レガシー業務アプリケーションの計画的なモダナイズを進めましょう~クラウドジャーニーにおける継続的な改善に向けて~
Executive Summary
- 業務アプリケーションのクラウド移行において、IaaS への単純移行はゴールではなく、PaaS 等を活用したアプリケーションのモダナイズを通じて運用や保守の効率・生産性を継続的に高めていく取り組みが重要である。
- アプリケーションのモダナイズに関しては、それぞれのシステムの利用特性や現在の稼働環境に応じて、様々な選択肢がある。画一的なロードマップではなく、対象システムの特徴を踏まえたアセスメントを実施したうえで複数の選択肢を視野にロードマップを整理することが望ましい
- マイクロソフトでは、パブリッククラウドサービスである Azure のメニューの中で、従来はオンプレミスまたは IaaS 上で個別に環境構築してきたサーバを PaaS 等へ更新していくための様々なサービスをご用意しており、お客様のニーズに合わせたアプリケーションのモダナイズをサポートしている。
クラウドサービスの普及が広がりを見せるなか、様々な企業や公的機関でも従来のオンプレミスやプライベートデータセンターに設置されていた環境を、パブリッククラウドへと移行を進めるケースが増えてきています。
クラウド移行の目的は組織の事業形態によって様々なポイントが考えられますが、環境構築期間の短期化、保守運用の効率化、トータルコストの低減、セキュリティの強化、季節変動の大きいワークロードへの柔軟なリソースの拡張・縮退等を実現するために、クラウドサービスの活用は有意義な選択肢として、その位置づけを十分に確立してきていると考えます。
一方で、システムを稼働させる場所が自社データセンターからクラウドに変化しただけで、それ以外の運用は従来のやり方を踏襲し続けているというケースも、まだまだ多い様に見受けられます。
業務アプリケーションにはライフサイクルがあり、組織の業務内容の変化や稼働プラットフォームの技術的な世代交代等の影響を受けることで、小規模な追加開発や改修にとどまらず、再開発・大規模な追加開発を必要とする場合があります。アプリケーションの「モダナイズ」という表現がありますが、これは老朽化した業務アプリケーションを、より新しい世代の技術に基づき刷新を図るという意味で使用されます。
ヘルスケア業界のお客様におけるクラウド基盤への移行事例として、あゆみ製薬株式会社様のストーリが公開されています。こちらのお客様では長年オンプレミスで運用されていた SAP の基幹システムを Azure 上へマイグレーションされています。ECC 6.0 の保守サポート期限終了を迎える前に新しい基盤である SAP HANA へ移行し、周辺のバックアップやセキュリティ関連の機能は Azure Backup や Microsoft Defender シリーズといったPaaS/SaaS を活用して移行されたケースとなります。
Microsoft Customer Story-先駆けて Azure 移行と S/4HANA 化を実現したあゆみ製薬。DX 推進のためのデータ活用が加速
このブログでは、クラウド移行を進める上で、業務アプリケーションのモダナイズの観点からどのように検討を進めることが望ましいか、そして主に PaaS (Platform as a Service)を活用し刷新を図る際のメリットまでをスコープとしてご説明をしたいと思います。
1. クラウドサービスの分類
既にご存じの方はこの章を読み飛ばしていただいて構いませんが、ここで IaaS/PaaS/SaaS と呼ばれるクラウドサービスの分類について復習しておきます。オンプレミス環境が、ハードウェアや仮想化のためのミドルウェア、OS 以上の層を全てユーザが調達・管理する形態であるのに対して、IaaS の場合には、OS から下の層はクラウドベンダーが管理する環境をユーザは使用することになります。そのため、従来必要であったハード調達・構築・保守や仮想化基盤の運用を、ユーザはベンダーにアウトソースすることが可能となります。ベンダーは、ユーザが必要とするリソースをオンデマンドで必要なタイミングで迅速に払い出します。それなりの規模感のシステムの場合には、ハード更新だけでも数か月~ 1 年以上を要したり、保守や開発テスト環境を増強したいと考えてもタイムリーに対応することができずプロジェクト計画や品質に影響を与えてしまったり、というデメリットから解放されるという利点を、ここでは享受することができると考えます。PaaS の場合には、ユーザが管理する範囲がさらに少なくなり、業務アプリケーションやデータに注力することができ、アプリケーションサーバやデータベース、アプリケーションを実行するための各種ミドルウェアまでをクラウドベンダーが払い出します。
SaaS の場合には、汎用的な業務 (例えば組織のポータルや顧客情報管理等) については、クラウドベンダーが提供するアプリケーションを、そのまま使用するここととなり、アプリケーションの開発・保守等の負荷からもユーザは解放されることになります。
2. アプリケーションのモダナイズ
組織の中には、新旧及び規模の大小など様々な業務アプリケーションシステムが稼働しています。クラウド移行の検討においては、すべてのシステムに当てはまる画一的なロードマップは存在せず、それぞれの特性に応じた検討が必要です。以下の図は、アプリケーションのポートフォリオをアセスメントし、各システムの置かれた状況を整理した上で、どの選択肢でクラウド移行を実行することが望ましいかを考える上で、一例として有効と考えます。
例えば、その業務を利用するエンドユーザの主要デバイスが、PC からスマートデバイスにシフトしていることが顕著なシステムの場合には、より優先度を上げてモダナイズを進める必要があり、その際に扱う情報の内容に応じて十分にセキュリティ対策を高めた上で次世代のシステムをリリースすることが求められるでしょう。
また、既にメーカーやミドルウェアベンダーがサポートを終了する予定があるシステムに関しても、業務の継続性の観点から計画的かつタイムリーに基盤更新を進める必要がありますが、既に役割を終えているシステムや機能に関しては廃止し、提供を中止する等の判断も生じる場合があると考えます。
3. 基本的な検討軸
以下の図では、IaaS へのクラウドリフトから、よりアプリケーションのモダナイズに踏み込んだ場合の検討軸を例として 3 つ示しています。
Level 1 では、業務アプリケーションには大きく手を加えず基盤をオンプレミスから IaaS 上のクラウド環境へ移行しつつも、システム監視・バックアップ・DR 対策や DDoS 対策等のセキュリティ機能の一部は、クラウドベンダーが提供する PaaS を活用する場合などをイメージしていただくと良いかと思います。
Level 2 では、従来の業務アプリケーションのサブシステム間の依存関係の見直し、先行してモダナイズすべき範囲の定義、そして一部アプリケーション機能を PaaS 環境へ移行または再構築を行う例です。不特定多数のユーザがスマートデバイスからもアクセスし、かつアクセス頻度に季節変動要素が大きいようなシステムの場合には、より柔軟かつ迅速に環境を拡張・縮退させることができる PaaS へ移行することで、システムの安定稼働とユーザ満足度の向上につながると考えられます。
Level 3 では、いよいよシステム全体を PaaS のコンポーネント上で再構築する例となり、中長期的な計画に基づき予算と開発期間を確保した上で、環境全体を PaaS に移行することを目指します。この時、特定のミドルウェアが必須である等、何らかの制約で IaaS に残さざるを得ないものが無いかどうかもチェックすることが必要と考えます。
また、従前からエンドユーザコンピューティングと呼ばれ、MS Access や簡易的なマクロで入力集計をしていたような業務や、情報システム部門に依頼するのではなく業務部門の中で短期間に作成するようなアプリについては、再構築・再作成の労力も余り負担をかけずに刷新したいという場合もあるでしょう。マイクロソフトでは、ローコードアプリケーション作成ツールとして、Power Apps というクラウドサービスも提供しており、こうしたニーズへの受け皿としてご活用いただけるものと考えております。
ビジネス アプリ | Microsoft Power Apps
Microsoft Power Platform とは | Microsoft Power Platform
4. アプリケーションのモダナイズを支える Microsoft Azure の豊富なサービス群
マイクロソフトでは、お客様のクラウドジャーニーを発展させ、アプリケーションのモダナイズをサポートするための様々なサービス群を豊富にご用意しています。Web/Application Server や Database Server を置換する PaaS サービスは勿論のこと、Data 分析・AI・機械学習の機能を実現するためのサービス群も充実しています。
クラウド コンピューティング サービス | Microsoft Azure
田辺三菱製薬株式会社様では、大量の「リアルワールドデータ」と称される、電子カルテやレセプトから得られる患者の匿名化されたサンプルデータを分析し、新薬の早期開発につなげるための DX の取り組みとして、Azure の PaaS サービスを活用した基盤を構築されています。こちらの事例の中でも、「データ分析における機械学習は、明確な結果や回答の予測が困難であり、費用対効果の算出が難しい場合が、ほとんだと思う。その意味で、データ分析基盤の構築にはスケーラビリティの高いクラウドコンピューティング」が適していると語っておられ、その効果を実感して頂いています。
1 個 1 TB のデータを扱えるか――田辺三菱製薬、データ分析までの道のり – ITmedia NEWS
Java/C + 等のメジャーな言語で開発されてきたアプリケーションの PaaS 化を支援し、DB では SQL サーバだけでなく Postgres 等の OSS DB の移行先となるサービスも用意されています。従来の基幹システムは IaaS で稼働させつつ、そこで発生するデータの利活用、分析の基盤を拡充するために PaaS の Analytics サービスを組み合わせてクラウド上で実現するといったシナリオも可能です。 DB サーバや Web/AP サーバを増やしたり能力を増強したりする際にも、PaaS の利点を活かし Azure Portal からの設定操作のレベルで環境の変更が可能であり、パッチ適用等も自動化されるため常に最新のセキュリティ対策等が適用された状態で運用することができます。
5. 最後に
長年にわたり利用されてきた業務アプリケーションも、計画的な世代交代によるモダナイズの検討が欠かせません。クラウドサービスの場合には、段階的に検証・テストをしながら継続的な改善を進めたいというお客様に対して、従来のオンプレミスの時代より遥かに着手しやすい環境が整っているのではないかと考えます。ぜひ、Microsoft Azure を活用し、ユーザビリティ、保守性、運用効率の高い業務アプリケーションへとモダナイズをご検討頂けますと幸いです。