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業界

デジタルの力で人に優しい社会をつくる。金沢市の市民目線に寄り添うデジタル化戦略とは?

2020 年 12 月に政府によって策定された「自治体 DX 推進計画」には「情報システムの標準化・共通化」「行政手続きのオンライン化」など、デジタル社会の構築に向けて自治体が取り組むべき内容が具体的に記されており、自治体はこれを指針としてDX (デジタル トランスフォーメーション) を進めていくことになっています。

この政府の計画を受けて、石川県金沢市では独自に「金沢市デジタル戦略」を策定。2021 年 4 月から2023 年 3 月の 2 年間で重点的にDX を推進する方針を打ち出しました。マイクロソフトとのコラボレーションにより実現した「デジタル行政推進リーダー育成研修」を中心に、金沢市が取り組んでいるのが「人に優しいデジタル化戦略」です。

「誰ひとり取り残さないデジタル戦略都市・金沢」を掲げ、IT 人材育成に取り組む

石川県の県庁所在地である金沢市は人口約 46 万人(2021 年 12 月時点)。2015 年の北陸新幹線の開通によって首都圏からのアクセスも向上し、不動産会社などが実施する人気移住先ランキングでも上位に位置することの多い、北陸を代表する中核市です。歴史的に戦渦や天災の影響が少なく、加賀百万石の街並みや伝統文化を今に残す歴史都市であり、四季折々の景観や海の幸を楽しめる観光都市としても広く知られています。

金沢市で DX の機運が高まったのは、2020 年 12 月に政府が策定した「自治体 DX 推進計画」がきっかけでした。金沢市ではこれを受けて「金沢市デジタル戦略」を策定。「誰ひとり取り残さないデジタル戦略都市・金沢」を基本理念に掲げて DX 推進を加速することになりました。

同戦略の策定に先立って職員にアンケートを取ったところ、87% の職員が「DX の必要性を感じる」という意見を持っていた一方、自分自身が直接取り組むかという問いに対しては「気持ちはあるが現状難しい」との回答が半数を占めました。 その理由に「IT に関する知識がないこと」を挙げる職員が多かったことから、DX 推進の司令塔兼調整役として設置された「デジタル行政戦略課」による、デジタル人材の確保と育成に向けた取り組みが始まったのです。

デジタル行政戦略課で検討を重ねた結果、金沢市では全職員が基礎的な知識を身につけられる「全庁職員向けデジタル研修」と、より高度な知識や技術の習得を目的とした「デジタル行政推進リーダー育成研修」との二段構えの育成システムを採用することになりました。

「全庁職員向けデジタル研修」では、2 年間をかけて一部の専門職を除いた全職員を対象とした研修を行い、IT に関する知識や技術力のボトムアップを図るとともに、一部の職員には「デジタル行政推進リーダー育成研修」へのステップアップの道も示されています。この「デジタル行政推進リーダー育成研修」は金沢市が大きな期待を込める取り組みであり、意欲ある職員を DX 推進の中心となるリーダーとして育成し、ゆくゆくは DX の導入を牽引する存在に成長してもらうことを目的としています。

総務局 デジタル行政戦略課 課長の佐野宏昭氏によると、この育成システムは全職員がおしなべてデジタルを学ぶ、全国でもあまり類を見ない試みであるとともに「公務員という職業がら前例踏襲の意識が強く、DX の意義を見出しにくい職員も多いため、まずは DX 推進の意識を高く持ったリーダーを育てて、彼らが学んだことを元に各部局に意識を浸透させていく」狙いも込められているといいます。

総務局 デジタル行政戦略課 課長 佐野 宏昭 氏

総務局 デジタル行政戦略課 課長
佐野 宏昭 氏

20 名の人材が切磋琢磨して学んだ半年間で、市長も驚く成果が

研修プログラムを組むにあたり、運営事務を担うことになった総務局 デジタル行政戦略課 主事の住田凌氏は研修内容を模索。2020 年 11 月に包括連携協定を締結した日本マイクロソフト株式会社と地元 IT 企業である株式会社システムサポートのアドバイスを受けながらメニューを考案していきました。

デジタル行政推進リーダー育成研修は、自薦他薦問わず各部局からエ ントリーした 20 名の人材が、半年間に渡って週 1 回程度の研修を受講します。マイクロソフトからのデバイス (Microsoft Surface) の貸与から始まり、成長マインドセットに関する講義、政府が提供する行政 DX オンライン講座、有識者セミナーなどの受講や「Microsoft 365」のトレーニング、「Microsoft Power Platform」のハンズオンおよび自主学習、そしてグループ単位での課題設定から、解決するためのアプリ制作まで、そのメニューは多岐にわたりました。

総務局 デジタル行政戦略課 主事 住田 凌 氏

総務局 デジタル行政戦略課 主事
住田 凌 氏

ポイントは、この研修がデジタル ツールの習得や知識の獲得だけでなく、市民目線での課題発見や解決に向けた「サービス デザイン思考」を身につけることに主眼を置いたプログラムとして構築された点にあります。デジタル行政推進リーダー育成研修に参加した環境局 施設管理課 主任の久保登志也氏は、「ペルソナの作成や関係者へのヒアリングなどを通して、行政が考えたサービスが本当に市民にとって有益なのか? といった視点から解決策を導く手法は斬新で、とても勉強になりました」と研修で得た学びについて語ります。またアプリ開発で使った Power Platform についても「ノーコード、ローコードでポータル サイトやアプリを作成でき、データベース操作も直感的で拡張性も高いため、実際の業務に使用できれば飛躍的に生産性向上が見込めると感じた」といいます。

また、同じく研修参加者の総務局 人事課 主事の富樫宏之氏は、「デジタルには敷居の高いイメージがありましたが、半年の研修を経て業務に使えるくらいの完成度を持った RPA (ロボティック プロセス オートメーション) を作ることができるようになりましたし、意外と簡単なんだな、と感じました」と、デジタルへの苦手意識を払拭できたことは大きな収穫だったと語ります。また、「さまざまな部署の人たちと一緒に学んだことで、多角的な視点も身につけられた」と、職場横断型プロジェクトの意義を感じることもできたといいます。

総務局 人事課 主事 富樫 宏之 氏

総務局 人事課 主事
富樫 宏之 氏

こども未来局 子育て支援課 主査の池田昌志氏は、「これまでは、研修というと半日や 1 日程度のものが多く、せっかく教えてもらっても身についた感覚を得られないこともありました。その点、半年にわたってたくさんの課題に取り組むこのデジタル行政推進リーダー育成研修は、大変有意義だったと感じ」、さらに「ボリュームが大きかった分、実務への影響がなかったとはいえませんが、上長の理解もあり、多くのことを学ぶことができました」と周囲の理解に感謝しています。

池田氏いわく、「周りの理解があるからこそ成果を出さなければいけない」というプレッシャーもありましたが、研修後に行われた成果発表を見た金沢市長の山野之義氏から「皆さんのアイデアや行動力、実行力に驚きました」と評価を受けたことからも、しっかりと成果を示すことができたと言えます。

こども未来局 子育て支援課 主査 池田 昌志 氏

こども未来局 子育て支援課 主査
池田 昌志 氏

100 名のリーダーが DX を牽引し、「誰ひとり取り残さない」行政を目指す

デジタル行政推進リーダー育成研修を統括した佐野氏も「よくぞ半年でここまでのものを作ることができるようになったと感心しました」と目を細めます。

「金沢市では今後、100 名のリーダー人材育成を目指します」と語るのは、同じく総務局 デジタル行政戦略課 担当課長の中島三津男氏。「彼らが各部局の業務改善や DX 推進の中心となることで市役所全体の DX が進めば、きっと市民サービスの向上につながるはず」と期待をよせます。

それを受けて佐野氏も「デジタル化というと、人員や経費の削減、業務効率化に目が行きがちですが、これから日本全体が本格的な少子高齢 社会を迎えるうえで、デジタル化で職員の生産性を高め、そこから生まれるマンパワーを、福祉や子育てといった今後必要とされる行政サービスに注ぐことが大切」と語り、そのために必要なものが市民の立場に立ったサービス デザイン思考と、そのために必要なデジタル ツールの活用技術であり、「それを未来に生かしていきたい」と言葉に力を込めます。職員の目は、IT 技術の習得だけではなく、人に優しい「誰ひとり取り残さない」デジタル社会の実現に向けられているのです。

総務局 デジタル行政戦略課 担当課長 中島 三津男 氏

総務局 デジタル行政戦略課 担当課長
中島 三津男 氏

ノウハウを生かして金沢市の 思いに応える日本マイクロソフト

「本来、行政の力だけでここまでの育成研修を成立させるのは難しいのですが、マイクロソフトの力を借りられたことは、本当によかったと思っています」と佐野氏。「Microsoft Office などは日常使っているので馴染みがあるものの、マイクロソフトという会社自体は、やはり海外企業のイメージが強く、遠い存在に感じていたが、今回私たちのプロジェクトにどっぷりと入り込んでいただき、かなり身近に感じるようになりました」と、印象の変化を語ります。

中島氏も「今後はリーダーを増やして、さらに職員全体の DX 意識を高める必要があります。そのためには、マイクロソフトのような、たくさんの事例 やノウハウを持つ民間事業者の協力は欠かせないと思っています。引き続き研修メニューの作成やアドバイスをお願いできれば」と期待を込めます。

全国に先駆けて DX 推進の取り組みを加速させている金沢市。その原動力は「デジタルの力を使って人に優しい社会を実現したい」という熱い思いにあります。今回研修を受けたリーダーたちも、学んだことを糧に市民に愛されるサービスを創り出していくに違いありません。