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​​PHR座談会第5回 職場の健康管理を促進するPHRサービス​   

​​少子高齢化による労働人口の減少が進む中、企業や自治体が持続的に働ける環境を整備するためには、従業員一人ひとりの健康管理がますます重要になっています。​
第5回となるPHR座談会では、「職場の健康管理を促進するPHRサービス」をテーマに、医療従事者・PHRサービス事業者・企業の三者がそれぞれの立場から、PHR(Personal Health Record)の活用と課題、健康経営におけるPHR活用の可能性と課題を議論しました。​ 

​​【座長】​ 
・​​​一般社団法人PHR普及推進協議会 副理事長/​​​産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大神 明

​​【参加者】​ 
・Basical Health 株式会社 代表取締役​​/​​     ​​医師 佐藤 文彦 先生​ 
​​・サワイグループホールディングス株式会社​​​/​​​沢井製薬株式会社 執行役員(CDXO)・グループIT部長 竹田 幸司 様​ 
​​・株式会社DUMSCO 取締役CTO 若林 尚文 様​ 
​​・株式会社ポーラメディカル 池島 俊季 様​ 

​【聞き手】 
・パブリックセクター事業本部 ヘルスケア統括本部 医療・製薬営業本部 アカウントエグゼクティブ 室井 豊​ 


“データ活用”による差別化がすすむ健康経営​

​大神:本日は、企業・医療・現場それぞれの専門家の視点から、PHRの活用可能性について議論していきます。少子高齢化が進む中で、人材の健康管理は企業にとっても社会にとっても重要な課題です。PHRはその中でどのような役割を果たせるのか、皆さまの知見をお聞かせください。
まず、健康経営の現状と課題について、佐藤先生は医師および産業医の立場からどのように捉えていますか。​

一般社団法人PHR普及推進協議会 副理事長/産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大神 明
一般社団法人PHR普及推進協議会 副理事長/産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大神 明

佐藤:健康経営は、いまや多くの企業で定着しつつあります。特に労務・法務の制度整備は着実に進みましたが、従業員一人ひとりの健康支援という観点では、まだ十分とは言えません。今後は、社員の健康に対してどのような具体的な取り組みを行うかによって、企業間の差別化が進む段階に入っていくと考えられます。たとえば、「健康経営優良法人(ホワイト500)」の認定制度は多くの注目を集めています。認定を受けることで、同業他社と比較した際に優秀な人材の確保や採用活動で優位に働くなど、企業価値を高める効果も見られます。こうした健康経営の指標が​​さらに従業員の健康支援に​​特化した内容についても​​企業評価として定着​​していけば、​​中小企業にも​​確実に​​広がっていくでしょう。

​​Basical Health 株式会社 代表取締役//医師 佐藤 文彦 先生​
​​Basical Health 株式会社 代表取締役//医師 佐藤 文彦 先生​ 

​大神:​​医師の働き方改革を進めるうえで、PHRの活用は有力な方策の一つと考えられます。たとえば、マイナンバーカードを介した医療連携が実現すれば、救急医療と基幹病院のあいだで患者情報を迅速に共有でき、患者の既往歴や受診歴、服薬情報を事前に把握したうえで受け入れ準備を行うことが可能になります。PHR導入が医師の負担軽減につながるかどうかは、運用面の改善とセットで初めて成立するもので、「医師が自然に使える」「医療現場の判断を速くする」といった実務的な機能性が確保されてこそ、働き方改革の実効性が生まれます。​​ 
医療側にとってもPHR導入のメリットは明確ですが、日常業務の中​​で継続的に活用し、現場に根付かせることが今後の課題だと考えています。

​​
通院間の状態を可視化するPHRアプリ『SaluDi』​ 

​​大神:続いて、PHRサービスを展開する企業の立場からお話を伺います。沢井製薬の竹田さん、お願いします。​ 

​​竹田:当社は、グループ理念である「なによりも健やかな暮らしのために」の実現を目指し、従来のジェネリック医薬品の提供にとどまらず、未病予防や健康支援といった新たな領域にも注力しています。その一環として立ち上げたのが、PHRアプリ『SaluDi(サルディ)』です。​ 

​​『SaluDi』は、一言でいえば“デジタル血圧手帳”のようなサービスです。患者が日々の血圧・体重・食事などのデータを記録し、医師など医療従事者はブラウザ上で患者の通院間の健康状態を確認できます。紙の手帳を忘れてもデータ共有が可能で、本人の同意のもとでバイタル情報を医療機関に開示できるため、医療現場との情報連携が格段にスムーズになりました。​ 

​​現在は、小規模の薬局から900名以上の​​『SaluDi』​​への患者登録をされているクリニックまで、全国約2,700の医療機関に導入されています。医療現場の声を反映しながら機能改善を重ねている点も特徴で、当社のMRが医療従事者の要望を丁寧に吸い上げ、アプリのアップデートに反映しています。こうした現場とともに育てる開発姿勢が、多くの支持につながっていると感じています。​ 

​​サワイグループホールディングス株式会社/沢井製薬株式会社 執行役員(CDXO)・グループIT部長 竹田 幸司 様​
​​サワイグループホールディングス株式会社/沢井製薬株式会社 執行役員(CDXO)・グループIT部長 竹田 幸司 様​ 

​​大神:同時に、企業などへの導入も進めているのでしょうか。​ 

​​竹田:はい。自治体による住民の健康づくり支援や、企業の健康経営の一環としての導入も進んでいます。特に中小企業では、健康経営を推進したいという意欲はあっても、具体的な施策に落とし込めず課題を抱えるケースが少なくありません。『SaluDi』を活用することで、社員の健康診断結果などのデータを継続的に管理でき、プレゼンティーズム(出勤していても十分に働けない状態)の改善や、社員のエンゲージメント向上にも寄与すると考えています。​ 

​​実際に、産業保健師の先生方の協力を得て、弊社社員約300名を対象に『SaluDi』を活用した実証実験を行いました。​​『SaluDi』​​で日々の健康状態を記録・管理することで、個人の行動変容にどのような効果があるかを検証したものです。その結果、平均血圧が135mmHg以上あった高血圧群で11mmHgの低下、体重も平均2kg減少するなど、明確な成果が得られました。健康意識の高まりは、業務効率や社内の雰囲気にも好影響をもたらしており、今後の健康管理施策を検討する上で非常に有意義なPoCとなりました。​ 

​​
現場の安全を支える数値化PHR『カオカラ』​ 

​​大神:続いて、建設現場の事例について伺います。ポーラメディカルの池島さん、DUMSCOの若林さん、お願いします。​ 

​​池島:DUMSCOさんと共同開発した暑熱対策AIカメラ『カオカラ』は、主に建設業や製造業など、暑熱環境で働く方々を対象としたサービスです。タブレットで顔を撮影するだけで、暑熱環境におけるリスクを自動判定し数値化。そのデータをもとに、安全に働ける環境づくりを支援しています。​ 

​​若林:当社は建設業のDXにも長年取り組んでいるのですが、多様な雇用形態が混在する現場の課題に注目しています。この業界では日雇い作業員も多く、管理者が作業員一人ひとりの健康情報を一元的に管理することが難しいという課題がありました。​ 

​​究極的には、熱中症は本人が危険性を認識し、行動を変えなければ防ぐことができません。そのため『カオカラ』は、作業者自身が自分の状態を随時確認し、危険を感じた際に主体的に休憩を申し出るなど、リスクを数値として把握しながら判断材料として活用できるように設計しています。​ 

​​池島:管理者はリアルタイムでリスク情報を共有できるため、数百人に及ぶ作業員の健康状態を把握し、迅速な判断と対応が可能になりました。​ 

​​つまり、『カオカラ』は管理者と作業員の双方に行動変容と意識変化を促し、現場でのコミュニケーション活性化も目指したサービスです。熱中症は本人の意識と周囲の気づきで防げる側面が大きい病気ですが、暑い環境下で働かざるを得ない人も多く、地球温暖化の影響で発生率も高まっています。だからこそ、本人の意識と周囲の配慮という両輪でアプローチすることが重要だと感じています。​ 

​​若林:企業にとってのメリットは、単なる健康管理にとどまりません。建設業界では若年層の人口減少と肉体労働離れが進み、大阪・関西万博の建設現場でも人手不足が深刻化しているというニュースは記憶に新しいと思います。そうした中で、安全で信頼性の高い労働環境を整備することは、人材の定着や離職防止にもつながると考えています。​ 

​​(左)株式会社DUMSCO 取締役CTO 若林 尚文 様​ 
​​(右)株式会社ポーラメディカル 池島 俊季 様​ 
​​(左)株式会社DUMSCO 取締役CTO 若林 尚文 様​ 
​​(右)株式会社ポーラメディカル 池島 俊季 様​ 

行動変容を支える医療・産業保健連携​ 

​​大神:『SaluDi』も『カオカラ』も、PHRが行動変容につながることを示す好例ですね。PHRと行動変容という観点について、佐藤先生はどのようにお考えですか。​ 

​​佐藤:数値化して“見える化”することは非常に重要だと感じます。たとえば『カオカラ』は、作業員の健康状態を定量的に可視化することで、管理者と本人の双方が納得して判断できるようになりました。数値があるからこそ、感覚や勘に頼らず、客観的にリスクを把握できる。これは行動変容を促す上でも大きな要素です。​ 

​​日本はポピュレーションアプローチ(全体の健康度を底上げする方法)は得意ですが、一方でハイリスクアプローチ(個別に高リスク者へ介入する方法)をもっと意識していく必要があります。産業保健師が検査結果をもとに専門医へ紹介するケースもありますが、たとえば血圧のように「測定時だけ一時的に上がっていた」ということも少なくありません。だからこそ、日常的にデータを蓄積し、その推移を踏まえて判断することが重要です。その点で、『SaluDi』のようなアプリを企業に導入し、継続的な記録を可能にする仕組みは非常に有効だと感じます。​ 

​​大神:なるほど。医療と産業保健の連携に向けて、どのような課題があるのでしょうか。​ 

​​佐藤:医療と産業保健の間には、いまだに「情報の分断」があります。たとえば、産業衛生学会で知られているPHRアプリでも、別の学会ではほとんど認知されていないケースがある。こうした分断を超えて、病院と企業が同じPHRを活用できれば、産業保健師と主治医の情報共有が格段にスムーズになります。​ 

​​PHRを“個人の健康記録”で終わらせず、“医療と職域をつなぐ基盤”として俯瞰的に設計していくことが重要だと感じています。​ 

池島:まさにその点は実感しています。企業向けの展示会では『カオカラ』をご存じの方が多いのですが、先日、産業衛生学会で紹介した際には、多くの産業医の先生から「こんな仕組みがあるなんて知らなかった」と驚かれました。
そのギャップこそが、佐藤先生がおっしゃる「分断」だと感じています。医療と産業保健の双方に情報を届ける努力を、事業者として一層強めていく必要があると痛感しました。

​​大神:PHRというのは個人だけで完結するものではなく、相互の理解と共有の上で成り立つツールでもあります。しかし、中には、個人の健康情報を他者に見られたくない・知られたくないという人もいます。この「入手経路・保存・活用」という3段階の意識をどう高めていくかについて、竹田さんはいかがでしょうか。​ 

​​竹田:『SaluDi』でも、その点は非常に意識して設計し、利用者自身がデータの開示範囲と対象を設定できるようにしています。たとえば、「主治医にはすべて公開するけれども、産業保健師には血圧などのバイタルデータのみ共有」と​​い​​ったように、本人の判断で開示(共有)するデータを柔軟にコントロールできます。検診結果の閲覧や共有も同様に、最終的には個人の意思と行動に委ねられています。​ 

​​佐藤:産業医の立場から見ると、すべての情報が共有されている場合、逆に「見てしまった情報をどう扱うか」という責任も発生します。もし重要な情報を見落としたら「なぜ気づかなかったのか」と問われかねない。これは産業医だけでなく、経営層や人事にも通じる課題です。最終的には、​​お互いに​​信頼関係とコミュニケーションを​​積極的に​​どう築​​いてい​​くかが鍵になりますね。​ 

​​大神:PHRは個人情報そのものです。「出したい情報」「出せない情報」「出さなければいけない情報」「誰かが使うべき情報」の整理がまだ十分ではありません。医療と産業保健の両領域がこうした線引きを共に考え、“つながるPHR”の形を模索していくことが、これからの重要なテーマだと感じます。​ 

​​若林:「どこまで情報を共有するか」は本当に難しいテーマですね。​ 

​​
生涯PHRでつなぐ、個人と地域医療​ 

​​大神:PHRは、個人が主体となって運用することを前提に設計されています。個人の同意のもとにデータを自由に持ち歩く──そんな思想に基づいた仕組みです。 
これまでの議論を踏まえ、今後PHRはどのような役割を担っていくとお考えですか。​ 

​​竹田:私たちは「生涯PHR」の実現を目指しています。 
現在のPHRは、生活習慣病対策として働き盛りの30〜60代を中心に活用されてきましたが、今後は出生から終末期までの健康データを一元的に管理できる仕組みを構築していきます。たとえば、成長に伴ってかかりつけ医が変わったり、転居などで地域が変わった場合でも、本人の同意のもとで医療機関や企業と安全に情報共有できるようにしたいと考えています。​ 

​​大神:日本は健診大国なので、生まれた時から健康データは存在するにも関わらず、これまでは紙ベースで分散管理されてきました。 
仮に医師が1,000人分の健診結果を紙で確認し、リスクを分析しようとすれば数カ月はかかります。しかし、AIや予測モデルを活用すれば、個々に最適なフィードバックを短時間で導き出すことができます。PHRが進化すればするほど、データの価値も高まりますね。​ 

​​竹田:おっしゃる通りです。今はまさに、エビデンスに基づくPHR活用が求められる時代です。『SaluDi』は、紙の健診データを読み取り、AIと専門家の知見を組み合わせて、将来の生活習慣病リスクを予測する機能を提供しています。リスクが高いと判断された場合は、自らの行動変容や産業保健師への相談を促し、早期発見・早期対応につなげる設計です。​ 

​​若林:弊社では、がん患者向けアプリの開発も行っていますが、医療者の関与がユーザーの継続意欲を高める要因になっています。ユーザーが主体的にアプリに体調を記録し、それを印刷して病院に持参するケースもあります。医師に見てもらうこと自体が励みになり、記録の継続につながっているようです。 
このように、医療者との信頼関係がサイクルを動かす原動力となり、PHR活用を定着させる鍵になると思います。PHRはパーソナルデータであると同時に、医療機関との目線合わせが今後ますます重要になると感じています。​ 

​​佐藤:まさにその通りです。データを取るだけで終わらせず、専門医へのスムーズな橋渡しにつなげていくことが求められています。とりわけ、地域医療との連携は今後の大きなテーマになるでしょう。現在、全国の病院の6〜7割が経常赤字とされており、経営環境は厳しさを増しています。健康保険組合についても、赤字の組合が半数を超えるなど、保険財政の悪化が深刻化しています。 
こうした状況の中で、PHRを活用して体調の異変を早期に察知し、地域の専門医と迅速に連携できる体制をつくることが重要です。病院にとっては患者が増えることで経営の安定につながり、企業にとっても従業員が地域の専門医に診てもらえる安心感が生まれる。 
PHRが、その両者をつなぐ“信頼の架け橋”になってほしいと考えています。​ 

​​大神:確かに、日本では「病気にならないと病院に行かない」あるいは、「健診結果が悪くても、何も症状がなければ受診しない」という文化が根強くあります。しかし、PHRを通じて働く人の健康データを地域医療へとつなげられれば、“予防から医療へ”の流れを自然につくることができますね。​ 

​​
技術とエビデンスが支えるPHRの未来​ 

​​池島:近年、ウェアラブルデバイスの種類は年々増えています。しかし、そのエビデンスレベルにはまだばらつきがあると感じています。私たちサービス提供者やメーカーの責務としては、適切なエビデンスを取得しつつ、現場でどれだけ受け入れられ、効果を発揮できるかという“実装の妥当性”を担保することが重要です。 
それができて初めて、医師の先生方にも信頼していただき、患者さんから取得したデータを安心して扱ってもらえるようになるのだと思います。​ 

​​いわゆるAIも“魔法”ではありません。 
たとえばディープラーニング(深層学習)では、結果を導き出すプロセスがブラックボックス化していることが多く、メカニズムや生理学的根拠を重視する医療分野とは、一部で相性が悪い側面もあります。技術が進歩しても、「なぜその結果が出たのか」を説明できる、透明性のあるAIが求められると感じています。​ 

​​若林:まさにそこですね。機械学習というのは、教師データに対してテストデータがどれだけ一致するかで性能を測ります。つまり、モデルが内部でどのように判断しているかはあまり重視されず、最終的に「結果が合っていればOK」という考え方です。 
そのため、企業の立場から見ると「結果的に熱中症が減れば良い」「減らなければやめよう」といった感覚になりがちです。A/Bテストのように厳密に検証するケースも少なく、「よく分からないけど使い続ける」「よく分からないけどやめる」といった曖昧な判断に陥ることもあります。 
やはり、エビデンスの確立と継続的な検証は、テクノロジーと切り離せない課題ですね。​ 

​​竹田:当社としては、『SaluDi』を通じて、まずは「バイタルデータを測る習慣をつくる」世界を目指し、次のステップとして「意識せずとも自然にバイタルデータが取得される世界」を描いています。 
たとえば、洗面台の鏡に顔を映すだけで心不全リスクを測定し、必要に応じて医師への受診を促す仕組みを実現するため、現在は複数の企業と協業を進めています。データ測定の“負担をなくす”ことが、PHRの普及を後押しする大きな要素になると考えています。​ 

​​池島:実は私も以前、スマートホーム関連のプロジェクトに関わったことがあります。最近では、住むだけで住人の健康情報を自動取得できる住宅なども登場しており、生活環境そのものが健康データのハブになりつつあります。 
こうした流れの中で、データの信頼性・安全性・活用範囲をどう整備していくかこそ、まさに“技術と倫理の両輪”でPHRの未来を支えていく時代に入っていると感じます。​ 

​​
医療と企業をつなぐPHR活用の現在地​ 

​​大神:最近は内閣府もPHRという言葉を明確に掲げ、マイナンバーカードの機能拡大なども進んでいます。国としての旗振りも見えてきましたが、今後をどのように見ていますか。​ 

​​佐藤:やはり、医学的エビデンスに基づいた設計が欠かせません。 
行動変容の目的と手段を明確に結びつけるためには、専門医や産業医と連携しながらアプリやシステムを開発することが重要です。これまで企画倒れになった多くのヘルスケアアプリは、医師と相談せずに進めてきた印象があります。​ 

​​展示会などを見ても、サービスの種類は非常に豊富で、「​​すでに​​ないものはない」と感じるほどです。だからこそ、医療側も学び続ける姿勢が求められています。私自身、医師の働き方改革に携わる中で、多職種連携を進めるためのコーチング研修を実施しています。50〜60代の医師には「コミュニケーションを学ぶ機会」が少なかった世代も多く、これは一種のリスキリングです。異業種や多職種との対話を重ねながら協働していくことが、結果的にPHRの普及にもつながる。そうした俯瞰的な視点をもつことが、今後ますます重要になると感じています。​ 

​​大神:産業医は基本的に「病院の外」が守備範囲なので、情報ツールとコミュニケーションは欠かせません。さて、健康経営の観点から見たとき、コスト面はどうでしょうか。​ 

​​若林:今は「健康経営」という考え方のもと、企業が従業員の健康に投資することが正当化される時代になっています。 
一方で、従業員側に強いインセンティブがないのではと感じることもあります。例えば、健康に気をつける努力が何らかの形で目先の給与や評価に反映される仕組みができれば、意識も変わるのではないかと思います。​ 

​​大神:「人生100年時代」と言われるように、働く期間が70年になることを考えると、30代と60代の健康状態の違いが採用や就業配置の判断にも影響します。企業としては、同じ条件なら30代を採用する方がリスクは少ないと考えるかもしれません。でも、もしPHRのデータで「60代でも非常に健康」であることが客観的に分かれば、その人を採用する企業も出てくるでしょう。 
本来は作業環境や労働管理などは、会社がマネジメントすべきですが、PHRのような健康状態の“見える化”は、そうした判断をより客観的かつ合理的に支える重要な情報になると思います。​ 

​​佐藤:まさにその通りです。PHRを活用して社員の健康状態を継続的に可視化することで、健康経営はより実効性のあるものになります。結果的に社員全体の健康意識が高まり、企業の生産性向上や健保の支出削減にもつながるでしょう。​ 

​​
平時から有事までつながるPHRへ​ 

​​大神:最後に、PHR普及推進協議会に期待すること、また今後に向けたメッセージをお聞かせください。​ 

​​竹田:PHR普及推進協議会には、さまざまな立場の団体や企業が所属しています。そうした皆さまと連携しながら、平時から有事まで、日本国民一人ひとりがPHRを活用できる社会を実現していきたいと考えています。​ 

​​日本は災害の多い国です。備えとして、マイナンバーカードを活用して避難所に必要な薬を適切に届けたり、ドローン企業と連携して僻地へ薬を配送したりする仕組みも考えられます。また、オンライン診療とPHRを組み合わせることで、医師が患者の日常の健康状態を把握したうえで診察を行い、薬を処方・配送することも可能です。​ 

​​そうした「平時から有事への橋渡し」を、皆さんと知恵を出し合いながら実現していければと考えています。​ 

​​佐藤:PHR普及推進協議会が、厚生労働省・経済産業省・日本医師会など、多くの関係機関と連携して構成されているということを、もっと多くの方々に知っていただきたいですね。 
特に、産業医の先生方や人事・経営層の方々にPHRの重要性を理解してもらうことが非常に大切だと、今日改めて感じました。有識者が真剣に議論し、行動していることを広く発信することで、PHRへの関心を高め、長く健康に働ける社会づくりにつなげていければと思います。​ 

​​若林:私たちはパーソナルデータを扱う立場として、「データをどのように活用するか」を多角的に考えることが重要だと感じています。産業医、企業、自治体、国など、活用の可能性はさまざまです。活用のビジョンが具体的に見えることで、データの集め方や共有の仕組みも進化していくはずです。その意味でも、今日のように多様なステークホルダーと意見交換を行う場は、非常に意義があると感じました。​ 

​​池島:やはり“リテラシーを高めること”が何より重要だと感じます。健康診断の結果をきちんと見返す人はまだ少なく、上司が部下の健康状態を把握しているケースも多くありません。社会全体で健康リテラシーをどう高めていくかが、普及の鍵になります。今は意識の高い層が中心ですが、潜在層へのアプローチも欠かせません。そのためにも、精度・簡便性・コストのバランスを高い水準で実現することが、提供側の使命だと考えています。​ 

​​大神:本日はお忙しい中、貴重なご意見をお寄せいただきありがとうございました。 
本日の議論をもって、第5回PHRサービス事業者座談会を閉会といたします。​ 

​​​​​

本座談会における、PHR普及推進協議会 賛助会員のサービス紹介​​​ 

​​ SaluDi​​沢井製薬株式会社​ 

体重、脈拍、血圧、歩数、カロリーなど​​、日々の健康データをまとめて記録・管理できるPHRアプリ。健康診断の結果や病院での診察情報も一括管理でき、必要に応じて日々の健康データを医療従事者と共有す​​ることで、未病・予防・診療支援に役立てる。さらに、対面だけでなく医療機関のオンラインでの診療・服薬指導・栄養指導などにも活用可能。​​​​     ​​​ 
・サービスページ:​https://www.sawai.co.jp/saludi/ 


『カオカラ』​​​株式会社DUMSCO​​ 

​ AIで顔の変化を解析し、​​​暑熱​​​​     ​​​リスクなどを“見える化”する暑熱対策AIカメラ。管理者や作業員がリスクに気づき、迅速に対策をとれるよう、​​株式会社ポーラメディカルと共同で​​開発と実証試験を重ね、2024年に製品として販売を開始。ポーラ・オルビスグループの化粧品開発で培った顔解析技術を応用し、誰でも直感的にリスクを把握できる設計で、現場の暑熱対策を支援。WBGT(暑さ指数)にも対応。 
・サービスページ:​https://kaokara.jp/​ 

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