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「脱・自前主義」でたどり着いた役所のAI サービス – 株式会社三菱総合研究所

写真: 都市

役所の窓口における長い待ち行列や、適切な窓口を探す苦労は、住民の不満としてしばしば挙げられます。一方、役所も業務の多様化や人手不足による多忙化で頭を悩ませているのも事実です。昨今ではスマートフォンや SNS の普及によって、役所との接触方法や、夜間・祝日の問い合わせなど、住民のニーズも多様化しています。

株式会社三菱総合研究所 (以下 MRI) は、多くの自治体が持つこのような課題の解決に向けて、2016 年度から AI を活用したサービスの開発に着手。2018 年 2 月~ 3 月にかけて、全国 35 自治体の協力を得て行った実証実験結果を踏まえ、2018 年 10 月からチャットボットによる住民問い合わせ対応サービスの提供を開始しました。

「問い合わせ対応が仕事の過半を占める」現実

写真: 株式会社三菱総合研究所 社会ICTイノベーション本部 主席研究員 村上 文洋 氏

株式会社三菱総合研究所 社会ICTイノベーション本部 主席研究員 村上 文洋 氏

日本の人口減少は行政機関にも、財政のひっ迫や労働力不足などの影響を及ぼしています。法制度も複雑化し、役所の業務量は増加の一途をたどる一方。財団法人東京市町村自治調査会が、東京都狛江市の健康支援課を対象に行った、自治体職員の一日の業務内容と時間に関する調査では、電話や窓口での住民からの相談や問い合わせ対応が業務時間の過半を占めるという結果が出ました。

このような社会的状況から、これからの地域・自治体を維持していくためには、

  1. 自助・共助・公助のバランスを再構築して、行政への依存度を下げる。
  2. 行政サービスのデジタル化を進め、業務の効率化を進める。

この 2 つの施策が必要だと MRI 村上氏は説明します。

業務効率化の課題解決に向けて、MRI は日本ビジネスシステムズ株式会社 (以下 JBS) と共に、AI による住民問い合わせ対応サービス「AI スタッフ総合案内サービス」の共同開発に着手。

2018 年 2 月~ 3 月にかけて、全国 35 自治体の協力を得て実証実験を実施し、そこで得られた知見・経験を踏まえて 2018 年 10 月からサービスの提供を開始しました。

図: 行政業務の分析例: 狛江市における健康支援課の勤務状況 (延べ勤務時間の割合)

「知らなければ検索もされない」~ チャットボットを採用した理由

人工知能 (AI) を活用した対話エンジンにより、スマートフォンなどから利用できる住民対話型問い合わせ対応サービスの開発に着手した MRI の村上氏は、チャット形式のサービス開発についてこのように語ります。

村上氏: いまや行政の情報提供も「スマホ対応」が求められるようになりましたが、多くの自治体では対応が追い付かない状況です。スマホ対応は Web サイトの「スマホ版」を作ればいいだけではありません。たとえば、住民が知りたいことや調べたいことをインターネット検索する際にも、そもそも何と検索したらいいかが分からないこともあります。チャットであれば「子育てで悩んでいるんだよね」と、友人と会話をするような流れでやりとりする中で、必要な情報にたどり着くことができます。

特に給付金や税額控除などは、存在を知らなければ検索されることもありません。自治体は、よりよい暮らしを住民へ提供するためにさまざまな支援や福祉の充実に取り組んでいますが、情報が伝わらないために住民が行政サービスを十分に利用できないという事態が起こります。対話形式を通じて必要な情報まで誘導できるチャットボットは、このジレンマを解消します。

脱・自前主義のメリット

「AI スタッフ総合案内サービス」の特徴は、機能や内容を標準化し、自治体間で共同利用できる点です。これにより、職員の負担を極力増やさず安価にサービスを提供し、かつ多くの自治体に使われるほどに AI の学習効果が高まり回答の精度が上がるのです。

村上氏: これまでの行政機関は、独自主義・自前主義の傾向がありました。しかしこれからは、限られた予算や人材で行政サービスの維持・向上を図る必要があります。そのためには、独自主義・自前主義をやめて、複数の自治体でサービスを共同利用する形に変えていく必要があります。この取り組みは、結果的に業務や情報の標準化にもつながります。

日本ビジネスシステムズ (JBS) は主にシステムの構築・運用を担当。本サービスは大規模アクセスにも対応できるよう、パブリッククラウドである Microsoft Azure を基盤として全面採用しました。高い拡張性と開発生産性、セキュリティを担保する。AI 機能の一部でも Azure Cognitive Service の API を利用しています。

2 段階の実証実験で改善を繰り返し、サービスイン

図: AI スタッフ総合案内サービスのイメージ

MRI では、川崎市、掛川市 (静岡県) の 2 市の協力を得て 2016 年 9 月に行った「AI スタッフ子育て版」の実証実験の結果を踏まえ、2018 年 2 月からは、回答可能な分野を子育てだけでなく住民からの問い合わせ全般に拡大したサービスを JBS の協力を得て開発し、35 自治体の協力を得て、再度、実証実験を行いました。回答可能な分野は、妊娠・出産や子育て、結婚、引っ越し、住民票・印鑑登録、防災、防犯など 26 分野で、実証実験後はさらに分野を拡大し、2018 年 10 月の本格サービス開始時には 31 分野に対応しています。今後、さらに拡充していく予定です。

実証実験での利用者の約 9 割がサービスの継続を希望し、行政職員からも同様に高い評価を得ています。

実証実験で得られた自治体からの要望や、サービス提供のノウハウ、質問ログなどを活用してサービスのさらなる改善を行い、2018 年 10 月から本格サービスを開始しました。

ニーズの大きかったトークアプリ対応についても、相模原市などの協力を得て、2019 年 2 – 3 月に実証実験を行い、2019 年 4 月から本格サービスを開始。トークアプリの “友だち” に登録することで、普段使い慣れたトークアプリから自治体へ問い合わせができるようになり、サービスがより身近なものになったのです。

24 時間 365 日気軽にアクセスできる利便性と、簡単に必要な情報を得られるという利点は、住民が待ち望んだものでした。

職員にとっては簡易な問い合わせ対応時間が減り、個別に対応すべき問い合わせに時間を割くことができます。自治体にとっては、データ化・分析を通じて住民ニーズを知り、サービス向上や業務改革に活かせるという利点があり、当サービスは住民、行政双方にとってメリットの多いものとなりました。

続々と増加する加入自治体と、今後の展望

自治体の利用料金 (消費税抜き) は初期費用 100 万円、月額利用料 10 万円から (2019 年 2 月現在。自治体規模により異なる)。共同利用のクラウド型のため、個別開発に比べてコストが抑えられるだけでなく、標準版の質問と回答を用意することで、 利用する自治体の準備や運用の負担を減らせます。また、無料お試しサービスも提供しており、2019 年 3 月末現在、全国 12 自治体が同サービスを利用して本格導入への検討を進めているとのこと。

行政サービスのデジタル化によって、住民からの問い合わせ内容はデータで蓄積され、サービスの向上に役立てられるようになります。多くの自治体が利用することで、より多くのデータを収集し、行政サービスの改善度合いはさらに進むことが期待されています。

今後は電子申請サービスや電子マネーと連携させることも考えていると村上氏は展望を語ります。たとえば、市民用テニスコートの空きを確認し、その場で申し込みと料金の払い込みができれば、利便性は高まります。
また行政は自前主義から脱却すべきという村上氏。

村上氏: 多くの人にとって、日常的に役所の Web サイトを見る機会はそれほど多くはないと思います。また、必ずしも使い勝手のいい Web サイトばかりではありません。役所の Web サイトを直接見に行くのではなく、普段からよく利用している民間のアプリやサービス (例えば家計簿アプリなど) に、自分が必要としている行政サービスに関する情報が掲載されていれば、必要な情報に気づき、調べることができます。

役所はどうしても自前で何でも作る傾向がありますが、これからは既存の民間サービスを活用して、民間サービス経由で情報発信やサービス提供を行うように、考え方を変える必要があると思います。AI スタッフ総合案内サービスも、そのような考え方で開発しました。

図: 自前主義からの脱却

行政分野での AI 活用は、チャットボットによる問い合わせ対応に限りません。増加する外国人居住者や観光客に向けた自動翻訳サービス、犯罪や災害などの予測と予防、道路や交通、上下水道など社会インフラの状況把握や補修計画など、可能性は多岐にわたり、注目が高まり続けています。

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