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人口減少に対して教育がどのような役割を担うか~ ICT を武器に挑む、「消滅可能性都市」からの脱却 – 石川県加賀市

写真: 加賀市

石川県加賀市は県の最南端に位置し、城下町の風情や温泉の恵み、伝統工芸といった歴史ある町という顔を持つ一方で、日本で初めて市内の全小中学校にプログラミング教育を取り入れるという先進的な ICT 教育を推進している自治体でもある。

近年、人口減少問題はさまざまな地方自治体において「待ったなし」の共通課題だ。これを打開するため、加賀市では「市の活力向上のためには人材育成に投資すべき」という加賀市長の信念のもと、「加賀市人口減少対策アクションプラン」を策定し、2014 年から 5 年の期間をかけて人口減少対策に取り組んでいる。計画の最終年度となる 2019 年、加賀市長の宮元 陸氏に取り組みの重要性とビジョンについて話を聞いた。

地域創生のためには、教育と人材育成が最も大事

「加賀市は 5 年ほど前に「消滅可能性都市」にリストアップされ、私はより一層危機感を覚えました」と宮元氏は振り返る。当時の加賀市は、観光客数は最盛期の半分以下に減少し、人口の流出と少子化に伴う人口減少が進んでいた。そのような中、地域創生を目的とした「人材育成」に施策のかじを切ったのが宮元氏である。

「今から人材育成にとりかからなければ、加賀市もそうですが国が衰退する一方です。これは一刻も早くなんとかしなくてはならない」(宮元氏)。

この時期は、各所で IT 人材の不足が懸念されるようになった時期と重なる。正解のない予測困難な未来社会を切り拓き、よりよい社会の創り手となるためには、今の子どもたちがコンピューターやテクノロジーに関する知識を身につける必要がある。

「これからは、コンピューターと英語教育は必須です。でないと生き残れないと言っても過言ではないでしょう。それがベースにあって、STEAM 教育の実践につながると考えます」と宮元氏は説明する。

一方で、地方自治体には、教育にお金をかけても都市部に出て行ってしまうのではないかという声も根強い。宮元氏はそれでも投資をすべきとの信念を貫き、人材育成を公約に掲げている。

「大都市に人口が流出する、という事象は今に始まったことではありません。しかし、逆の発想として、こういった素晴らしい教育を受けられる自治体になら移住したい、こういうところで子どもを育てたいと考える方も増えてきます。

一度都市部に出て行っても、地元に魅力や価値があれば、帰ってくる方も増えてくるでしょう。魅力ある街づくり、という意味では、橋や道路をつくることも大事かもしれませんが、教育という「目に見えない価値」こそが最も大きな柱であり、結果的に地方創生につながると考えています」(宮元氏)。

始まりはロボットから ~とにかく進めることの大切さ

加賀市では、全小中学校へのプログラミング教育導入の前に、ロボットを使ったアメリカ発信の教育プログラムである「ロボレーブ」を取り入れた課外活動の実施に着手した。

2014 年 11 月には日本で初めて市内児童を対象としたロボレーブ加賀大会を開催。翌年の 2015 年に「ロボレーブ国際大会」を加賀市で開催して以来、毎年加賀市を会場に国際大会が開かれている。

「最初は子どもたちがロボットに触れてみるとおもしろいだろうな、というくらいに考えていました」と宮元氏は当時を振り返る。そして、実際に開催し目を見張ることになる。

「参加している子どもたちが、それは熱心に楽しそうに、好奇心と創造性を発揮している表情を目にして、これは、と確信しました」

ロボレーブの活動では、子どもたちが目を輝かせて取り組んでいる様子を見ることができ、今教育に求められている「主体的・対話的で深い学び」の実現を体感できたと宮元氏は回想する。子どもたち自身が学ぶことに興味や関心を持って積極的に取り組み、また、子どもたちが共に課題に取り組むことによって、個人の知識だけでなくコミュニケーションや役割分担など基本的な社会性、人間力を磨ける場にもなる。

そしてその 2 年後、2017 年には日本初となる、市内全小中学校でのプログラミング教育導入を実施した。2020 年度には「ロボレーブ世界大会」の開催を予定している。

「はじめは ICT 教育について確信はなかったかもしれません。それでもやってみたことが小さな成功体験を生み、今につながっています」と宮元氏は実践の大切さを強調する。今では子どもたちが共同学習に取り組み、ICT を活用した新しい学習の姿勢を身に着け始めているのを、加賀市は実感している。

テクノロジー活用の人材育成は日本初の事例にも挑戦

プログラミング教育の導入に本腰を入れた加賀市は、市内の全小中学校でプログラミング授業を開始する。小学校 4 年生~中学校 2 年生では「総合的な学習の時間」で、中学校 3 年生「技術・家庭科」でプログラミング教育の充実を図った。そのほか各教科 (算数・数学、理科 など) でもプログラミング教育を実施し、STEAM 教育への第一歩を踏み出した。

さらに、クラブ活動や放課後でのロボット (ロボレーブ) の活用や地域 ICT クラブの開催、市内全小学校区で、夏季休業中に Raspberry Pi (ラズベリーパイ) 教室を開催している。このラズベリーパイ教室は、プログラミングに慣れ親しむ機会と、専門的に学ぶきっかけとなることを目的としており、自分が使ったラズベリーパイ本体をはじめ、周辺機器も参加児童に無料で配布している。

2018 年 10 月には全国で先進的なプログラミング教育に取り組む「NPO 法人みんなのコード」と連携協定を締結し、この協定の一環として、すべての子どもたちがいつでも安全にテクノロジーに触れ、学べる場所として「コンピュータクラブハウス」の開設を決定した。

「コンピュータクラブハウス」は、1993 年、アメリカを発祥の地に、若者がコンピューターやテクノロジーに向き合う動機ときっかけを提供する場所として発足し、今では世界中にそのネットワークが広がり約 100 か所で運営されている。加賀市の立ち上げは日本初の事例だ。

このような環境は学校教育の場面のみならず、学校から帰った後の家庭環境などに影響されることなく、どの子どもにとっても同じべきであるとの考え方から、Raspberry Pi 教室やコンピュータ クラブハウスを通じて、すべての子どもたちに平等にプログラミングを学ぶ場所を設けている。

同市の取り組みは海外交流にまでおよぶ。国際社会において主体的に行動できる人材へと成長することを目的とし、シンガポール科学技術中学校 (SST) との国際交流を実施。

市内小中学校の児童生徒と国外の児童生徒との交流機会を用意した。生徒複数名と引率者を派遣し、ICT 機器を用いた授業を英語で受けるなど、国際教育交流を通じて国際感覚の醸成や異文化理解を促進している。

教育だけでなく、行政全体の ICT 化も推進

ICT 活用は指導者の育成も欠かせない。同市は ICT 教育に堪能な教師を 10 名選抜し、「プログラミング教育中核教員養成事業」を実施している。算数・数学、理科などの教科内での取り組みについて研究し、実践内容を各学校の教職員に共有、指導をおこなう。教員の働き方改革も急務であるとし、本来の教育以外の事務処理などにかかる負荷が大きすぎる状況を改善するため、積極的な ICT 活用による課題解決に取り組むとしている。

また、文部科学省の「整備方針」に沿って、学習用タブレットの配置を推進。子どもたち自身がツールとしてタブレットを活用できるようになった。教育分野だけでなく、行政においても ICT による業務改革に乗り出している。

人材の減少に伴って業務負荷が増加し、業務効率化が喫緊の課題であった加賀市は、RPA に注目した。全庁的な推進体制を整え、一部の集計業務や事務作業を RPA で自動化し、最大で 74% の工数削減に成功することになる。次のステップでは、AI などを HP に活用した市役所の問い合わせシステムの導入を検討している。また、市議会議員全員にタブレットを支給し、ペーパーレス化を推進している。

さらに、日本の行政の中では初めての「ブロックチェーン都市宣言」を発表し、ブロックチェーンと ICT を活用した地方創生に挑む。まずは市民向けの個人確認認証基盤とポータルサイトの構築からとりかかり、行政サービスの向上を目指す。新進の取り組みは今後多くの注目を集め、多くの自治体が後を追うことになるだろう。

今後の展望、加賀市が目指すもの

日本初のプログラミング教育全体導入、日本初のロボレーブ国際大会開催、日本初のコンピュータクラブハウス開設、日本初のブロックチェーン都市宣言と、加賀市の先進的な取り組みと、それらを決断し実行するスピードには、生き残りをかけた「本気度」をうかがい知ることができる。

しかし、教育の成果はすぐにはでない。5 年、10 年とかけて取り組む覚悟が必要だと、宮元氏は語る。加賀市は 2014 年のプラン策定から 5 年で、教育予算 (ハード面への投資を除く) を約 2 倍まで拡大した。

「今後も、ICT 環境を整備しながら、情報活用能力の育成の中核として推進していきます。地域と学校が一体となったプログラミング教育の視点では、スタートラインに立ったばかりですが、注力の手は緩めません。成功するためには、首長としての私の覚悟とリーダーシップ、そして市職員の団結がますます必要です。」と宮元氏はその決意を語った。

「消滅可能性都市」から脱却し、「挑戦可能性都市」を目指してさらにまい進していくとする加賀市の取り組みは続いていく。

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