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AI Challenge Day – 生成 AI 活用で変わる金融業界の未来【セミナーレポート】

A group of people in a room

動画の視聴はこちらから AI Challenge Day – 生成 AI 活用で変わる金融業界の未来        (パートナー企業9社よりプレゼンをいただきました。公開許可をいただいたプレゼンテーションをご覧いただけます)

2024 年 12 月 18 日(水)、日本マイクロソフトは品川本社にて、生成AIによる金融業界の業務課題解決をテーマにしたセミナー「AI Challenge Day」を開催しました。

セミナーは 2 部構成で行われ、第1部ではマイクロソフトが Copilot Agent を活用した業務効率化や意思決定の高度化について、また株式会社Blue Lab が AI 監査サービス「AiHawk Filter」によるリスク管理の進化など、金融業界の課題解決に寄与する具体的な事例を紹介しました。第 2 部では、パートナー企業 9 社が金融業界の業務課題を生成 AI で解決するソリューションについてプレゼンテーションを行いました。本稿では、当日のセッションの概要を紹介します。

【第 1 部】

1.「Copilot Agentで近づく AI エージェント時代」

A man speaking into a microphone

はじめに、日本マイクロソフト 金融サービス事業本部 銀行・証券本部
AI Transformation Lead の小田 裕也が、AI エージェントがどのように業務効率化や意思決定の高度化を支援し、新たなビジネス価値を創出するかについて発表を行いました。

冒頭、AIモデルが「出力品質の向上」「マルチモーダル対応」「自律的な問題解決能力」の3点で大きく進化している点をOpenAIのモデルを例に紹介し、金融業界では複雑な規制対応やリスク評価、意思決定において強力なツールとして活用されていることを強調しました。

A screenshot of a computer service

生成 AI 活用については、「去年が企業における『生成 AI 元年』でしたが、それと比べると業務特化・領域特化の AI アプリケーションの適用が進んできています」と、より用途を絞った使い方が展開されていることを紹介。その上で、ユーザーのスキルがアウトプットに影響してしまう点が課題だと語りました。

A screenshot of a computer

そこで、人間が仕事をする際の 4 つの能力(考える・調べる・実行する・コミュニケーションする)の中で、生成 AI  が得意とする領域について触れた上で「これまでの IT システム、大規模言語モデルができたことを踏まえたとき、何をすべきかを自律的行動として考えさせ、情報源と実行する手段を武器として与えてあげれば、人間を模した構造体を作ることができます。それによってある程度、複雑なビジネスロジックを自動化できるのではないか、つまり人間の仕事を代替できるのではないかというのが AI エージェントの考え方です」(小田)

A man standing in front of a screen

AIチャットとAIエージェントの大きな違いは、目標達成の主体性にあると続けます。「AIチャットは指示を待つ受動的な存在であるのに対し、AIエージェントはユーザーの目標達成まで能動的にサポートする存在です。つまり、AIエージェントが主導的に目標達成に必要な段取りを考え、実行していきます。AIエージェントを実装することで、ユーザーは複雑な指示を出したり煩雑な作業を実施したりする必要がなく、目標を伝えるだけでその達成をサポートしてもらうことができます」

(小田)

A screenshot of a computer service

マイクロソフトは、エージェントの構築と導入を支援するために多様なテクノロジーやサービスを提供しています。そのひとつである「Azure AI Agent Service」は、金融機関のような厳格なセキュリティやガバナンス要件が求められる現場でも、高度にカスタマイズされたエージェントの構築が可能です。クラウド基盤上で提供されるため、エンタープライズレベルのセキュリティを標準機能として搭載している点が特徴です。

A screenshot of a computer

一方「Copilot Agent」は、エンジニアリングの専門知識を必要とせず、自然言語で構築が可能です。エージェントの目的や役割、参照データ、実行アクションを指定するだけで、組織内への迅速な展開が可能です。小田は実際の画面を表示しながら、「自然言語でエージェントにどんな動きをしてほしいか、どんなルールに従うべきかなどを設定し、参照データや Web ブラウジングの利用可否などをセットすれば、そこから先は自動的に実行してくれます。それを Microsoft 365 の中で権限制御できるセキュアな状態にして提供しているのがCopilot Agentの大きな特徴です」と説明しました。

最後に小田は、「個別の業務に適用するエージェントを数多く作成する必要がある場合、IT部門だけでなく現場でも作成できる手段として Copilot Agent を活用いただけると導入がスムーズです。より高度なチューニングが必要な場合は、IT部門と連携して Azure AI Agent  Service を使用することで、あらゆるニーズに対応できます」とセッションを締めくくりました。

2.金融業界の監査業務を変革する「AiHawk Filter」

A man speaking into a microphone

  

続いて、株式会社Blue Lab の吉野 大輝氏が登壇し、Azureを用いた同社の AI 監査サービス「AiHawk Filter」の紹介を行いました。吉野氏は金融機関における監査の重要性が増していることを強調した上で、AiHawk Filter の特長について次のように説明しました。「メール、チャット、面談記録、業務日報ファイルなど、膨大な監査データを自動的にチェックし、人による詳細確認が必要なデータを可視化するツールです。これにより、監査業務の効率化と大規模監査の実現だけでなく、担当者のエンゲージメントも向上させることができます」   

  
AiHawk Filterは、データファイルをアップロードするだけで自動監査を実施し、結果をCSV形式で確認できるようになります。また、問題の有無だけでなく具体的な問題箇所を特定し、判定結果を数値やスコアなど任意の形式で設定できる機能を備えています。  

  

A man standing at a podium speaking into a microphone

  

続けて、みずほフィナンシャルグループの田中氏が AiHawk Filterの実証実験の内容について紹介しました。削減率、再現率、業務効率化、ユーザーヒアリングの4項目で検証を実施し、「対象データの削減率は97%、不正の疑いのあるメールの検出率は96%を達成しました。これにより、業務時間を 65%削減できました。さらに、ユーザーからは高い評価を得ており、新たな活用方法についての提案もいただいています」と説明しました。   

A man standing at a podium speaking into a microphone

  

最後に、今後の展望について吉野氏が「主にみずほグループのみずほ銀行、みずほ証券との実証実験を通じて、業務領域の拡大に注力する予定です。具体的には、チャットやPDF、PowerPointなどの多様なファイル形式での監査実証実験を予定しています。来年度はみずほ銀行の本番利用も予定しており、みずほDXサイトにも特集が掲載されています。ます。金融機関さまへの提供は2025年から順次開始する予定です」と述べ、セッションを締めくくりました。  

 
みずほDXサイト:https://www.mizuho-fg.co.jp/dx/articles/aihawk-filter/index.html 

【第 2 部】パートナー企業 9 社によるプレゼンテーション

A man standing in front of a large screen

第 2 部の冒頭、日本マイクロソフト 執行役員常務 金融サービス事業本部長の荒濤が次のように挨拶をしました。「この 1 年間、数多くの金融機関の皆様とディスカッションをさせていただきました。金融業界のみなさまは生成 AI への関心がとても高く、他の業態と比較しても一歩進んでいる印象です。すでにインターナル AI ボットで利活用されている方も多いかと思いますが、いよいよ『お客様と AI を対峙させる』『業務に特化した AI を実装していく』ステージに変化してきていると感じます。今日は、まさにそういった業務特化型の具体的なシナリオについて、パートナー 9 社のみなさまが真剣に考えたユースケースを発表していただきます。本当の利活用に繋がっていくディスカッションができることを期待しています」(荒濤)。

A group of men standing in front of a screen

続いて、日本マイクロソフトの業務執行役員 金融サービス事業本部 銀行・証券本部長の金子と業務執行役員 パートナー事業本部 パートナー技術統括本部長の内藤から、今回の AI Challenge Day の試みについて概要を紹介しました。

「4つのテーマ(ウェルスアドバイザーGRAPH RAG・監査や業務効率化・詐欺検出)に沿って、各パートナー様のノウハウを活かし、チャレンジをしていただこうという企画です。今回はAI活用のトップランナー 9 社にお集まりいただき、業界特有のテーマに関してプレゼンをしていただきます。おそらく、日本初のイベントです。各パートナー企業様は 3 週間をかけて、アーキテクチャの設計も含め検討いただいた結果を、この場で提案していただきます」(内藤)。

「4つのテーマは、シアトル本社のワールドワイドファイナンシャルサービスチームが『ジェネレーティブ AI を金融機関で使う時に有用なのではないか』というシナリオの中の 4 つをピックアップしました。パートナー各社から 15 分のプレゼンテーションの後、5 分の Q&A のお時間も設けさせていただいております。ぜひみなさんとディスカッションできればと考えておりますので、よろしくお願いいたします」(金子)。

A screenshot of a video game

その後、パートナー企業 9 社が登壇。選択した4 つのテーマに沿って、最新の AI ソリューションや金融業界での活用事例を発表し、プレゼンテーション後の質疑応答では、参加者と発表者で活発な議論も交わされました。

【テーマと発表企業】

<ウェルスアドバイザー AI アシスタント>

1.株式会社日立製作所

2. 日本アイ・ビー・エム株式会社

<GRAPH RAG を活用した金融業務の高度化>

3. 株式会社インテック

<監査や業務効率化観点での生成 AI 活用>

4. 株式会社ブレインパッド

5. 株式会社LayerX

6. 日本ビジネスシステムズ株式会社/株式会社ネクストスケープ

7. 株式会社PKSHA Technology

<詐欺や不正検出における生成 AI 活用>

8. 株式会社ACES

9. アビームコンサルティング株式会社

1. 株式会社日立製作所(テーマ: ウェルスアドバイザー)

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最初の発表者として登場した株式会社日立製作所は、富裕層向け資産運用支援を AI アシスタントで自動提案するソリューションを紹介しました。顧客のライフスタイルやリスク許容度を解析し、最適な投資プランを提案できる点が特徴です。従来、フィナンシャルアドバイザーはデータ分析や報告書作成に多くの時間を費やしてきましたが、この AI アシスタントにより業務の大幅な効率化を実現できます。また、質問の意図が不明確な場合は「聞き返し」や「わからない」と応答するよう開発されており、AI の誤った回答(ハルシネーション)も抑制できると説明しました。

2. 日本アイ・ビー・エム株式会社(テーマ: ウェルスアドバイザー)

A man standing in front of a screen

日本アイ・ビー・エム株式会社は、金融機関がコア業務に集中するための業務効率化をテーマにプレゼンテーションを行いました。発表されたソリューションは、Azure AI を活用し、見込み顧客に対し交渉内容や記録資料のドラフトを作成。ベテラン行員のノウハウを蓄積し、横展開できる仕組みを整えます。この取り組みにより、金融機関のプロセス全体を見直すことができ、新しいビジネスモデルを構築する道筋を示しました。

3. 株式会社インテック(テーマ: GRAPH RAG)

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株式会社インテックは、金融機関向けの CRM ソリューション「fcube(エフキューブ)」を拡張し、生産性向上に貢献する取り組みを発表。Microsoft 365 との連携により営業活動の効率化を図ります。具体的には、生成 AI を活用した顧客データの統合と次のアクションを提案する機能を強調。このシステムでは、GRAPH RAG の技術により、複合的な情報を関連付け、質の高い回答を提供できる仕組みを構築。営業チームの意思決定をサポートするうえで重要なツールとなる点を紹介しました。

4. 株式会社ブレインパッド(テーマ:監査や業務効率化)

A group of people in a room with a projector screen

株式会社ブレインパッドは、金融業界におけるコンテンツ作成と審査プロセスの効率化を補佐する校閲・生成エージェントを提案しました。法令やコンプライアンスといった審査観点をチェックするエージェントにより、審査に要する時間の大幅な短縮を可能にします。また、チェックエージェントによるフィードバックを反映したコンテンツ生成エージェントによって、マーケティング文章の作成効率が飛躍的に向上します。プレゼンでは、マーケティングにおけるキャンペーン施策を想定し、デモンストレーションを披露。景品表示法に適合した内容になっているか、といった複数の項目を審査した結果が紹介されました。また、審査基準を満たしていない場合にエージェントが生成するフィードバックの内容や、エージェントによるコンテンツ作成の様子も見ることができました。   

5. 株式会社LayerX(テーマ:監査や業務効率化)

A man standing in front of a podium

株式会社LayerX は、LLM 活用のためのプラットフォーム「Ai Workforce」を活用し、企業内に蓄積されたドキュメントの効率的な管理・活用を紹介しました。このプラットフォームは、非構造化データを構造化し、ドキュメント検索やデータ抽出を簡素化します。また、大手金融機関での導入事例が紹介され、実際に現場での業務削減効果が出ていることを強調。さらに、Ai Workforce はカスタマイズ性が高く、特定の業務プロセスやドキュメント形式に応じた最適化も可能であると説明しました。

6. 日本ビジネスシステムズ株式会社/株式会社ネクストスケープ
(テーマ: 監査や業務効率化)

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日本ビジネスシステムズ株式会社と株式会社ネクストスケープは合同でプレゼンテーションを実施。金融機関の融資業務における課題解決のため、AIを活用した新しいソリューションを発表しました。本ソリューションは、申込書類の記載不備を自動検出する機能、審査に必要な書類の自動抽出による業務効率化機能、そして将来の分析活用を可能にする構造化データの抽出・蓄積機能を提供します。 具体的な活用例として、フォーマットの異なる創業計画書を同一フォーマットに自動変換できます。また、書類の記載不備チェックも自動化され、確認作業の工数を大幅に削減できます。

7. 株式会社PKSHA Technology(テーマ:監査や業務効率化)

A man standing at a podium speaking into a microphone

株式会社PKSHA Technology は、金融セールスパーソンの AI 化についての発表を行いまいした。AI を活用したナレッジ管理やデジタルヒューマンの導入により、営業活動の効率化を目指している。特に、営業資料作成の自動化や AI ヘルプデスクの導入により、日常業務の負担を軽減しつつ、高い成果を上げている点を強調。さらに、顧客との会話内容に応じて適切な表情や振る舞いを表示できるデジタルヒューマンを活用し、AIによる効果的なセールス活動を実現できることを紹介しました。

8. 株式会社ACES(テーマ:詐欺検知)

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株式会社ACES は、リスクコンプライアンス領域における AI 活用について発表しました。同社のソリューションは、金融機関が直面する複雑なリスク管理課題に対応するため、違反検知システムや顧客面談モニタリングを提供しています。高度化していく詐欺・不正検出に対するアラート検知に課題があるなか、AI を活用することで高度な検出を実現。プレゼンの中では「リアルタイムの会話内容を認識・処理した上で、生成A Iがその内容がコンプライアンスに反していないかの判断」や、「不審な振込を検知したAIが口座所有者に電話確認を行い、結果により口座凍結までを実行するまでの流れ」をデモンストレーションとして披露。これにより、金融機関は顧客行動の透明性を向上させると同時に、法規制遵守を確保することが可能になると説明しました。

9. アビームコンサルティング株式会社(テーマ:詐欺検知)

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アビームコンサルティング株式会社は、AIエージェントを活用した新しい詐欺被害対策システムについて発表しました。全世界的に詐欺による被害総額が増加傾向にある中、従来の対策では後手に回りがちな課題に対し、革新的なアプローチを提案します。具体的には、犯罪者の思考を上回り先手を打つ「犯罪者エージェント」と「銀行エージェント」の双方を構築することで、潜在的な不正シナリオを事前に予測・対策する仕組みを提言。さらに、高度なセキュリティ対策やAzureを活用したシステム構成の詳細、業界全体での協力体制の構築まで含めた包括的な提案を行いました。 

総括として

A man speaking into a microphone

最後に、日本マイクロソフトの荒濤から、マイクロソフトが先日発表した新しいテクノロジーを各社が独自の強みと融合させ、実用的なソリューションとして提案したことを高く評価したうえで、総評を述べました。「各社のソリューションが実務レベルで活用できる段階まで進化していることを大変心強く感じています。さらに、生成AIの活用が幅広く浸透してきており、専門的な知識がなくても、全ての行員が日常業務で効果的に活用できるソリューションへと発展してきている印象です。今後は、これらのソリューションを金融機関の実務に積極的に導入することで、真のAIによる業務変革を実現していただきたいと考えています」

と述べ、セミナーを締めくくりました。