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熊本大学 × アメリエフ株式会社 – 医療 ICT のクラウド化が、遺伝子医療にもたらすものとは

イメージ: バイオインフォマティクス (生命情報科学)

熊本大学 × アメリエフ株式会社

熊本大学 大学院生命科学研究部とアメリエフ株式会社は、次世代シーケンサー (遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置) とバイオインフォマティクス (生命情報科学) を取り入れた、共同研究プロジェクトに取り組んでいます。遺伝子検査の診断技術向上を目指す取り組みの詳細と、ゲノム解析においてインフラに Microsoft Azure を採用した理由についてお話を伺いました。

写真: 山口 昌雄 氏

アメリエフ株式会社 代表取締役社長 山口 昌雄 氏

遺伝子解析、ゲノム解析に関する技術は飛躍的に進歩し、臨床分野への展開とサービス市場の拡大に注目が集まっています。取り扱えるデータも増え、電子カルテや健康診断の情報、薬、日々の運動量など、”人” にまつわるあらゆる情報が蓄積されてきました。

「この『人の情報』を、より効果的かつ有効な治療や健康づくり、薬づくりに活かし生命科学に貢献したいというコンセプトで会社を立ち上げました」と語るのは、アメリエフ株式会社 (以下アメリエフ) 代表取締役社長の山口 昌雄 氏です。

アメリエフは研究機関、医療機関、製薬会社を中心とした民間企業向けに、バイオインフォマティクスを駆使した高度な IT 解析技術によるコンサルティング、最新鋭の生命情報解析システム、生命情報のデータサイエンティスト育成のための研修サービスなどを提供するバイオベンチャー企業です。一人ひとりの遺伝的特性に合わせたゲノム医療の普及を目指し、病院内で実施する網羅的遺伝子検査に情報解析技術を提供するユニークな企業として、注目を浴びています。


「未診断」を「診断」にゲノム解析の臨床展開に向けて解決が求められた 2 つの課題

遺伝性疾患の発症予測だけでなく、血縁者を含めた早期発見・早期治療を目的とした遺伝子検査を実施している熊本大学 大学院生命科学研究部 (以下熊本大学) の松井 啓隆 博士に、遺伝子解析の研究と遺伝性疾患の診断について、これまでの背景と現状を伺います。

「遺伝性疾患は、さまざまな手段を使って総合的に診断されます。しかし、決め手になるのはやはり遺伝子です。以前は、原因となる遺伝子の中でも、特にたくさんの患者さんで異常が起きやすい場所のみに絞って解析を重ねるしかありませんでした。そのような中、10 年ほど前に次世代シーケンサーという網羅的な DNA 分析装置が登場して、遺伝子のほぼ全領域を調べられるようになったのです。今まで見落としていた遺伝子の変異を発見し、診断できるようになりました」(松井博士)

写真: 松井 啓隆 博士 (医学)

国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部 臨床病態解析学講座/大学病院 中央検査部 部長 松井 啓隆 博士 (医学)

これまでは未診断であったものが、次世代シーケンサーを用いた網羅的なゲノム解析によって病気と診断できるようになり、また、研究中心であったものが、これからは臨床検査に落とし込んでいくフェーズに入ります。しかし、そこには大きな課題もありました。
ゲノム解析を臨床へ役立てるためには、1 つの検体で行う検査から精確な解析結果を出さなければならならず、同時に膨大な情報の分析に耐えられなければなりません。間違いが許されない臨床検査においては、スピードと正確性が強く求められます。

「複数回の実験を重ねられる研究とは違い、臨床では患者さんのサンプルは 1 つしかありません。これまでの臨床検査で用いてられてきた生化学的な分析や免疫学的な分析は、1 つの検体でも正確なデータの提供が担保、保証されていますが、ゲノム解析には、これまでそういった考え方がありませんでした。1 つの検体で正確な診断を出さなければならないという状況において、その正確性をどう担保するのかを悩みながら進んできました」(松井博士)

ゲノム解析はアウトプットの量が圧倒的に多く、大量の情報が得られる反面、それをプロセッシングすることの難しさが生まれます。

「データを的確に処理して、医療のために使えるようなコンパクトな情報としてまとめなければなりません。それは医療従事者だけで完遂できることではありませんでした。バイオインフォマティクスのできる人たちの手助けが必要で、共同研究という形でアウトソースする方向で検討を進めました」と松井博士は共同研究に至った背景を振り返ります。

熊本大学は、次世代シーケンサーを用いて DNA 分析をした結果を、診断や治療に活かすために情報処理をおこない、アメリエフが解析レポートを作る仕組みを提供することで、課題解決を試みたのです。


熊本大学病院との取り組み
クラウドの特性が大きく活きる利用状況

がんの患者さんの遺伝子情報を調べて、最適な抗がん剤治療をするというテーマで、2014 年にレポートシステムを構築していたアメリエフと、熊本大学との間で共同研究契約が締結されたのは 2016 年。最初はスタンドアローンの PC を導入し、メンテナンスのために VPN 環境を構築しました。

最初はネットワークにつながっていない、オンプレミス環境を構築します。「遺伝子情報はその取り扱いに特に配慮を要するものです。インターネットにつながっている環境に上げるのは慎重にならざるを得ませんでした」と山口氏はその背景を説明します。

ところが、遺伝子解析の分野は情報のアップデート、更新頻度が非常に早く、病気の研究結果や遺伝子の研究、国の治験情報などをリアルタイムでシステムに反映しようとすると、スタンドアローンでは追い付きません。そのような中、外部環境も変化し、厚労省から医療 ICT の推進が後押しされてクラウド移行の追い風が吹き、部分的なクラウド導入を決断しました。

「メンテナンス性の向上や情報をリアルタイム更新できる柔軟性、膨大な情報量に対応する拡張性や、可用性の確保を求めると、クラウドならではのメリットが大きく活きる上に、コンピューティングパワーもスタンドアローンと比較して安価になります」と、山口氏はクラウド導入のメリットを挙げます。

「現在はハイブリッドで運用していますが、ほぼクラウドに移行しようとしています」(山口氏)

セキュリティに細心の配慮が求められる
「要配慮個人情報」のクラウド化に Microsoft Azure を採用

クラウド移行を語る際に、情報セキュリティ面の脅威への対策は欠かすことのできない要件です。特に本プロジェクトで取り扱う医療情報は「要配慮個人情報」であり、個人情報の中でもより厳しい管理を求められるものです。当然ながら、セキュリティにはより一層の注意を払わなければなりません。そのため、厚生労働省などからは、医療機関や医療情報を受託管理する事業者は対策を検討、実施するうえで遵守しなくてはならないガイドラインも策定されています ( 3 省 3 ガイドライン)。

共同研究プロジェクトでは、クラウド導入に当たって、導入実績から法的な側面まで、いくつかの選定基準を設けました。

「選定にあたって数社検討しましたが、病院や医療機関での利用実績・導入実績があることは重要視しました。また、Azure は日本法を準拠法とし、裁判地は東京地方裁判所としています。東日本と西日本の国内 2 か所のリージョンがあるためディザスタリカバリーの要件も満たせます。さらに、Azure はライフサイエンス分野に非常に力を入れていたので、使いやすいという面も大きかったです」(山口氏)

Azure は 3 省 3 ガイドラインへの対応も明文化されていることから安心感があり、多くの医療機関での利用実績があることや協業企業からの推薦もあったとのこと。加えて、マイクロソフトがヘルスケア分野、特にゲノム解析に注力しているという実績もあり、Microsoft Azure の採用が決定しました。

「同じ 1% でも 1/100 と 100/10,000 では信頼度が違う」
日本人の疾患の遺伝子データベースの可能性

次世代シーケンサーを用いた、遺伝性疾患の研究で、これまで見逃していた遺伝子の異常が見えてきました。しかし、正しく判断するためにはデータ量の課題もあります。データの蓄積量が少ないと、新たに見つかった遺伝子の異常は病気に影響を与えたものなのかどうかがかえって分からなくなってしまうというデメリットがありました。

「同じ 1% でも、100 人調べて 1 人なのか、10,000 人調べて 100 人なのかでは、信頼度がまったく違います。そのためにはまず、自分たちの施設のデータを蓄積していくことが大事です。ただ、一施設では数も限られるので、全国規模で病気の患者さんの情報を集約しなければなりません」(松井博士)

複数の施設のデータが蓄積され、サンプル数が増加すれば、ほかの解析結果と比較し、発見された遺伝子の異常が病気の素因なのかどうか、推定が可能です。複数施設のデータの蓄積しやすさはクラウドならではのメリットです。

「これまでさまざまな研究機関で調べられてきた遺伝子情報は科学的エビデンスを蓄積する『研究成果』であって、医療現場で個々の患者さんの治療に役立てられているとは言えない状況でした。しかし、エビデンスを蓄積し集約して情報として活用することで、少しずつ日本人の患者さんの治療に役立てられる段階にきています」(山口氏)

医療チームとデータ解析チームのコラボレーション
一丸となって地域医療に貢献

現在、熊本大学とアメリエフは、共同で 3 つの遺伝性疾患の研究プロジェクトを進めています。その 3 つとは、遺伝性の血栓症、遺伝性のがん、そして遺伝性脳小血管疾患 (CADASIL) です。

「地域ごとに集積しやすい病気というものが存在します。たとえば、私たちと連携して研究・診断を行っている熊本大学の脳神経内科では、『アミロイドーシス』という地域性のある遺伝性疾患の診断を得意としており、私たち検査部もその診断に協力しています。また、『CADASIL (カダシル)』という病気も、遺伝的になりやすい側面がありますが、脳神経内科では、この CADASIL の診断にも力を入れています」(松井博士)

この 3 つの遺伝性疾患の研究については、プロジェクトの成果が出始めました。

「外来の主治医から指定のあった遺伝子のゲノム解析を行った結果、今まで診断がつかなかった凝固異常症や、血栓症の患者さんのゲノム異常を特定することに成功しています。一般的に、ゲノム異常を疑って解析を行っても、本当に異常が見つかる確率は 2 割くらいと言われています。しかし、当院で解析した結果は、主治医の診断と次世代シーケンサー、そしてバイオインフォマティクスを取りいれたことによって、その割合が大きく向上しました」(松井博士)

主治医の診断力、検査医の知識、ゲノム解析のテクノロジーとバイオインフォマティクス。これらのコラボレーションにより、熊本大学とアメリエフの共同研究は、診断精度の向上という大きな成果を生み出しました。

遺伝子データ蓄積の先へ

遺伝子医療に関する外部環境の変化は続き、がんゲノム検査の保険適用が 2019 年 6 月から始まりました。これによって検査数の増加が見込まれ、遺伝子データベースに蓄積される情報が増えていきます。保険診療では、がんゲノム情報センター (C-CAT) にデータが蓄積されることになり、その扱いは今後取り決めがなされますが、増え続けるデータ量に対する柔軟性という観点でも、クラウドはそのメリットを提供することが可能です。

「データが蓄積されたら、次はデータの検証が必要です。データが増えることで、見えることも増えると考えています。たとえば、初めははがんと関係あると考えられていたことが、実はそうではなかったというような新たな発見があるかもしれません。蓄積されたデータのプロセッシングは我々医療従事者だけでは完遂できません。アメリエフのような情報解析技術力をもった企業の力添えが必要です」(松井博士)

山口氏は今後の展望について、医療機関ごとにインスタンスを立て、横串で検索できるようなしくみの構築を目指していると語ります。

「アメリエフはあくまでデータサイエンスの会社なので、患者さんの情報を持ちません。我々は情報を集め分析して、医療従事者や製薬会社が必要とする情報を提供する “臨床ゲノム情報ゲートウェイ” のようなしくみを将来的に作りたいと考えています」(山口氏)

一施設だけではなく、広範囲に亘る医療機関や、製薬企業などの持つ膨大なデータを蓄積し、組み合わせて活用することで、診断精度の向上に加えて、新たな治療法の発見や予防医療、創薬など、医学の発展と人々の QOL 向上に大きく貢献するものとなるでしょう。

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