石川智之, Author at マイクロソフト業界別の記事 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog Fri, 14 Jun 2024 08:21:23 +0000 en-US hourly 1 Azure OpenAI の活用シナリオと最近の動向 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/14/azure-openai-%e3%81%ae%e6%b4%bb%e7%94%a8%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%aa%e3%81%a8%e6%9c%80%e8%bf%91%e3%81%ae%e5%8b%95%e5%90%91/ Fri, 14 Jun 2024 08:21:19 +0000 Executive Summary 

生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 

長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 

生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 

Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。

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Executive Summary 

  • 生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 
  • 長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 
  • 生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 
  • Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。 

昨年から何度かこのヘルスケアブログでも取り上げている生成AIについて、世の中の関心はますます高まっており、様々な業種において具体的な導入・検証が盛んに進められています。この動きは一部大手の民間企業だけのものではなく、政府、行政機関をはじめとする公的なサービスを担う組織においても、職員の働き方を変革していく手段として、また市民へのより質の高いサポートを実現するための道具としても期待が寄せられています。 

医療の世界においても、生成AIの活用による効率化が期待されている分野の一つとして、病院に勤務する医師の長時間労働の改善が挙げられます。特に令和6年4月からは、医師の時間外労働の上限規制の適用が始まったことも背景として、医療従事者の就労環境の改善が必須となっています。 

参考 厚生労働省 「医師の時間外労働の上限規制の解説」 

001183185.pdf (mhlw.go.jp) 

以下の調査結果は、厚生労働省の調査研究からの引用に基づく、医師の長時間労働の原因に対するアンケート結果です。この中で、②の記録や報告書作成、書類の整理といった文書関連の事務作業の負荷が高いことが見て取れます。併せて④⑤のように、調整のためのコミュニケーションに要する時間や自己研鑽のための時間も、残業の増加につながっていると回答されています。 

【調査結果】 病院医師の勤務実態 – 主な時間外労働 

長時間労働の主な要因: 

  1. 緊急対応(80%) 
  1. 記録・報告書作成や書類の整理(80%) 
  1. 手術や外来対応等の延長(70%) 
  1. 多職種・他機関との連絡調整(40%) 
  1. 会議・勉強会・研修会等への参加(30%) 

※パーセントは時間外労働の原因であると回答した医師の割合 

出典:医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究.pdf (mhlw.go.jp) 

こうした課題の解決を支援するために、生成AIがどのように活用可能かについて、次にご紹介します。 

1.医療現場での活用シナリオ(例) 

NPO法人日本医師事務作業補助研究会によると、医師や事務作業補助者による主な文書として以下のような例が挙げられています。 

文書例: 

  • 保険会社・病院様式診断書 
  • 外来診療情報提供書 
  • 外来内服薬の処方 
  • 入院退院サマリー 
  • 入院診療情報提供書 
  • 入院診療記録 

など 

出典:NPO法人日本医師事務作業補助研究会 

≪添付資料②≫ (kokushinkyo.or.jp) 

ここでは「診療サマリー」を生成AIによって作成するシナリオについてご紹介します。 

こちらは、電子カルテから出力した診療記録の生データとなっています。このデータをもとに、Azure OpenAIに対して図の上部記載の「あなたは医者です。患者情報を迅速に確認したいです・・(以下略)」といった、プロンプトを実行します。プロンプトとは、生成AIに対する指示や要求を与えるための入力文です。具体的で明確に指示をすることで、より正確な結果を得ることができます。 

診療サマリー作成のプロンプト

実行結果がこちらとなります。診療記録のサマリーの体裁で、AIが文書を自動整形してくれることで、転記・二重入力の負荷が下がり、誤記や漏れ等も防止できます。ただし、幾つかの項目はAIが専門用語の意味を理解できない等の原因で拾えないケースもあるため、その点は医師等による追記は必要となりますが、一から全て手作業で作成するよりも業務効率化を実現できると考えられます。 

診療サマリー作成を Excel でまとめたもの

もう1つヒヤリ・ハット事例収集の業務への適用例をご紹介します。 

下記の図の左側にある看護記録例には、赤枠部分にヒヤリ・ハットの事案が記載されています。 

ここでAIに対して、「以下の看護記録から、医療事故情報収集等事業で記載されている各項目を抜き出し(以下略)」のプロンプトを実行した結果が、図の右側の表となります。 

ヒヤリ・ハット事例の一例

従来は看護記録から転記していたこのような業務も、生成AIを活用することによりその多くの作業を効率化できると考えられます。 

こうしたケースは、さらに汎化してとらえると、一つの様式のデータをカルテで作成し、別の様式に転記や二重入力していた業務、別々のシステムをそれぞれ使用して非効率となっていた作業を、生成AIをチャットのような汎用的なインターフェースから利用することで、代替できる可能性を示しているといえます。生成AIは、人が都度入力するのではなく、システムの中でデータ連携することで、指示・回答を自動化することもできます。 

  1. 生成AI(LLM)のメリットと回答精度の向上策

ご存じの通りAzure OpenAI に代表される生成AIサービスは、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる自然言語処理技術が基礎となっています。LLMは、既に過去の大量の公開情報を学習しており、ユーザが特別に意識することなく直ぐに使用でき、前章で述べた例のようにある程度の精度の高さで処理が実行されるという点で、利用開始のハードルが低いという点が大きなメリットです。 

一方で、「ハルシネーション(幻覚)」と称されるような、事実に基づかない情報を生成する可能性もあり、それらは学習データの偏りや誤り、入力された質問(プロンプト)の文脈を正しく理解できない場合に生じうる挙動であることも知られています。医療情報のように一般の事務よりも高い精度が要求される業務においては、こうしたリスクに対して、生成AIの利用に慎重な面もありましたが、実績によりハルシネーションへの対策が明確になり、利用検討が活発にされるようになりました。 

ハルシネーションの対策として取り上げられる方式として、RAG(Retrieval Augmented Generation)モデルがあります。これは、生成AIのLLMモデルが使用する公開情報によるトレーニング済みデータに加えて、多様なデータソースからの情報検索を組み合わせる仕組みです。これにより、学習済みデータを補完し、正確な回答を応答することに寄与します。 

ファインチューニングという、必要な学習データを準備して、既存の生成AIに追加学習させる方法もあります。必要な学習データを準備して学習させ、追加学習させた生成AIモデルを管理することが継続的に必要となります。既成の生成AIモデルと検索を組み合わせるRAGモデルと比べると運用負荷がかかるため、RAGモデルから検証を始めるケースがスタンダードになっています。 

下の図は、組織内の情報を検索するシステムにおいて、Azure OpenAI Serviceと全文検索エンジンAzure AI Searchを組み合わせて利用することで高度かつ自然な回答内容を生成してユーザに返す仕組みを実現するためのサンプルアーキテクチャです。 

このアーキテクチャは、Azure OpenAI を使用する際のRAGモデルの一例であるとともに、加えてオンプレミス上の院内ネットワーク上にある電子カルテ等の業務システムDBをクラウド(Azure)上にレプリケーションすることで、電子カルテ等のデータを検索対象として組み入れることを可能とし、同時に災害時のバックアップデータをクラウド上に退避させることもできます。Azure Arcを組み合わせて使用すると、さらなるメリットを享受できます。Azure Arcは、Azure以外の場所にある分散したサーバ環境をAzure上で一元管理するためのサービスです。具体的には、オンプレミスにある業務システムや他のパブリッククラウド環境の既存の仮想マシンなどの様々なリソースをAzure Arcに接続することで、統合管理ができるようになります。 Azure Arcを導入すると、オンプレミスに設置された電子カルテのデータベースSQL Serverをクラウド上で一元管理したり、クラウド利用料金のように利用時間単位の月額払いで使用したりすることも可能となります。 

さらに2023年後半にリリースされた新しいサービスであるMicrosoft Fabric を利用することにより、Azureだけでなく他社クラウド上にあるデータも仮想化して、あたかも実態があるかのように検索対象とすることができます。生成AIの活用による業務効率化を進めるためには、業務上必要なデータが点在していることが課題になります。Microsoft Fabric は、サイロ化し分散したデータの「民主的なデータメッシュ」として機能し、データを一箇所で中央集権的に管理するのではなく、各部門やチームが自分たちのデータを自律的に管理・活用できるようにし、組織全体のデータガバナンスに寄与します。 

組織内データの活用した利用パターン
  1. 他のAIを組み合わせることで広がる利用シーン 
    生成AIの歴史は未だ始まったばかりであり、日々進化を遂げている途上でもあります。Azure OpenAIも、GPT-3.5からGPT-4、GPT-4-Turboへとアップデートしており、扱えるトークン数(文字数をカウントする値)も大幅に拡大しています。規約やガイドラインといった長文のコンテンツを、直接プロンプトにインプットし、過去の文例を参考にしながら改定されたドキュメントを自動で下書きさせるといった用途へも広がりを見せています。かつ、トークン当たりの価格は、以前のバージョンよりも安価であるという点でも、利用しやすさのメリットが向上しているといえます。さらに、直近ではGPT-4o という新しいバージョンのモデルの提供も開始し、さらなる精度と応答速度の向上により、利用シナリオの拡大が見込まれています。 
Azure Open AI アップデート内容

  また、LLMは言語領域だけでなく画像や動画、音声もインプットデータとして処理できるようになってきており、これを大規模マルチモーダルモデルと呼んでいます。下図はその一例ですが、医療の分野でも画像等のデータを扱うシステム(PACS等)との組合せや、音声の記録や会議録を入力としたり、逆にテキストから音声によるガイダンスを自動生成したり、といった利用シナリオへと発展する可能性が期待されています。 

Azure Open AI アップデートに伴い画像もインプットできるようになった

下図は、異業種ですが金融業界におけるコールセンター業務へ生成AIの活用イメージとなります。お客様とオペレータのやりとりを音声からリアルタイムにテキスト情報に変換し、その内容に基づいて生成AI側がバックヤードで電話対応のレポートを自動作成することで業務効率化を図るといった例です。ここからさらに過去のQA記録に対するナレッジ検索AI、生成AIによる自然言語処理、そしてテキストを音声に変換するAI等を組み合わせて、お客様に対する音声回答まで自動で行う仕組みが考えられます。そして、これらはAIの翻訳サービスと組み合わせることにより、外国人のお客様や相談者に対する多言語での応対をAIにより実現する仕組みへと発展させることも可能と考えます。 

コールセンターでの生成 AI の活用事例

最後に 

このブログでは、生成AIの医療分野での活用シナリオから始まり、進化を続けるAIの様々なサービスコンポーネントを上手く組み合わせることによって、より精度の高い回答、より多くの種類のデータの取り扱いが可能となってきていることをご説明いたしました。 

ここまでご紹介してきたAI活用のベースになるのは、元となる情報・データが適切に記録され蓄積されていることが前提となります。医療の現場で使用される電子カルテ等についても同様です。診療と平行して行う入力作業の負荷軽減にも併せて対処が必要であり、そこではAzure AIのSpeech to Text を使用し音声⇒テキスト変換を組み合わせるといった方策も考えられます。 

Microsoft Azureでは、下図に示すようにOpenAI サービス以外にも各種ラインナップを取り揃えており、お客様の実現したい利用シナリオを柔軟に構築することが可能です。 

ここでご紹介したAzure OpenAIサービスは、既にISMAPへも登録済みです。またサービス契約に関する管轄裁判所も日本となり、SLAも設定されており、サポートもMicrosoftで一元的に提供が可能です。 

Microsoft の AI ポートフォリオ

ぜひ、皆様のこれからの顧客サービス向上、業務効率化をプランニングされる際に、Microsoft Azureをご検討いただけますと幸いです。 

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ヘルスケア業界の未来 〜医療現場から見た医療 DX と AI〜  http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/03/28/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part5/ Thu, 28 Mar 2024 03:58:32 +0000 2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI  が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI  が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

京都大学医学部附属病院の黒田 知宏 氏は、院内 IT の責任者であると同時に、電子カルテの自動化に関する研究に携わり、政府が進める次世代医療情報基盤法の認定事業者の理事を務めるなど、医療 DX に深い造詣をお持ちです。

対談者 黒田氏写真

黒田 知宏 氏(京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授)

対談者 河野氏写真

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

長く院内 IT に携わり、医療 DX の第一人者として活躍

河野 まず、黒田先生が現在取り組まれているお仕事についてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

黒田 所属している京都大学病院のなかでは、大学教授としての教育・研究のほかに、病院長補佐の立場で病院の電子カルテを含めた情報システム全体の設計管理の責任者として働いています。また CIO としてシステムから上がってきたデータをもとに病院経営に携わる役割も担っており、当然ながら情報セキュリティについても責任を負う立場でもあります。

学外のプロジェクトとしては、内閣府が立ち上げた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参加して、自動でカルテ作成を行える電子カルテの開発研究に取り組んでいます。これは、医療機器のデータや医療者の行動状況をすべて正しく自動で記録することで、インシデントの予測や人為的なミスの軽減など、電子カルテが医療者に寄り添うパートナーとなる世界を目指したプロジェクトです。

実は私は、最初から医療情報を志していたわけではないんです。専門分野は人間とコンピュータの関係性をどのように整えるか、いわゆるヒューマンインターフェイスで、博士号は手話工学で取得しました。病院情報システムをつくる人間の顧客となるのは、患者さんというよりは医師や看護師です。そういう意味では、今取り組んでいる電子カルテ医師や看護師がいかに快適に仕事をできるか、そのためのシステムを考える研究は自分の専門や興味に合致していると感じますね。

河野 この後の AI の話にもつながってくると思うのですが、ユーザーが何かを判断するために必要なデータを正確に収集して、さらにわかりやすく示すことはとても重要ですよね。

黒田 おっしゃる通りです。医療業界は特に、データに頼る傾向が顕著です。医療者は患者さんの顔を覚えていなくても、X 線の画像を見れば「あの患者さんか」と思い出すという話が笑い話のように話されることがありますが、実はそれは実態に近くて、医療者にとって、データは患者さんそのものと言っても過言ではないんです。

何かの拍子にある患者さんの体重を誤って入力してしまえば、薬の処方量に影響が出て、患者さんの健康を害しかねませんよね。だから私は 20 年来、データ入力プロセスの改善にエネルギーを注いできたんです。

医療 DX におけるデータの価値と次世代医療情報基盤について

河野 医療 DX を進めるにあたって、データの可搬性や標準化はホットなテーマだと思うのですが。

黒田 標準化については、完全なものはつくれないと思っています。私は、集中すべきはコンテンツ、中身そのものだと考えています。患者さんの情報を入力する際に、名前、体重、値といった形で必要とされる情報の組み合わせはある程度決まってきます。その組み合わせを変えないでデータを伝えられれば、いくらでも変換はできるはずなんです。それが、この標準でやらなければいけないとか、この標準では使いにくいといった議論に陥ってしまう。手段を目的化するのではなく、本質を見定めて議論をしなければ、当初考えていた世界とは異なる結果が生じてしまいかねません。

河野 データの有効利用という点でもう少しお話をお聞きしたいのですが、政府は次世代医療情報基盤法を定めて、医療情報の活用を進めようとしています。この動きについて先生はどのように評価されますか?

黒田 次世代医療情報基盤法の趣旨は、個々人の医療情報を匿名化して研究開発での活用を促進することですが、施行以来、活用された事例はわずか 20例強に止まっています。これも、手段の目的化が大きな要因だと考えています。制定の過程で、セキュリティリスクを過大に恐れるあまり、研究開発に必要な情報が取得できないなど、非常に使い勝手の悪い仕組みになってしまったのです。もちろん個人の医療情報は大切なものですが、これではなんのために法律を定めたのかわかりません。

この結果を受けて 2023 年に改正が行われ、より制約の少ない仮名加工医療情報の採用や、以前は利用できなかった公的データベースとの連結といった改善が行われました。一方、議論の流れを見ているとやはり手段と目的をはき違えがちなのが現状です。国には、目的を忘れずに政策設計に本気で取り組む姿勢を示してほしいと思います。

社会の生産性を高めるためには、手段と目的を履き違えないことが大切

河野 セキュリティの専門家としてこれを言うのはちょっとおかしいかもしれませんが、IT 基盤を構築するときにセキュリティに注力しすぎという議論があります。私は、もっと生産性に軸足を置いた議論になればいいのに、と常々思っているんです。

黒田 私もそうあるべきだと思います。社会全体の生産性を高めるためには、専門家に預けるべきなんです。次世代医療情報基盤法のそもそもの出発点も、専門家にデータを集めて管理してもらい、そこに責任を持ってもらう。責任を持つ能力があるかどうかは国が認定しますよと。だから医療機関の方もサービス提供する方も個人の方も情報を提供してください、それによって社会全体で情報の流通が始まります、というものですからね。それをわざわざ流通させにくく、扱いにくくしてしまうのは本末転倒です。

河野 IT は本来、人を楽にすることが目的ですからね。次世代医療情報基盤法の整備が進めば研究開発が進んで幸せになれる人が増えると思うので、私たちも期待しています。

情報基盤の有効活用にもつながる話ですが、これからは個人が PHR(Personal Health Record)データをいかに多く提供してくれるかが重要になると思うのですが、より多くの人が安心して PHR を提供できる仕組みも必要ですよね。

黒田 そうですね。ただ、「安心できないこと」はデータを提供しない理由にはなるけれど、「安心できること」は必ずしもデータを提供する理由にはならないと思っています。データを提供してもらうのであれば、提供者にどのような「利益」を提供できるかを考えなければいけません。

データの話になると、つい「データが集まれば新しい知見が得られて新しい技術が生まれて社会が豊かに…」といった二次的な利益の議論がなされがちです。それは間違いではないのですが、それではなかなか個人には響かないですよね。「データを提供すれば商品やポイントがもらえる」といった一次的な動機づけの方が重要だと思います。

IT は大きな力になる。大切なのは、なんのための技術なのかという意識

河野 ゲノム領域における IT の可能についてお話をお聞きしたいのですが、まずクラウドの活用という観点ではどのような評価をされていますか?

黒田 データ分析にはクラウドは大変価値があると思っています。まずクラウドは基本的に従量課金サービスですよね。大量のデータを扱うデータ分析の世界では、従量課金でないといくらお金があってもたりなくなってしまいますから、そこはとてもありがたいですね。

それから、柔軟性の高さも評価しています。いくつかあるクラウドプラットフォームのどこかにデータを置いておけば、CPU リソースやライセンス、分析エンジンなど必要なリソースを組み合わせて仕事ができる。これが私たちにとってのクラウドのメリットであり、クラウドの本来のありようでもあると思います。

河野 続いて AI についてもお話を聞かせていただければと思います。例えば、画像に関する質問に回答できる VQA(Visual Question Answering)という技術でも自然言語による会話機能が実装されています。こういった技術は医療分野では有用なのではないかと思うのですが。

黒田 確かに、その技術を使えば、看護師による体位転換や食事介助が行われた事実を画像から判断できるようになりますね。AI が画像を読んで「体位転換が行われた」とカルテに書き込んでくれるようになれば、電子カルテの運用はかなり変わるはずです。個人的には、新しい技術は片っ端から導入したいと思っています。

河野 あらぬクレームを受けて看護師さんが疲弊してしまうというお話も聞くので、仲介者としての AI という使い方もあると思うんです。事実が客観的に示されることで、医療者の緊張感を緩和できないかと。

黒田 そういった使い方も考えられますね。ですが本来は、自分を守るために記録を取らなければいけないというのは不幸なことだと思うんです。何度も恐縮ですが、記録を取ることが目的化してはいけません。そもそもなんのために診療記録を取得しているのかまで立ち返って考えることこそが、重要だと思います。

河野 最後に、私たち日本マイクロソフトへの評価や期待することがあればお聞かせください。

黒田 先ほどからお話をしてきたように、結局は手段と目的という話になるのだと思います。マイクロソフトさんは手段を提供されている会社でありながら、目的に一番近いところでお仕事されている印象があります。つまり、クラウドプラットフォームが整備され、そこでさまざまなツールを提供する会社が乱立するなかで、一番国民生活に近いツールを揃えていらっしゃる。これはマイクロソフトさんの強みだと思います。

この次のステップとして私が期待するのは、顧客サービスの先にある外商です。お持ちのさまざまなリソースを生かして、顧客のサービスを代理で行えるようなところまでいける可能性をお持ちだと思うので、そこを目指していただきたいと思います。

「ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜医療現場での AI 普及シナリオ〜」記事

「ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜今まさに顕現化しつつある AI 活用の課題と可能性〜」記事

【対談】ゲノム & AI 見えてくるヘルスケア業界の未来 〜バイオインフォマティクスの発展を支援するデータ & AI〜」記事

「【対談】ゲノム & AI から見えてくるヘルスケア業界の未来 〜情報基盤の整備から見える医療 DX のかたち〜」記事

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ヘルスケア業界の未来 〜情報基盤の整備から見える医療 DX のかたち〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/03/28/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part4/ Thu, 28 Mar 2024 03:57:07 +0000 2022  年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

大阪公立大学病院 医学研究科 血液腫瘍制御学(臨床検査・医療情報医学兼任)の岡村 浩史氏は工学系の修士課程を修了して就職した後に医学部に編入し、臨床医になったという異色の経歴の持ち主。現在は AI や機械学習を使った研究を行う上で必要とされる情報基盤の開発に取り組んでいます。

対談者 岡村氏写真

岡村 浩史 氏(大阪公立大学病院 医学研究科 血液腫瘍制御学(臨床検査・医療情報医学兼任))

対談者 河野氏写真

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

工学から医学に転身し、AI 活用のための情報基盤構築に尽力

河野 岡村先生は工学から医学への転身というご経歴をお持ちですが、なぜ今のキャリアを志すようになったのでしょう?

岡村 私は工学の修士課程を修了して、SE として働いていたのですが、自分の仕事が具体的にどのように社会の役に立っているかが見えにくかったこともあり、臨床医を目指したいと思うようになりました。思った通り臨床医はとてもやりがいのある仕事で、当初は熱中して働いていたのですが、あるとき先輩から臨床研究に誘われたんです。

そこで見た研究は、かつて工学を専門としていた私の感覚からすると、自動化が進んでおらず極めて非効率的なものでした。そこで、自分の権限内でデータ収集の自動化ツールなどをつくって使っていたところ、口コミでそのことが広がって、医療情報部から声をかけていただいた、という流れです。

河野 大変興味深いキャリアを積まれているのですね。先生が現在取り組まれているプロジェクトについてお聞かせください。

岡村 医療情報分野では大きく分けてふたつのプロジェクトに携わっています。ひとつは、AI や機械学習のような予測モデルを用いた研究を行う分野で本学の情報学と共同研究を行っています。もうひとつは、そのような AI 開発のトレーニングに使うための診療情報を収集・活用する基盤の開発と、医療情報標準化の取り組みです。

AI が実現する将来は非常に夢のあるものだと感じていますが、一方で、AI を開発・発展させるためには優れた情報基盤が必須となります。AI の開発をスポーツカーの設計に例えると、情報基盤は道路整備です。質の良い道路が整備されなければ、スポーツカーの性能を検証することもできませんよね。私は、医療 DX における AI 活用においては、この道路整備の部分にボトルネックがあると考えています。

医療情報活用を阻む壁と、それを超えるためのアイデア

河野 他の業界においても道路整備の部分、つまりデータの収集や活用の仕方は課題になっているようです。医療業界においては、具体的にどのような障壁があるのでしょうか。

岡村 技術的なことというよりもむしろ、我が国特有の組織体制や規制、文化などに見られる不合理に課題があると私は考えています。例えばステイクホルダーの多さ。プロジェクトを進めるためには、患者、医療現場、病院管理者、医学研究者、システムベンダー、製薬企業、行政といったような多岐にわたるステイクホルダーの足並みを揃えるところから始めなければいけません。

さらに、足並みを揃えるための調整が必要となります。そのためには AI やコンピュータの知識、医学の知識はもちろん、臨床現場の実態も知らなければいけません。また、医学研究の倫理や個人情報の扱い方といった規制にも詳しくなる必要があります。ところが、我が国ではこれらの知見を総合的に備えた人材はなかなかいない現状があります。

法整備や運用についても、合理的に考える必要があります。我が国では公的データベースは個々に存在するのですが、それぞれ独立した法律や枠組みに基づいて管理されているために、せっかくビッグデータがあっても、それらをマージして付加価値を生み出せない法体制になっています。機微な個人情報のセキュリティを担保する重要性は認識していますが、それを踏まえても現状の枠組みは非合理的な点が多いように思います。

河野 なるほど。岡村先生のように工学と医学の知識を兼ね備えた人材を増やしつつ、法整備についても国に訴えかけていく必要があるようですね。

岡村 電子カルテがネットワークに繋げられない問題も、日本特有の文化に根ざしていると思います。医療情報と同じようにお金という機微な情報を扱う銀行や証券会社は、10 年以上前からオンラインで手続きができるようになっているのに、なぜ病院で同じことが実現できないのか。これは、誤った閉鎖系神話と、病院側に変化に対応するインセンティブがない点が大きな要因だと思っています。この病院の「ノーチェンジ・ノーリスク思考」に対しては、行政による評価系の転換を期待したいところです。

河野 私は専門がサイバーセキュリティなのですが、トラブルもありつつ銀行がうまくいっているのは、全銀連のようなセンターがデータを安全管理してくれているからだと思っています。医療業界でも、情報バンクのようなものができて一時的なセキュリティを担保してくれるのであれば受け入れやすいと思うのですが、いかがでしょうか? 技術的には難しい話ではないと思います。

岡村 なるほど。医療以外の領域のセキュリティについては、まさにお聞きしたかったお話です。確かにそのご提案は非常にリーズナブルですし、医療業界でもそういった枠組みがつくれたらいいと思いますね。

データ活用を進めるための医療情報標準化と全体最適

河野 情報基盤の構築に際しては、データの標準化が重要ですよね。先生もFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)による標準化プロジェクトに取り組まれています。

岡村 医療情報の標準化は、医療 DX において必須だと思います。とはいえ、標準化の作業は非常に泥臭く、油断するとベンダーや医療機関ごとに異なる FHIR データ がつくられてしまうといった、部分最適が横行する危険性も孕んでいます。先ほどの障壁の話にもつながるのですが、効率的にプロジェクトを進めるにあたっては、常に全体最適の視点・意識を持つリーダーシップが重要になると考えています。

河野 標準化の過程で、データが構造化できるかどうかは重要なテーマですよね。私たち日本マイクロソフトのようなテックベンダーも、例えば非構造化されたデータを構造化したデータベースをご提供するなど、お役に立てることはあると思うのですが。

岡村 おっしゃる通り、電子カルテを例にとると、血液検査結果や薬剤情報など構造化されたデータがある一方で、カルテ記事やレポートのような自由記載文は構造化されていません。でも実際は、そこにしかない貴重な情報がたくさんあるわけです。医師はさまざまな検査結果を統合して評価するわけですが、その所見は自由記載欄にテキストで記入することになりますからね。このようなデータは、今後 LLM(Large Language Models)を活用することで大きな価値を生み出すはずなので、テクノロジーに期待したい分野です。

河野 PHR(Personal Health Record)についてもご意見をいただきたいのですが、ウェアラブルデバイスを身につけて、その情報から健康管理をするようなアプリやサービスも増えています。そういった個人の健康情報は先生が考える情報基盤にもあるべきだとお考えでしょうか?

岡村 はい、もちろん必要です。同じ病気であっても、先天的な要因、後天的な要因が作用することで、表現される症状は多彩ですから、その患者さんのライフログのような形であらゆるデータを集約しておいて、あらゆる表現系に対する解析ができるようにしておくことが、基盤として理想的な形だと思います。またデータというものは、集約あるいは統合することによって付加価値が生まれていくので、PHR のデータ収集は私たちとしても目指していきたいところです。

河野 なるほど。ただ、自分のデータを無償で提供するのはなかなか理解が得られませんよね。先生は、どのような報酬が望ましいとお考えでしょうか?

岡村 ひとつは、情報銀行のような考え方です。個人が自分の情報を預けたり提供したりすることで、ポイントやサービスなどを得られる仕組みが有効に機能する可能性はあると思います。もうひとつは、私が実際にプロジェクトとして取り組んでいることなのですが、「見守り機能」の付帯です。今私は、患者さんがスマートウォッチやアプリ経由で入力したデータを集約して、その情報から AI で危険な兆候を検知するアプリの開発プロジェクトを進めています。

他国の例を見ると、仏国ではアプリによって患者さんの健康を管理するいわば「情報薬」とも呼べるものが実現されていて、実際に肺がん患者の予後が改善したという報告もあります。ですから、今取り組んでいるこのプロジェクトは、患者さんにとっても医師にとっても非常に有効なものだと考えています。

データ活用実現後の課題と日本マイクロソフトへの期待

河野 データと AI を活用した予兆検知のような医療サービスは、非常に画期的だと思います。ただそうしたサービスが普及することによって、医療者の皆さんの業務負担や訴訟リスクが増えることも考えられるのではないかと思うのですが。

岡村 その点は、この領域において常に議論になっています。しかし、私はデータと AI の活用によってトータルで見た医療者の業務負担は減るのではないか、と予想しています。予兆検知システムが構築された場合、医師が 24 時間大勢で対応しなければいけないようなイメージを持たれるかもしれませんが、予測精度の高い AI によるアラートを受けて適切な患者に対して医療者が早期治療介入できれば、重症化リスクを削減できます。その結果、先々の診療コストや人的資源の削減につながりますし、コストを減らせればその分人員を増やすこともできますから、全体で見れば医療者の負担を減らせると考えています。

訴訟リスクについては、前提条件によって整理することが可能だと思います。米国では、患者さんと医療者が電子カルテに搭載されたチャット機能で会話できるシステムが利用されているところがありますが、緊急時はチャットではなく直接電話で連絡するといったルールを設けて運用されています。訴訟社会の米国でこれが運用できているのですから、日本でも実現できるはずです。

河野 最後に、私たちマイクロソフトにご期待いただいていることがあればお聞かせください。

岡村 私は、医療 DX の直近の目標は、産業界において適切なルールに基づいて、安全かつ効率的に医療情報の流動性を担保できる環境を整備することだと思っています。逆に言えば、それができなければ、医療 DX の持続可能性はなくなってしまうと思うのです。その目的に向けたコンセンサスやルールづくりの実現が必要です。

そこで日本マイクロソフトさんにはぜひ、医療情報の価値を高めるために力を貸していただきたいと思っています。例えばこの先、Microsoft Copilot によって LLMの民主化が起きれば、医療業界からも「電子カルテでも Copilot を使いたい」というニーズが出てくるはずです。そうすれば、一気に電子カルテのオンライン化に向かうといった未来も描けます。そのイメージを共有していただき、起爆剤となっていただけることを期待しています。

それからもう一点、我が国のアカデミアには、小さいけれど有望な、研究のシーズがたくさんあります。それらを育てるための産学連携研究にも積極的に取り組んでいただきたいと思っています。

Windows というグローバルに普及している OS をお持ちのマイクロソフトさんには、一夜にして世界を変える力があると思っています。その強力なパワーを、よりよい社会の実現に役立てていただけることを期待しています。

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ヘルスケア業界の未来 〜バイオインフォマティクスの発展を支援するデータ & AI〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/03/28/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part3/ Thu, 28 Mar 2024 03:56:38 +0000 2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの井元 清哉 氏は統計科学,ゲノム情報学,システム生物学を専門とする日本のバイフォインフォマティクス分野の第一人者であり、政府が推進する全ゲノム解析等実行計画において AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)研究班の解析班責任者として活躍しています。

対談者 井元氏写真

井元 清哉 氏(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター センター長)

対談者 河野氏写真

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

黎明期からゲノム領域に携わり、常に最前線をリード

河野 井元先生が現在取り組まれているプロジェクトと、そこに至るまでの経歴をお聞かせいただけますか?

井元 私は、2001 年から東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターに博士研究員として着任し、DNAや転写産物の情報解析の研究に取り組み始めました。

ゲノムは私たちの体の設計図がゲノムです。私が、ゲノムの異常によって生じる疾患である「がん」のゲノムデータ解析に私が取り組み始めたのが、2007 年頃のことでした。ゲノム配列を読み取るシークエンス解析にかかるコストが下がり始めた時期です。その頃はまだ一人分のゲノム配列を取得するのに数千万円が必要でしたが、2010 年代に入ると100 万円くらいまで下がってきました。そこで私たちは、これからはゲノム情報に基づくがん医療のパーソナライズ化が爆発的に増えていくことだろうと予測し、がん患者さんからがん細胞の全ゲノム情報を取得して、がん細胞に生じたゲノム変異を見いだして医療に還元するための研究を始めました。

2019 年には、がんに関連する数百の遺伝子を調べ、一人ひとりに適した治療法の手がかりを見つける「がん遺伝子パネル検査」が保健収載され、実際にシークエンス解析によって得られるゲノム情報が医療の役に立つ段階に入ってきました。同年、厚生労働省によって「全ゲノム解析等実行計画」が策定され、全ゲノム情報を用いてゲノム医療の飛躍的な精度向上と、これまで治療法の無かった患者さんに新たな医療を届ける組織を2025年度に発足させる、という決定がなされたことを受けて、私は今、AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の全ゲノムプロジェクトの解析班の責任者として、その組織の基盤となる研究事業に携わっています。

河野 まさにゲノム領域の最前線で活躍されているのですね。2025 年に発足する組織でさらに我が国のゲノム医療が前進するのでしょうね。

井元 AMED 全ゲノムプロジェクトのがん領域では、希少がん、難治がんを中心とした患者さんの全ゲノムデータと詳細な臨床情報を解析班に集約し、患者さんのゲノム変異情報を抽出して、その結果を研究班(医療施設)に戻すといった作業を行なっています。解析されたデータは、データベース化されて新たな創薬研究に活用されます。2021 年の段階では前向き症例(治療中の症例)は年間 600 症例でした。2022、2023年は、それぞれ2,000症例を解析しました。新しく発足する組織では、まずは 2 万症例まで増やすことを目標としており、今はそれを可能にするための情報インフラを構築しているところです。

ゲノム解析におけるデータ活用の現状と理想

河野 以前、全ゲノムデータを収集しようとすると、そのデータ量は莫大なものになるとお聞きしました。ましてやそれが年間 2 万人分となると、この膨大なデータをどのように管理するかは大きな課題だと思うのですが。

井元 おっしゃる通りです。がんの患者さんから得られるデータも、全ゲノムデータだけでなく、さまざまなオミクス情報、臨床情報を組み合わせて解析するため、多様なコンピューティングリソースを必要に応じて使い分けることが必要です。そのため、クラウドサービスの活用は必須だと思っています。

河野 私の専門であるセキュリティ分野では、以前はセキュリティに関わるデータだけを解析して攻撃に備えていたのですが、最近はなりすましによる攻撃が増えてきたこともあり、すべての活動データを解析しなければいけないのが現状なのですが、ゲノム解析でも同じ状況なのですね。

井元 そうですね。がん細胞というのはいわば故障した細胞です。その故障の原因を突き止めるためには、がん細胞だけを解析するだけではなく、患者さんの正常な細胞との比較を行う必要があります。さらに言えば、なぜゲノムが変異してしまったのかは、その患者さんが生まれてからこれまでに暴露したあらゆる刺激を加味しなければ正確に把握できません。つまり、がんを生じる前の情報やがんを罹患していない方の情報をたくさん集める必要があるわけです。より高い精度でゲノム医療を提供するためには、セキュリティ解析と同じく、がんゲノムデータに加えて健常な方のデータ、健常な状態にある細胞のデータをいかに集めるかも、ポイントになると考えています。

我が国には優れたコホート研究(曝露群と非曝露群の追跡比較研究)が多数存在しています。ゲノムデータや臨床データは、さまざまな形式で得られ、また品質にもバラツキがあります。さらに、データ解析手法は日進月歩ですので、単なるデータの集約をゴールにするのではなく、AIをはじめとする最新技術による解析結果も合わせて統合的に利用できる枠組みが必要です。

対談者 井元氏半身写真

個人の健康情報を集約・解析できれば世界は大きく変わる

河野 となると、PHR(Personal Healthcare Record) データの収集というテーマも重要になるでしょうか。最近はスマートウォッチやアプリから PHR データを入力して健康管理するようなソリューションも増えていますよね。

井元 そうですね。海外では、PHR データの提供に対して報酬を得られるような枠組みも見られます。PHR 活用を促進するために肝心なのは、データが活用されることで提供者もなんらかの報酬が受け取れる仕組みをつくることと、提供者が研究に参加している実感を持てる建て付けを考えることだと思います。先ほどコホート研究のことを申し上げましたが、自分がどのコホート研究に入っているのか、参加者が自覚されていないことは多くあるという調査結果を聞いたことがあります。この状況では価値ある PHR データの集積は望めないと思います。

河野 私たちが進んで PHR データを提供できるようなわかりやすい仕組みがあるといいですよね。私はウェアラブルデバイスには大きな可能性を感じています。

井元 研究参加者のデータが参加者や研究者を煩わせることなく自動的にデータベースに登録され、解析できる形が理想です。常に装着しているデバイスから自動でデータがアップロードされるウェアラブルデバイスの活用は、仕組みとして優れていると思います。医療の領域においては、時系列で取得されたデータは極めて大切です。スナップショットの数値だと、その人にとって高いのか低いのか判断できませんからね。こうしたデータが、未解明のゲノム変異に医学的な解釈を付けることに繫がります。そういった点でも PHR の活用には期待したいところです。

河野 PHR 活用が進むには、先ほどの報酬の話もひとつの方策だと思いますが、どのような仕組みが必要だと思われますか?

井元 大切なのは、医療機関がデータを集めたいときだけ集めるのではなく、個人の情報がほぼ自動的に集まる仕組みと、その管理やデータ提供の権利を本人が有していることだと思います。本人がその権利のもとにデータ提供を承認できて、今まで蓄積されてきた個人のデータも含めて、必要とする研究者や機関に提供できること。かつ、そのデータがどのように活用されているかが公開され、提供者が確認できること。このフレームワークを実現するためにも、電子カルテがインターネットと切り離され、臨床情報を手書きで写し取ったり電子カルテの画面を見ながら別のデータ入力端末に再度入力しなければいけないといった旧態依然とした状況は、早期に新しいあるべき姿に見直されるべきだと思います。

一方で、我が国で公的データの活用が進みつつあることも確かです。DPC データはすでに連結解析が可能になっていますし、がん分野で言うと、全国がん登録のデータベースなどは今後連結できるよう検討されてます。マイナンバーカードの活用促進もそうした動きの一環ですよね。死亡統計やレセプト情報などの公的データベースがインターネットを介して安全に突合できるようになれば、医療分野の研究の世界はずいぶん変わると思います。

医療業界の外にいる IT 人材も活躍できるゲノム領域

河野 ゲノム分野におけるデータ活用や情報基盤の整備といった点を鑑みると、プロジェクト推進のためには IT の知見も必要になってくると思うのですが、人材の確保はどのように行われていますか?

井元 私たちが必要とする能力は、大きくは解析アルゴリズムを考えるといったソフト面と、IT 分野の知識を持つハード面に分けられます。もちろん両面の知識を併せ持っている人材がベストでしょう。でも、なかなかそういう人は少ないのが現状です。特に、ゲノム領域における IT 系人材は、他の分野と比べて大きく不足しています。メディカルの知識を備えた、医療分野に貢献する志を持つ IT 系人材を、国を挙げて育成する必要があると感じています。

河野 今のお話を聞いて思ったのですが、日本の教育システム上、医学を志しても医学部入学の壁に跳ね返されて情報や工学の道に進んだ人材も多いと思うんです。そういった人材のなかには、IT の知見を活かして医療の分野に貢献できることがわかれば、興味を持つ方もいるのではないでしょうか?

井元 そうですね。いまや医療・医学は情報工学の知見なしでは成り立たない分野になっています。そのことをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。

解析だけでなく医療者を支援する AI の可能性

河野 ゲノム領域における AI 活用についてはどのようにお考えでしょうか。

井元 私の研究で言うと、AI 活用のポイントはふたつあります。ひとつは、データの解析行為そのものに AI が活躍するケースです。これまで解析が及ばなかった複雑な構造のデータに対する AI による解析は、今のバイオインフォマティクス分野におけるホットトピックのひとつです。画像とゲノム情報を同時に解析できるフレームワークの研究も進んできているので、AI 活用によって新たな知見も得られると考えています。

もうひとつは、解析結果のサマライズです。全ゲノム解析で得られた膨大な変異情報をデータベースに照合して、医療に役立つものに絞り込む必要があります。しかしながら、検出した変異をデータベースに登録されている情報と完全一致で検索してしまうと、多くの重要な変異を見逃してしまいます。データベースに登録されている病因性の変異と類似の影響のある変異は、医師などの専門家が論文を精読し、論理的に考えることで抽出できることが多くあります。しかし、すべての怪しい変異について、医師が論文を確認することは現実的ではありません。この部分を AI が解釈できれば、大きな進歩になるはずです。

それから生成 AI は、解釈の結果をレポートにまとめることができますよね。レポートを AI が生成する、もしくは人が作ったレポートを AI がチェックして人為的ミスを見つける。どちらも AI の得意分野だと思います。

河野 最後に、私たちマイクロソフトへの期待をお聞かせください。

井元 最先端の生成系 AI をクラウドや OS に実装して個人個人のパフォーマンスを底上げしようとしていらっしゃる点は、素晴らしい取り組みだと感じています。この仕組みは研究面にも活用できるものだと思うので、ぜひ継続してほしいですね。もちろん私も大いに活用させてもらいます。これからも、最先端の AI 研究をリードし続けていただければと思います。

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ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜医療現場での AI 普及シナリオ〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2023/11/13/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part1/ Mon, 13 Nov 2023 03:19:23 +0000 2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI 開発加速コンソーシアム」で AI 開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI 技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer 河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様を、全 2 回にわたってお届けします。本稿では、医療現場の視点から澤 智博 氏にお話を伺いました。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI 開発加速コンソーシアム」で AI 開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI 技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer 河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様を、全 2 回にわたってお届けします。本稿では、医療現場の視点から澤 智博 氏にお話を伺いました。

対談者 

澤 智博 氏 (帝京大学 医療情報システム研究センター  教授) 

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

澤さんと河野さんのお写真

AI は診療の標準化や現場の効率化に寄与する

河野 ChatGPT に見られるように近年の AI の進化は目覚ましく、いわゆる「ヒューマンパリティ(人間同等の判断)」の範囲が大幅に拡大しています。大学病院で勤務されながら医療業界における IT 活用にも造詣の深い澤先生から見て、医療現場における AI 活用の可能性についてはどのように感じていらっしゃいますか? 

エーアイカバレッジの変化を示す画像

澤 2016 年頃から先行していた物体認識技術などは、すでに放射線画像領域などで医療機器に取り入れられているものもありますよね。それを考えると、今後 10 年も経たないうちに GPT(自然言語処理)が取り入れられた医療機器が出現する可能性は、大いにあると思っています。 

ただ、GPT は前の文脈を判断材料として単語を予測していく「Transformer」を用いたモデルであるという特徴を理解したうえで、どのように活用していくかを考えなければ、AI の可能性を最大限に活かすことはできないだろうと考えています。 

河野 確かに、GPT の回答をうまく引き出す技術の習得はこれから大きな課題となりそうですね。まずは「診療」「研究」「教育」という 3 つのシチュエーションに分けて、それぞれで考えうる AI の活用方法についてお聞きしていきたいと思います。診療の現場を想定したときに、どのような AI の活用方法が考えられるでしょうか? 

澤 まず GPT を活用した問診ですね。患者さんが納得できるまで質問し続けられる。医師にも慎重だったりポジティブだったりとさまざまなキャラクターの先生がいるように、GPT にもキャラクターを持たせられるようになれば、患者さんごとに最適な問診の仕方ができるようになるかもしれませんね。 

それから電子カルテ。今の電子カルテは限られた情報しか残すことができませんが、AI のアシストを得ることで診療中のすべてのデータを電子カルテに残せれば、全く違うフェーズに入る可能性があると思っています。申し送りの行き違いによる事故を防ぐこともできるでしょう。 

また、AI の再現性の高さはすでに人間を超えていますから、同じ場面に遭遇したときに百発百中で同じ判断ができる。画像や問診内での変化の見逃しも確実に減らせるはずです。 

AI に手術中の会話を記録させてその要約を出力することで、手術レポートの入力負担の軽減にも役立つかもしれません。

河野 医療の標準化や現場の効率化を AI が支援してくれるということですね。一方で、最近はネットで検索した情報を医師の診療より信用してしまうような人もいるという話を聞きますが、ChatGPT が一般に普及していくとそういった患者さんへの対応も難しくなるのではないですか? 

澤 それは医師と患者さんの相性にもよるでしょうね。「自分の診療がベストなのだから患者さんは何も考えなくていい」という医師もいれば、「患者さんが調べてきたことに対して答えるのが楽しい」という医師もいるわけで、それぞれの価値観に合わせて患者さんが医師を選べるようになればいいと思います。 

河野 なるほど。そのお話を聞いてちょっと思いついたのですが、先ほど澤先生がおっしゃっていたように、GPT のキャラクターを複数から選べるようになると、セカンドオピニオンとして活用できるようになるかもしれませんね。「AI 澤先生」のような。 

澤 それは面白いかもしれませんね。 

AIがアシスタントとなって、研究や教育の質を向上する 

河野 では続いて、研究の分野における AI 活用の可能性についてお聞かせください。

澤 研究の方法はかなり変わってくるでしょうね。研究というのはまず仮説を立てるところから始まりますが、AI がこの仮説の候補出しをアシストしてくれる可能性があります。そうなれば、まず AI に自分の仮説を投げかけてみて、その回答を見ながら自分の考えを整理したり、仮説を取捨選択したりするのに役立てられると思います。仮説を立てる段階から問いかけることもできるでしょうね。 

河野 自分が行き詰まったとしても、AI のアシストで足がかりをつかめるということですね。教育においてはいかがでしょう? 

澤 私たちの頃よりかなり進んだものになるでしょう。というのは、私たちの頃は教科書や文書で表現されている臨床の症例が少なかったので、臨床研修などでは「頭の中でひとつの症例を 100 倍にしなさい」という指導を受けていたのですが、今は AI のアシストで 100 倍では済まないくらいに膨らませることが可能ですから。

河野 シミュレーションの幅が大きく広がるということですね。それがのちに臨床現場で生きてくると。 

澤 今の将棋の世界がまさにその状態だと思っています。ひとりで体験できる対戦や過去の対戦の棋譜を読むといった範囲を超えて、AI が新しく生み出したものから学習することで、将棋界全体のレベルが上がってきている。これと同じように、蓄積された医療データを AI を使って活用できるようになるのが理想だと思います。 

ただし、今後 AI を用いることで個人情報保護法やその関連法律、ガイドラインなどに抵触する可能性が出てきます。ですからこれからの医師は、法的な観点を持ちながら AI の効率的、効果的な利用方法を身につけていくことになるでしょう。 

患者さん側も、自分のデータが後の医療に役立つ可能性があることを実感できるといいですね。今はデータを渡すことに難色を示す方も多いので。 

AI 普及を推進するためのデータへの向き合い方 

河野 私は普段からウェアラブル端末を使って自分のヘルスケアデータを計測していますし、このデータが役立つならいくらでも提供したいと思っているのですが、データの提供を躊躇わせる理由はなんなのでしょうか? 

澤 そのデータが最終的に誰の手に渡ってどのように使われるかが見えにくいところでしょうね。いち企業の利益に関する活動に使われてしまうだけかもしれないと思えば、なかなか共有しようという気にはなりにくいのではないでしょうか。 

「こういった研究をしているグループが、あなたのデータに興味を持っています」といったフィードバックを得られるシステムがあると、自分が役に立っていることを実感しやすくなるかもしれません。

河野 確かに、フィードバックがないとフィードする気にもなりにくいですよね。 

続いての質問ですが、医療業界におけるデータの整備についてお聞きしたいと思います。今、AI が参照するデータの正確性を担保しようという動きが広まっているのですが、医療分野における参照データはどのようなものが望ましいとお考えでしょうか? ある程度洗練されたものが必要なのか、それともとにかく膨大な量が必要なのでしょうか。

澤 用途によって両方が必要だと思いますね。重要なのは、そのデータが「どこから出てきたどういうデータなのか」が可視化できていることだと思います。 

河野 データのリフレッシュも必要ですよね。以前ある会合で医師の方から「診療結果が残り続けることに不安がある」というお話を聞いたことがあるんです。その時点で最善だと思われていた診療だったとしても、新しい情報や知見によって否定されてしまうことがあるのは困る、と。 

データの有効期限の必要性といいますか、どのようにリフレッシュされていくのが望ましいとお考えでしょうか?

澤 難しい問題ですね。たとえば画像系医療機器の解像度はものすごい勢いで上がっていますから、10 年前の技術では発見できなかった病気について言われても困ってしまいます。一方で、10 年前の画像を AI でリファインすることで新たなデータを得られる可能性もある。未来における免責をどう考えるか、議論が必要だと思います。

河野 データのフォーマット化についてはいかがでしょうか。私たちとしては「FHIR」という標準仕様 API が出現したことが AI の活用につながっていると感じているのですが、医療業界におけるデータポータビリティについて考えをお聞かせください。 

澤 FHIR が普及したから AI も活用できるし、AI で活用したいから FHIR がますます使われる。車の両輪ですよね。私は、データは最終的にはコンピュータで処理されるものですから、コンピュータのデータとして処理しやすい FHIR が世界中で普及し始めているのは、そういう理由だと思っています。 

コンピュータを自分の一部としてアイデアを実現する人材が必要

河野 私たちマイクロソフトでは、お客さまからのフィードバックをセキュリティの改善や予防に活用することでフィードバックループの循環を高速化しているのですが、医療業界ではデータのフィードバックはどのように役に立つとお考えでしょうか。 

澤 私は、フィードバックというよりは「共有化」と「可視化」が重要になると考えています。自分の履歴が見られるのはもちろん、その他のデータについてもある程度見られるようにしていかないと、データだけ取られて終わりでは皆さん納得しないのではないでしょうか。 
ただ、そこを目指そうとするとデータの検索やグループ化をしやすくするための仕組みづくりが必要になるのですが、日本の医療業界には最新のデータ時代に対応できるデータサイエンス分野の人材が不足していることを感じます。

河野 皆さんが必要性を強く感じれば自然と人材も生まれてくるのだと思いますが、まだそこまで至っていないのかもしれませんね。 

マイクロソフトにはコンピュータの知識がなくてもデータ分析画面を構築できる Power BI というツールがあるのですが、こういったツールは医療分野でも役に立てていただけそうでしょうか? 

澤 おそらく、最も重要なもののひとつだと私は考えています。これまではコンピュータを操作するためにはプログラミングというディープなスキルと経験が必要だったのですが、その障壁が無くなりつつあって、コンピュータ側から人間に近づいてきてくれている。 

これからの時代は、しっかりした発想さえ持っていればコンピュータを自分の一部として使いこなせるようになります。アイデアとコンピュータを直結できる人材が増えることを期待しています。 

地域全体でデータを分散共有し、AI 活用の未来を切り開く 

河野 そういった世界を実現できるように、マイクロソフトでは「Do more with less」という言葉を掲げて、なるべく皆さまに負担をかけずにコンピュータを使いこなせる環境をつくろうとしています。AI を副操縦士に見立てた Microsoft 365 Copilot といった製品もリリースしていますので、ぜひ医療業界でも役立てていただきたいと思っています。 

澤 私がマイクロソフトさんを評価しているのは、Azure というプラットフォーム内でさまざまなサービスを展開されていることです。私もサーバやデータベースがすでに揃っている環境を、便利に使わせていただいています。また、自社の利益だけではなく、ユーザーやディベロッパーと一緒に発展していこうとされている点にも好感を持っています。この方向性を維持していただければと思います。 

河野 ありがとうございます。最後に医療 IT の今後についてお考えをお聞かせいただきたいのですが、私たちマイクロソフトは、ひとつの医療機関というより地域内での医療機関の連携スキームの構築を目指しておりまして、そのスキームのなかでデータを共有して AI も活用して、そして患者さんに還元していく。そういうステージを目指していきたいと思っているのですが。

澤 そこには先述したデータ主権の問題があると思います。ですが、少しデータに対する見方を変えるとうまくいくかもしれません。解像度の高い生のデータは保有者が持っていても構わないけれど、例えば FHIR の退院サマリーのようなレベルの解像度のデータであれば共有してしまおうという、二段構えのデータ共有というのはひとつの考え方だと思います。 

私は医療データの持ち方としての正解は中央集中よりも Distributed(分散)だと思っていて、各施設や各人がそれぞれにオーナーシップは維持した状態で、要約されたデータはみんなで共有する。そういう世界は十分つくれるし、そこに AI 活用の大きな可能性が開けると思います。

河野 貴重なご意見ありがとうございます。私たちもそのような世界のお役に立てるように、引き続き IT の視点から医療業界のご支援を続けていきたいと思います。

本記事の内容は以下のURLからダウンロードできます。
https://aka.ms/Helthcare_AI_in_Medical

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ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜今まさに顕現化しつつある AI 活用の課題と可能性〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2023/11/06/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part2/ Mon, 06 Nov 2023 01:59:03 +0000 2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI 開発加速コンソーシアム」で AI 開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI 技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer 河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様を、全 2 回にわたってお届けします。本稿では、国という視点から葛西 重雄 氏にお話を伺いました。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI 開発加速コンソーシアム」で AI 開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI 技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer 河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様を、全 2 回にわたってお届けします。本稿では、国という視点から葛西 重雄 氏にお話を伺いました。

対談者 

葛西 重雄 氏(株式会社トリエス Representative Director) 

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

データは誰のものか、議論を進めなければサイロの壁は越えられない 

河野 葛西さんは厚生労働省のプロジェクトにおける多数のコンサルタント実績をお持ちで、政府の医療 DX にも幅広く関わられています。まずは現在取り組まれている活動についてお聞かせください。 

葛西 職務としては厚生労働省のデータヘルス改革推進本部の参与をしています。いわばアドバイザーですね。健康、医療、介護の三本柱の各分野でデータの分析やシステム設計、セキュリティ対策のアドバイス、専門的な領域で言うと、ゲノム情報を使った創薬分野におけるデータ流通のためのインフラストラクチャー設計に携わっています。 

また株式会社トリエスでは、システムデザインのコンサルタントとして、企業や病院の DX の取り組みを支援しています。 

河野 非常に多岐にわたった業務に取り組まれているのですね。ぜひ、今回の対談のテーマ「Data & AI」について大局的なお話をお聞きできればと思っています。 

私たちマイクロソフトでは、 GPT-4 は医療システムにおける効率性、共感性、生物医学的研究を向上させる可能性があり、診療の現場でも大いに役立つ技術であると考えている一方で、誤答やコンプライアンスといったリスクも抱えていると認識しつつ、リスクを上回る価値を提供することを目指しています。 

まずは医療領域における AI 活用において、葛西さんが感じている課題についてお聞かせいただけますでしょうか? 

葛西 一番大きな課題として感じているのは「サイロ化」ですね。我が国においては、保険は保険関係の法律、医療は医療関係の法律に基づいて情報管理がなされています。当然、それぞれのコミュニティで部分最適された形でデータが保有されることになります。 

このサイロを無くしてすべてのデータを流通させるためには全体を俯瞰して見る必要があるのですが、現在の我が国では医療業界全体を俯瞰した基本法が存在していないため、データの主権者、すなわちデータは誰のものかという規定がなく、宙に浮いている状態といえます。 

今の状態のままでは、データの不平等が生じることになります。データ保有の哲学について、国民・患者を含めた議論もされていないうちに、電子カルテの情報は管理している医師のもの、医薬品の情報は薬局やサプライチェーンに関わる企業のものという通念が横行してしまい、患者は自らの状態を随時知ることができない。しかもそれぞれが個別のやり方で保有しているので繋ぎようがない。 

EUでは、近代化時代にすでにある「自然人(生まれながらに権利能力を認められる個人)」という概念が定着しているので、データの主権は自然人であり、誰もが見る権利を持つという前提で法整備が進められています。我が国においても、まずはこういった問題について議論して、いかにデータを均質化、標準化して流通させる道筋を通せるかが大きな課題だと感じています。 

ベンダーには全体を俯瞰で見て啓蒙する存在になってほしい 

河野 おっしゃる通り、データガバナンスを考えたときにデータオーナーの概念は必須だと思います。今後制度を整えていく必要がある一方で、私たち IT ベンダーが医療業界のデータガバナンス実現に向けて役に立てることはあるでしょうか? 

葛西 今は政府が全てを握って交通整理しようとしていて、結果として民間側は政府に入り込もうとするかそっぽを向くかどちらかになってしまっています。私は、それはよくない状態だと思います。 

そこでポイントとなるのは COE(センターオブエクセレンス)だと思っていて、まず政府側に、中立的かつ分野横断的に考えられる立場で、クラウド時代の運用モデルを適用できる人材が必要です。その人材が COE として権限委譲できるところとそうでないところを捌いていく。そして権限委譲された部分を、官民で連携しながら構築していく。私はこれがあるべきモダンな開発手法だと思っていますので、民間のベンダーさんにもこの構図を理解していただけるとありがたいですね。 

それからもうひとつ、AI 活用の話にもつながる部分でもあるのですが、データの偽悪性、つまり仮想化されたデータの向こうは嘘の世界かもしれないという話が最近はよくなされていて、仮想世界でなにか間違いが起きるとものすごく悪いことのように扱われてしまいがちです。 

ですが、仮想世界であろうが現実世界であろうが、人が関わる以上間違いは起こり得るわけです。たとえば病院で診療を受ける際に紙に書かされた同意書の情報の行方は誰もあまり気にしていません。実はデジタルの方が丁寧にデータをコントロールされている場合もあるわけです。 

ベンダーさんや開発者の皆さんには、この偽悪性と偽善性を冷静に捉えて、啓蒙していく存在であってほしいと思っています。 

河野 私たちがもっと全体を俯瞰して啓蒙していかなければいけないですね。サイロの中にいる人たちに全体像を示すためには、どのような考え方が必要でしょうか? 

葛西 まず、システムというのは体細胞と同じように四六時中変化するものだという理解を広めることだと思います。 

往々にしてシステムはスタティックなものとして誤解されてしまう場合が多く、管理者は変化を嫌う傾向にあります。ですが、IT の世界では朝は最新だったものが夕方には古くなるということは日常茶飯事です。 

ですから私は、自分のシステムデザインが評価されたらそれはレガシー化の黎明だと判断して、新しいデザインを考えるようにしています。全体を俯瞰して把握しようとしていればその考え方に至るのは当然のことで、サイロの中しか見ていない人は一度評価されたシステムデザインに固執してしまう。それは一番よくない考え方だと思います。 

ひとつのサイロでうまくいったから、もしくはそのときはうまくいったからすべてのシステムに展開できるはず、という考え方ではサイロを超えることはできないでしょうね。 

客観的情報の境界線を超えたところに AI の大きな可能性がある 

河野 前提条件や諸元が異なればシステムデザインも変わるという原則がわかっていれば変化にも対応できるのでしょうけれど、意識を変えるのはなかなか難しいのかもしれませんね。では続いて、葛西さんが感じていらっしゃる AI の可能性についてお聞かせいただけますか? 

葛西  昨今は ChatGPT が大きな話題になっていますが、今のところは、皆さん ChatGPT の回答はあくまで客観的情報として捉えていますよね。嘘をついているかもしれないと疑いながらその回答を参考にしている。私が興味深く捉えているのは、ChatGPTなどの生成AI がコードを書きつつあるという点です。 

例えば ChatGPT からある論文の内容についての回答が得られても、一度は疑いますよね。でも自分が書けないコードが示されて、それを入力すれば動作してしまうわけですから、信用してしまう。 

その延長で、AI で薬剤情報の正規化を行った結果、情報が膨大すぎるので、きちんと正規化されたかどうかは人間側にはわからないという状況になってきています。AIからの回答を客観的に捉えられなくなっているという点で、私たちは今、ひとつの境界線に立たされていると思っています。 

そしてこの境界線を超えたところには、もしかしたら医療の大きな変革が待っているかもしれません。例えば、医療の世界には「なぜかあの先生が施術すると成功してしまう」という方がいる。職人技というか、アーティスティックな部分が存在しているのだと思います。でも、私たちが認知し得ない境界を AI が乗り越えたときには、その先生の技術を誰もが再現できるようになるかもしれない。 

そう考えると、ChatGPT の回答が合っているとか間違っているとか、もはやそういった次元の話ではなくなってくるのかもしれません。 

もうひとつ大きな可能性を感じるのは、AI が「アウェイな存在」になり得る点です。医療の世界はプロフェッショナルの集まりなので、学会などで意見がぶつかるシーンは多く見られます。ですから、なにかを決めようとするときには中庸な結論に落ち着く傾向があります。 

その決め方を否定するわけではないのですが、人間はパーフェクトな存在ではなく、感情も持っているという点が問題になってきます。お互いが気を遣って妥協した結果、本当に重要なことを見落としてしまうケースも起こり得るわけです。 

そこで、どの分野にも属さず感情も持たない、アウェイな存在としての AI の存在が重要になってきます。参考意見として AI を使うことで、三脚的なコミュニケーションが成立する。AI は感情を持ちませんから、もし中庸を外れた意見が出てくれば、それを考慮しない理由がありません。そこで新たな気づきを得られるかもしれませんし、人間同士だと抜け漏れてしまうリスクに気づける機会にもなると思います。 

AI は全能ではない。冷静さを持って仮想世界の情報を見ることが大事

河野 一方で、AI を利用するうえではどんなことに気をつけるべきでしょうか? 

葛西 日本という国は、仮想空間という概念に親和性が高い国で、新しいテクノロジーをどんどん取り入れる気風がありますよね。それはよい部分でもあると思いますが、紙一重の危うさも持ち合わせていて、トラディショナルなプロトコールが導き出した結論よりも新しいテクノロジーの結論を信じてしまう傾向がある。 

でも実際は、ChatGPT が答えているのではなくて、その裏側には誰かが書いたコンテンツがあるわけで、その情報が間違っているかもしれない。薄皮一枚バーチャルを通したらすべてを信じてしまうという状態は、特に医療業界では命に関わる危険性があります。 

AIは 全能ではありませんし、人間に置き換えられるものでもありません。そこを理解したうえで、冷静さを持って仮想世界の情報を見る必要があると思います。その反対も然りで、仮想の世界で悪意が示されても、人間は、冷静に判断する力が求められます。 

河野 私たちマイクロソフトでも AI サービスには「Copilot」という表現を使っていて、あくまで主体は人間であり、AI は副操縦士であるという視点からサービスを提供していますので、葛西さんのご意見はよく理解できます。それでは最後に、私たちマイクロソフトに対するご期待をお聞かせください。 

葛西 マイクロソフトさんには、デジタルの社会実装を本気で目指す企業になっていただきたいと思っています。 

我が国にはバックエンド系、インフラストラクチャー系のベンダーが多い傾向があります。フロントエンド系、サービス開発系は圧倒的に少ないですね。つまりフロントエンドエンジニアが圧倒的に少ない。DevOps でいう Ops(運用)ばかりという状態です。ですから、最初に述べたモダン開発の能力が弱くなってしまうわけです。日本の企業にはもう少し Dev(開発)に意識を持っていってほしいと思っています。 

特にマイクロソフトはもともと開発エンジニア会社ですから、GitHub に代表されるような開発コミュニティをもっと活性化していただきたいという期待があります。 

河野 貴重なご意見ありがとうございます。今回の対談で、今まさに進行している事象の背景にある問題がとてもよく理解できました。私たちマイクロソフトとしても、課題をしっかり認識してよりよいご提案につなげていきたいと思います。

本記事の内容は以下のURLからダウンロードできます。
https://aka.ms/Healthcare_AI_in_Japan

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