医療・ヘルスケア Archives - マイクロソフト業界別の記事 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/ Fri, 20 Dec 2024 01:01:09 +0000 en-US hourly 1 生成 AI × 医療画像の可能性  http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/12/20/medical_image/ Fri, 20 Dec 2024 01:01:06 +0000 医療分野において、生成 AI(Generative AI)の活用が急速に進んでおり、特に医療画像の領域でその重要性が増しています。データを基に新たな画像やデータを生成する技術である生成 AI の導入により、診断精度の向上、医療従事者の負担軽減、患者ケアの質の向上、治療計画、医療教育など期待されており、医療全体の革新に大きく寄与しています。ここでは、生成AIが医療画像分野で必要とされる理由やその重要性について、さらに今後の可能性について解説し、デモとしてMicrosoft Azure Open AI Service(生成AI)の実際の活用例を紹介します。 

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医療分野において、生成 AI(Generative AI)の活用が急速に進んでおり、特に医療画像の領域でその重要性が増しています。データを基に新たな画像やデータを生成する技術である生成 AI の導入により、診断精度の向上、医療従事者の負担軽減、患者ケアの質の向上、治療計画、医療教育など期待されており、医療全体の革新に大きく寄与しています。ここでは、生成 AI が医療画像分野で必要とされる理由やその重要性について、さらに今後の可能性について解説し、デモとしてMicrosoft Azure Open AI Service(生成 AI )の実際の活用例を紹介します。 


1. 生成 AI の概要 

生成 AI は、深層学習の進展によって大きく発展してきた技術であり、学習した膨大なデータから新たな画像やテキスト、音声を生成することができます。生成AIが医療画像に基づいてサポートやシミュレーション、補完画像を生成する役割を果たしています。 


2. 医療画像診断の現状と課題 

(1) 医療画像診断の課題 

医療画像は、MRI(磁気共鳴画像)、CT(コンピュータ断層撮影)、X線など多様な画像技術が利用され、病気の診断や治療計画において欠かせない情報源となっています。 

しかし、医療画像の診断には高度な専門知識が求められ、特に、病気の早期発見や診断精度の向上が求められ、多くの時間と労力がかかることが課題です。 

また、診断結果の正確性は医師の経験や知識に依存するため、個人差が生じやすく、診断精度のばらつきも問題となっています。さらに、近年の医療ニーズの高まりにより、放射線科医や画像診断の専門医が不足しており、診断業務の負担が増加しています。 

(2) データ不足の問題 

医療分野では、患者データのプライバシーや希少疾患に関するデータが不足していることも課題です。十分なデータがない場合、診断や治療法の検証が不十分になりがちで、治療効果が十分に実証されていないことも少なくありません。 
生成 AI は、限られたデータから詳細にパターンを洞察し、データ不足の問題を克服する能力が期待されています。 


3. 生成 AI の医療画像分野での必要性 

(1) 医療画像の拡充とデータの質の向上 

医療分野では、患者データの機密性から、特定の症例に関する画像データが不足していることが多いです。生成 AI は少数のデータから追加の画像を生成することができ、データセットを拡充するための手段として有用です。例えば、希少疾患の患者データが限られている場合、生成 AI によってシミュレーション画像を生成し、診断や研究に利用できるため、医療研究の発展にも貢献します。 

(2) 診断支援による効率化と精度の向上 

生成 AI による医療画像の活用は、医師の診断業務の効率化にも寄与します。生成 AI が生成した画像を AI 診断システムに投入することで、特定の疾患の予測や診断を支援でき、診断精度を向上させることが可能です。また、生成 AI は医療画像のノイズ除去や解像度向上にも活用され、より高精度な画像を提供することで、医師が細部まで診断を行えるようサポートします。 

(3) 治療計画の最適化と個別化医療への貢献 

生成 AI は、個々の患者に合わせた治療計画の最適化にも役立ちます。例えば、腫瘍のサイズや形状、位置に応じてシミュレーション画像を生成することで、より精密な手術計画や放射線治療の計画が立てられます。また、患者の特性に応じた治療の効果をシミュレーションし、最適な治療法を選択する支援も可能です。生成 AI の応用により、患者一人ひとりにカスタマイズされた個別化医療が実現しやすくなり、治療効果や患者満足度の向上につながります。 

(4) 医療アクセスの向上と公平性の促進 

生成 AI により、専門医の数が限られている地域でも質の高い診断が可能となります。生成 AI が作成する高精度な診断画像や診断支援の技術により、遠隔医療が可能となり、医療へのアクセスが改善されます。これにより、医療格差が縮小し、より多くの患者が公平に質の高い医療サービスを受けられるようになります。 

(5) 医療従事者の負担軽減とリソースの効率化 

医療現場では、専門知識が必要とされる業務が多いため、医療従事者の負担は大きくなりがちです。生成 AI を活用することで、診断支援や画像分析の効率化が進み、医療従事者の業務負荷が軽減されます。これにより、医師はより複雑な診断や治療に専念することが可能となり、医療リソースの効率化が図られます。 

(6) 医療の質と患者アウトカムの向上 

生成 AI がもたらす精度の高い診断や治療計画は、患者のアウトカム(治療結果)に直接的な影響を与えます。例えば、診断の早期化や治療の精密化によって、早期発見や治療の成功率が向上することが期待されます。生成 AI が提供する情報を基にした医療の意思決定は、患者の安全性や治療の質を高め、より良い健康状態の実現を可能にします。 


4. 生成AIによる医療画像活用のデモ 

ここでは、生成 AI を活用した医療画像の具体的なデモ2つを通して、その応用例を紹介します。 

【デモ1】生成AIによる腹部腸閉塞レントゲン診断支援のケース 

1つ目は腹部レントゲン画像の診断を生成 AI がサポートするシナリオをご紹介します。 
下の画像は腹部レントゲン画像(下記左下)と、レントゲン画像の対象範囲(下記右下)になります。 

(デモで使用する腹部レントゲン画像)         (レントゲン画像の対象範囲) 

こちらの腹部レントゲン画像を用いて、医師の予想する所見を生成 AI が出力します。 
「この画像から医師が診断すると予想する所見を教えて下さい。」というプロンプト(下記左上)と腹部レントゲン画像(下記左下)を生成 AI に入力すると、医師が診断すると予想される所見を下記右のように腸管の拡張、階段状の気液面、閉塞の位置の推測が診られ、腸閉塞の可能性を生成 AI が示します。 

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  (腹部レントゲン画像にAIが出力した所見を表示)                        (AIが出力した所見)

【デモ2】生成AIによる胸部(胸水)レントゲン診断支援のケース 
2 つ目は胸部レントゲン画像の診断を生成 AI がサポートするシナリオをご紹介します。

下の画像は胸部レントゲン画像(下記左下)と、レントゲン画像の対象範囲(下記右下)になります。  

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  (デモで使用する胸部レントゲン画像)          (レントゲン画像の対象範囲) 

こちらの胸部レントゲン画像を用いて、医師の予想する所見を生成 AI が出力します。 
「この画像から医師が診断すると予想する所見を教えて下さい。」というプロンプト(下記左上)と胸部レントゲン画像(下記左下)を生成 AI に入力すると、医師が診断すると予想される所見を下記右のように肺の異常、気胸、肋骨骨折や外傷の可能性が診られ、胸水の疑いを生成 AI が示します。

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(胸部レントゲン画像にAIが予想した所見を表示)             (AIが出力した所見) 

 デモ 1, 2 のように生成 AI が出力した所見を医師が最終確認することで、診断精度の向上が期待され、迅速な治療計画の立案が可能になり、かつ、見落とし防止等、医師の負担軽減と診断の精度向上に寄与し、患者ケアの質が高まると思われます。 
このように、生成 AI を活用することで病変や異常の検出を支援するだけでなく、医師にとって重要な診断サポートの役割を果たしていくと考えられます。 


5. 生成 AI 導入における課題と今後の展望 

生成 AI 技術の進化により、医療画像分野での活用が進むことで、診断精度や治療効果の向上が期待されます。これにより医療の質や患者ケアが革新され、医療全体に大きな影響をもたらすでしょう。生成 AI は、医療現場の課題解決に貢献する重要な技術であり、今後の技術進展とともにその役割はさらに拡大し、医療の未来に新たな可能性を切り開くと予想されます。 

具体的には、昨今エージェント機能が注目され始めております。エージェント機能とは、従来の人が生成 AI に問合せをして回答を返すだけではなく、生成AIをハブとして様々なアプリケーションと連携することや、自律的に動作する機能を指します。医療分野に置き換えると、単に医療画像を分析して回答を生成するだけではなく、それに付随して、周辺システムと連携してデータを格納する、通知を発出する、次の検査の予約をする等のユースケースが想定されます。より業務内容に落とし込んだ形での利用が可能になると考えます。 

しかし、生成 AI の医療分野での応用には多くの利点がある一方で、課題も存在します。データのプライバシー保護や AI の透明性、生成されたデータの信頼性の確保が重要なテーマです。また、生成 AI が医療現場に浸透するためには、医療従事者や患者への教育や倫理的な議論も必要です。 

今後、生成 AI に関しては、様々な制度設計がされていくことが予想されます。クラウド事業者として、責任ある AI をお届けできるよう、そして、医療者の皆さんが安心、安全にご利用いただけるよう、セキュリティ、倫理、運用といった多方面でのご支援を継続していきたいと考えています。 

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PHR 座談会第 3 回【丹波篠山の事例から学ぶ】自治体が求めるPHR サービス http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/11/28/phrsyposium_phr-services-03/ Thu, 28 Nov 2024 01:07:55 +0000 個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータであるPHR(パーソナルヘルスレコード)を活用したサービスの価値を考える座談会、 第3回のテーマは「自治体の活動を改善するPHRサービス 」です。PHRサービスが地域に浸透していくために押さえておくべきポイントとは、一体何でしょうか?
今回は、PHRサービス「ヘルスケアパスポート」の導入を進める兵庫県丹波篠山市の取り組みを題材に、医療従事者・行政担当者・PHR支援会社といった異なる立場の参加者が集まり、PHRへの期待や課題感、そして今後の可能性について意見を交わしました。

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a group of people posing for a photo
(左から)大山訓弘・樺島広子・吉田博人・堂東美穂・片山覚・石見拓・阿部達也(敬称略)

個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータであるPHR(パーソナルヘルスレコード)を活用したサービスの価値を考える座談会、 第3回のテーマは「自治体の活動を改善するPHRサービス」です。PHRサービスが地域に浸透していくために押さえておくべきポイントとは、一体何でしょうか? 今回は、PHRサービス「ヘルスケアパスポート」の導入を進める兵庫県丹波篠山市の取り組みを題材に、医療従事者・行政担当者・PHR支援会社といった異なる立場の参加者が集まり、PHRへの期待や課題感、そして今後の可能性について意見を交わしました。

【座長】

・石見拓  一般社団法人PHR普及推進協議会 代表理事/京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野 教授

【座談会参加者】

・ 片山覚  丹波篠山市医師会 会長
・堂東美穂 兵庫県丹波篠山市 保健福祉部健康課 課長(保健師)
・阿部達也 一般社団法人PHR普及推進協議会 専務理事/株式会社ヘルステック研究所 代表取締役
・樺島広子 東和薬品株式会社 デジタルヘルス企画推進室 課長
・吉田博人 TIS株式会社 デジタルイノベーション事業本部ヘルスケアサービス事業部エグゼクティブフェロー

【聞き手】

・大山訓弘 一般社団法人PHR普及推進協議会 理事・広報委員長 /日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員ヘルスケア統括本部長


テクノロジーの進化がPHRを後押しする時代へ

石見:片山先生は、以前院長を務めていた兵庫医科大学ささやま医療センター時代に自治体と連携し、「ヘルスケアパスポート」導入の取り組みを始めましたね。先生がPHRに関心を持った背景を教えてください。

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片山覚  丹波篠山市医師会 会長

片山:私が20年以上前からPHRに注目してきた理由は大きく2つです。

1つ目は、「健康情報は果たして誰のものなのか」という本質的な問いです。医療情報は医療現場で発生しているので、そのまま医療機関が管理責任を負うと思われがちですが、そのデータを共有し、他者と活用していくことにハードルがありました。一方で、PHRは「個人の健康情報は個人が持つべき」という考え方なので、うまく仕組み化して展開できれば、個人情報保護に関する困りごとを解決する一手になると考えられます。

2つ目は、日本における保険制度は治療をもとにした考え方なので、通常は発病後に効果を発揮します。しかし、私は1人ひとりが予防に対する意識を向上させ、その体制を専門家がサポートする関係性がもっと必要だと考えています。

2010 年頃、世界的IT企業数社がPHRの仕組みづくりに取り組みましたが、残念ながら大きくは前進しませんでした。しきり直して再スタートしている今こそ、大きなムーブメントが来るのではないかと期待しています。

石見:なぜ今、手応えを感じているのでしょうか?

片山:テクノロジーの進化により、スマートフォンやウェアラブルデバイスといったハードウェアの普及が影響していると考えます。健康状態を管理できるアプリなどを通じて、健康情報が1つにつながる仕組みが整い、健康情報を入力する手間が減ったことで、格段に個人が管理しやすくなりました。むしろデジタルの波に遅れているのは、医療機関の方ですね。電子カルテの普及率の低さを見ても課題感を否めません。


PHR浸透には行政側のリテラシー向上が必要不可欠
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堂東美穂 兵庫県丹波篠山市 保健福祉部健康課 課長

堂東:保健師視点では、自治体の保健事業DXが一番遅れているように思います。たとえば、保健指導した際の患者情報はいまだに全て紙に記入しています。行政が一番浦島太郎状態なんです。丹波篠山市では、過去に某カルテアプリや母子手帳アプリの導入を試みましたが、住民の関心も低く、指導の立場である保健師自身がデジタル活用のイメージが持てずに困り果てるという結果となりました。あのときほど自分たちが納得していないものを、市民の皆さんに勧めることは絶対にしてはいけないと思ったことはありません。やはり、地域住民に浸透させていくには、まず自分たちが本気で勉強してリテラシーをあげないと意味がないと痛感しました。

丹波篠山市は年間出生数200人ほどの地域なので、これまで対面コミュニケーションを大切にしてきた背景があります。しかし、国が令和8年から母子手帳の電子化を進めているように、私たちも社会の変化に対応しつつ、丹波篠山らしい保健事業DXに向き合っていきたいと思っています。

片山:そのために悩ましいのが「資金」ですよね。つまり、誰がお金を出すのか。国なのか、企業なのか、個人なのか。その現状が見えづらい気がしますね。

堂東:自治体予算は市民の税金から出ているので、やはり市民にとって本当に価値のあるものなのか、という点がディスカッションポイントになります。市のDX化計画の柱にはPHRの浸透も入っているので、社会の恩恵を少しでも多くの市民に返せるように取り組んでいきたいです。


アカデミックな研究とサービス開発の両輪で、PHRを社会実装させる大学発ベンチャー

石見:阿部さんはいかがでしょうか?

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阿部達也 一般社団法人PHR普及推進協議会 専務理事/株式会社ヘルステック研究所 代表取締役

阿部:ヘルステック研究所は京都大学とPHRの共同研究に取り組み、社会実装していくための大学発ベンチャーです。弊社が最初に扱ったPHRデータは、大学生の健康診断結果でした。これまで健康診断は各大学が独自で行っていたため、データを一律ではなかったのです。そこで、保健管理施設協議会と連携し、大学共通のデータ標準化とシステム開発に取り組みました。

主軸である生涯PHRアプリ「健康日記」は、「健康データを自分で管理する」をコンセプトに、健康診断結果、ワクチン接種歴、お薬手帳情報、毎日の歩数など個人に関するデータを一元管理できるようになっています。自分の健康情報は他者にシェアすることもできるので、病院で受診するときにとても有効です。現在 18 万ダウンロードされ、毎日 1 万人以上の方が利用してくださっています。

最近はヘルスケアパスポートと連携し、健康診断結果を郵送ではなくアプリで受け取ることができるようになりました。これによって過去から現在までの診断結果をグラフ化するなど、一目で比較・管理できます。利用料は検診機関からいただくので、ユーザーは無償のまま、より便利に「健康データを自分で管理する」ことができます。


持続可能なビジネス拡大を目指すPHR事業会社のアプローチ
吉田博人 TIS株式会社 デジタルイノベーション事業本部ヘルスケアサービス事業部エグゼクティブフェロー

吉田:TISは5年ほど前からPHRに注目し、ヘルスケアパスポートの開発運用を行ってきました。丹波篠山市は、医療機関単体ではなく自治体を巻き込んだ全国初のケースです。

地域にとってより使いやすくするためには、アプリの機能追加が必要になってきます。原資があればスピード感を持って仕上げることが出来るので、資金問題はサービス拡大する上で非常に重要なポイントだと感じています。現在はPHRサービスの情報共有・利活用を推進すべく、積極的にさまざまな企業と連携していき、ビジネスをサステナブルなものにしていきたいです。

石見:TISさんはエンタープライズ向け PHR サービスとして、早くから参入をされていますよね。ここ数年間の変化をどのように見ていますか?

吉田:始めた頃はまだ医療機関側の理解も薄い印象でしたが、コロナを経て、個人が健康管理していく意識や行政の動きにも変化が出てきたように思います。他にも今回の座談会を主催しているPHR普及推進協議会ような団体が出来るなど、PHRを活用して「社会貢献+ビジネス」を考える風潮に変わってきました。


3つのテーマで PHR の価値を検証し、丹波篠山らしい DX のあり方を模索
樺島広子 東和薬品株式会社 デジタルヘルス企画推進室 課長

樺島:東和薬品はTISさんとアライアンスを提携し、現在丹波篠山市でヘルスケアパスポートを活用した PHRの価値創出に伴走しています。具体的には主に3つのテーマで取り組んでいます。

1つ目は、「母子健康管理」。

マイナポータルと連携し、妊婦健診から生誕後の健康情報まで記録されたデータを家族や医療機関に共有する仕組みです。まずはお母さんが管理しやすい環境を作ることで、ベストなユースケースを探っています。

2つ目は、「生活習慣病管理」です。

ヘルスケアパスポートに血圧手帳機能や心不全手帳機能、副作用状況記録などの項目を実装し、日々のバイタルの記録を取りやすくしました。市民が実際に使ってみて重要性を感じてもらう啓蒙活動が重要だと感じています。

最後は、介護が必要な方に発行される『篠山つながり手帳』のDX化です。現在は紙冊子で運用しているため、患者さんが手帳を持参し忘れるリスクがあります。将来的にはヘルスケアパスポートで一括管理することで、医療と介護の連携がスムーズになり、必要なサポートをスムーズに提供できるようにしていきたいですね。

堂東:市としても注力すべき3大柱が定まったことで、良い流れが来ています。その中でも『篠山つながり手帳』の電子化は、目的と効果を市民に示しやすく、また現場からの要望が一番高いので早急に進めています。行政としては、誰しもが理解し使え、人手不足の中でも業務を効率化できるものは価値を見出しやすく、予算獲得につながりやすいです。地域浸透までの道のりは簡単ではありませんが、未来に向けて何に先行投資していくべきかをきちんと見極めながら、着実に進んでいきたいです。

樺島:東和薬品も地域の方々が納得しながら一歩一歩進んでいけるような運用・導入方法を模索し、ケースバイケースでしっかり伴走していけたらと思っております。

石見:地域・行政を支援するPHRサービスを提供する事業者として現在抱えているビジネス上の課題はどんな点でしょうか?

樺島:ヘルスケアパスポートのシステムを基盤にして地域課題を解決する仕組みをつくり、全国に普及させていきたいと思っています。現在いくつかの地域でサポートを進めていますが、導入のハードルはなかなか高いのが現実です。なので、かかりつけ医機能としての活用を視野に医療機関にとっても使いやすいサービスにするなど、さまざまなアプローチを検討している最中です。地域に関わるステークホルダー全員(市民・自治体・医療機関など)に価値を感じてもらい、地域で長く使い続けていけるモデルを探していきたいですね。

吉田:一方で、持続可能にするために誰が支援すべきかという問題もあります。サービス提供元の弊社なのか、東和薬品さんのような連携支援企業なのか、自治体なのか。現在はユースケースを作っていくフェーズなので弊社も東和薬品さんも伴走していますが、長期目線での資金元やスキーム構築は避けることができません。


医療機関の温度差、標準化の必要性、費用負担。尽きない課題といかに向き合うか

石見:実際の運用について、ユーザー(医療機関など)の反応はどうでしょうか?

片山:現場によって非常に温度差があり、一律でシステムを入れるのはかなり困難だと考えます。ガラケーからスマホに乗り換えるのと同じで、最新をいち早く取り入れたい人、周りが使い始めたら腰を上げる人、普及が進んでガラケーだと不便になってきたから乗り換える人など、価値観はさまざまだからです。コロナを経て、遠隔での情報共有が必要だという認識は上がっているので、全事業所一律で導入を強制するよりも、まずは多くの病院で使いやすい最低限の標準化をプラットフォーム上で進め、それ以外は他アプリと連携して広げていく考え方を TIS さんに提案しています。

個々の温度差は否めないので、事業所ごとに課金いただくシステムは難しいかもしれません。そこで、TISさんから提案いただいたのが「地域人口あたりの課金」でした。地域に見合うメリットをつくれれば税金から資金を賄える座組なので、この話を聞いた時、今度こそ地域にPHRサービスが浸透していくのではないかと可能性を感じました。

石見:地域に見合うメリットとは、たとえば具体的にどんな効果が見込めるのでしょう?

片山:丹波篠山市のヘルスケアパスポートでは、メッセージ機能を追加しました。これによって、医師と患者のみならず、医師と各医療機関同士でもコミュニケーションを取れるようになりました。実際に認知症の患者を取り巻く医師と薬剤師と介護士が情報交換を行なったことで、サポートが明確になり、薬の飲み忘れ防止につながったという喜びの声も届いています。これまでは患者またはかかりつけ医止まりになっていた情報を関係者に共有できた結果、地域の横のつながりを生み出す結果となりました。


PHRは短期的なメリットが見えにくい。だからこそ地域には先導するリーダーが必要
石見拓  一般社団法人PHR普及推進協議会 代表理事/京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野 教授

石見:本当に丹波篠山市は良いロールモデルですよね。大きな自治体だとステークホルダーが多く、縦割りになってしまい、意思決定までに時間がかかる。かといって小さすぎると顔が見える関係がすでにあるので PHR データのやりとりにメリットを感じづらい。おそらく適当なサイズ感というのがあるように思えますね。

吉田:丹波篠山市の場合、地域の基幹病院が1つというのもポイントですね。

阿部:新しい取り組みを進める上で、地域にある医師会や歯科医師会、薬剤師会の三師会などが同じ方向にまとまっていくことは大事な要素です。その時に、片山先生のように意思を持ってリーダーシップを取る方がいる丹波篠山市は、非常に良い結果につながるのではないかと期待しています。

石見:日本人は標準化が苦手なんですよね。なので、医療機関の意見を集約化して、リーダーシップをとってくれる人材が必要です。落としどころを見つけてコンセンサスをとっていかないとなかなか前進しませんから。そこがうまく機能すると、一気に横展開しやすくなると思います。


PHR の普及率をあげるキーワードは「他者との共有」

石見:私はライフワークで10年以上、AEDの普及啓発に関わってきました。PHRよりも必要性が明確で、今やあらゆる場所で当たり前に見かけるAED設置ですら、最初のうちは自治体も企業もお金を出すことに抵抗があり、なかなか広がらなかったんです。

人によって価値を感じるところはさまざまです。世代や環境によっても変わってくるかもしれません。そういうものだと認識しつつ、トータルの戦略やコーディネートが必要なのではないでしょうか。

その点、丹波篠山市は、母子の健康管理支援、生活習慣病の改善支援、医療と介護の連携支援3つのテーマを掲げ、優先順位を持って進めている戦略が素晴らしいですね。デジタルリテラシーが高い方が多い子育て世代へのPHRサービス提供や、生活習慣病におけるライフログ情報の医療との共有、医療と介護との連携は、短期的にもPHRの価値を感じてもらいやすいので、一人ひとりの積み重ねを経て、地域において様々な連携を実現するPHRサービスが必要だと思う人を増やしていくことに繋がると思います。

片山:スマートウォッチを持っている人は、価値にすぐに気付きそうですね。予想以上のスピードで普及しているので、実は意外と地域社会側の準備は整ってきているのかもしれません。

石見:そうですね。更にもう一歩、データを他人とシェアすることの価値まで理解が及ぶと良いですね。たとえば、時計代わりにスマートウォッチを身につけるだけでも、医師や家族は毎日健康データを取得できるので、適切なアドバイスやサポートをすることができますよね。誰かとつながると価値が生まれることの具体例を示せると今後大きく変わっていきそうです。

吉田:スマホやスマートウォッチに慣れていないおじいちゃん・おばあちゃん世代も、小学生の孫から「おじいちゃんが元気で過ごしているか毎日アプリで見てるからね!」なんて言われたら、きっと真面目にやるんですよね(笑)。

石見:そうでしょうね。孫とのコミュニケーションのために、ガラケーをスマホに変えてLINEを覚えたりしますからね。様々な人とのPHRの連携に価値を感じてもらえたら、ふるさと納税でこの基盤を応援してもらうのもいいかもしれません。

吉田:確かに、PHR活用はふるさと納税の正しい使い方になりうるかもしれないですね。

石見:台湾では、PHRの普及、アクティブ率を高めるために、「家族とPHRを共有できる仕組み」を導入しています。このように、日本でも PHR を誰と共有すると多くの人が価値を感じてくれるのか、戦略を考えながら、PHRサービスを地域に実装することが普及のために必要だと思います。

片山:健康に関する関心は社会全体で上がってきているので、「家族」は一つ良い切り口になりそうです。

石見:みんなにとって価値を感じてもらう方法を今後も模索していきたいですね。本日はありがとうございました。

文:吉田めぐみ

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マイクロソフトクラウドの「医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス (2024 年度)」改訂版公開のお知らせ http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/10/16/microsoft_cloud_healthcare2024/ Wed, 16 Oct 2024 02:01:35 +0000 本日、日本マイクロソフト株式会社は、医療情報を扱うためのクラウドサービスが、3省2ガイドラインである厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」と経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(以下、ガイドラインと表記)の要求事項に従っていることをまとめた『医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス(2024年度)』を2021年度に公開したものの改訂版を公開しました。このリファレンスは富士ソフト株式会社の支援を受け、日本マイクロソフトと協力して作成しました。昨今、医療業界でも多くの被害を受けている現状に対して、このリファレンスを使用することで、医療機関や医療システムベンダー等が適切なセキュリティ対策を講じ、日本国内の医療システム全体のセキュリティを強化することができると考えています。

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本日、日本マイクロソフト株式会社は、医療情報を扱うためのクラウドサービスが、3省2ガイドラインである厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」と経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(以下、ガイドラインと表記)の要求事項に従っていることをまとめた『医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス(2024年度)』を2021年度に公開したものの改訂版を公開しました。このリファレンスは富士ソフト株式会社の支援を受け、日本マイクロソフトと協力して作成しました。昨今、医療業界でも多くの被害を受けている現状に対して、このリファレンスを使用することで、医療機関や医療システムベンダー等が適切なセキュリティ対策を講じ、日本国内の医療システム全体のセキュリティを強化することができると考えています。


公開するドキュメント

  1. マイクロソフトが講じる安全管理措置について
    一般的に想定されるリスクと対策に着眼し、当社が講じている安全管理策を富士ソフト株式会社がガイドラインと照らし合わせて整理しています。
  2. 利用可能なマイクロソフトの製品・サービスに関する情報
    利用者が該当ガイドラインに対応する上で、利用可能なサービス毎の製品及び機能に関する情報を整理しています。

※上記の「マイクロソフトが講じる安全管理措置について」もしくは「利用可能なマイクロソフトの製品・サービスに関する情報」をクリックすると、「マイクロソフトクラウドの医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス (2024 年度) 利用許諾契約書」を読み、その内容に同意したものとみなされます。

マイクロソフトクラウドの医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス (2024 年度) 利用許諾契約書はこちらをクリックしてください。

本リファレンスの対象となるクラウドサービス

  1. Microsoft Azure
  2. Microsoft 365
  3. Microsoft Dynamics 365・Microsoft Power Platform

本リファレンスの対象となるガイドライン

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本リファレンスが対象としているガイドラインは「3省2ガイドライン」になります。3省2ガイドラインとは厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」と経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」の2つのガイドラインを合わせた総称となっており、医療情報システムを取り扱う医療機関や事業者はこの「3省2ガイドライン」を遵守する必要があります。

  1. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 6.0 版(厚生労働省、令和5年5月 )
  2. 医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン 第 1.1 版 (経済産業省・総務省、令和 5 年 7 月)

厚生労働省安全管理ガイドラインは、医療情報システムやサービスを利用する医療機関、具体的には病院、⼀般診療所、⻭科診療所、助産所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者、医療情報連携ネットワーク運営事業者等に対する遵守事項を取りまとめたものです。

経済産業省・総務省安全管理ガイドラインは、医療機関等に対して医療情報システムや、サービスを提供している事業者に対する遵守事項を取り纏めたものです。

事業者としての日本マイクロソフトが準拠すべき項目について
クラウドサービスの利用において、想定されるリスクに対応するためにはお客様が実施しなくてはならない対策と、クラウドサービスプロバイダーが対策する対策とに責任が分かれます。一般にこれを責任共有モデルや責任分界などと呼び、お客様側ではクラウドサービスプロバイダー側が実施している対策が利用者としての期待に即した内容となっているかをご契約、ご利用前に確認し、適切なクラウドサービスを選択する必要があります。

この確認を適切に実施していただくため、ガイドラインにより示される安全対策に関し、マイクロソフトが講じている対策の実施状況等を第三者監査の結果等を根拠とし「マイクロソフトが講じる安全管理措置について(想定されるリスクとリスクに対応するための製品・機能)」にまとめています。

サービス利用者が講じるべき項目について
クラウドサービスプロバイダー側で基盤となるインフラや物理施設等に十分な安全対策が実施されていても、お客様がリスクに対して適切なサービスが利用されていなければそこにセキュリティ上の問題が発生します。

たとえば適切なID管理や不正なアクセスへの対応や権限の管理、内部不正などはそれらの例となりますが、そのため想定されるリスクに対して有効な対策を講じることが可能なサービスを「利用可能なマイクロソフトの製品・サービスに関する情報(コントロールマッピング)」にまとめ、お客様が適切なサービスを選択しやすい環境となるようデータ提供しています。

本リファレンスの見方について
本リファレンスでは「コントロールマッピング」としてガイドラインでの要求事項に対し、利用可能なマイクロソフトの製品・サービスに関する対応状況と関連情報を整理しております。また「想定されるリスクとリスクに対応するための製品・機能」として、ガイドラインで示されているリスクシナリオに対し、マイクロソフトが講じる安全管理措置によってリスクの低減が可能なMicrosoft製品・機能を整理しております。


本リファレンスを参考にガイドラインを遵守し、医療機関がDXを推進するために必要となるゼロトラストやクラウド化、AI活用などの検討材料として活用いただける事を願っております。

そして、マイクロソフトとしましては今後もすべては患者様の為にという思いで皆様が安心・安全に医療情報を活用できるようクラウド事業者としてご支援したいと考えております。

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参考文献

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Microsoft Azureのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)活用による医薬品開発やゲノム解析の効率化・加速化   http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/09/12/microsoft-azure-high-performance-computing/ Thu, 12 Sep 2024 01:13:14 +0000 医薬品開発に係る各種計算、シミュレーションにはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を実現するIT基盤が必要不可欠であり、より柔軟にリソースが提供可能なクラウド上での利用が注目されています。
クラウドベースのHPC環境はオンデマンド性、スケーラビリティ、AI等の最新技術との連携等、これまでない様々なメリットを提供可能です。
既に国内外の製薬企業様や研究機関様において、化合物のスクリーニングやゲノム解析の期間短縮にMicrosoft AzureのHPCソリューションが活用されており、新薬開発プロセスの改善や、迅速な医療への応用に繋がる基盤構築が実現されております。
今後はHPCと量子コンピューティングとの統合や研究のオープン化等が期待され、次世代の研究開発をリードするための重要な鍵となる要素と考えられます。

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Executive Summary 

  • 医薬品開発に係る各種計算、シミュレーションにはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を実現するIT基盤が必要不可欠であり、より柔軟にリソースが提供可能なクラウド上での利用が注目されています。 
  • クラウドベースのHPC環境はオンデマンド性、スケーラビリティ、AI等の最新技術との連携等、これまでない様々なメリットを提供可能です。 
  • 既に国内外の製薬企業様や研究機関様において、化合物のスクリーニングやゲノム解析の期間短縮にMicrosoft AzureのHPCソリューションが活用されており、新薬開発プロセスの改善や、迅速な医療への応用に繋がる基盤構築が実現されております。 
  • 今後はHPCと量子コンピューティングとの統合や研究のオープン化等が期待され、次世代の研究開発をリードするための重要な鍵となる要素と考えられます。 

1. ゲノム解析、創薬領域で爆発的に増大する計算需要 

    昨今アンメットメディカルニーズが高まる一方で、製薬企業が新薬を開発する期間、費用は年々増加の一途を辿っています。具体的には、国内では約9~16年もの時間と、数百-数千億円が必要と言われています [1][2]。さらにそれだけ費やしても、新薬の開発の成功率は約23,000分の1しかないと言われています。可能な限り開発期間、コストの両方を押さえながら革新的な新薬を開発し続ける必要があります。 

    医薬品開発において、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)はゲノム解析、スクリーニング、分子動力学シミュレーション等、様々な計算リソースとして利用されてきました[3]。そして昨今では、その膨大な計算量に対して柔軟に対応可能なパブリッククラウド上でのHPC活用が検討、採用されるケースが増加しております[4]。 

   昨今、特にゲノム解析と創薬領域において、医療技術やバイオテクノロジーの進化に伴い、解析の計算量、データ量が急速に増加しています。本解析処理では、単なる統計データや診療記録に留まらず、ゲノムシーケンスデータやバイオマーカー情報、分子構造データなど、きわめて多様でかつ複雑なデータを扱う必要があります。これらのデータを解析し、有用な知見を得るためには、大規模な計算能力が必要とされます。特に創薬分野とゲノム解析領域における計算需要が増大しています[6]。 

創薬分野における計算需要 

    創薬のプロセスは、初期段階の化合物スクリーニングから始まり、その後の薬理試験や臨床試験を経て、新薬が開発されるという一連の流れを辿ります。この過程においては、非常に多くの化合物を対象に、その生物学的な効果や副作用を評価していきます。実際には数百万から数億に及ぶ化合物を対象にシミュレーションを行い、その中から有望な候補を絞り込むために、膨大な計算リソースが必要になります[7]。 

    従来は、これらのプロセスの多くが実験室で行われていましたが、実験には時間とコストがかかり、その数にも限界があるため、近年ではHPCやAIを活用し、シミュレーションとデータ解析によって効率的にスクリーニングを行うアプローチが主流となりつつあります。分子動力学シミュレーションや量子化学計算を駆使し、分子の構造や相互作用を精密に解析することで、実験では捉えきれない微細な変化を予測し、候補化合物の絞り込みを迅速に行うことが可能になります [8][9]。 

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図 1 創薬開発におけるスクリーニング処理 

ゲノム解析分野における計算需要 

    一方、ゲノム解析の分野でも、次世代シーケンシング(NGS)技術の発展により、個人の全ゲノム解析が可能になりつつあります。全ゲノム解析とは、ヒトのDNA全体を解析するもので、そのデータ量は膨大です。たとえば、ヒトゲノムには膨大な数の塩基対が存在し、その全てを解析するには大規模な計算リソースが必要です。このような膨大なデータを処理し、解析結果を得るためには、従来のコンピュータ環境では対応が難しくなってきています。 

    ゲノム解析は、遺伝子発現のパターン解析、エピジェネティクス研究、遺伝子関連疾患の解明など、多岐にわたる解析を必要とします。これらの解析には、精緻なアルゴリズムと膨大な計算パワーが要求され、また、解析結果を迅速に提供するための高速処理も求められます。クラウドベースのHPCソリューションは、こうした高度な要求に対応するための強力な基盤になり得ることから、その活用が注目されています [9][10]。 

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図 2 ゲノム解析の流れ

2. 近年のトレンド 

    近年、創薬やゲノム解析の分野においてクラウドHPCの活用が進んでいる背景には、クラウドコンピューティング技術の進化とその利便性、コスト効率の高さがあります。これに加え、これらの分野における計算需要が急激に高まっていることも、大きな要因になっています。 

    従来のオンプレミス環境でのHPCは、初期導入コストが高く、維持管理にも多大な労力を必要とするため、特に中小規模の研究機関や企業にとっては大きな負担となっていました。しかし、クラウドベースのHPCは、こうした負担を大幅に軽減します。オンデマンドで必要な計算リソースを利用できるため、初期投資が不要であり、さらに解析ニーズに応じてスケーラブルな計算環境を構築することが可能です。これにより、プロジェクトの規模や進捗に応じて柔軟にリソースを調整できるため、効率的な研究開発が可能になります。また、クラウド環境では、最新の計算リソース(CPUのみならずGPU、FPGAなど)の調達が容易であることから、計算の速度の向上も期待できます[5][11]。特に、AIや機械学習技術との連携が容易であり、これにより、従来の手法では難しかったデータ解析やパターン認識が可能になっています。 

    さらに、クラウドは、地理的に分散した研究チームがリアルタイムでデータにアクセスし、共同で研究を進めることができるため、国際的な共同研究が容易に行えるようになります。クラウドHPCは、データの保存と管理にも優れており、大規模なデータセットを効率的に扱うことが可能です。これにより、ゲノム解析におけるビッグデータの処理や、創薬における大規模な化合物ライブラリの管理が容易になっています[9]。 

    こうしたクラウドHPCの利点は、創薬とゲノム解析の両分野において広く受け入れられ、今後もその利用が拡大することが予想されます。 


3. 創薬・ゲノム解析において求められるクラウドサービスとその効果 

クラウドベースのHPCやその他サービスは、特に創薬とゲノム解析の分野において、その多様な利点が評価されています。主なメリットとして、以下の点が挙げられます[12]。 

  • 計算需要にオンデマンドで対応: 必要なときに必要なだけの計算リソースを利用できるため、研究の進行に合わせて柔軟にリソースを調整できます。これにより、プロジェクトの進行を遅らせることなく、計算資源を効率的に活用できます。 
  • 高いスケーラビリティ: クラウド環境では、プロジェクトの規模に応じて計算リソースをスケールアップ・スケールダウンできるため、大規模な計算が必要な場合でも短期間で大量のリソースを確保することが可能です。これにより、研究のスピードが大幅に向上します。 
  • 個別ニーズに即した開発環境: クラウドHPCでは、研究者のニーズに応じてカスタマイズされた計算環境を構築することが可能です。例えば、特定のアプリケーションや解析ツールを組み込んだ環境を簡単にセットアップできるため、研究者は自分たちの研究に最適化された環境を手軽に構築し、作業を進めることができます。これにより、導入や設定にかかる時間を削減し、研究に集中することが可能となります。 
  • 最新の計算リソースが利用可能(CPU/GPU、FPGAなど): クラウドHPCでは、最新の計算技術が常に利用可能です。特に、GPUやFPGAといったハードウェアアクセラレータを活用することで、大規模なデータ解析や複雑なシミュレーションを高速かつ効率的に実行できます。これにより、研究の質が向上し、成果がより迅速に得られるようになります。 
  • AI連携、Data連携: クラウド環境では、AI技術との連携が容易であり、機械学習やディープラーニングを活用した高度なデータ解析が可能です。従来の手法では難しかった洞察や予測が可能となり、研究の方向性を大きく広げることができます。また、クラウド上でのデータ連携により、異なるプロジェクト間でのデータ共有がスムーズに行えるため、効率的な研究開発が可能となります。 
  • CICDを実現する開発プラットフォームを活用することで、正確なプロジェクト管理、高速な開発ライフサイクル、自動テストによるヒューマンエラーの削減等にも寄与することが可能です。Microsoftからは、Azure DevOpsやGitHubといった複数のプラットフォームを提供しています。 
  • 統合認証/セキュリティ基盤で社内外の連携を促進: クラウドHPCは、セキュリティ対策が強化されており、特に医療データやゲノムデータのような機密性の高いデータを安全に取り扱うことが可能です。統合認証基盤により、異なる組織やチーム間での安全なデータアクセスが実現し、共同研究を円滑に進めることができます。 
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図 3  クラウドベースのAIサービスやデータを活用して解析業務を効率化 

    Microsoft Azureは、創薬やゲノム解析など、ヘルスケア分野に特化したHPC基盤を提供しています。AzureのHPCサービスは、CycleCloud[13]やAzure Batch[14]といったツールを通じて、研究者が必要とする計算リソースを迅速にプロビジョニングし、効率的に利用できる環境を提供しています。これにより、研究者は物理的なインフラの制約を受けることなく、大規模な計算をクラウド上で自由に実行することができます。 

図 4 ゲノム解析、創薬解析

    Azureは、AIやビッグデータとの連携に優れており、研究プロセス全体を支援する統合プラットフォームを提供しています。例えば、ディープラーニングを活用したゲノムデータの解析や、自然言語処理を用いた文献情報の解析など、多岐にわたるAI技術を組み合わせることで、より深い洞察を得ることができます。また、Azure上でのデータ保存と管理は、厳格なセキュリティ基準に準拠しているため、研究データの保護と共有が安心して行えます。 

    さらに、Azureは、分子動力学(MD)などの計算化学アプリケーションを統合した基盤の提供も計画しており、これにより、研究者はクラウド上で包括的な計算環境を利用できるようになるでしょう。これらAzureにおけるHPCサービスの充実により、創薬やゲノム分野でのクラウドHPC活用が日々増加しており、研究開発の基盤として不可欠な存在となっています[16]。 


4. 活用例 

クラウドHPCの活用は、国内外の多くの研究機関や企業で成功を収めており、その有効性が実証されています。以下に、創薬とゲノム解析の分野での具体的な事例を紹介します。 

創薬分野での実例 

    欧州に本社を構える大手製薬会社は、クラウドHPCを活用して新薬開発のプロセスを大幅に効率化しました。従来、数ヶ月を要していた化合物スクリーニングのプロセスが、クラウドHPCの導入によりわずか数日で完了するようになりました。このプロジェクトでは、数億の化合物を対象に、分子動力学シミュレーションを実行し、AIを用いてデータ解析を行うことで、有望な候補を迅速に絞り込むことができました [16]。 

    特に注目すべき点は、クラウドHPCのスケーラビリティを活かし、大量の計算リソースを短期間で動員できたことです。これにより、開発サイクル全体が短縮され、製薬会社は新薬の市場投入を大幅に早めることができました。さらに、クラウドHPCを利用することで、研究者はより創造的なアプローチを採ることができ、結果として開発成功率の向上にもつながっています[17]。 

ゲノム解析分野での実例 

    日本では政府主導で大学、研究機関との連携により、クラウドHPCを利用して大規模なゲノム解析プロジェクトを推進しています。このプロジェクトでは、数十人分の全ゲノムデータを解析する必要があり、そのデータ量は数ペタバイトにも及びます。従来のオンプレミス環境では、この規模のデータを処理するのは非常に困難でしたが、クラウドHPCを活用することで、データの迅速な処理が可能となり、解析結果を短期間で提供し医療への活用を促進する基盤構築を進めています[18]。 

    また、クラウド環境を活用したことで、国内外の複数の研究チームがリアルタイムでデータにアクセスし、共同で解析を進めることができます。これにより、研究プロジェクトの効率が大幅に向上し、国際的な協力体制の下で、迅速かつ高精度な解析を実現することができます。このような活用が可能になれば、クラウドHPCがゲノム解析の分野でいかに強力なツールであるかを示すものであり、データ解析の可能性を大きく拡大します。 

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図5  Azure HPCを活用するための構成例 

5. 今後の展望 

    クラウドHPCの利用は、今後もヘルスケア分野での重要性を増していくことが予想されます。特に、AI技術やビッグデータ解析の進展に伴い、クラウドHPCはこれらの技術を支える基盤として、研究開発の効率化と革新を促進する役割を果たしていくでしょう。加えて、今後期待される分野では、量子コンピューティングの実用化が挙げられます。量子コンピューティングは、従来のコンピューティング技術では不可能だった高度な計算を可能にし、創薬やゲノム解析の分野に革命的な変化をもたらすと期待されています。クラウドHPCプラットフォームに量子コンピューティングが統合されることで、これまでの研究開発の枠を超えた新たな可能性が広がるでしょう。 

    また、クラウドHPCの普及は、研究のオープン化にも寄与すると考えられます。クラウドを活用することで、研究成果をより広範なコミュニティと共有し、協力して研究を進めることが容易になります。これにより、異なる分野の知識や技術を融合させた革新的な研究が進展し、科学全体の発展に寄与することが期待されます。特に、国際的な研究プロジェクトにおいては、クラウドHPCを利用することで、地理的な制約を超えてリアルタイムでのデータ共有と解析が可能となり、グローバルな研究協力が促進されるでしょう。これにより、世界中の研究者が共同で取り組むことで、より迅速かつ大規模な研究が可能となり、科学の進展に大きく貢献することができます。 

   今後、クラウドHPCの活用が加速する中で、研究者にとって重要なのは、この技術を効果的に使いこなすスキルの習得です。クラウドHPCの特性や操作方法を理解し、適切に利用することで、研究の効率化と精度向上が図れます。特に、複雑な解析やそこで生成された大量のデータを扱う場面では、クラウドHPCの効果的な利用が研究の成否を左右することになることが予想され、また、クラウドHPCのスキルを習得することで、研究者自身のキャリアにもプラスの影響を与えることが予想されます。新しい技術を取り入れることで、研究の幅が広がり、革新的なアプローチを採用することが可能になります。 


6. 最後に 

    ヘルスケア領域におけるクラウドHPCの活用は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。創薬やゲノム解析の分野では、膨大なデータを迅速かつ精緻に解析するための計算資源が求められており、クラウドHPCはそのニーズを満たすための理想的なソリューションです。クラウドHPCを活用することで、研究のスピードと効率を向上させ、革新的な成果を生み出すことが可能となります。 

    今後も、クラウドHPCはさらなる進化を遂げ、AIや量子コンピューティングとの連携が進むことで、より高度な解析とシミュレーションが可能になるでしょう。研究者は、これらの新技術を積極的に取り入れ、クラウドHPCを効果的に活用することで、次世代の研究開発をリードしていくことが期待されます。 

参考文献 

  1. くすりの開発, くすりの開発 | くすり研究所 | 日本製薬工業協会 (jpma.or.jp) 
  1. 医薬品産業ビジョン2021, 000831974.pdf (mhlw.go.jp) 
  1. Perspective of drug design with high-performance computing, Perspective of drug design with high-performance computing – PMC (nih.gov) 
  1. Pharma companies are counting on cloud computing and AI to make drug development faster and cheaper, Pharma companies are counting on cloud computing and AI to make drug development faster and cheaper | ZDNET 
  1. Microsoft announces collaboration with NVIDIA to accelerate healthcare and life sciences innovation with advanced cloud, AI and accelerated computing capabilities, Microsoft announces collaboration with NVIDIA to accelerate healthcare and life sciences innovation with advanced cloud, AI and accelerated computing capabilities – Stories 
  1. HPC Market Update 2024, Hyperion-Research-SC23-Briefing-Novermber2023_Combined.pdf (hyperionresearch.com) 
  1. 理研創薬・技術基盤プログラム, https://www2.riken.jp/dmp/cli_dev.html 
  1. Introducing two powerful new capabilities in Azure Quantum Elements: Generative Chemistry and Accelerated DFT, Introducing two powerful new capabilities in Azure Quantum Elements: Generative Chemistry and Accelerated DFT – Microsoft Azure Quantum Blog 
  1. 国際連携によるがん全ゲノムの大規模解析、理科学研究所, 国際連携によるがん全ゲノムの大規模解析 | 理化学研究所 (riken.jp) 
  1. ゲノム解析とは、製品評価機構, ゲノム解析とは? | バイオテクノロジー | 製品評価技術基盤機構 (nite.go.jp) 
  1. DRAGEN二次解析、イルミナ社, https://jp.illumina.com/products/by-type/informatics-products/dragen-secondary-analysis.html 
  1. Azureでのハイパフォーマンスコンピューティング, https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/architecture/topics/high-performance-computing 
  1. Azure CycleCloudについて, https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/cyclecloud/concepts/core?view=cyclecloud-8 
  1. Azure Batchについて, https://azure.microsoft.com/ja-jp/products/batch 
  1. Introducing Azure Quantum Elements, https://youtu.be/JkQGM5ZuXO4 
  1. Accelerating Drug Discovery with Supercomputing Scale Biomolecular Simulations on Azure, Accelerating Drug Discovery with Supercomputing Scale Biomolecular Simulations on Azure – Microsoft Community Hub 
  1. Preparing for future health emergencies with Azure HPC, Preparing for future health emergencies with Azure HPC | Microsoft Azure Blog | 
  1. 厚生科学審議会科学技術部会全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会, 厚生科学審議会科学技術部会 全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会 |厚生労働省 (mhlw.go.jp) 

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【PHR 普及推進協議会】PHR 座談会第 2 回「女性の生活に寄り添う PHR サービス」 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/07/16/phrsyposium_phr-services-02/ Tue, 16 Jul 2024 03:10:53 +0000 個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータであるPHR(パーソナルヘルスレコード) 第2回の座談会のテーマは、「女性の生活に寄り添うPHRサービス」。女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックサービスを展開する株式会社エムティーアイとシミックホールディングス株式会社の社員4人が参加し、女性のPHR活用に向けた課題や展望について語り合いました。日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長 大山訓弘も聞き役として座談会に参加しました。

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座談会集合写真
(左から)關まり子・那須理紗・帆足和広 ・藤岡由希・難波美智代・ 大山 訓弘(敬称略) 

個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータである PHR(パーソナルヘルスレコード) 第2回の座談会のテーマは、「女性の生活に寄り添う PHR サービス」。女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックサービスを展開する株式会社エムティーアイとシミックホールディングス株式会社の社員 4 人が参加し、女性のPHR活用に向けた課題や展望について語り合いました。日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長 大山訓弘も聞き役として座談会に参加しました。 

【座談会参加者】 

  • 難波美智代 一般社団法人シンクパール代表理事/ PHR 普及推進協議会理事 
  • 那須理紗  株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部ルナルナ事業部事業部長 
  • 帆足和広  株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部電子母子手帳サービス兼母子モ株式会社取締役 
  • 藤岡由希  シミックソリューションズ株式会社マーケティング部部長 
  • 關まり子  シミック株式会社臨床事業本部 

【聞き手】 

  • 大山訓弘  一般社団法人PHR普及推進協議会理事・広報委員長 /日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長


生理日管理アプリを提供 

難波:まずは皆様の事業内容についてお聞きしたいと思います。 

座談会の様子1
株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部ルナルナ 事業部事業部長 那須理紗

那須:株式会社エムティーアイでは、2000 年に従来型携帯電話のガラケーで女性の健康情報サービス「ルナルナ」を生理日管理ツールとしてスタートさせました。現在は、スマートフォン向けに「ルナルナ」を提供しています。生理日管理をはじめとした女性のヘルスケアサービスを事業のテーマに置いていますね。 

弊社が提供しているのは、エンドユーザー向けの「ルナルナ」だけではありません。 17 年には、ルナルナに記録された生理日や基礎体温などを診察時に医師のパソコンやタブレットなどで閲覧できるサービス「ルナルナメディコ」を始めました。「ルナルナメディコ」は全国で累計約 1,000 の施設に導入いただいています。 

このほか、グループ会社では法人向けにオンライン診療とオンライン相談を通じて、働く女性の健康課題改善をサポートするフェムテックサービス「ルナルナオフィス」も提供しています。 

帆足:株式会社エムティーアイのグループ会社である母子モ株式会社では、母子手帳アプリ「母子モ」や、自治体の子育て事業のデジタル化を支援する「子育て DX®︎」を提供しています。母子モは 2015 年から提供しており、600 を超える自治体にご活用いただいています。 

子育て DX®︎ は、予防接種や乳幼児健診など、妊娠~出産~子育て期に発生する業務のデジタル化を支援する事業です。紙運営による手間が発生しやすい住民や自治体職員の負担削減につながっており、全国約 170 の自治体に使っていただいています。 


健康通帳アプリをリリースする予定 

藤岡:シミックソリューションズ株式会社では、パーソナルデータを同意のもと、統合・蓄積・提供できる健康通帳アプリ「 my melmo (マイメルモ)」をストア申請中で、 2024 年 4 月頃にリリースされる予定です。 

my melmo は、自治体や企業が複数のアプリをつなぎ合わせ、課題解決につながるデータをカスタマイズできる仕組みです。例えば、自治体の保健師さんが住民の方に適切なタイミングで適切なフォローができるよう、弊社のグループ会社の持つ電子上のお薬手帳やワクチン接種記録といったデータを組み合わせられます。 

my melmo が大切にしているのは、「本人によるデータの所有」です。アプリのデータは通常、事業者側が所有権を持っているケースが多いのですが、my melmo はデータ提供者本人が所有権を持っており、アプリ提供者のシミックも勝手にデータを解析できません。弊社は、データ提供者が第三者にデータを共有することで、何らかのインセンティブを享受できる仕組み作りを目指しています。 

關:シミックグループでは、my melmo を情報基盤とした社内の女性社員が仕事やライフプランのバランスを保ちながら働き続けられるプロジェクトを進めています。本日、プロジェクトの詳細についてお話できれば幸いです。 


ヘルスケアニーズの変化と現状は? 

難波:ありがとうございます。続いて、提供するサービスから見える女性のヘルスケアニーズの変化と現状についてお伺いしたいと思います。エムティーアイさんはいかがでしょうか。 

那須:生理日管理を筆頭に女性のヘルスケアについては以前、クローズドで、口に出してはいけない雰囲気がありました。そのせいか、ルナルナをキャリア携帯のサービスプラットフォームで提供を始める時もなかなか承認が下りませんでしたね。 

しかし、ここ 20 年で女性の社会進出も進み、女性がパフォーマンスを発揮するためにヘルスケアの問題をどう解決するかといった人々の関心が高まってきました。また、生理日に関連したPMSなどのカラダの変化を女性自身が管理・把握したいといった新しいニーズも出てきたと思います。 

とはいえ、義務教育においても生理日前後のホルモンバランスの変化といった女性の体に関する知識について知る機会がないのが実情です。それを踏まえ、今後は、 PHR 管理の前提となる女性の体の知識について啓発しながら PHR サービスを展開していくことが求められると思います。 

帆足:女性のヘルスケアニーズという観点では、 2015 年に母子モを始めた当初、自治体側の反応は芳しくありませんでした。クラウドサービスのセキュリティに関する理解が浸透していなかったこともあり、個人情報取り扱いへの抵抗が自治体側にあったためです。 

今では、子育て世帯への支援を巡るニーズの高まりを受けて、自治体の中でも「適切なデジタルデータがないと適切な支援が届けられない」といった意識を持つ人が増え始めています。こうした自治体側の意識の変化は、コロナ禍以降に顕著ですね。 

ただ、現場の保健師さんは必ずしもデジタルツールの活用になじ みがある人が多いわけではありません 。そのため、ヘルスケアニーズの高まりとは裏腹に、うま く支援が届けられていない現状があります。そうした現状の打開策として、 PHR の活用という副次的なニーズが出てきているのではないでしょうか。 


行政手続きは紙ばかり 

難波:自治体もコロナ禍で新型コロナウイルスワクチン接種証明書のデジタル化を通じて、デジタル化が便利だなと実感できたと思いますね。シミックさんはいかがでしょうか。 

座談会の様子2
シミックソリューションズ株式会社 マーケティング部部長 藤岡由希 

藤岡:ユーザー側のニーズについては、子育てに従事する母親として、自治体サービスを利用する1人のユーザーという視点で語らせていただきたいと思います。 

私が行政とのやり取りで感じたのは、行政手続きの煩雑さです。行政手続きは紙ベースなので、1つの申請につき、書類を5枚ぐらい書く必要があるんですね。これは、個人の目線でもかなり負担だと感じました。 

その点、 PHR を活用したデジタル化は、今のスマホ世代の母親から見てもニーズが高まっているんじゃないかと思います。 

当然、国や自治体も、そうしたニーズを見過ごしているわけではありません。弊社がシステム全体のコンサエルティングを手がける北海道留寿都村、蘭越村のように、母子保健業務のデジタル化に取り組む自治体も出始めています。しかし、事業で取得した母子保健情報を医療現場でどう使うかという見通しは、まだまだ立てられていないように感じます。 

データをどう医療現場に活用するかというルート作りもしなければ、 PHR サービスの全国展開に時間がかかると思いますので、われわれとしては、複数のステークホルダーの意見を巻き取りながら、事業を進めていきたいと考えています。 

難波:子育ての母親にヘルスケアのニーズが発生する理由について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。 

藤岡:実体験に基づくと、保育園では、紙に子育ての情報を記入する機会が多いためです。実際、子供が病院を受診する度に病名と薬の情報を保育園指定の紙に記入するほか、予防接種の記録を書き写した母子手帳を保育園に提出します。 

会社で働いている女性にとって、手書きでの転記は、非常に煩わしいですね。お母さんの意志で第三者にお子さんの情報をリアルタイムに共有できる環境があれば、子育ての負担が減ると思います。


更年期症状の相談先がない 

難波:關さんは社内の女性を対象にしたプロジェクトを進められているとのことですが、その詳細についてお話いただけますでしょうか。 

關:プロジェクトは、更年期症状を抱える女性をトラッキング(追跡)するアプリの開発企業のご協力を得ながら、トライアルで進めています。トライアルのプロジェクトは、my melmo を使ってご自身の健康状態を入力する内容で、アンケート調査も実施しています。 

アンケート調査から見えてきたのは、更年期症状をお持ちの方の相談先がわからないという課題です。弊社はヘルスケア企業なので、一般的な企業と比べて「相談先がある」と回答される割合が高かったものの、結果全体を見ると、どこに相談して良いかわからないという方が多くいらっしゃいました。 

プログラムを通じて、育児休業制度をはじめとする福利厚生が社内に浸透しきっていないという課題も判明しました。そうした課題を踏まえると、出産・子育てに関する福利厚生へのニーズをくみ取るために、現場と人事部との連携も必要だと感じています。 


PHR サービスの好事例はどう作る? 

難波:女性の PHR の有効活用に向けては、まず社内での施策展開が好事例になっていくと思いますね。その点、フェムテックサービスを展開する皆様にご意見を頂戴できればと思います。 

座談会の様子3
シミック株式会社臨床事業本部 關まり子 

關:弊社では、生理痛の症状といった PHR を人事部や医療機関に直接提供できる仕組みを作りたいと考えています。 

機密性の高い PHR を第三者に共有できれば、現場の上長に逐一相談する必要がありません。生理休暇も取りやすくなるでしょう。 

現状では、社内の生理休暇の取得率は、ほぼゼロの状態です。取得状況が良くないのは、生理休暇を取得する際に、生理痛の症状や生理痛が始まった時期などの情報を上長に伝えないといけないためですね。 

性別に問わず、グローズドな環境で生理痛の症状を上長に伝えるのは、容易ではありません。PHR を活用すれば、そうした問題は解決しやすくなるのではないでしょうか。 


データを収集するうえでの工夫とは? 

難波:健康管理を組織の問題にするうえでは、データの可視化が必要です。その点、 PHR の貢献度は大きいと思います。 

とはいえ、データを収集する中でさまざまなご苦労があったかと思います。データを収集する、集約するうえでの工夫をお聞かせいただけますでしょうか。 

那須:BtoC サービスのルナルナでは、ユーザーに情報を入力するメリットをご理解いただくのが重要だと思います。例えば、過去の記録をもとに生理日や排卵日が予測できるのは、情報入力によるメリットだといえます。 

しかし、生理日や排卵日の予測精度は、長期間記録していただくことで上がります。そのため、ルナルナに継続して情報を入力していただくために、サービス内でのコニュニケーションを通じてユーザーに入力いただくモチベーションをいかに持っていただくかも重要だと考えています。 

難波:長くサービスを活用していただくために、UXをどのように工夫していらっしゃるんでしょうか。 

那須:例えば、生理日の記録では、入力までの動線を工夫して設計していて、生理予定日が近くなると、 TOP 画面のタップしやすいボタンを設置してあげるといった施策がありますね。 

ルナルナはミッションとして女性に寄り添うことをかかげているので、サービス上でも「寄り添い」を感じられるUXを重要視しています。具体的には、生理日を入力後に「今回の生理で変わった部分はないですか」と人の温もりが感じられる問いかけを行っています。 


難しい出口戦略作り 

難波:ユーザーとのコミュニケーションを作るうえでの課題や、データ取得に関する課題はありますか。 

座談会の様子4
株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部電子母子手帳サービス兼 母子モ株式会社取締役 帆足和広 

那須:データを取得した後の出口戦略を作るかは非常に 難しいと思っています。 

ユーザーが「データ入力で自分の生活が豊かになる」と期待して情報を入力しても、ベンダーが集めたデータを使って新たなビジネスを構築するのは容易ではありません。 

例えば、生理日管理のデータ量は膨大ですが、データ単体での事業化は難しい部分があります。お預かりしたデータをユーザーの許諾を得たうえでビジネスや社会貢献につなげていくという出口戦略づくりが一番の課題ではないかと思います。 

難波:PHR 普及推進協議会では、出口を明確に描いたうえでの入口の設計を大切しています。しかし、女性のヘルスケアデータは長期的な収集を必要とするので、アウトカム(成果)の設計が難しいと感じますね。 

那須:不確定要素が多いだけに、1 回で当てようとせずに、絶えず仮説を立てて検証するといったチャレンジが必要ではないかと思います。 

難波:子育て・出産の分野は入口と出口の設計がしやすいかなと思うのですが、帆足さんはその辺りいかがでしょうか。 

帆足:おっしゃる通りです。われわれが今、子育て DX®︎ で協力している福岡県北九州市では、妊娠届の DX 化に 23 年度から取り組んでいます。運用開始 1 年後に利用状況を調べたところ、調査に協力した 93.8 %の人が、デジタル化した妊娠届を利用していました。 

利用が進んだのは、「紙よりもデジタルの方が楽ですよ」とお伝えできているのが大きいと思いますね。 

地方自治体の取り組みはサービスを導入すれば便利になると思いがちです。しかし、実際は、体験するまでのハードルを低く設計したり、ベネフィットをしっかり伝えたりしないと、サービスが使われないという状態になると思います。 


ポイント付与でモチベーションを維持 

難波:自治体がデジタルサービスを提供するうえでは、市民にとってのメリットを示すのが重要だと思いますね。データ取得のモチベーション維持という意味では、シミックさんはいかがでしょうか。 

藤岡:弊社が協力する岐阜県養老町の健康管理アプリ事業では、データの共有時や活動量の目標達成時に地域通貨と交換できるポイントを付与することでモチベーションを提供しています。 

ユーザーのモチベーション維持を目的とした施策はポイント付与だけではありません。高精度の測定器を集めた測定会を月に 1 度開催しており、ユーザーが体組成や活動量の管理をデジタルだけで終わらせないようにしています。「デジタルで健康管理をしてください」と依頼して終わるのではなく、定期的に測定会を開催することで、データ収集のモチベーションが保たれるのではないでしょうか。 

難波:健康管理アプリ事業のステップアップを検討される中での課題はありますか。 

藤岡:健康管理アプリ事業は、自治体に応じた設計をする必要があるのが課題といえます。実際、クライアントの中には、高齢者のフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)や認知症に焦点を当てる自治体もあれば、母子健康を課題に位置付ける自治体もあります。 

自治体ごとに収集対象とするデータが違うので、医療機関や研究者と話し合いながら適切な指標を設定するのが重要です。 


PHR普及推進協議会に期待することとは? 
座談会の様子5
一般社団法人シンクパール代表理事/ PHR 普及推進協議会理事 難波美智代 

難波:最後に PHR 普及推進協議会に期待することを一言いただければと思います。 

那須: PHR 普及推進協議会の皆様には、PHR サービスの理想像を構築していただければと思います。 

現状では、PHR サービスのあるべき理想像が業界ごとに異なるのが実情です。そのため、明確な理想像を作っていただき、各社が事業化しやすい環境を構築していただけますと幸いです。 

帆足:PHR 普及推進協議会の皆様に期待するのは、PHRの普及をどうすれば早められるのかという点での議論の推進です。その観点で議論して施策に反映しなければ、PHR の利用が広がっていかないと思いますね。 

藤岡:弊社は、国や自治体で流通するPHRのデータベースの標準化に向けた協議を、PHR普及推進協議会と協力しながら進めていきたいと思います。協議会と一緒に進めたいのはデータベースの標準化だけではありません。PHR サービス事業者、協議会などと連携しながら、必要な PHR を事業者側から提供できる仕組みの整備も推進できればと考えております。 

關:弊社は、自社で提供しているPHRをほかのベンダーと共有できるプラットフォームの構築を目指しています。弊社としては、PHR 普及推進協議会にプラットフォームの構築を促していただければ幸いです。 

文:Omura Wataru 

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日本マイクロソフト主催 製薬業界向け AI 活用推進セミナー〜生成 AI が導く、ヘルスケア・製薬におけるイノベーションの加速〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/07/09/healthcare-pharmaceutical-seminar-0528/ Tue, 09 Jul 2024 07:45:47 +0000 2024 年 5 月 28 日に、日本マイクロソフト品川本社においてヘルスケア・製薬業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

日本マイクロソフトの AI ソリューション紹介に始まり、先進企業の取り組み、そしてパートナー企業によるソリューション発表で構成された本セミナーには多くの来場者が詰めかけ、ヘルスケア・製薬業界における生成 AI の注目度の高さを改めて実感する機会となりました。

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2024 年 5 月 28 日に、日本マイクロソフト品川本社においてヘルスケア・製薬業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

日本マイクロソフトの AI ソリューション紹介に始まり、先進企業の取り組み、そしてパートナー企業によるソリューション発表で構成された本セミナーには多くの来場者が詰めかけ、ヘルスケア・製薬業界における生成 AI の注目度の高さを改めて実感する機会となりました。



「マイクロソフトの製薬業界における取組と最新ソリューションについて」

日本マイクロソフト株式会社
医療・製薬営業本部長
清水 教弘

日本マイクロソフト株式会社 清水 教弘の発表の様子

オープニング セッションには日本マイクロソフト株式会社 医療・製薬営業本部長の清水 教弘が登壇。

まず、早期発見や創薬の促進といったアンメット メディカルニーズへの取り組みによって新たな価値創造を目指す製薬業界においては、PHR や RWE(リアルワールドエビデンス)を支える AI の活用が重要なポイントとなることを示します。

患者さんにサービスを提供するにおける、統合的な連携/分析プラットフォーム

そして清水は、生成 AI の活用事例として、Copilot による医療安全管理マニュアルからの情報の抽出と ChatGPT によるデータ構造の統一化を紹介。膨大な資料からのデータの検索や、医師の診断メモやウェアラブルデバイスで計測されたバイタルデータの FHIR 形式への変換など、身近な領域で生成 AI 活用が進んでいることが示されました。

続いて 5 月 27 日に日本マイクロソフトがリリースした「製薬企業向け Copilot for Microsoft 365 プロンプト集」が紹介されました。さまざまな職種で使える生成 AI のプロンプト例が掲載されており、日本マイクロソフトのホームページからダウンロードできます。

Copilot for Microsoft 365 活用シナリオ・プロンプト集 – 製薬業界のビジネスを加速する生成AIの活用法 – マイクロソフト業界別の記事

製薬企業向けCopiplt for Microsoft 365プロンプト集

清水は「創薬から臨床、製造、マーケティングまでさまざまな領域で、生成 AI が皆さまの業務を支援できると強く信じています。ぜひ生成 AI 活用を一緒に進めていきたいと考えています」と呼びかけて、オープニング セッションを終了しました。


「AI の価値ある取り組み方を成功させるためのノウハウ」

日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター
吉田 雄哉

マイクロソフトテクノロジーセンターの吉田 雄哉の発表の様子

日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンターの吉田 雄哉からは、AI プロジェクトを成功させるために重要なふたつのポイントについて解説が行われました。

まず吉田は、さまざまな Copilot 製品がリリースされていることで錯覚しがちなものの、Copilot は「コンセプト」であり、アプリケーション利用時の支援を行うものであること。そしてそれはマイクロソフト製品に留まらない、と会場に語りかけます。

吉田はマイクロソフト製品ではない固有の社内システムでも UI を Copilot に合わせることが重要であり、それによってユーザーにシームレスなサポート体験を提供できるとし、Copilot 開発を共通化できる開発パターン「Microsoft Copilot stack」を紹介しました。

ふたつめのポイントは、生成 AI 活用においては業務プロセス全体のデータ化が重要であり、DX の達成度合いが生成 AI の活用促進につながるという主張です。

業務プロセスのデータ化実現の図

吉田は、業務プロセスのデータ化が実現できれば、業務アプリケーションにプロンプトを埋め込むなど、生成 AI 活用の幅が広がることを示唆。そして、生成 AI を使いこなすためには通年通してやり続けることが重要であり、検証を重ねながら積み上げていくことで効果を最大化させられると強調。「そのためにはみんなの頭を変えていかなければなりません。これは文化の話なので時間がかかります」と、腰を据えた取り組みの重要性を語ってセッションを終了しました。


生成 AI 導入製薬企業様御登壇による事例紹介


「企業内における生成 AI 定着化のヒント」

小野薬品工業株式会社

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課 課長
田中 誠次朗 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
宗綱 葵 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
中村 哲文 氏

小野薬品工業株式会社様による発表の様子

このセッションでは、生成 AI を導入して業務改革を成功させている先進製薬企業による事例紹介が行われました。

田中氏によると、小野薬品では製薬業界でいち早く生成 AI 導入の検討を開始しており、2023 年 6 月には全従業員に ChatGPT 環境を開放、RAG を同年 7 月より検証開始。同年 11 月にサービス化し、16 のビジネスケースで展開をしました。現在は 40 のビジネスケースで利用されています。

田中氏は、インターネットの普及で後手に回った企業が衰退した姿を目の当たりにしてきた経験から、それに匹敵する激動をもたらし得る生成 AI には早期に対応しなければいけないという危機感があったと振り返ります。

ビジネスケースの整理と生成AI関連のサービス化施策の図

田中氏とともに対応にあたった宗綱氏によると同社では、生成 AI 関連のサービス化施策においては、3 つのケースに分けて対応を行っているそうです。

まず同社で開発した「OnoAI Chat」と呼ばれる標準的な生成 AI の活用で解決できそうなケースでは、ヒアリングやプロンプト作成支援を行う「30 分クイック ミーティング」と、コミュニティの形成や情報共有を目的とした「専用グループ チャット」のふたつのサポートを提供。
さらに高度なケースでは、文書を学習させた生成 AI「OnoAI Navi」により RAG の環境を提供し、グループ チャットによる情報共有や全社共通のチャット ボットによるサポートを実施しているそうです。

さらに同社では、Microsoft Power Platform のツール群による市民開発と生成 AI の組み合わせでさらなる業務効率化を実現しようとしています。宗綱氏からは Excel に入力された報告書に問題がないかどうかを生成 AI が判断し、Microsoft Power Automate のフローを回すことで自動的に回答が返ってくるシステムの事例が示されました。

続いて中村氏から、Copilot for Microsoft 365 の活用施策についての解説が行われました。同社では Copilot の活用推進プロジェクトを実施しており、そこから約 130 の有効事例が生み出されているとのこと。1 日約 1 時間半もの業務効率化を実現できている例もあるそうです。

最後に田中氏から「ビジネスケースに歩調を合わせること」「ビジネスの声を聞くために、日常に接点を持つこと」「自走するための支援をすること」の3 点が生成 AI 活用促進のポイントとして示され、セッションは終了となりました。


「社内向け生成 AI システムを短期間で開発・全社リリースし、定着させるために行ったこと」

第一三共株式会社
DX企画部 全社変革推進グループ 主査
朝生 祐介 氏

第一三共株式会社様による発表の様子

第一三共の朝生氏からは、同社の社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発・運用の概要に関する解説が行われました。

朝生氏は、大規模言語モデルの急速な進化と幅広い業務領域における活用の可能性、多様なモダリティへの技術応用の広がりを踏まえて「今後、生成 AI の積極的な活用が企業の競争力を維持するうえで不可欠になる」と考え、社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発を着想したそうです。

DS-GAI の開発は 2 フェーズに分けて進められましたが、特筆すべきはその開発期間の短さです。基本的な機能の全社リリースを行なったフェーズ 1 はわずか 1 ヶ月。フェーズ 2 においては、半年の間に次々と機能拡張が行われました。

DS-GAI開発の概要の図

システムの構築にあたって「機能は豊富にしつつ、誰もが使いやすいシステムを目指しました」と朝生氏。「開発を進めることも重要ですが、このような新しい技術を実際に成果に結びつけるためには、定着を促すための取り組みが非常に重要」であり、定着化のために多くのリソースを注いで対応してきたといいます。

その結果、DS-GAI の利用者アンケートでは 8 割以上が業務生産性・品質向上を実感しており、「既存業務の効率化だけにとどまらず、生成 AI によってできなかったことができるようになった」といった声も上がっているそうです。

最後に朝生氏は、DS-GAI の短期開発に寄与した要因として、「明確な経営戦略によって先進デジタル技術活用の位置付けが明確だったこと」「早期から生成 AI に関する技術的知見を蓄積していたこと」「Azure OpenAI Service の採用」「Azure に精通した開発パートナーの選定」「MVP(Minimum Viable Product)開発とアジャイル開発をフェーズごとに組み合わせたこと」を挙げます。

そして早期定着の要因としては、「毎月のように新機能の追加を行って、ユーザーのわくわく感を誘うことによってユーザーの興味関心を引き続けたこと」「システム開発と並行して早期定着を図るための啓蒙活動に幅広く取り組んできたこと」の 2 点であることを示して、セッションを終了しました。


「生成 AI 事業化支援プログラム-パートナー様との取り組みについて」

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員
パートナー事業本部 副事業本部長
エンタープライズパートナー統括本部長
木村 靖

日本マイクロソフト株式会社 木村 靖による日本マイクロソフトが提供する生成 AI 事業支援プログラムの紹介

木村はまず、日本マイクロソフトが提供する生成 AI 事業支援プログラムを紹介。このプログラムは、学習支援、構築や案件推進支援、有効なソリューションの横展開などを通して、生成 AI の活用に向けたビジネス機会の創出とスキルアップを提供するものです。

木村によると、本プログラムは 2024 年 1 月から 160 社のパートナー社とともに運営されており、半年ですでに 250 の事例が生まれているとのこと。木村は「協業を深めて、パートナー社からエンド ユーザーさまへの生成 AI のソリューション、サービスの展開を支援したい」と、パートナー社との共創を強調します。

そしてこれに続くセッションでは、日本マイクロソフトがまとめたヘルスケア業界向けの e-Book に掲載されているパートナー社のうち 4 社から、先進的なソリューションについての発表があることを伝え、ぜひ参考にしてほしいと会場に語りかけました。

日本マイクロソフト株式会社が提供する生成AI事業家プログラムの概要図

製薬業界向け最新eBook 最新生成AI導入事例&ソリューションを一挙にご紹介 (microsoft.com)


「パートナー企業登壇による製薬業界向け最新ソリューション紹介」


「TIS における生成 AI を活用した事例紹介 臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクト」

TIS株式会社
デジタルイノベーション事業本部
ヘルスケアサービス事業部 ファーマ&メディカルサービス部
セクションチーフ
嘉村 準弥 氏

TIS 株式会社 嘉村 準弥様による講演の様子

TIS の嘉村氏からは、生成 AI を活用した臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクトの紹介が行われました。

このプロジェクトでは、臨床試験のプロトコール文書の優先度の高い章に着目し、生成 AI を用いて文章生成を行おうとしているとのこと。長年製薬業界の統計解析業務を行ってきた同社だからこそ実現できるソリューションです。

このシステムは、試験実施概要書や参考文献の情報を Azure 上にアップすると生成 AI がドラフトを返送、人間による最終確認を経て完成稿を作成する構成。1 週間以内で環境を構築でき、学習済みモデルの生成 AI を使っているため、ただちに開発に着手できるそうです。

生成 AI を活用した臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクトの構成図概要

また、臨床試験の関連文書は形式に沿った記述を行う場面が多いため、プロトコールの章に応じて生成方法を使い分けているとのこと。嘉村氏は生成された文書の例を示して、「ルールベースや機械学習でここまで流暢な文章を生成するのは困難」と、生成 AI を使うメリットをアピールします。

新しい技術であるゆえに、評価の仕方や著作権の考え方などで議論を重ねていると嘉村氏。「今後は文書の種類を増やしてプロトコール以外の文章にもチャレンジしたい」と目標を語ってセッションを終了しました。


「三井情報バイオヘルスケアソリューション”MKI-DryLab”紹介」

三井情報株式会社
DX 営業本部 バイオヘルスケア営業部営業室
室長
小川 哲平 氏

三井情報株式会社様による発表の様子

三井情報の小川氏からは、バイオ ヘルスケア ソリューション「MKI-DryLab for Microsoft Azure」の紹介が行われました。MKI-DryLab for Microsoft Azure は生成 AI を使ったソリューションではありませんが、同社がこれまで取り組んできたライフサイエンス領域のデータ解析支援のノウハウが詰め込まれています。
サービスのひとつは Azure 上にユーザーのニーズに沿った計算解析基盤を迅速に提供する「MKI-DryLab Platform」、もうひとつはユーザーの課題を三井情報のスペシャリストが解決する「MKI-DryLab Consulting」です。

MKI-DryLab の概要図

小川氏は「研究用の開発環境だからこそ、セキュリティが重要」と述べ、MKI-DryLab のセキュリティ対策を解説します。クラウドサービスである Azure には強固なセキュリティが担保されていますが、さらに MKI-DryLab では人為的なエラーなども想定したセキュリティ オペレーション センター(SOC)が設けられているとのこと。SOC によってネットワークやシステムを 24 時間 365 日監視することで、セキュリティ脅威の検知やインシデントへの迅速な対応が可能となります。

小川氏は最後に「我々が長年培ってきたバイオヘルスケア技術とセキュリティの両面からお客さまの解析環境を支援いたします」と述べてセッションを終了しました。


「製薬企業向け AI を用いた SAS ソリューションのご紹介」

SAS Institute Japan株式会社
Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory Division
Sr. Business Solutions Manager
土生 敏明 氏

Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory
Sr. Industry Consultant
William Kuan 氏

SAS Institute Japan株式会社様による発表の様子

SAS の土生氏と Kuan 氏は、同社のライフサイエンス領域に使われているソリューションの紹介を行いました。その製品のうち、同社のプラットフォーム製品である「SAS Viya」は、パフォーマンス、生産性、信頼性が高い AI プラットフォームであり、また直近のリリースでは LLM のオーケストレーションや管理機能を追加したとの事です。

また Viya には Copilot 機能も今後搭載される予定であり、Azure AI Search や Azure OpenAI Service と連携して最適な返答を得ることができます。土生氏は、SAS プログラミングのコメントからの SAS コード生成機能、SAS プログラムのコード解析、プロシジャの例の提示やコードの最適化などの機能を挙げて説明。初心者であっても習熟した SAS プログラマーと同等のプログラムが書けるレベルを目指していると語ります。

製薬企業向け AIを用いたSASソリューションのご紹介の図

さらに同社では、LLM のプロンプト カタログの生成によってランダム性を排除する機能や、LLM の説明可能性を向上させて高品質な回答を生成する機能、LLM に関するガバナンス強化、チャットボックス機能の最適化など、SAS の持つナレッジと生成 AI の組み合わせにより、インダストリーに最適化したものを提供しようとしています。そして、将来的には臨床試験の分析と申請においても生成 AI の活用を見据えていると述べて、セッションを終了しました。


「富士通における生成 AI 活用の取り組み」

富士通株式会社
Healthy Living
瀬山 大祐 氏

富士通株式会社様による発表の様子

富士通の瀬山氏からは、生成 AI を活用した文書自動作成ツール「Digital Data Flow with AI」についての解説が行われました。Digital Data Flow with AI は、AI テクノロジーと医薬品開発におけるグローバル標準を取り入れたソリューションであり、Translate 社が提唱する Digital Data Flow と ICH M11 の標準化プロトコールに基づいて、蓄積したコンテンツ データから LLM による高精度かつ省力化した文書の自動作成が可能となります。

生成 AI を活用した文書自動作成ツール「Digital Data Flow with AIの概要図

Digital Data Flow with AI には 4 つの文書作成支援機能を組み合わせることでさまざまなユースケースに対応でき、さらにユーザーが指定したフォーマットのスタイルを維持しながら文書生成を行えます。

最後に瀬山氏は、ハルシネーションとデータ + プロンプト エンジニアリングへの取り組みの重要性を強調。ハルシネーション対策として RAG を使ってデータに基づいた出力を行うこと、プロンプト エンジニアリングでは複雑なタスクを単純なタスクに分割することの重要性を述べ、目的に応じて最適な技術を選択することでアウトプットの精度を上げられると説明しました。



こうして、3 時間にわたるセミナーが終了。クロージングでは日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 ヘルスケア統括本部長 大山 訓弘が事例講演の 2 社に謝意を伝えつつ、「共通していたのは IT のプロジェクトというより会社、ひいては業界にインパクトを与えていく思いだったのではいか」と感想を語りました。

またパートナー 4 社に向けては「Azure OpenAI Service は汎用的な部品。パートナー社の最後の料理があってこそ現場で使っていただける最終製品になる」と、さらなる共創を呼びかけました。

そして最後に「より良いヘルスケアのかたちへ」というスローガンを提示して、「パートナーさま、製薬企業の皆さまとパートナーシップを結び、最終受益者である患者さまのためにどんなことができるのかを念頭におきながら、ぜひご一緒させていただきたいと思います」と、より強固なつながりの構築を訴えかけて全セッションの終了を告げました。

IMG_3974

製薬業界における生成 AI 活用の最先端の情報に触れ、パートナー社による AI ソリューションの進化を目の当たりにした参加者にとって、とても有意義な 3 時間になったのではないでしょうか。

日本マイクロソフトでは引き続き、皆さまとともに製薬業界における生成 AI 活用の可能性を探求してまいります。興味をお持ちの方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。

ヘルスケア・製薬業界向け e-Book はこちらからダウンロードできます。

製薬業界向け最新eBook 最新生成AI導入事例&ソリューションを一挙にご紹介 (microsoft.com)
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Teams と電子カルテの連携によりコミュニケーションを活性化し、チーム医療を促進。社会医療法人愛仁会と明石医療センターが進める業務改革 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/26/innovation-by-aijinkai-and-akashi-medical-center-with-teams/ Wed, 26 Jun 2024 01:23:42 +0000 社会医療法人愛仁会は、1958 年に大阪市西淀川区の千船診療所を起源として設立。「貢献・創意・協調」をモットーとして、地域に密着した医療と介護事業を展開しています。
2024 年 6 月現在で急性期病院 4 施設、回復期病院 2 施設、介護施設 6 施設、健診センター 2 施設、看護専門学校 2 校を運営する同会では、近年の働き手不足、医療・介護需要の増加に対応するために、職員の働き方改革に取り組んでいます。

同会では、特定行為研修の実施や看護補助者育成事業などに積極的に取り組みながら、労働時間管理やタスク シフティング(業務の移管)などの改革を推進。同時に、デジタルの力による業務効率化にも力を注いでいます。
そのデジタル改革の一環として同会が開発したのが、Microsoft Teams と電子カルテを掛け合わせた新たな診療コミュニケーション ツールです。同会ではこのシステムをもとにして、コミュニケーションの活性化によるチーム医療の推進と業務の効率化を進めようとしています。

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社会医療法人愛仁会は、1958 年に大阪市西淀川区の千船診療所を起源として設立。「貢献・創意・協調」をモットーとして、地域に密着した医療と介護事業を展開しています。
2024 年 6 月現在で急性期病院 4 施設、回復期病院 2 施設、介護施設 6 施設、健診センター 2 施設、看護専門学校 2 校を運営する同会では、近年の働き手不足、医療・介護需要の増加に対応するために、職員の働き方改革に取り組んでいます。

同会では、特定行為研修の実施や看護補助者育成事業などに積極的に取り組みながら、労働時間管理やタスク シフティング(業務の移管)などの改革を推進。同時に、デジタルの力による業務効率化にも力を注いでいます。
そのデジタル改革の一環として同会が取り組んだのが、Microsoft Teams と電子カルテを掛け合わせた新たな診療コミュニケーション ツールです。同会ではこのシステムをもとにして、コミュニケーションの活性化によるチーム医療の推進と業務の効率化を進めようとしています。

社会医療法人 愛仁会
明石医療センター 院長
大西 尚 氏

社会医療法人 愛仁会
情報システム担当理事
明石医療センター 事務部 部長
中村 達也 氏

社会医療法人 愛仁会
愛仁会本部 情報システム部門 部長
田中 信吾 氏

満足して働ける職場環境を目指して、デジタルによる業務改革を推進

――明石医療センターについてお聞かせください。

大西 当院は兵庫県明石市にある一般病床 382 床(ICU 8 床、HCU 8 床、NICU・GCU 16 床)を有する急性期病院です。診療科目は 22 科あり、地域医療・救急医療・低侵襲医療(ロボット手術)・周産期医療を重点的に取り組んでいます。複数診療科の連携と多職種によるチーム医療を推進し、救急医療では、明石市を中心に 2023 年度は年間 5,936 台の救急車を受け入れました。また、周産期母子医療センターの認定のもと 24 時間体制で地域の周産期医療を担っています。低侵襲医療においては、ロボット手術・低侵襲手術支援センターを立ち上げ、da Vinci(ダヴィンチ)を用いたロボット手術を実施しています。

――貴会で DX を推進する背景や課題についてお聞かせください。

大西 私たちは地域に根ざした医療機関として安全で高度な医療を提供したいという思いを持っています。そして、それを実現するには職員の働き方改革は欠かせない要素のひとつです。医師をはじめとする医療スタッフが満足して働ける現場でなければ患者さまに良質な医療は届けられません。職員の満足度を向上し、患者サービスを充実させるために、当院ではデジタルの力に大きな期待を寄せています。

医療は、公定価格によって運営されているため、どうしても費用対効果に対して厳格にならざるを得ず、それがデジタル化の推進にはひとつの障壁となってしまいます。また、セキュリティや法規制への対応も大きな課題といえます。

社会医療法人 愛仁会
明石医療センター 院長
大西 尚 氏

そういった事情もあり、これまでは当院もデジタル化が進んでいるとは言い難い状況でしたが、近年は医師と管理職スタッフへのスマートフォン端末の配布、業務ツールとしての Office 365 の導入など、デジタルの力を取り入れた業務改革を進めています。さらにその動きを加速するために現在進めようとしているのが、電子カルテと Microsoft Teams を連携させたコミュニケーション ツールの導入です。

Teams 活用の機運を捉えて、チーム医療を促進するコミュニケーション ツールを開発

――このコミュニケーション ツール開発に至る経緯についてお聞かせください。

田中 当会では、2018 年に Office 365 を法人全体で導入し、全職員にアカウントを配布し、業務ツールとして活用していました。2020 年頃、新型コロナウィルス感染症の流行にともなう働き方の変化によって Teams の活用が急増するという動きがありました。この動きを分析した結果、Teams を活用することによって意思決定のプロセスが変化したという示唆を得られました。

中村 病院が機能分化するなかで、とりわけ明石医療センターのような急性期病院にはさまざまな諮問委員会が存在します。これまでは同じ場所に集まる必要があったのですが、コロナ禍を経て Teams の活用が進むなかで、リモート参加が可能になったり、Teams での資料共有を有効に活用したりしています。

社会医療法人 愛仁会
情報システム担当理事
明石医療センター 事務部 部長
中村 達也 氏

田中 そこで私たち IT 部門としても「コミュニケーションが変われば働き方が変わる」という考えのもと、Teams の活用範囲拡大に取り組むことにしました。コミュニケーションを円滑にしてメンバーの力を最大限業務に生かせる Teams は、チーム医療のコンセプトそのものです。ちょうど明石医療センターで電子カルテシステムの更新が予定されていたこともあり、電子カルテ端末のなかで Teams を使える仕組みをつくろうと、取り組みを進めた形になります。

――どのような機能を持っているのですか?

田中 Teams 上で患者さまの状態や治療方針を共有し、必要に応じて検査結果などを貼りつけ、困ったときはすぐチームに相談でき、その場にいなくてもチーム全員が治療に参加できる、また電子カルテ画面を共有してミーティングも可能といった機能を有しています。

これまでの情報共有の場といえば、カンファレンスやミーティングが中心でした。また対話や電話での情報伝達も多く、チームに情報が行き渡らない、情報伝達に時間がかかってしまうといった課題がありました。このツールによって、時間や場所、手段にとらわれないコミュニケーションを確立でき、チーム医療の促進と、業務の効率化、高度化に貢献できると考えています。

社会医療法人 愛仁会
愛仁会本部 情報システム部門 部長
田中 信吾 氏

また、セキュリティの観点から閉域ネットワークに置かれることが多い電子カルテシステムですが、近年はセキュリティにおける考え方や対処法が変化してきたことで、少しずつ外の世界とつなごうという動きが生まれてきました。このツールにおいても、電子カルテベンダーのオプション機能と Azure AD Premium1+Defender for Cloud Apps による制御、運用ルールの策定によってセキュリティを担保し、診療系ネットワークから安全に Teams を利用できる環境を構築しています。

中村 法人の情報システム担当理事であり、事務部長でもある私の立場からすると、セキュリティに対しては必要以上に気を配る必要がありました。それを解決できる手立てが得られたことで、プロジェクトを進めることができました。
当院では医師にはスマートフォンを配布しているのですが、それ以外のメンバーでも電子カルテ端末から Teams 会議に参加できるようになったのは大きなメリットだと思います。今後は急性期病院と転院先の医療施設との情報共有など、院外の医療連携にも活用していけるようになると、より便利に使えると感じています。

電子カルテ端末から Teams にアクセスしている画面


誰もが自然に使えるデジタル環境を追求し、働き方改革を前進させる

――導入の効果と今後の展開についてお聞かせください。

田中 いまは明石医療センターで先行導入してその効果を測っている段階なので、確実なデータが取得できているわけではないのですが、明石医療センターにおける導入後の Teams チャネルやチャットのメッセージ数は増加傾向にあります。
またチーム数にも増加が見られ、そのなかにはチーム医療に関連するチームがいくつか含まれているので、アーリー アダプター的なユーザー層では、電子カルテの情報を見ながらコミュニケーションを図るような活用が進んでいるのではないかと推察しています。
まずは明石医療センターで実績を重ねて、法人内の他の医療機関にも展開していければと考えています。

その先ですが、利用率の拡大とスマートフォンでの活用、Office 365 ソリューションや Teams アプリケーションとの連携などを考えています。
また、デジタルに忌避感を持つ職員に無理やり押しつけるような運用は避けたいと思っています。むしろ彼らが違和感なく使いこなせるような工夫を続けることで、いつか水道や電気のように、日常に欠かせないものとしてデジタルツールを捉えられるような環境を構築していきたいですね。

IMG_7526

――新しい技術への期待や、将来に向けた展望をお聞かせください。

中村 まだ当院では全職員にスマートフォンを支給できる状況ではありません。事務処理においてもすべてが電子化されているわけではなく、非効率な部分は多々残っています。デジタルの世界ですべての手続きが完結できる環境を目指したいと思います。

新しい技術といえば、ChatGPT の進化は目覚ましいですね。マニュアル検索の仕組みができあがれば、若手医師がいつでもアクセスできることで彼らの心理的安全性の確保にもつながると思います。事務的な使い方としては、カンファレンスやインフォームド コンセントの記録などにも活用できるのではないでしょうか。

田中 生成 AI に関しては大きな可能性を感じています。現在当会でも Azure OpenAI Service を活用した検証環境を構築しており、Copilot for Microsoft 365 についても導入検証を進めています。
まずは院内に多数存在するマニュアルを検索できる仕組みをつくりたいと考えています。さらに、診療行為のなかで発生する文章の作成支援や会議の要約システムなども構築していますので、それらの検証を通して活用方法を検討していく予定です。将来的には、Teams や電子カルテに組み込んでの活用や患者さま向けサービスなどへの展開も見据えています。

大西 IT 部門の尽力もあって、以前と比べるとずいぶん便利になり、働く環境も変わりました。今回導入されたコミュニケーション ツールによって場所を問わずに診療に参加できますし、画像を見るためだけに出勤するといったこともしなくて済むようになりました。

一方で私たち経営陣としては、医師の負担が大きい主治医制度の改革や保守的になりがちな職員の意識変革などにも取り組む必要があると考えています。職員がよりよいパフォーマンスを発揮して、患者さまによりよい医療を提供するためにも、デジタル環境の充実はもちろん、職員がやりがいを持って働ける環境を提供するために努力していきたいと思います。

各業界で新しい時代の働き方が模索されているいま、医療業界においても変革の意識を高める必要があります。そして、変革を進めるにはデジタルの力は欠かせません。予算編成の難しさやセキュリティといった壁を地道にクリアしながら、一歩ずつ働き方改革を進める社会医療法人愛仁会と明石医療センターの挑戦は、新たなコミュニケーションツールの開発という実績以上に、多くの医療機関の参考になるのではないでしょうか。

社会医療法人愛仁会、明石医療センターインタビュイー集合写真

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大阪急性期・総合医療センター・ソフトウエア協会様・日本マイクロソフト株式会社:医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に係る連携・協力に関する協定について http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/17/agreement_strengthening-security-dx-cooperation-for-healthcare/ Mon, 17 Jun 2024 11:28:11 +0000 大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会と日本マイクロソフト株式会社は、2024 年 6 月 3 日、連携協定 (以下、本協定) を締結しました。本協定は大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会及び日本マイクロソフト株式会社が相互に連携・協力を行い、医療におけるITセキュリティ環境の構築、働き方改革に資する業務効率化の推進及び未来の医療環境に資するデータ活用基盤の構築を行い、その取組事例を発信することにより、全国の医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に貢献することを目的としています。

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大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会と日本マイクロソフト株式会社は、2024 年 6 月 3 日、連携協定 (以下、本協定) を締結しました。本協定は大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会及び日本マイクロソフト株式会社が相互に連携・協力を行い、医療におけるITセキュリティ環境の構築、働き方改革に資する業務効率化の推進及び未来の医療環境に資するデータ活用基盤の構築を行い、その取組事例を発信することにより、全国の医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に貢献することを目的としています。

① 国際的なセキュリティ基準に合致したシステム環境での医療継続性の担保

  • 大阪急性期・総合医療センターの運用する病院総合情報システムについてマルウエア対策を含めたセキュリティ環境の整備を行う
  • 整備に向けてソフトウエア協会、日本マイクロソフト株式会社は実装時の技術支援の他、利用教育の実施等実運用を踏まえた環境整備の支援を行う
  • 大阪急性期・総合医療センターにおいて実施されたセキュリティ対策を日本国内のモデルケースとすべく全国の医療機関に向けた事例発信を行う

➁ 働き方改革に資する業務効率化の推進

  • 日本マイクロソフト株式会社から提供されるTeamsを中心とするM365サービスを活用した医療従事者の働き方改革の検討、実装支援、教育支援を行う
  • ソフトウエア協会は病院総合情報システムにおける安全なクラウドサービスの活用について適切は助言を行う
  • 大阪急性期・総合医療センターは医療従事者の働き方改革の改善について定性的、定量的な評価を行い2者と協力のもと全国の医療機関に向けた事例発信を行う

③ 医療機関におけるデータ活用の推進

  • 3者の協力のもと病院総合情報システムに格納されているデータ等を安全に活用し医療経営の効率化を図る仕組みづくりを行う
  • 生成AIの医療機関における活用についてセキュリティや倫理面を考慮した上での実証を行い、全国の医療機関に向けた事例発信を行う
医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に係る連携・協力に関する協定締結式での、大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会、日本マイクロソフト株式会社の 3 名
医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に係る連携・協力に関する協定締結式での関係者 6 名の集合写真


大阪急性期・総合医療センター
  総長     嶋津 岳士
  病院長    岩瀬 和裕

一般社団法人ソフトウェア協会
  副会長  豊田 崇克
  理事     板東 直樹

日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長  佐藤 亮太
業務執行役員・ヘルスケア統括本部長  大山 訓弘

大阪急性期総合医療センター:
3者協定の締結について | 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター (opho.jp)

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Azure OpenAI の活用シナリオと最近の動向 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/14/azure-openai-%e3%81%ae%e6%b4%bb%e7%94%a8%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%aa%e3%81%a8%e6%9c%80%e8%bf%91%e3%81%ae%e5%8b%95%e5%90%91/ Fri, 14 Jun 2024 08:21:19 +0000 Executive Summary 

生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 

長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 

生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 

Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。

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Executive Summary 

  • 生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 
  • 長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 
  • 生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 
  • Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。 

昨年から何度かこのヘルスケアブログでも取り上げている生成AIについて、世の中の関心はますます高まっており、様々な業種において具体的な導入・検証が盛んに進められています。この動きは一部大手の民間企業だけのものではなく、政府、行政機関をはじめとする公的なサービスを担う組織においても、職員の働き方を変革していく手段として、また市民へのより質の高いサポートを実現するための道具としても期待が寄せられています。 

医療の世界においても、生成AIの活用による効率化が期待されている分野の一つとして、病院に勤務する医師の長時間労働の改善が挙げられます。特に令和6年4月からは、医師の時間外労働の上限規制の適用が始まったことも背景として、医療従事者の就労環境の改善が必須となっています。 

参考 厚生労働省 「医師の時間外労働の上限規制の解説」 

001183185.pdf (mhlw.go.jp) 

以下の調査結果は、厚生労働省の調査研究からの引用に基づく、医師の長時間労働の原因に対するアンケート結果です。この中で、②の記録や報告書作成、書類の整理といった文書関連の事務作業の負荷が高いことが見て取れます。併せて④⑤のように、調整のためのコミュニケーションに要する時間や自己研鑽のための時間も、残業の増加につながっていると回答されています。 

【調査結果】 病院医師の勤務実態 – 主な時間外労働 

長時間労働の主な要因: 

  1. 緊急対応(80%) 
  1. 記録・報告書作成や書類の整理(80%) 
  1. 手術や外来対応等の延長(70%) 
  1. 多職種・他機関との連絡調整(40%) 
  1. 会議・勉強会・研修会等への参加(30%) 

※パーセントは時間外労働の原因であると回答した医師の割合 

出典:医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究.pdf (mhlw.go.jp) 

こうした課題の解決を支援するために、生成AIがどのように活用可能かについて、次にご紹介します。 

1.医療現場での活用シナリオ(例) 

NPO法人日本医師事務作業補助研究会によると、医師や事務作業補助者による主な文書として以下のような例が挙げられています。 

文書例: 

  • 保険会社・病院様式診断書 
  • 外来診療情報提供書 
  • 外来内服薬の処方 
  • 入院退院サマリー 
  • 入院診療情報提供書 
  • 入院診療記録 

など 

出典:NPO法人日本医師事務作業補助研究会 

≪添付資料②≫ (kokushinkyo.or.jp) 

ここでは「診療サマリー」を生成AIによって作成するシナリオについてご紹介します。 

こちらは、電子カルテから出力した診療記録の生データとなっています。このデータをもとに、Azure OpenAIに対して図の上部記載の「あなたは医者です。患者情報を迅速に確認したいです・・(以下略)」といった、プロンプトを実行します。プロンプトとは、生成AIに対する指示や要求を与えるための入力文です。具体的で明確に指示をすることで、より正確な結果を得ることができます。 

診療サマリー作成のプロンプト

実行結果がこちらとなります。診療記録のサマリーの体裁で、AIが文書を自動整形してくれることで、転記・二重入力の負荷が下がり、誤記や漏れ等も防止できます。ただし、幾つかの項目はAIが専門用語の意味を理解できない等の原因で拾えないケースもあるため、その点は医師等による追記は必要となりますが、一から全て手作業で作成するよりも業務効率化を実現できると考えられます。 

診療サマリー作成を Excel でまとめたもの

もう1つヒヤリ・ハット事例収集の業務への適用例をご紹介します。 

下記の図の左側にある看護記録例には、赤枠部分にヒヤリ・ハットの事案が記載されています。 

ここでAIに対して、「以下の看護記録から、医療事故情報収集等事業で記載されている各項目を抜き出し(以下略)」のプロンプトを実行した結果が、図の右側の表となります。 

ヒヤリ・ハット事例の一例

従来は看護記録から転記していたこのような業務も、生成AIを活用することによりその多くの作業を効率化できると考えられます。 

こうしたケースは、さらに汎化してとらえると、一つの様式のデータをカルテで作成し、別の様式に転記や二重入力していた業務、別々のシステムをそれぞれ使用して非効率となっていた作業を、生成AIをチャットのような汎用的なインターフェースから利用することで、代替できる可能性を示しているといえます。生成AIは、人が都度入力するのではなく、システムの中でデータ連携することで、指示・回答を自動化することもできます。 

  1. 生成AI(LLM)のメリットと回答精度の向上策

ご存じの通りAzure OpenAI に代表される生成AIサービスは、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる自然言語処理技術が基礎となっています。LLMは、既に過去の大量の公開情報を学習しており、ユーザが特別に意識することなく直ぐに使用でき、前章で述べた例のようにある程度の精度の高さで処理が実行されるという点で、利用開始のハードルが低いという点が大きなメリットです。 

一方で、「ハルシネーション(幻覚)」と称されるような、事実に基づかない情報を生成する可能性もあり、それらは学習データの偏りや誤り、入力された質問(プロンプト)の文脈を正しく理解できない場合に生じうる挙動であることも知られています。医療情報のように一般の事務よりも高い精度が要求される業務においては、こうしたリスクに対して、生成AIの利用に慎重な面もありましたが、実績によりハルシネーションへの対策が明確になり、利用検討が活発にされるようになりました。 

ハルシネーションの対策として取り上げられる方式として、RAG(Retrieval Augmented Generation)モデルがあります。これは、生成AIのLLMモデルが使用する公開情報によるトレーニング済みデータに加えて、多様なデータソースからの情報検索を組み合わせる仕組みです。これにより、学習済みデータを補完し、正確な回答を応答することに寄与します。 

ファインチューニングという、必要な学習データを準備して、既存の生成AIに追加学習させる方法もあります。必要な学習データを準備して学習させ、追加学習させた生成AIモデルを管理することが継続的に必要となります。既成の生成AIモデルと検索を組み合わせるRAGモデルと比べると運用負荷がかかるため、RAGモデルから検証を始めるケースがスタンダードになっています。 

下の図は、組織内の情報を検索するシステムにおいて、Azure OpenAI Serviceと全文検索エンジンAzure AI Searchを組み合わせて利用することで高度かつ自然な回答内容を生成してユーザに返す仕組みを実現するためのサンプルアーキテクチャです。 

このアーキテクチャは、Azure OpenAI を使用する際のRAGモデルの一例であるとともに、加えてオンプレミス上の院内ネットワーク上にある電子カルテ等の業務システムDBをクラウド(Azure)上にレプリケーションすることで、電子カルテ等のデータを検索対象として組み入れることを可能とし、同時に災害時のバックアップデータをクラウド上に退避させることもできます。Azure Arcを組み合わせて使用すると、さらなるメリットを享受できます。Azure Arcは、Azure以外の場所にある分散したサーバ環境をAzure上で一元管理するためのサービスです。具体的には、オンプレミスにある業務システムや他のパブリッククラウド環境の既存の仮想マシンなどの様々なリソースをAzure Arcに接続することで、統合管理ができるようになります。 Azure Arcを導入すると、オンプレミスに設置された電子カルテのデータベースSQL Serverをクラウド上で一元管理したり、クラウド利用料金のように利用時間単位の月額払いで使用したりすることも可能となります。 

さらに2023年後半にリリースされた新しいサービスであるMicrosoft Fabric を利用することにより、Azureだけでなく他社クラウド上にあるデータも仮想化して、あたかも実態があるかのように検索対象とすることができます。生成AIの活用による業務効率化を進めるためには、業務上必要なデータが点在していることが課題になります。Microsoft Fabric は、サイロ化し分散したデータの「民主的なデータメッシュ」として機能し、データを一箇所で中央集権的に管理するのではなく、各部門やチームが自分たちのデータを自律的に管理・活用できるようにし、組織全体のデータガバナンスに寄与します。 

組織内データの活用した利用パターン
  1. 他のAIを組み合わせることで広がる利用シーン 
    生成AIの歴史は未だ始まったばかりであり、日々進化を遂げている途上でもあります。Azure OpenAIも、GPT-3.5からGPT-4、GPT-4-Turboへとアップデートしており、扱えるトークン数(文字数をカウントする値)も大幅に拡大しています。規約やガイドラインといった長文のコンテンツを、直接プロンプトにインプットし、過去の文例を参考にしながら改定されたドキュメントを自動で下書きさせるといった用途へも広がりを見せています。かつ、トークン当たりの価格は、以前のバージョンよりも安価であるという点でも、利用しやすさのメリットが向上しているといえます。さらに、直近ではGPT-4o という新しいバージョンのモデルの提供も開始し、さらなる精度と応答速度の向上により、利用シナリオの拡大が見込まれています。 
Azure Open AI アップデート内容

  また、LLMは言語領域だけでなく画像や動画、音声もインプットデータとして処理できるようになってきており、これを大規模マルチモーダルモデルと呼んでいます。下図はその一例ですが、医療の分野でも画像等のデータを扱うシステム(PACS等)との組合せや、音声の記録や会議録を入力としたり、逆にテキストから音声によるガイダンスを自動生成したり、といった利用シナリオへと発展する可能性が期待されています。 

Azure Open AI アップデートに伴い画像もインプットできるようになった

下図は、異業種ですが金融業界におけるコールセンター業務へ生成AIの活用イメージとなります。お客様とオペレータのやりとりを音声からリアルタイムにテキスト情報に変換し、その内容に基づいて生成AI側がバックヤードで電話対応のレポートを自動作成することで業務効率化を図るといった例です。ここからさらに過去のQA記録に対するナレッジ検索AI、生成AIによる自然言語処理、そしてテキストを音声に変換するAI等を組み合わせて、お客様に対する音声回答まで自動で行う仕組みが考えられます。そして、これらはAIの翻訳サービスと組み合わせることにより、外国人のお客様や相談者に対する多言語での応対をAIにより実現する仕組みへと発展させることも可能と考えます。 

コールセンターでの生成 AI の活用事例

最後に 

このブログでは、生成AIの医療分野での活用シナリオから始まり、進化を続けるAIの様々なサービスコンポーネントを上手く組み合わせることによって、より精度の高い回答、より多くの種類のデータの取り扱いが可能となってきていることをご説明いたしました。 

ここまでご紹介してきたAI活用のベースになるのは、元となる情報・データが適切に記録され蓄積されていることが前提となります。医療の現場で使用される電子カルテ等についても同様です。診療と平行して行う入力作業の負荷軽減にも併せて対処が必要であり、そこではAzure AIのSpeech to Text を使用し音声⇒テキスト変換を組み合わせるといった方策も考えられます。 

Microsoft Azureでは、下図に示すようにOpenAI サービス以外にも各種ラインナップを取り揃えており、お客様の実現したい利用シナリオを柔軟に構築することが可能です。 

ここでご紹介したAzure OpenAIサービスは、既にISMAPへも登録済みです。またサービス契約に関する管轄裁判所も日本となり、SLAも設定されており、サポートもMicrosoftで一元的に提供が可能です。 

Microsoft の AI ポートフォリオ

ぜひ、皆様のこれからの顧客サービス向上、業務効率化をプランニングされる際に、Microsoft Azureをご検討いただけますと幸いです。 

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Copilot for Microsoft 365 活用シナリオ・プロンプト集 – 製薬業界のビジネスを加速する生成AIの活用法 – http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/05/27/copilot-for-microsoft-365-utilization-scenarios-and-promptshow-generative-ai-can-accelerate-business-in-the-pharmaceutical-industry/ Mon, 27 May 2024 01:18:33 +0000 製薬業界は、医療の進歩や社会のニーズに応えるために、常にイノベーションを求められています。しかし、その一方で、厳しい規制や競争、コストや時間の制約など、様々な課題に直面しています。そこで、製薬業界のビジネスを加速するために、AIアシスタントのCopilot for Microsoft 365をご紹介します。Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに統合されたAIアシスタントです。皆様の言葉や文書を理解し、適切なレスポンスや提案を生成します。Copilot for Microsoft 365は、様々な業務シーンに応用できる機能を提供しており、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

日本マイクロソフト株式会社では、この度、製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をまとめたドキュメントを作成しました。本ブログでは、MR(医薬情報担当者)向け、研究開発向け、バックオフィス向けの一部シナリオとプロンプトをご紹介します。全シナリオとプロンプトに関しましては、以下リンクからダウンロードください。

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Executive Summary 
製薬業界は、医療の進歩や社会のニーズに応えるために、常にイノベーションを求められています。しかし、その一方で、厳しい規制や競争、コストや時間の制約など、様々な課題に直面しています。そこで、製薬業界のビジネスを加速するために、AIアシスタントのCopilot for Microsoft 365をご紹介します。Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに統合されたAIアシスタントです。皆様の言葉や文書を理解し、適切なレスポンスや提案を生成します。Copilot for Microsoft 365は、様々な業務シーンに応用できる機能を提供しており、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

日本マイクロソフト株式会社では、この度、製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をまとめたドキュメントを作成しました。本ブログでは、MR(医薬情報担当者)向け、研究開発向け、バックオフィス向けの一部シナリオとプロンプトをご紹介します。全シナリオとプロンプトに関しましては、以下リンクからダウンロードください。

「製薬企業様向けCopilot for Microsoft 365 プロンプト集」ダウンロードリンク:製薬企業様向け Copilot for Microsoft 365 シナリオ・プロンプト集

Copilot for Microsoft 365の概要 

Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに連携し、皆様の言葉や文書を理解し、データ作成や整理などの業務を遂行できるAIツールです。Copilot for Microsoft 365は、以下の特徴を持っています。 

  • 大規模言語処理(LLM)の技術を用いて、皆様の意図や目的を推測し、最適な回答や文章を作成します。 
  • Microsoft 365のアプリケーションとシームレスに連携し、Word、PowerPoint、Excel、Teams、Formsなどで利用できます。 
  • 様々な業務シーンに応用でき、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

詳細:Microsoft Copilot for Microsoft 365 – 機能とプラン | Microsoft 365 

製薬業界にCopilot for Microsoft 365 の活用シナリオとプロンプト例 

製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト集では、MR向け、研究開発向け、バックオフィス向けの実践的な活用例をまとめております。本ブログでは、3つのカテゴリーから一例ずつご紹介いたします。 

MR向け活用シナリオとプロンプト例 

MRは、医師や薬剤師などの医療関係者に対して、製品の特徴や効果、安全性などを説明し、信頼関係を築くことが重要な業務です。しかし、MRは、膨大な情報や資料を管理しながら、時間や場所に制約されることも多くあります。Copilot for Micorosoft365では以下のようなシナリオで文書作成業務をご支援できると考えております。 

以下は、MRが医師に向けて講演依頼書を作成する際、そのドラフトをCopilot in Wordに出力させた例です。 

MR 向けシナリオ・プロンプト入力の様子
MR 向けシナリオ・プロンプト出力の様子

研究開発向け活用シナリオとプロンプト例 

研究開発は、製薬業界の中核を担う重要な業務です。研究開発では、最新の研究動向や論文を追いかけたり、臨床試験の結果を分析したり、研究成果を発表したりすることが求められます。しかし、研究開発は、高度な専門知識や技術を必要とするだけでなく、多くの時間や労力を要することもあります。以下は、研究者が創薬研究セミナー(英語)に参加した際に、セミナー内容のキャッチアップをCopilot in Teamsに出力させた例です。 

研究・開発向けプロンプト入力の様子
研究・開発向プロンプト出力の様子

バックオフィス向け活用シナリオとプロンプト例 

バックオフィスは、製薬業界の経営や人事、総務などの業務を担っています。バックオフィスでは、社内外のコミュニケーションや文書作成、アンケート調査などの業務が多くあります。しかしバックオフィスは作成する資料が多くその効率化が求められます。以下は、経営企画部門が新入社員に全社行動規範を説明する為の資料をCopilot in Power Pointに出力させた例です。 

バックオフィス向けシナリオ・プロンプト入力の様子
バックオフィス向けシナリオ・プロンプト出力の様子

まとめ 

本ブログでは、製薬業界のMR向け、研究開発向け、バックオフィスにおけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をご紹介しました。これらのシナリオとプロンプトは、あくまで一例であり、皆様のニーズや状況に応じてカスタマイズできます。Copilot for Microsoft 365は、製薬業界のビジネスを加速するための強力なパートナーです。Copilot for Microsoft 365をお試しいただけますと幸いです。 

最後に、本ブログのドラフトはCopilot in Wordで作成致しました。ご参考までにプロンプトを掲載いたします。皆様も様々な業務でCopilot for Microsoft 365を是非お試しいただき、生産性・業務品質向上に向けて生成AIを使いこなしていただけますと幸いです。

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#命令

日本マイクロソフト株式会社として製薬企業様向けの”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”、”製薬業界のビジネスを加速するAIアシスタントの活用法 “というタイトルでブログを公開します。”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”はリンクからダウンロード形式で提供し、ブログ内でダウンロードURLを掲載します。ブログでは、”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”からMR向け、研究開発向け、バックオフィス旨のシナリオからそれぞれ1例を紹介します。そのブログ内容を作成してください。

#条件:

以下項目とそれぞれの説明文を作成してください。但し、実際のプロンプト例の作成不要で、箇条書きでは無く、ナラティブで作成してください。

・Executive Summary

・Copilot for Microsoft 365の概要

・製薬業界にCopilot for Microsoft 365 の活用シナリオとプロンプト例

1. MR向け活用シナリオとプロンプト例

例: Copilot in Word – 講演依頼文書

2. 研究開発向け活用シナリオとプロンプト例

例:Copilot in Teams – 研究セミナーの要約・詳細確認

3. バックオフィス向け活用シナリオとプロンプト例

例: Copilot in Power Point – 新入社員に全社行動規範を説明する為の資料

作成

・まとめ

まとめには以下点を考慮したクロージングの内容を作成してください。

– 皆様でも色々ためしてほしい

– 最後にこのブログのドラフトを作成したこのプロンプトを紹介

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