展 天承, Author at マイクロソフト業界別の記事 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog Wed, 15 Apr 2026 00:42:21 +0000 en-US hourly 1 生成AI事業化支援プログラム 製薬業界向けイベント ~製薬業界の未来を、AI とともに~ http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2026/04/15/columbus-day-for-pharmaceutical-industry-2026/ Wed, 15 Apr 2026 00:42:17 +0000 2026年2月27日、日本マイクロソフト品川本社でヘルスケア・製薬業界向けAIエージェント活用推進セミナーが開催されました。ボストンコンサルティンググループ合同会社様からのご紹介や製薬企業様による事例発表、パートナー企業によるソリューション紹介が行われ、多くの参加者が来場し、盛況のうちに開催されました。本セミナーは業界内でのAIエージェントへの関心の高さを示しました。.

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2026年2月27日、日本マイクロソフト品川本社でヘルスケア・製薬業界向けAIエージェント活用推進セミナーが開催されました。ボストンコンサルティンググループ合同会社様からのご紹介や製薬企業様による事例発表、パートナー企業によるソリューション紹介が行われ、多くの参加者が来場し、盛況のうちに開催されました。本セミナーは業界内でのAIエージェントへの関心の高さを示しました。 


オープニング 

冒頭のオープニングでは、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長木村靖より、政府官公庁、独法、自治体、教育、ヘルスケアから成るパブリックセクター事業の全体像について紹介しました。「Agentic Worldを如何に製薬業界で推進していくか、お客様、パートナー企業様一体となって考えていきたい」と製薬業界に対する意気込みを言及しました。 


「ヘルスケア×生成AIの展望」 
ボストンコンサルティンググループ合同会社 
Managing Director & Partner 
鹿野 洋氏 

はじめに、ボストンコンサルティンググループ合同会社Managing Director & Partnerで、製薬業界・医療機器メーカー等のヘルスケア業界のクライアントに対して幅広いテーマで支援されており、近年はヘルスケア×生成AIというテーマでも豊富なご経験を有する鹿野 洋氏に招待講演を実施していただきました。 

まずは、生成AIの台頭から昨今の技術革新までを振り返り、生成AIがあらゆる産業界にもたらしうる価値の類型と、それを実現するための10-20-70の原則(詳細はBCG社発信情報をご参照ください)を紹介されました。 

「ヘルスケア×生成AIの展望」をテーマに講演するBCG 鹿野洋氏のプレゼンテーション画面


その後製薬業界にフォーカスし、バリューチェーンごとのAI活用シナリオを俯瞰しつつ、AIによる価値創出のポテンシャルが特に大きいドメインやそのインパクトドライバーに係る分析・考察をご紹介くださいました。また、より実務に踏み込んだテーマとして、BCG社が開発したソリューションのデモも示しつつ、コマーシャル・開発・製造の各領域における実際の生成AI活用事例とそれによってもたらされた成果(例:対象業務のリードタイム削減量)等もお話しいただき、参加者からも高い興味・関心を得ていました。締めくくりには、製薬企業の経営者に向けた「AI活用に関する5つの要諦」として、製薬企業における今後の生成AI活用に関する方向性への提言をお示しいただきました。 
 

「マイクロソフトのグローバルでのライフサイエンス領域における取組み」 
Microsoft, EMEA & ASIA Director for Healthcare and Life Sciences 
Antonio Gatti 

続いてMicrosoft, EMEA & ASIA Director for Healthcare and Life SciencesのAntonio Gattiが登壇。 
まずは、製薬業界グローバル全体にて挙げられる4つの大きな課題(薬価、医薬品開発に必要なコスト、データのサイロ化、)を定量的なデータを用いながら紹介しました。 

Microsoft EMEA & ASIA Director Antonio Gattiによるライフサイエンス領域のグローバル戦略紹介

そして、昨今Microsoftが掲げる”Frontier Firm”へのAIエージェント活用を軸とした道筋をご紹介しました。人間が行う作業をサポートするAIから、”Digital Colleagues”となり、人間が大まかな指示を与えるとビジネスプロセス・ワークフロー全体の推進役を担うAIエージェントへ進化させていくことで、AIの真価をビジネス実装できると考えています。 

その後、R&D領域に特化した新たなエージェントプラットフォーム、Microsoft Discoveryのご紹介をいたしました。次世代のサル痘ワクチンに向けたアプローチを開発を仮題材として、仮説立案や、シミュレーション等をどのように行うか、コンセプト動画を交えてご説明しました。Microsoft Discovery内部でシミュレーションやビジネス開発、科学論文の執筆等に特化したエージェント群が有機的に連動し、創薬に関する複雑な問いに対するアクションを可能にすることが示されました。 

R&D領域向けエージェントプラットフォーム「Microsoft Discovery」のコンセプト動画イメージ


また、製薬企業様の様々なバリューチェーン領域におけるグローバル事例や、Microsoft Azure上でご利用可能な最先端のライフサイエンス向けAIモデルのご紹介を行い、最後に信頼性のあるAI(安全性、セキュリティ、プライバシー)に関するご説明を行い、セッションを締めくくりました。 


AIエージェント導入企業様による事例紹介 

「逸脱処理プロセスの効率化に向けたマルチエージェントの有効性検証」 
アステラス製薬株式会社 
Product Development and Manufacturing, 
CMfgO Office, Capability Development & Compliance 
室 篤志氏 

このセッションでは、AIエージェント を導入して業務改革を進めている先進的な製薬企業による事例が紹介されました。 

室氏からは、まずアステラス製薬のものづくりにおけるナレッジマネジメントの考え方と、マルチエージェントへの期待について説明がありました。 

様々な専門部門の協業で成り立つ医薬品ものづくりにおいて、各部門の知識を集約したエージェントを構築することで、各業務プロセスの高度化・効率化が期待されます。さらに、これらのエージェントを組み合わせたマルチエージェントを構築することで、課題に対して各部門の多様な視点を踏まえた全体最適なアプローチを、最速で選択できるようになります。 

今回、最初のマルチエージェントの取り組みとして、「製品の生産中に発生したトラブルに対して、対応案を提案する (逸脱対応)」を選定され、PoCを日本マイクロソフトと実施されました。 

「逸脱処理プロセスの効率化に向けたマルチエージェントの有効性検証」をテーマに講演するアステラス製薬株式会社 室 篤志氏


要件として、逸脱に対する適切な対応の提示、網羅性の担保、回答信頼性等を掲げられた中で、複数の専門的な役割を担うエージェント群(検索エージェント、信頼性確認エージェント、構造化エージェント 等)を有機的に連携させるマルチエージェントが採用されました。PoCの結果、一定の前提条件のもとで試算した場合、1研究所あたり月当たり最大で約67%、約98時間程度の工数削減が期待されることが示唆されました。 

アステラス製薬によるマルチAIエージェントを活用した逸脱対応PoC事例の説明シーン


アステラス製薬では、医薬品ものづくりの設計図であるQTPP(Quality Target Product Profile:投与ルート、含量、錠剤サイズ、注射剤の液量等)の設定支援へのマルチエージェントの応用についても、今後検討を進めていく予定とのことです。QTPPの設定には、実現可能性、競合優位性、患者さんのQOL等、複数の観点からの検討が求められることから、マルチエージェントの真価が発揮される領域として、製薬業界全体においても期待が高まっています。 


「安全な生成AI基盤×業務AIアプリ量産による現場課題の高速解決」 
株式会社大塚製薬工場 
ICTソリューション部 
Internal-DX推進リーダー 
石﨑 拓海氏 

営業企画部 
営業DX推進リーダー / epico Product Lead 
清水 陽介氏 

石﨑氏と清水氏からは、大塚製薬工場における「安全な生成AI基盤の構築」と「業務AIアプリの内製・量産」による現場課題の高速解決について、具体的な事例を交えて紹介されました。冒頭では、経営戦略としてのDX推進方針や、IT部門強化・内製文化の醸成といった背景が示され、生成AI活用を全社展開するための組織体制と文化的土台が説明されました。 

「安全な生成AI基盤×業務AIアプリ量産による現場課題の高速解決」をテーマに講演する株式会社大塚製薬工場 石﨑 拓海氏と 清水 陽介氏


基盤面では、Azure OpenAI Service をグループ共通テナント上に導入し、Microsoft Teams を入口とした安全な生成AI利用環境を整備した点が特徴です。認証・権限管理・ログ管理を標準化しつつ、2023年には社内版AIチャットボットである「OPFコンシェルジュ」を全社展開することで、社員が安心して生成AIを試せる環境を早期に確立しました。これにより、現場の活用アイデアが一気に広がり、AI活用の裾野拡大につながりました。 

Microsoft Teamsを入口とした生成AI活用環境の全社展開イメージ


具体的な事例として、営業支援AIエージェント「epico」と、品質保証領域の文書点検プラットフォームが紹介されました。epicoでは、社内外に散在する営業・学術・市場データを統合し、マルチエージェント技術により調査・分析・回答を自律的に実行することで、MRの情報収集時間を大幅に削減し、提案力向上を実現しています。一方、文書点検プラットフォームでは、複数のエージェントが役割分担して規程検索、差分抽出、根拠提示、指摘生成を行い、点検業務の効率化と品質向上を可能にしました。 

これらを支えた成功要因として、「安全な入口の先行整備」「共通基盤とテンプレートによる量産」「現場主導×IT伴走の協創体制」「人材育成と内製文化」が挙げられました。今後は、対話型からタスク実行型エージェントへの進化や、基盤のグループ展開を通じて、全社・グループ横断でのDX加速が期待されています。 


パートナー企業様によるソリューション紹介 

「製薬企業で”使われる”生成AIにするための継続的な進化」 
アバナード株式会社 
クライアントソリューション本部,  
A&I Software Engineering, Manager 
井関 純一氏 

アバナード株式会社は、製薬企業において生成AIを「導入して終わらせない」ための実践的な取り組みを紹介しました。生成AIは大きな期待を集める一方で、現場に定着せず価値創出につながらないという課題も少なくありません。本セッションでは、技術提供だけにとどまらず、お客様と伴走しながらユーザー価値を共に創り上げていくアプローチに焦点を当てました。 

「製薬企業で"使われる"生成AIにするための継続的な進化」をテーマに講演するアバナード株式会社 井関 純一氏 


大手製薬企業様における社内向け生成AIプラットフォームの事例を通じて、短期間での本番導入を実現した背景や、利用者の声を起点に継続的な改善と進化を重ねるアジャイルな開発プロセスを解説しました。さらに、機能豊富なAzureのAIサービス群を基盤にして作り上げた、特徴的な機能と取り組みを複数取り上げ、アルゴリズム最適化によるAIの回答精度向上、部門/組織ごとに最適化されたデータ&AI活用基盤、日常業務に自然に溶け込む文書作成支援の独自機能などの概要やユースケースを紹介しました。 

アバナードは技術力とコンサルティング力を掛け合わせ、今後もお客様の成果につながるAI活用をご支援していきます。 


ユーザー起点で進めるMicrosoft 365 Copilot & Agentのグローバル全社活用
――トップ・ミドル・ボトムの連動による組織変革
Engage Squared株式会社 
Modern Work & Change Management Lead 
宇留野 彩子氏 

参天製薬株式会社 
Digital & IT Global Digital Innovation, Digital Solutions, Specialist 
大東 達也氏 

Engage Squaredの宇留野氏は、「Microsoft 365 Copilot & Agent全社活用」をテーマに、製薬業界でMicrosoft 365 Copilotのグローバル全社活用を切り拓くフロンティア企業、参天製薬(Santen)を支援する立場から、同社の大東氏とともに、実例に基づく推進モデルを紹介しました。 

キーワードは「ユーザー起点」です。宇留野氏はまず、Microsoft 365 Copilot導入における「ライセンスジャーニー」を取り上げ、単なる技術検証ではなく、ビジネス検証としてビジネスユーザーとともに価値や効果を見出し、組織変革の梃子として活用していくことの重要性を示しました。大東氏は、Santenが全社導入に至った背景として、奈良開発研究センターでのビジネス検証を通じて、研究員のオフィスワーク効率化という具体的な成果が確認できたことが、大きな後押しになったと説明しました。 

続いて宇留野氏は、全社的な活用を進めるうえで重要となる「トップ」「ミドル」「ボトム」の三層構想を提示しました。経営層の巻き込み、管理職層の協力、ユーザーによる自律的な活用を組み合わせることで、組織全体へと活用が広がっていくという考え方です。Santenではこの三層構造が有効に機能しており、大東氏はそれらをつなぐ「アンバサダー制度」の実例を紹介しました。 

また、Agent活用の推進に向けては、研究、営業、マーケティングなど複数部門のビジネスユーザーが参加する「シナリオ発掘わくわくワークショップ」を開催。個別業務の課題にとどまらず、部門横断で共通する課題も明らかになり、Agent開発が大きく前進していることも示されました。

参天製薬とEngage SquaredによるMicrosoft 365 Copilot全社活用モデルのセッション風景 
Agent活用推進のワークショップ実施例を説明するスライド


最後に宇留野氏は、「CopilotもAgentも、実際に使うのはユーザーです。だからこそ、ビジネスユーザーの課題を丁寧に聞き出すことが重要です」と締めくくりました。こうしたユーザー起点の取り組みにより、自発的な推進者、いわゆる「野生のアンバサダー」が生まれ、SantenではMicrosoft 365 Copilot & Agent活用のムーブメントがグローバルに広がっています。 

懇親会では、Santenの取り組みに対して多くの参加者が高い関心を寄せ、大東氏のもとには質問を求める列ができました。製薬業界におけるMicrosoft 365 Copilotのグローバル全社活用を切り拓くフロンティア企業として、その存在感の大きさが印象づけられる場面となりました。 


「AI Agent × 製剤研究 ~Agentic RAG で実現するナレッジ活用~」 

株式会社ベーシック 
システム部門 第一統括 グループマネージャー 
野﨑 俊弘氏 

システム部門 第一統括 ミッションマネージャー 
阿部 隼人氏 

「AI Agent × 製剤研究 ~Agentic RAG で実現するナレッジ活用~」をテーマに講演する株式会社ベーシック 


株式会社ベーシックは、製剤研究におけるナレッジ活用をテーマに、沢井製薬様におけるマルチエージェント基盤「Sawai Agents」の構築事例を紹介しました。 

製剤研究の現場では「蓄積データの検索」や「レポート作成」など多様な課題が存在します。同社は膨大なデータを最大限に活用し、「ベテラン研究者に相談できるAI」を目指して、業務特化AgentをAzure基盤で一元管理するプラットフォームを開発しました。 

沢井製薬様におけるマルチエージェント基盤「Sawai Agents」の構築事例を紹介するスライドイメージ 


本プロジェクトでは、「専門知識の具現化」「複雑な文書解析」「現場への定着」という3つの課題に直面。これに対し、構造解析やチャンキング等の専用Agentを連携させ高精度なナレッジベースを実現し、網羅的検索の反復によりベテラン同等の回答品質を達成しました。さらに、高速な改善サイクルで現場の声を反映させ、人間とAIの協業による知の共有を促進した成果を報告しました。 

最後に、本事例の基盤であり、顧客業務に特化したエージェントを早期構築できる「Agent ARK」と、その無償トライアルを案内し、セッションを締めくくりました。 


「製薬業界におけるAIエージェント活用の新潮流 ~実務インパクトを生む最新ユースケース~」 
GenerativeX 
取締役CAIO 
上田 雄登氏 

GenerativeXの上田雄登氏は「製薬業界におけるAIエージェント活用の新潮流 〜実務インパクトを生む最新ユースケース〜」と題して講演を行いました。 

2026年はエージェントのオーケストレーションやセキュアな運用に関心が移ってきていると指摘。AIエージェント開発トレンドとしては「ロングランニング」「コーディングエージェント」「サンドボックス」「スキル基盤」の4つを挙げ、従来カスタムでステップバイステップに構築していた特化型アプリケーションが、コーディングエージェントの進化により汎用的なAgent型の実装でほとんど代替可能になりつつある現状を紹介。 

「製薬業界におけるAIエージェント活用の新潮流 ~実務インパクトを生む最新ユースケース~」をテーマに講演する GenerativeX 上田 雄登氏 
製薬業界におけるAIエージェント開発トレンドを示した2026年最新ユースケース図 

製薬業界における具体的なユースケースとして、ファイル検索、ドキュメントの読み書き、ウェブ検索などのツールを AI に持たせることで、メディカルレビューなどの専門業務の対応が可能となりました。 

さらに、AI活用における人間のボトルネック化という課題に対し、人間が起点となるのではなく、会議の文字起こしから自動的に ToDo が生成され、AI がタスクを実行する自社での実装事例を提示。人間はあくまで必要な場面でのみ介在するという新しい業務設計の考え方を示し、講演を締めくくりました。 


クロージング 

全体のクロージングでは、日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 ヘルスケア統括本部長 清水教弘より、登壇企業各社への謝意を伝えつつ「当初は既存プロセスの効率化が中心であったAI活用も、プロセス自体を見直すことでいかにパラダイムシフトを生み出していくかに移りつつある。まだまだAIにできること・できないことはあるが、こうした変化をどう実現していくかをマイクロソフトはしっかりサポートしてまいりたい。」とコメントがありました。また、「製薬業界全体でAIエージェントによる価値創出を進めていくためには、製薬企業様とパートナー企業様が一体となって進めていく必要がある。」と、ステークホルダー横断的な取り組みの重要性にも言及しました。 

製薬業界のAIエージェント活用に関する最先端情報を学び、パートナー企業によるAIソリューションの進化を実感できた参加者にとって、有意義な時間となっておりましたら幸いです。 

日本マイクロソフトは今後も製薬業界でのAIエージェント利用の可能性を皆さまと共に追求していきます。興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。 

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創薬における AI/ML の活用と Microsoft の取り組み http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2025/06/10/ai_ml_in_drug_discovery/ Tue, 10 Jun 2025 04:01:44 +0000 新薬の開発には多大な時間と費用がかかる一方で、成功確率は非常に低いとされています。研究開発には十年以上の期間と莫大なコストが必要であり、成功に至る確率はごくわずかです。こうした傾向は日本に限らず世界的にも共通しており、医療ニーズの多様化や創薬ターゲットの減少により、新薬創出の難易度は年々高まっています。.

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Ⅰ. 創薬を取り巻く環境とAI/ML活用への期待

一般に、新薬の創出には膨大な時間とコストがかかる一方、その成功確率は極めて低いといわれています。2012~22 年の 11 年間における日本の製薬企業の研究開発に対する医薬産業政策研究所の調査[1]によると、1 新薬をグローバル開発で上市させるまで、基礎研究から申請までの全期間に要する研究開発費は約 131 億円、プロジェクト成功確率は 3.4%(プロジェクト数ではなく合成化合物数ベースの場合は一般に 1/25,000 ともいわれます)、そして所用期間は 14 年 4 か月とされています。調査の対象や推計の方式による数値の振れ幅はあるものの、こうしたコストや成功確率、期間に係る傾向はグローバルでも同様[2]であり、昨今のアンメットメディカルニーズの複雑化や、特に低分子領域における創薬ターゲットの枯渇などにより、新薬創出の難度はますます高まっています。

Fig.1 新薬創出に要する期間とプロジェクト数ベースの成功確率(文献[1]をもとにマイクロソフト作成)

こうしたビジネス環境下で製薬企業各社は、全社・事業戦略レベルでは注力領域の選択や M&A、オープンイノベーション加速等の様々な施策を講じつつ新薬創出プロセスそのものの生産性向上にも努められており、AI/ML の活用はその方策の一つとして高い期待を持たれています。例えば McKinsey & Company 社の試算では、AI/ML の活用により製薬企業は創薬コストを 30〜50 %削減し、パイプラインのスピードを 20 %以上向上させることができるとされています[3]

なお、AI/ML の活用は新薬創出プロセスの全ステージ(標的同定~市販後調査)において多岐にわたるシナリオが考えられますが[4]、本稿では R&D 領域、特に探索研究~非臨床試験のステージにフォーカスし、臨床試験移行のステージにおける AI/ML 活用については別稿に譲ることとします。

A screenshot of a computer
Fig.2 新薬創出プロセスにおける AI/ML の活用シナリオ例(文献[4]をもとにマイクロソフト作成)

Ⅱ. 創薬におけるAI/MLの市場動向と主な活用シナリオ

パイプライン創出に何らかの形で AI/ML が用いられ、かつ 2024 年までに臨床試験(Phase I~III)が開始されている 111 のプロダクトに対するIQVIA社の調査によると、AI/ML による貢献は特に化合物設計( 32 %)や標的同定( 31 %)等の探索研究領域に対する割合が最も高く、次いでプレシジョン・メディシン開発( 18 %)や臨床試験のシミュレーション( 13 %)等が挙げられています[5]。また同レポート内では、2024年にグローバルのライフサイエンス業界の R&D 領域で発生した AI/ML 関連の大規模( 2 億米ドル以上)ディールが 12 件あり、総額約 100 億米ドルに上ったことも示されています[5]。このように AI/ML は、R&D の中でも特に上流の工程である標的同定~化合物設計等の探索研究領域における活用や投資が進んでいると考えられます。

Fig.3 2024年のライフサイエンス業界におけるAI/MLに係る大規模ディール(文献[5]をもとにマイクロソフト作成)

別の観点としてモダリティに着目をしてみると、AI/ML の応用が相対的に容易と考えられる低分子だけではなく、近年は核酸医薬品や、タンパク質・抗体等のバイオ医薬品の創出に対する投資も進んでいます。例えば、Fig.3 に示した化合物探索に係る案件のうち、Genetic Leap 社と Eli Lilly 社の提携はRNA を標的とするオリゴヌクレオチドの創出を目指すものであり[6]、Generate:Biomedicines 社とNovartis 社の提携は複数疾患領域のタンパク質治療薬の創出を目標としています[7]

このように創薬に係る AI/ML への投資と活用はますます拡大していますが、具体的にはどのようなシナリオがあるのでしょうか。本稿ではごく一部に限られますが、以下に例示します。

1)標的同定:

治療標的同定では、健常者と患者の遺伝子(ゲノム)やその発現状況(トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム)のプロファイルを比較するアプローチが主流ですが、これにより見いだされる候補は膨大かつ必ずしも標的として有効ではないことが課題となっており、これを補強・補完するようなアプローチとして、疾患とタンパク質の関係性を AI/ML で予測するような手法が提案されています。ここにおけるAI/MLの用途も様々考えられますが、例としてタンパク質をコードする遺伝子に改変(ノックダウンや過剰発現化)を加えた際のトランスクリプトーム( mRNA プロファイル)から対象タンパク質の治療標的としての有望性を予測したり、各種データベースに蓄積されたタンパク質間の相互作用や生物学的機能に係る関係性から対象タンパク質が治療標的となりうる疾患を予測したりといった研究が発表されています[8, 9, 10]

2)タンパク質の立体構造予測:

2024 年のノーベル化学賞受賞でも話題となった、AI によるタンパク質の立体構造予測も創薬での活用に高い期待が寄せられています。例えば、標的としての有望性を検証したり実際に標的とする結合部位の特定に繋げたりという観点では広義の治療標的同定に寄与する活用シナリオであり、結合ポケット等の構造を解明することで SBDD(structure based drug discovery)アプローチで後述の化合物探索・設計に寄与する活用シナリオでもあります[8]

3)化合物探索:

化合物探索においては、大量の化合物ライブラリーから有望な候補を見つけ出す従来のスクリーニング型手法に代わり、目的とする薬理特性を持つ化合物構造を直接予測する「逆構造活性相関解析」が注目されています。分子構造の表現としては SMILES や SELFIES、DeepSMILES 等に代表される文字列表記を用い、N-gramや、VAE、GAN、再帰的ニューラルネットワーク、強化学習、自然言語処理で注目を集めている Transformer 等の様々な技術を組み合わせた生成手法が提案されています。また、化合物の構造を文字列ではなくグラフとして捉えて構造生成を行う手法( JT-VAE、Graph-AF 等)や、所望の物性を持つ化合物の構造だけでなくその合成経路も提示する手法( casVAE 等)も提案されています[8]

上記以外にも、化合物の分子プロファイル(合成可能性、体内動態、毒性等)予測やリード分子最適化等、AI/ML を創薬の探索研究領域で活用するシナリオは様々挙げられます[4, 8, 11]

Ⅲ. Microsoftの取り組みや関連ソリューション

当社 Microsoft においても、ライフサイエンス・創薬に特化した AI モデルの開発や、Azure OpenAI やMicrosoft 365 Copilot 等のAIソリューションの活用による探索研究プロセスの生産性向上等の実例があります。

1) BioEmu(Azure AI Foundryで利用可)によるタンパク質構造の予測

BioEmu(Biomolecular Emulator)は Microsoft Research が開発したディープラーニングモデルで、タンパク質がとりうる膨大な構造のアンサンブルを生成することができ、対象タンパク質が生体・溶液中で取りうる構造のバリエーションを理解することに役立ちます。

従来、タンパク質の生体・溶液中での構造を予測する方法としては主に分子動力学(MD)シミュレーションが用いられてきましたが、この手法で示唆を得るには非常に長時間のシミュレーションと膨大な量の計算処理が必要であり、時としてそれは実現可能な範囲を超えてしまうという課題があります。一方 BioEmu は、MD シミュレーションに比べて計算効率が桁違いに高く、1つの GPU で1時間当たり数千のタンパク質構造を生成することができます[12]。ここで、BioEmu の有用性を示唆する研究成果の例をご紹介します。

まずは、BioEmu により未知のタンパク質配列の構造を予測した例です。次の Fig. は、コレラの原因菌 Vibrio cholerae 由来のタンパク質LapDについて、BioEmu が予測した構造と実験で得られた構造を重ね合わせて示しています。対象としたLapDの構造は実験的に知られているものの BioEmu の学習データには含まれていなかったため、BioEmu-1 がその構造の「予測」に成功していることが伺えます。また、BioEmu は実験的にまだ得られていない中間的な構造も予測しているため、対象タンパク質の生化学的なふるまいに対する仮説づくりに貢献しうると考えられます。

Fig.4 コレラ関連タンパク質LapDの構造予測結果 *灰色:実験データ、彩色:予測データ(文献[12]より引用)

これに加えて、BioEmu がごく僅かな計算コストで MD シミュレーションの結果を正確に再現できる(GPU 使用時間が MD シミュレーションの 1 万~10 万分の 1 )ことや、タンパク質の安定性(フォールディングの自由エネルギーΔG )も高い精度で予測しうること等が研究成果としてプレプリントで公表されています[12, 13]。なお、BioEmu は現在、Azure AI Foundry のモデルカタログで選択してデプロイすることが可能です。

A diagram of a graph and a diagram of a graph
Fig.5 MDシミュレーションとBioEmuの予測で得られたProtein Gの平衡分布の比較(左)と、タンパク質フォールディングのΔGに係る実験値とBioEmu予測値の比較(右)(文献[13]より引用)
2) TamGen(Azure AI Foundryで利用可)による化合物構造の生成

TamGen(Target-aware molecule Generation)は、Global Health Drug Discovery InstituteとMicrosoft Researchの共同研究を経て開発されたTransformerベースの生成AIモデル(Chemical Language Model)で、SMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)表記法に変換した分子情報を処理し、標的タンパク質特異的な候補化合物の構造を生成することができます[14]

従来のスクリーニング(in vitroのハイスループットスクリーニング、in silicoのバーチャルスクリーニング等)によってヒット化合物を見出すアプローチは通常104~108程度の化合物ライブラリーを探索しますが、生成AIモデルを活用するアプローチ(Generative drug design)では1060以上ともいわれる広大なケミカルスペースを探索することができると考えられています[15]。Generative drug designアプローチに関してはこれまでも、自己回帰(AR)モデルやGAN、VAE、拡散モデル等の様々なAI技術に基づく手法が提案されていますが、生化学的アッセイによる検証が不足していたり、合成可能性を含むDrug-likenessが不十分であったりといった理由で創薬での実用性が乏しいケースも多くみられました[15]。一方TamGenは、近年提案された5つのGenerative drug design手法(LiGAN、3D-AR、Pocket2Mol、ResGen、 TargetDiff)に比して、標的タンパク質への結合性だけでなく、実際に薬剤化できるかどうか(Drug-likeness)に係る指標においてもよい成績を収めています[15]。より具体的には、標的タンパク質への結合性の指標としてドッキングスコアを、Drug-likenessの指標としてQuantitative Estimate of Drug-likeness (QED)や、医薬品になりやすい化合物の特性を表す経験則Lipinski’s Rule of Five、合成難易度を表すsynthetic accessibility scores (SAS)、そして脂溶性を表すLogP等でベンチマーク評価したところ、TamGenは総合的に最上位にランクされました。

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Fig.6 標的タンパク質への結合性およびDrug-likenessに係るベンチマーク評価の結果(文献[15]より引用)

また、結核菌由来のタンパク質ClpPプロテアーゼを標的として、TamGenによる候補化合物の生成と改良設計、実験による活性確認の組み合わせによる研究の結果として、IC₅₀が40 μM未満の高い阻害活性を示す化合物が14種類、そのうち最も高い活性としてIC₅₀が1.88 μMのヒット化合物が得られており[15]、創薬におけるTamGenの実用性が示唆されています。なお、TamGenは現在、Azure AI Foundryのモデルカタログで選択してデプロイすることが可能です。

Fig.7 TamGenで得た化合物のClpPに対する結合モデル(文献[15]より引用)
3) Azure OpenAI や Microsoft 365 Copilot 等による探索研究プロセスの生産性向上

上記のようにライフサイエンス・創薬に特化したAIモデルの提供だけでなく、Azure OpenAI やMicrosoft 365 Copilot のエージェント等を組み合わせ、探索研究プロセスの生産性を劇的に高めるような活用シナリオも多数存在します。

例えば、Amgen 社では全社的に Microsoft 365 Copilot を活用いただいていますが、特に R&D 部門の研究者向けには Catalyst Copilot と呼ばれるエージェントを独自に構築し、治療領域別に整理されたナレッジやトレーニング ビデオ、製品データベースなどが含まれる膨大な情報に対し、自然言語のクエリで即座にアクセスできる環境を提供しています[16]

また、Boehringer Ingelheim 社ではサイエンス・臨床研究・特許等の特殊な情報も含むデータの量の膨大さと、その中でのコンテキスト(例:特殊な医療用語や略語、表現の揺れ)の複雑さがネックでナレッジ活用に膨大な時間を要していた課題に対し、Azure OpenAI を活用したナレッジマネジメントプラットフォーム iQNow を開発し、グループ全体で約 150,000 時間の労働時間を削減しています[17]。ここではごく一部の例を挙げましたが、日本国内を含むグローバルの様々な製薬企業において、主にナレッジマネジメントのプラットフォームとしてこうした AI/ML ソリューションを活用することで探索研究プロセスの生産性向上を目指す試みが進められています。

Ⅳ. 創薬におけるAI/MLの活用に係る課題と展望

ここまでに述べたように、創薬でのAI/ML活用は市場の期待と現場の研究・応用がますます拡大しており、新薬創出の生産性を劇的に高める可能性を示しつつあります。一方で、in silicoin vitroの適材適所での使い分けは、もちろん当面必要であり続けると考えられます。また、AI/MLによって予測・生成された化合物が現実に合成・入手できないといったin silicoin vitroの境界で起こる問題の解決や、診療情報等のヒトデータと分子データの統合的な解析、構造や物性がより複雑なペプチド・抗体・核酸等新規モダリティ分子での活用等、取り組むべき課題は多く残されています。

こうした課題へのアプローチにおける技術的側面においては、新規モデルの開発や改良、様々なモデルや手法の組み合わせによるAI/ML自体の技術進化は当然ながら、それらをクラウド上で行うことでフレキシビリティやアジリティを高めたり、HPC(High Performance Computing)や将来的には量子コンピューティング等の他の技術と連携させたりといったことがますます重要になっていくと考えられます。


参考文献

[1] 製薬協, データで見る医薬品研究開発の実態, 製薬協ニューズレター, 2024年1月号 No.224.

[2] AI’s potential to accelerate drug discovery needs a reality check. Nature 622, 217 (2023).

[3] McKinsey & Company. Generative AI in the pharmaceutical industry: Moving from hype to reality, January 2024.

[4] Zhang, K., Yang, X., Wang, Y. et al., Artificial intelligence in drug development, Nat Med 31, 45–59 (2025).

[5] IQVIA, Global Trends in R&D 2025. Institute Report, Mar 26, 2025.

[6] Reuters, Eli Lilly partners with AI-focused Genetic Leap to develop RNA-based drugs, September 2024.

[7] Generate:Biomedicines, Generate:Biomedicines Announces Multi-Target Collaboration with Novartis to Discover and Develop Protein Therapeutics with Generative AI, September 2024.

[8] 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS), 研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野, 2024年.

[9] Namba, S., et al., From drug repositioning to target repositioning: prediction of therapeutic targets using genetically perturbed transcriptomic signature, Bioinformatics 38, Issue Supplement_1, (2022), Pages i68–i76.

[10] Han, Y., et al., Empowering the discovery of novel target-disease associations via machine learning approaches in the open targets platform, BMC Bioinformatics 23 232 (2022).

[11] 田中成典, 広川貴次, 池口満徳, インシリコ創薬 計算創薬の基礎から実例まで, 森北出版, 2025

[12] Microsoft Research Blog, Exploring the structural changes driving protein function with BioEmu-1, February 2025.

[13] Lewis, S., et al., Scalable emulation of protein equilibrium ensembles with generative deep learning, bioRxiv 2024.12.05.626885.

[14] Microsoft Research Blog, Accelerating drug discovery with TamGen: A generative AI approach to target-aware molecule generation, November 2024.

[15] Wu, K., Xia, Y., Deng, P. et al., TamGen: drug design with target-aware molecule generation through a chemical language model, Nat Commun 15, 9360 (2024).

[16] Microsoft Windows Blog for Japan, 変革の推進者, 2025年3月.

[17] Microsoft Customer Stories, When everyone speaks the same language: Boehringer Ingelheim speeds up knowledge sharing with Azure OpenAI Service, October 2023.

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