでも、CO2 をはじめとする温室効果ガスの削減が最も重要な社会課題となっています。

我が国における CO2 排出量のうち、物流・交通を含む運輸部門は全体の約 17%、そのなかでも物流領域は約 45% を占めており (環境省、国立環境研究所「2020 年度温室効果ガス排出量(速報値)概要」)、物流業界における CO2 削減への対応も強く求められています。一方で物流は、経済活動において製品やサービスを運ぶ血管のような役割を果たし、非常に重要であると同時に、広範で、かつステークホルダーが多い複雑な業態でもあります。
そのような物流業界において、CO2 を削減し、なかにはカーボンニュートラルを目指すような動きがあるものの、各ステークホルダーにおける目標値の設定や責任の帰属が不明瞭で、削減活動に対する投資判断を難しいものにしていることなどが課題となっています。
これらの物流業界が抱える課題を解決し、Sustainability Transformation (SX/持続可能性を重視した経営への転換) を実現するためにデジタル技術はどのような貢献ができるのか、全 3 回にわたって考察していきます。Volume.1 では課題の整理とその解決に向けたステップについてご説明します。

日本マイクロソフト

モビリティサービス事業本部
インダストリー・アドバイザー
上野 貴文

モビリティサービス事業本部
インダストリー・アドバイザー
藤巻 好子

物流のトレンド変化に伴う既存オペレーションの課題とは

まずは物流業界の現状を数値で見ていきましょう。我が国の運輸業界の CO2 排出量のうち、自家用車が約 30%、バスやタクシーといった旅客自動車が約 20%、貨物トラックが約 40%。旅客鉄道・船舶・航空が約 8%、貨物鉄道・船舶・航空が約 4%という割合になっています。排出量のほとんどを自動車が占めており、年間約 3 億 5000 万トンもの CO2 を排出しています。

続いて国内のトンベースの貨物輸送量を見ていくと、90 年代以降は漸減しつつ、ここ 10 年ほどはほぼ横ばいとなっています。この背景としては、製造業をはじめとする生産拠点の海外移転や、物流網の発達や最適化による産地と消費地との距離短縮、インターネットの普及やデジタル化に伴う新聞や書籍といった印刷物の減少などが影響していると予想されます。

一方で小口配送の件数は増えており、配送されるモノの種類に変化が見て取れます。特に EC (Electronic Commerce=電子商取引) の市場規模は右肩上がりで成長しており、それに伴って国内貨物輸送における宅配便の取り扱い実績は年々増加しています。2020 年以降の新型コロナウィルスによるパンデミックは、EC 市場をさらに急伸させ、消費者の新たな商習慣として定着したため、今後も高い水準を維持するものと予想されます。
そのような国内貨物輸送においては、100 km 以下の小口配送が全体の 4 分の 3 を占めており、そのほとんどが自動車によって担われています。

こうした変化に伴い、物流業界の既存オペレーションにおけるさまざまな課題が浮き彫りとなっています。
小口配送量の拡大に伴って、大手物流事業者によるサードパーティ・ロジスティクス (3 PL/物流業務の第三者委託) の活用が増加し、また、EC などによる消費者に対する宅配便の増加によって受け取り時間の指定や返品対応といったオペレーションの多様化が進んだことで、配送オペレーションが複雑化しています。また近年では、いわゆるフリマサービスの流行により、消費者から発送される、従来とは逆方向の物流が増えてきていることも、複雑化の要因になっていると考えられます。
このようななかで、今後さらに強く要求される CO2 削減を実現しながら、車両、配送ルート、集配拠点のオペレーションなどを、いかに効率的に管理していくかが大きな課題と言えるでしょう。また、委託先の CO2 管理や、慢性的なドライバー不足を解決することも、大手物流会社にとってはサステナビリティに関わる課題と言えます。

物流業界の CO2 削減を実現する 3 つのステップ

物流業界における CO2 の削減に向けては、3 つのステップが考えられます。

CO2 削減に向けての3つのステップの説明図

まずは「CO2 排出量の見える化」です。各スコープにおける CO2 排出量を、できるだけ 1 次データとして定量的にモニタリングすることは非常に重要です。多くの企業においては、年に一度のサステナビリティレポートによって実態を把握し、その後の計画や目標に反映させているケースが見られますが、それではタイムリーな対応が難しくなってしまいます。一方で、データの精度や頻度を闇雲に上げたり、そもそも取得困難なデータをとるために資源を費やしたりしても、コストがかかるばかりではなく、逆に正確な情報が取れなくなる可能性もあります。まずは、事業環境に即した適切なデータのプロファイルを定義し、それらを効率的に収集・分析して、CO2 削減に向けた PDCA を回す必要があると考えます。
そのためには、従来のエクセルだけではなく、BI ツールや IoT などの技術を活用して出来るだけ簡便で正確にデータを集約し、実測が困難な場合は AI 等を用いた推定することによって、全体を可視化していくことも効果的であると考えられます。
このようなデータが蓄積してくれば、将来データの予測も精度が上がりますので、より効果的な施策を打つことも可能になるでしょう。

2 つ目のステップは「CO2 の削減」です。見える化により CO2 排出の実態を定量的、且つ適切なタイミングで把握できるようになることで、効率的な削減に繋げることが可能となります。削減に対する目標値の設定や活動の進捗管理などがより実効的になるだけでなく、より効果的な重点領域に対する投資判断につなげることも可能となるでしょう。さらに、ステークホルダーや投資家などへの活動報告も重要です。データに基づいて、より正確な報告を行うことが、ひいては企業としての信頼につながるはずです。

具体的な削減方法としては、電気自動車や燃料電池車などの低炭素輸送手段への切り替えや、車両運用管理の最適化による CO2 排出量削減に注目が集まっています。また、従来から推進されている手法ではありますが、鉄道輸送や内航海運へのモーダルシフトも地域や条件によっては有効な手段です。さらに、IoT や AI などの技術を用いたオペレーションや配送ルートなどの最適化により、輸送量・距離を減らすことも重要な取り組みです。いずれにしても、データに基づいて、それぞれの状況に応じた最適な手段を選択していくことで、より効率的な削減につながります。

最後のステップは「CO2 排出量の相殺 (オフセット) 」です。見える化によって定量化された排出量や削減量のデータに基づき、排出権取引によって相殺したり、植林や DAC (Direct Air Capture) などに自ら投資したりすることで、削減だけでは届かなかった目標値とのギャップを埋めることになります。ただし一般的には、削減手法よりもより多くの投資やリソースを必要としたり、地理的な制約もあるため、まずはできるだけ排出量を削減した上で、カーボンオフセットは最後の手段と捉えるべきでしょう。

CO2 の削減は、サステナビリティの観点から重要な課題であると認識されている一方で、企業活動としてはコストとして捉えられがちです。ところが、例えば世界の政府機関等は 2028 年までにエネルギー効率化分野に約 7 兆円を投資する予定であり、カーボンオフセット市場は 2050 年までに 25 兆円規模に成長すると言われています。コストではなくビジネスを成長させるチャンスとして捉えることも重要ではないでしょうか。

少し視点を変えてみると、物流業界のバリューチェーンにおいて、低炭素化や低炭素輸送への転換に対するコストを最終的に誰が負担するのかを考えると、その原資はサービスに対する対価を支払うエンドユーザーということになります。世界的な環境意識の高まりにより、SX に取り組む企業への注目はますます高まっています。低炭素物流をビジネスの特徴として捉え、価値化し、マネタイズしていく意識は、今後さらに重要になってくるでしょう。

可視化に基づいた構造変革を消費者の意識改革につなげる

これから必要な視点として、ステークホルダーが多い物流業界においては、誰がイニシアチブを取って CO2 を削減していくか、その役割分担の明確化と業界内の連携が大切です。そのうえで、業界全体でどれだけ改善の余地があるか、またそれぞれのプロセスにおける成果はどれくらいか、その努力しろを可視化することも重要です。
また、CO2 削減のためにお客さまの利便性を下げるのか、あるいはそれに必要なリソースを単純に価格に転嫁するのか、もしくは新たなビジネスチャンスと捉えてサービスの質を向上させるのかなど、サステナビリティを実現するためのビジネスモデルの変革も必要になってくるでしょう。さらに、こうした、一見、社会的コストと捉えられがちなものは助成金頼りになることが多いのですが、そこに頼らずにビジネスとして利益を生む構造をつくっていくことも必要です。
さらに、低炭素物流の社会的価値に対して、正当な対価を支払うという消費者の意識改革も重要な視点です。

最後に、物流業界の SX において活用が期待されるテクノロジーにはどのようなものがあるでしょうか。より効率的なオペレーションを実現するために、AI や機械学習はすでに多くの場面で活用が始まっています。また、それらのシミュレーションに使われるデジタルツインや、その UI として期待されているメタバースの技術も非常に期待が高まってきています。さらに今後は、量子アニーリングなどの複雑系の最適化に特化した最新技術の適用の可能性も見えてきています。また IoT は、データをベースとしてビジネスや活動を推進していくために必須になってきます。
日本マイクロソフトは、これらのデジタル技術を取り入れることで、効率的な CO2 削減を推進・実現できると考えています。

次回 Volume.2 では外部有識者の方を交え、CO2 削減に向けた各国の潮流や規制対応状況に加え、具体的なアプローチやテクロジー活用について考察していきます。

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