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オープンデータの活用で社会はもっと豊かに

データを解き放て 組織や人を結び付けるオープンデータの活用で社会はもっと豊かに

東日本大震災を契機とし、オープンデータの活用が大きく前進した。そこでは、スピードこそがオープンデータの真価であることも証明された。所有者がデータを公開しさえすれば、オープンソース ソフトウェアのように次々と活用する手段や新しいビジネスが生まれていく。Microsoft Azure 上に、オープンデータの提供基盤である情報流通連携基盤を構築した東京大学大学院情報学環の越塚教授に話を聞いた。
(アイティメディア エグゼクティブ・エディター 浅井 英二)

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ソーシャル ネットワークとモバイル デバイスの浸透によって今や 24 億人がつながり合うこの世界では、人々の考えや感情が瞬く間に大きなうねりとなって行き交う。次に挙げる数字は、その一例にすぎない。

  • ・Facebook の「いいね」 310 万
  • ・Twitter のつぶやき 34 万 7000
  • ・Instagram のフォト共有 3 万 8000

われわれは、そのボリュームにも目を見張るが、何とこれらの「いいね」や「つぶやき」はわずか 1 分間の出来事だと聞いてさらに驚く。2020 年までには、人口を遥かに上回る 250 億台ものデバイスがつながるとみられている。いわゆる「Internet of Things」 (IoT: モノのインターネット) がデータの爆発をいっそう加速する。

「ビッグデータを活用しようという機運が高まっている背景には、処理能力の向上やストレージ コストの低減もあるが、何といっても IoT などによって膨大なデータが生み出されるようになったことが大きい」と話すのは東京大学大学院情報学環の越塚登教授だ。

越塚教授は、TRON プロジェクトで知られる坂村健東京大学大学院情報学環教授が設立した YRP ユビキタス・ネットワーキング研究所の副所長も務めている。同研究所の設立は 2002 年までさかのぼる。今は「IoT」と呼び名が変わったが、あらゆるモノがつながり、協調動作する「ユビキタス コンピューティング環境」の将来を十数年も前に予見していたのだ。

「個々の企業だけでなく、行政も膨大なデータを持っている。だれでも自由に使え、コンピュータで再利用、再配布できるオープンデータの活用が大きく前進した契機は、2011 年 3 月の東日本大震災だろう。そこでは、スピードこそがオープンデータの真価であることが示された」と越塚氏。

震災直後からホンダやトヨタ自動車がオンライン上のマップなどで利用できる自動車の走行実績データを個別に提供していたが、2 週間後には NPO 法人の ITS Japan がこれらのデータを集約、加工し、走行中のカーナビに通行止め箇所が表示されるようになった。

「東京電力の電気予報も当初はコンピュータで再利用できない図版だったが、わずか 10 日程度でデータ提供が始まると次々とそれを活用するアプリやサービスが開発された」 (越塚氏)

いずれも公共インフラを担う企業や団体によるデータの提供だが、国や地方自治体、あるいは大企業のこれまでのやり方であれば、もっと多くの時間が費やされたに違いない。

「所有者がデータを適切な技術とライセンスで公開すれば、オープンソース ソフトウェアのように次々と活用する手段や新しいビジネスが生まれていく。よく知られた例に、日本中の図書館の蔵書を検索できるカーリルがある。」と越塚氏。

カーリルは、全国の図書館の蔵書リストとその貸し出し状況を簡単に検索できるサービスだ。地名から最寄りの複数の図書館を自動的に選択して横串検索できるだけでなく、Web の書誌データベースも検索するため、蔵書のない本の情報も得ることができるという。Web API を利用して表紙の画像を表示するというサービスのマッシュアップを行っている一方、蔵書の問い合わせや位置情報から最寄りの図書館を調べる API を公開しており、他の開発者によるアプリも生まれている。

同社の蔵書検索サービスは無償で利用できるが、分析データを出版社などに有償で提供している。検索ログや貸し出し状況のデータは、出版社などにとっては価値ある情報となるからだ。

「オープンデータの活用が次のビジネスにつながるなど、すばらしい成功例と言えるだろう」 (越塚氏)

●オープンデータからオープン API へ

「オープンデータ」へのニーズは、アクセスするための「オープン API」へのニーズを必然的に生みだす、と越塚氏はみる。

統計情報のような静的なデータであれば、Web サイトに置かれたファイルをダウンロードしてもいいが、刻々と変化する動的なデータはそうはいかないからだ。さらに、さまざまなデータやサービスを組み合わせ、新たな価値を生み出そうとすれば、オープンな API は欠かせない。

2013 年の夏、坂村氏や越塚氏が中核となって設立した公共交通オープンデータ研究会のプロジェクトでも「オープン API」が重要な役割を果たしている。

同研究会の狙いの 1 つは、鉄道やバスの運行情報、駅や停留所、空港などの施設情報をリアルタイムで提供するためのオープンデータを整備することだ。世界一の正確さを誇る日本の鉄道だが、運行本数が多い都心では事故や障害も多く、遅延がしばしば発生する。バスも道路状況によるため、時刻表とのずれはしばしば生じる。リアルタイムのデータが提供できれば、経済効果は大きく、ロンドン市交通局の場合は 100 億円近くに上ると試算されている。

ただし、日本の鉄道やバスは、ほとんどが民営化されており、東京だけでも鉄道が 14 社局、路線バスは約 40 社局に上る。このため、統合された交通情報を提供するために、走行位置や遅延情報、駅構内の施設情報などを各事業者からオープンデータとして提供してもらい、「情報流通連携基盤」に集約、API によってリアルタイムのデータを検索、配信できるシステムを作り上げた。各事業者の交通データを共通のデータ形式と共通の API に集約することで、さまざまなアプリの開発促進が期待でき、利用者の利便性が高まるだけでなく、事業者にとっても情報サービスの構築コストは軽減できるという。

公共交通オープンデータ研究会でも「ドコシル」や「ココシルターミナル」といったスマホアプリを試験的に公開しているので、オープンデータの恩恵はすぐにも体感できるだろう。特定の列車に対して Twitter アカウントでつぶやきを投稿する機能もあっておもしろい。

また、クラウド サービスの Microsoft Azure のさまざまな機能やサービスを、公共交通オープンデータと組み合わせれば、さらに高い機能をもったアプリが構築できるだろう。たとえば、訪日外国人のスマホに、Azure の機械翻訳サービスによってその所有者が理解できる言語にリアルタイム翻訳された情報が配信できたり、Azure 上で稼働する音声読み上げサービスを組み合わせた交通弱者を支援することができる。2020 年の東京オリンピックを控えたグローバル化や超高齢化に伴う課題に対してもオープンデータが有力な解になることを予感させる。

「地方創生も、国や地方自治体の役所だけではなく、住民みんなで作り上げていくもの。地域のために無償で働いたり、知識を生かしたりする企業や住民をつなぐのは ICT だ。その連携のためのツールが ICT であり、オープンデータがその中心にある。オープンデータを生かせば、地方はもっと豊かになれる。今後、成長から成熟時代を迎える日本には、人や自然の受容力の大きい地方にこそ、その大きな可能性が潜在しているはず。」(越塚氏)

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