医療・ヘルスケア Archives - マイクロソフト業界別の記事 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/ Fri, 13 Sep 2024 05:26:01 +0000 en-US hourly 1 Microsoft Azureのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)活用による医薬品開発やゲノム解析の効率化・加速化   http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/09/12/microsoft-azure-high-performance-computing/ Thu, 12 Sep 2024 01:13:14 +0000 医薬品開発に係る各種計算、シミュレーションにはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を実現するIT基盤が必要不可欠であり、より柔軟にリソースが提供可能なクラウド上での利用が注目されています。
クラウドベースのHPC環境はオンデマンド性、スケーラビリティ、AI等の最新技術との連携等、これまでない様々なメリットを提供可能です。
既に国内外の製薬企業様や研究機関様において、化合物のスクリーニングやゲノム解析の期間短縮にMicrosoft AzureのHPCソリューションが活用されており、新薬開発プロセスの改善や、迅速な医療への応用に繋がる基盤構築が実現されております。
今後はHPCと量子コンピューティングとの統合や研究のオープン化等が期待され、次世代の研究開発をリードするための重要な鍵となる要素と考えられます。

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Executive Summary 

  • 医薬品開発に係る各種計算、シミュレーションにはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を実現するIT基盤が必要不可欠であり、より柔軟にリソースが提供可能なクラウド上での利用が注目されています。 
  • クラウドベースのHPC環境はオンデマンド性、スケーラビリティ、AI等の最新技術との連携等、これまでない様々なメリットを提供可能です。 
  • 既に国内外の製薬企業様や研究機関様において、化合物のスクリーニングやゲノム解析の期間短縮にMicrosoft AzureのHPCソリューションが活用されており、新薬開発プロセスの改善や、迅速な医療への応用に繋がる基盤構築が実現されております。 
  • 今後はHPCと量子コンピューティングとの統合や研究のオープン化等が期待され、次世代の研究開発をリードするための重要な鍵となる要素と考えられます。 

1. ゲノム解析、創薬領域で爆発的に増大する計算需要 

    昨今アンメットメディカルニーズが高まる一方で、製薬企業が新薬を開発する期間、費用は年々増加の一途を辿っています。具体的には、国内では約9~16年もの時間と、数百-数千億円が必要と言われています [1][2]。さらにそれだけ費やしても、新薬の開発の成功率は約23,000分の1しかないと言われています。可能な限り開発期間、コストの両方を押さえながら革新的な新薬を開発し続ける必要があります。 

    医薬品開発において、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)はゲノム解析、スクリーニング、分子動力学シミュレーション等、様々な計算リソースとして利用されてきました[3]。そして昨今では、その膨大な計算量に対して柔軟に対応可能なパブリッククラウド上でのHPC活用が検討、採用されるケースが増加しております[4]。 

   昨今、特にゲノム解析と創薬領域において、医療技術やバイオテクノロジーの進化に伴い、解析の計算量、データ量が急速に増加しています。本解析処理では、単なる統計データや診療記録に留まらず、ゲノムシーケンスデータやバイオマーカー情報、分子構造データなど、きわめて多様でかつ複雑なデータを扱う必要があります。これらのデータを解析し、有用な知見を得るためには、大規模な計算能力が必要とされます。特に創薬分野とゲノム解析領域における計算需要が増大しています[6]。 

創薬分野における計算需要 

    創薬のプロセスは、初期段階の化合物スクリーニングから始まり、その後の薬理試験や臨床試験を経て、新薬が開発されるという一連の流れを辿ります。この過程においては、非常に多くの化合物を対象に、その生物学的な効果や副作用を評価していきます。実際には数百万から数億に及ぶ化合物を対象にシミュレーションを行い、その中から有望な候補を絞り込むために、膨大な計算リソースが必要になります[7]。 

    従来は、これらのプロセスの多くが実験室で行われていましたが、実験には時間とコストがかかり、その数にも限界があるため、近年ではHPCやAIを活用し、シミュレーションとデータ解析によって効率的にスクリーニングを行うアプローチが主流となりつつあります。分子動力学シミュレーションや量子化学計算を駆使し、分子の構造や相互作用を精密に解析することで、実験では捉えきれない微細な変化を予測し、候補化合物の絞り込みを迅速に行うことが可能になります [8][9]。 

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図 1 創薬開発におけるスクリーニング処理 

ゲノム解析分野における計算需要 

    一方、ゲノム解析の分野でも、次世代シーケンシング(NGS)技術の発展により、個人の全ゲノム解析が可能になりつつあります。全ゲノム解析とは、ヒトのDNA全体を解析するもので、そのデータ量は膨大です。たとえば、ヒトゲノムには膨大な数の塩基対が存在し、その全てを解析するには大規模な計算リソースが必要です。このような膨大なデータを処理し、解析結果を得るためには、従来のコンピュータ環境では対応が難しくなってきています。 

    ゲノム解析は、遺伝子発現のパターン解析、エピジェネティクス研究、遺伝子関連疾患の解明など、多岐にわたる解析を必要とします。これらの解析には、精緻なアルゴリズムと膨大な計算パワーが要求され、また、解析結果を迅速に提供するための高速処理も求められます。クラウドベースのHPCソリューションは、こうした高度な要求に対応するための強力な基盤になり得ることから、その活用が注目されています [9][10]。 

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図 2 ゲノム解析の流れ

2. 近年のトレンド 

    近年、創薬やゲノム解析の分野においてクラウドHPCの活用が進んでいる背景には、クラウドコンピューティング技術の進化とその利便性、コスト効率の高さがあります。これに加え、これらの分野における計算需要が急激に高まっていることも、大きな要因になっています。 

    従来のオンプレミス環境でのHPCは、初期導入コストが高く、維持管理にも多大な労力を必要とするため、特に中小規模の研究機関や企業にとっては大きな負担となっていました。しかし、クラウドベースのHPCは、こうした負担を大幅に軽減します。オンデマンドで必要な計算リソースを利用できるため、初期投資が不要であり、さらに解析ニーズに応じてスケーラブルな計算環境を構築することが可能です。これにより、プロジェクトの規模や進捗に応じて柔軟にリソースを調整できるため、効率的な研究開発が可能になります。また、クラウド環境では、最新の計算リソース(CPUのみならずGPU、FPGAなど)の調達が容易であることから、計算の速度の向上も期待できます[5][11]。特に、AIや機械学習技術との連携が容易であり、これにより、従来の手法では難しかったデータ解析やパターン認識が可能になっています。 

    さらに、クラウドは、地理的に分散した研究チームがリアルタイムでデータにアクセスし、共同で研究を進めることができるため、国際的な共同研究が容易に行えるようになります。クラウドHPCは、データの保存と管理にも優れており、大規模なデータセットを効率的に扱うことが可能です。これにより、ゲノム解析におけるビッグデータの処理や、創薬における大規模な化合物ライブラリの管理が容易になっています[9]。 

    こうしたクラウドHPCの利点は、創薬とゲノム解析の両分野において広く受け入れられ、今後もその利用が拡大することが予想されます。 


3. 創薬・ゲノム解析において求められるクラウドサービスとその効果 

クラウドベースのHPCやその他サービスは、特に創薬とゲノム解析の分野において、その多様な利点が評価されています。主なメリットとして、以下の点が挙げられます[12]。 

  • 計算需要にオンデマンドで対応: 必要なときに必要なだけの計算リソースを利用できるため、研究の進行に合わせて柔軟にリソースを調整できます。これにより、プロジェクトの進行を遅らせることなく、計算資源を効率的に活用できます。 
  • 高いスケーラビリティ: クラウド環境では、プロジェクトの規模に応じて計算リソースをスケールアップ・スケールダウンできるため、大規模な計算が必要な場合でも短期間で大量のリソースを確保することが可能です。これにより、研究のスピードが大幅に向上します。 
  • 個別ニーズに即した開発環境: クラウドHPCでは、研究者のニーズに応じてカスタマイズされた計算環境を構築することが可能です。例えば、特定のアプリケーションや解析ツールを組み込んだ環境を簡単にセットアップできるため、研究者は自分たちの研究に最適化された環境を手軽に構築し、作業を進めることができます。これにより、導入や設定にかかる時間を削減し、研究に集中することが可能となります。 
  • 最新の計算リソースが利用可能(CPU/GPU、FPGAなど): クラウドHPCでは、最新の計算技術が常に利用可能です。特に、GPUやFPGAといったハードウェアアクセラレータを活用することで、大規模なデータ解析や複雑なシミュレーションを高速かつ効率的に実行できます。これにより、研究の質が向上し、成果がより迅速に得られるようになります。 
  • AI連携、Data連携: クラウド環境では、AI技術との連携が容易であり、機械学習やディープラーニングを活用した高度なデータ解析が可能です。従来の手法では難しかった洞察や予測が可能となり、研究の方向性を大きく広げることができます。また、クラウド上でのデータ連携により、異なるプロジェクト間でのデータ共有がスムーズに行えるため、効率的な研究開発が可能となります。 
  • CICDを実現する開発プラットフォームを活用することで、正確なプロジェクト管理、高速な開発ライフサイクル、自動テストによるヒューマンエラーの削減等にも寄与することが可能です。Microsoftからは、Azure DevOpsやGitHubといった複数のプラットフォームを提供しています。 
  • 統合認証/セキュリティ基盤で社内外の連携を促進: クラウドHPCは、セキュリティ対策が強化されており、特に医療データやゲノムデータのような機密性の高いデータを安全に取り扱うことが可能です。統合認証基盤により、異なる組織やチーム間での安全なデータアクセスが実現し、共同研究を円滑に進めることができます。 
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図 3  クラウドベースのAIサービスやデータを活用して解析業務を効率化 

    Microsoft Azureは、創薬やゲノム解析など、ヘルスケア分野に特化したHPC基盤を提供しています。AzureのHPCサービスは、CycleCloud[13]やAzure Batch[14]といったツールを通じて、研究者が必要とする計算リソースを迅速にプロビジョニングし、効率的に利用できる環境を提供しています。これにより、研究者は物理的なインフラの制約を受けることなく、大規模な計算をクラウド上で自由に実行することができます。 

図 4 ゲノム解析、創薬解析

    Azureは、AIやビッグデータとの連携に優れており、研究プロセス全体を支援する統合プラットフォームを提供しています。例えば、ディープラーニングを活用したゲノムデータの解析や、自然言語処理を用いた文献情報の解析など、多岐にわたるAI技術を組み合わせることで、より深い洞察を得ることができます。また、Azure上でのデータ保存と管理は、厳格なセキュリティ基準に準拠しているため、研究データの保護と共有が安心して行えます。 

    さらに、Azureは、分子動力学(MD)などの計算化学アプリケーションを統合した基盤の提供も計画しており、これにより、研究者はクラウド上で包括的な計算環境を利用できるようになるでしょう。これらAzureにおけるHPCサービスの充実により、創薬やゲノム分野でのクラウドHPC活用が日々増加しており、研究開発の基盤として不可欠な存在となっています[16]。 


4. 活用例 

クラウドHPCの活用は、国内外の多くの研究機関や企業で成功を収めており、その有効性が実証されています。以下に、創薬とゲノム解析の分野での具体的な事例を紹介します。 

創薬分野での実例 

    欧州に本社を構える大手製薬会社は、クラウドHPCを活用して新薬開発のプロセスを大幅に効率化しました。従来、数ヶ月を要していた化合物スクリーニングのプロセスが、クラウドHPCの導入によりわずか数日で完了するようになりました。このプロジェクトでは、数億の化合物を対象に、分子動力学シミュレーションを実行し、AIを用いてデータ解析を行うことで、有望な候補を迅速に絞り込むことができました [16]。 

    特に注目すべき点は、クラウドHPCのスケーラビリティを活かし、大量の計算リソースを短期間で動員できたことです。これにより、開発サイクル全体が短縮され、製薬会社は新薬の市場投入を大幅に早めることができました。さらに、クラウドHPCを利用することで、研究者はより創造的なアプローチを採ることができ、結果として開発成功率の向上にもつながっています[17]。 

ゲノム解析分野での実例 

    日本では政府主導で大学、研究機関との連携により、クラウドHPCを利用して大規模なゲノム解析プロジェクトを推進しています。このプロジェクトでは、数十人分の全ゲノムデータを解析する必要があり、そのデータ量は数ペタバイトにも及びます。従来のオンプレミス環境では、この規模のデータを処理するのは非常に困難でしたが、クラウドHPCを活用することで、データの迅速な処理が可能となり、解析結果を短期間で提供し医療への活用を促進する基盤構築を進めています[18]。 

    また、クラウド環境を活用したことで、国内外の複数の研究チームがリアルタイムでデータにアクセスし、共同で解析を進めることができます。これにより、研究プロジェクトの効率が大幅に向上し、国際的な協力体制の下で、迅速かつ高精度な解析を実現することができます。このような活用が可能になれば、クラウドHPCがゲノム解析の分野でいかに強力なツールであるかを示すものであり、データ解析の可能性を大きく拡大します。 

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図5  Azure HPCを活用するための構成例 

5. 今後の展望 

    クラウドHPCの利用は、今後もヘルスケア分野での重要性を増していくことが予想されます。特に、AI技術やビッグデータ解析の進展に伴い、クラウドHPCはこれらの技術を支える基盤として、研究開発の効率化と革新を促進する役割を果たしていくでしょう。加えて、今後期待される分野では、量子コンピューティングの実用化が挙げられます。量子コンピューティングは、従来のコンピューティング技術では不可能だった高度な計算を可能にし、創薬やゲノム解析の分野に革命的な変化をもたらすと期待されています。クラウドHPCプラットフォームに量子コンピューティングが統合されることで、これまでの研究開発の枠を超えた新たな可能性が広がるでしょう。 

    また、クラウドHPCの普及は、研究のオープン化にも寄与すると考えられます。クラウドを活用することで、研究成果をより広範なコミュニティと共有し、協力して研究を進めることが容易になります。これにより、異なる分野の知識や技術を融合させた革新的な研究が進展し、科学全体の発展に寄与することが期待されます。特に、国際的な研究プロジェクトにおいては、クラウドHPCを利用することで、地理的な制約を超えてリアルタイムでのデータ共有と解析が可能となり、グローバルな研究協力が促進されるでしょう。これにより、世界中の研究者が共同で取り組むことで、より迅速かつ大規模な研究が可能となり、科学の進展に大きく貢献することができます。 

   今後、クラウドHPCの活用が加速する中で、研究者にとって重要なのは、この技術を効果的に使いこなすスキルの習得です。クラウドHPCの特性や操作方法を理解し、適切に利用することで、研究の効率化と精度向上が図れます。特に、複雑な解析やそこで生成された大量のデータを扱う場面では、クラウドHPCの効果的な利用が研究の成否を左右することになることが予想され、また、クラウドHPCのスキルを習得することで、研究者自身のキャリアにもプラスの影響を与えることが予想されます。新しい技術を取り入れることで、研究の幅が広がり、革新的なアプローチを採用することが可能になります。 


6. 最後に 

    ヘルスケア領域におけるクラウドHPCの活用は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。創薬やゲノム解析の分野では、膨大なデータを迅速かつ精緻に解析するための計算資源が求められており、クラウドHPCはそのニーズを満たすための理想的なソリューションです。クラウドHPCを活用することで、研究のスピードと効率を向上させ、革新的な成果を生み出すことが可能となります。 

    今後も、クラウドHPCはさらなる進化を遂げ、AIや量子コンピューティングとの連携が進むことで、より高度な解析とシミュレーションが可能になるでしょう。研究者は、これらの新技術を積極的に取り入れ、クラウドHPCを効果的に活用することで、次世代の研究開発をリードしていくことが期待されます。 

参考文献 

  1. くすりの開発, くすりの開発 | くすり研究所 | 日本製薬工業協会 (jpma.or.jp) 
  1. 医薬品産業ビジョン2021, 000831974.pdf (mhlw.go.jp) 
  1. Perspective of drug design with high-performance computing, Perspective of drug design with high-performance computing – PMC (nih.gov) 
  1. Pharma companies are counting on cloud computing and AI to make drug development faster and cheaper, Pharma companies are counting on cloud computing and AI to make drug development faster and cheaper | ZDNET 
  1. Microsoft announces collaboration with NVIDIA to accelerate healthcare and life sciences innovation with advanced cloud, AI and accelerated computing capabilities, Microsoft announces collaboration with NVIDIA to accelerate healthcare and life sciences innovation with advanced cloud, AI and accelerated computing capabilities – Stories 
  1. HPC Market Update 2024, Hyperion-Research-SC23-Briefing-Novermber2023_Combined.pdf (hyperionresearch.com) 
  1. 理研創薬・技術基盤プログラム, https://www2.riken.jp/dmp/cli_dev.html 
  1. Introducing two powerful new capabilities in Azure Quantum Elements: Generative Chemistry and Accelerated DFT, Introducing two powerful new capabilities in Azure Quantum Elements: Generative Chemistry and Accelerated DFT – Microsoft Azure Quantum Blog 
  1. 国際連携によるがん全ゲノムの大規模解析、理科学研究所, 国際連携によるがん全ゲノムの大規模解析 | 理化学研究所 (riken.jp) 
  1. ゲノム解析とは、製品評価機構, ゲノム解析とは? | バイオテクノロジー | 製品評価技術基盤機構 (nite.go.jp) 
  1. DRAGEN二次解析、イルミナ社, https://jp.illumina.com/products/by-type/informatics-products/dragen-secondary-analysis.html 
  1. Azureでのハイパフォーマンスコンピューティング, https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/architecture/topics/high-performance-computing 
  1. Azure CycleCloudについて, https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/cyclecloud/concepts/core?view=cyclecloud-8 
  1. Azure Batchについて, https://azure.microsoft.com/ja-jp/products/batch 
  1. Introducing Azure Quantum Elements, https://youtu.be/JkQGM5ZuXO4 
  1. Accelerating Drug Discovery with Supercomputing Scale Biomolecular Simulations on Azure, Accelerating Drug Discovery with Supercomputing Scale Biomolecular Simulations on Azure – Microsoft Community Hub 
  1. Preparing for future health emergencies with Azure HPC, Preparing for future health emergencies with Azure HPC | Microsoft Azure Blog | 
  1. 厚生科学審議会科学技術部会全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会, 厚生科学審議会科学技術部会 全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会 |厚生労働省 (mhlw.go.jp) 

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【PHR 普及推進協議会】PHR 座談会第 2 回「女性の生活に寄り添う PHR サービス」 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/07/16/phrsyposium_phr-services-02/ Tue, 16 Jul 2024 03:10:53 +0000 個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータであるPHR(パーソナルヘルスレコード) 第2回の座談会のテーマは、「女性の生活に寄り添うPHRサービス」。女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックサービスを展開する株式会社エムティーアイとシミックホールディングス株式会社の社員4人が参加し、女性のPHR活用に向けた課題や展望について語り合いました。日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長 大山訓弘も聞き役として座談会に参加しました。

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(左から)關まり子・那須理紗・帆足和広 ・藤岡由希・難波美智代・ 大山 訓弘(敬称略) 

個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータである PHR(パーソナルヘルスレコード) 第2回の座談会のテーマは、「女性の生活に寄り添う PHR サービス」。女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックサービスを展開する株式会社エムティーアイとシミックホールディングス株式会社の社員 4 人が参加し、女性のPHR活用に向けた課題や展望について語り合いました。日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長 大山訓弘も聞き役として座談会に参加しました。 

【座談会参加者】 

  • 難波美智代 一般社団法人シンクパール代表理事/ PHR 普及推進協議会理事 
  • 那須理紗  株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部ルナルナ事業部事業部長 
  • 帆足和広  株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部電子母子手帳サービス兼母子モ株式会社取締役 
  • 藤岡由希  シミックソリューションズ株式会社マーケティング部部長 
  • 關まり子  シミック株式会社臨床事業本部 

【聞き手】 

  • 大山訓弘  一般社団法人PHR普及推進協議会理事・広報委員長 /日本マイクロソフト株式会社業務執行役員兼パブリックセンター事業本部ヘルスケア統括本部長


生理日管理アプリを提供 

難波:まずは皆様の事業内容についてお聞きしたいと思います。 

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株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部ルナルナ 事業部事業部長 那須理紗

那須:株式会社エムティーアイでは、2000 年に従来型携帯電話のガラケーで女性の健康情報サービス「ルナルナ」を生理日管理ツールとしてスタートさせました。現在は、スマートフォン向けに「ルナルナ」を提供しています。生理日管理をはじめとした女性のヘルスケアサービスを事業のテーマに置いていますね。 

弊社が提供しているのは、エンドユーザー向けの「ルナルナ」だけではありません。 17 年には、ルナルナに記録された生理日や基礎体温などを診察時に医師のパソコンやタブレットなどで閲覧できるサービス「ルナルナメディコ」を始めました。「ルナルナメディコ」は全国で累計約 1,000 の施設に導入いただいています。 

このほか、グループ会社では法人向けにオンライン診療とオンライン相談を通じて、働く女性の健康課題改善をサポートするフェムテックサービス「ルナルナオフィス」も提供しています。 

帆足:株式会社エムティーアイのグループ会社である母子モ株式会社では、母子手帳アプリ「母子モ」や、自治体の子育て事業のデジタル化を支援する「子育て DX®︎」を提供しています。母子モは 2015 年から提供しており、600 を超える自治体にご活用いただいています。 

子育て DX®︎ は、予防接種や乳幼児健診など、妊娠~出産~子育て期に発生する業務のデジタル化を支援する事業です。紙運営による手間が発生しやすい住民や自治体職員の負担削減につながっており、全国約 170 の自治体に使っていただいています。 


健康通帳アプリをリリースする予定 

藤岡:シミックソリューションズ株式会社では、パーソナルデータを同意のもと、統合・蓄積・提供できる健康通帳アプリ「 my melmo (マイメルモ)」をストア申請中で、 2024 年 4 月頃にリリースされる予定です。 

my melmo は、自治体や企業が複数のアプリをつなぎ合わせ、課題解決につながるデータをカスタマイズできる仕組みです。例えば、自治体の保健師さんが住民の方に適切なタイミングで適切なフォローができるよう、弊社のグループ会社の持つ電子上のお薬手帳やワクチン接種記録といったデータを組み合わせられます。 

my melmo が大切にしているのは、「本人によるデータの所有」です。アプリのデータは通常、事業者側が所有権を持っているケースが多いのですが、my melmo はデータ提供者本人が所有権を持っており、アプリ提供者のシミックも勝手にデータを解析できません。弊社は、データ提供者が第三者にデータを共有することで、何らかのインセンティブを享受できる仕組み作りを目指しています。 

關:シミックグループでは、my melmo を情報基盤とした社内の女性社員が仕事やライフプランのバランスを保ちながら働き続けられるプロジェクトを進めています。本日、プロジェクトの詳細についてお話できれば幸いです。 


ヘルスケアニーズの変化と現状は? 

難波:ありがとうございます。続いて、提供するサービスから見える女性のヘルスケアニーズの変化と現状についてお伺いしたいと思います。エムティーアイさんはいかがでしょうか。 

那須:生理日管理を筆頭に女性のヘルスケアについては以前、クローズドで、口に出してはいけない雰囲気がありました。そのせいか、ルナルナをキャリア携帯のサービスプラットフォームで提供を始める時もなかなか承認が下りませんでしたね。 

しかし、ここ 20 年で女性の社会進出も進み、女性がパフォーマンスを発揮するためにヘルスケアの問題をどう解決するかといった人々の関心が高まってきました。また、生理日に関連したPMSなどのカラダの変化を女性自身が管理・把握したいといった新しいニーズも出てきたと思います。 

とはいえ、義務教育においても生理日前後のホルモンバランスの変化といった女性の体に関する知識について知る機会がないのが実情です。それを踏まえ、今後は、 PHR 管理の前提となる女性の体の知識について啓発しながら PHR サービスを展開していくことが求められると思います。 

帆足:女性のヘルスケアニーズという観点では、 2015 年に母子モを始めた当初、自治体側の反応は芳しくありませんでした。クラウドサービスのセキュリティに関する理解が浸透していなかったこともあり、個人情報取り扱いへの抵抗が自治体側にあったためです。 

今では、子育て世帯への支援を巡るニーズの高まりを受けて、自治体の中でも「適切なデジタルデータがないと適切な支援が届けられない」といった意識を持つ人が増え始めています。こうした自治体側の意識の変化は、コロナ禍以降に顕著ですね。 

ただ、現場の保健師さんは必ずしもデジタルツールの活用になじ みがある人が多いわけではありません 。そのため、ヘルスケアニーズの高まりとは裏腹に、うま く支援が届けられていない現状があります。そうした現状の打開策として、 PHR の活用という副次的なニーズが出てきているのではないでしょうか。 


行政手続きは紙ばかり 

難波:自治体もコロナ禍で新型コロナウイルスワクチン接種証明書のデジタル化を通じて、デジタル化が便利だなと実感できたと思いますね。シミックさんはいかがでしょうか。 

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シミックソリューションズ株式会社 マーケティング部部長 藤岡由希 

藤岡:ユーザー側のニーズについては、子育てに従事する母親として、自治体サービスを利用する1人のユーザーという視点で語らせていただきたいと思います。 

私が行政とのやり取りで感じたのは、行政手続きの煩雑さです。行政手続きは紙ベースなので、1つの申請につき、書類を5枚ぐらい書く必要があるんですね。これは、個人の目線でもかなり負担だと感じました。 

その点、 PHR を活用したデジタル化は、今のスマホ世代の母親から見てもニーズが高まっているんじゃないかと思います。 

当然、国や自治体も、そうしたニーズを見過ごしているわけではありません。弊社がシステム全体のコンサエルティングを手がける北海道留寿都村、蘭越村のように、母子保健業務のデジタル化に取り組む自治体も出始めています。しかし、事業で取得した母子保健情報を医療現場でどう使うかという見通しは、まだまだ立てられていないように感じます。 

データをどう医療現場に活用するかというルート作りもしなければ、 PHR サービスの全国展開に時間がかかると思いますので、われわれとしては、複数のステークホルダーの意見を巻き取りながら、事業を進めていきたいと考えています。 

難波:子育ての母親にヘルスケアのニーズが発生する理由について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。 

藤岡:実体験に基づくと、保育園では、紙に子育ての情報を記入する機会が多いためです。実際、子供が病院を受診する度に病名と薬の情報を保育園指定の紙に記入するほか、予防接種の記録を書き写した母子手帳を保育園に提出します。 

会社で働いている女性にとって、手書きでの転記は、非常に煩わしいですね。お母さんの意志で第三者にお子さんの情報をリアルタイムに共有できる環境があれば、子育ての負担が減ると思います。


更年期症状の相談先がない 

難波:關さんは社内の女性を対象にしたプロジェクトを進められているとのことですが、その詳細についてお話いただけますでしょうか。 

關:プロジェクトは、更年期症状を抱える女性をトラッキング(追跡)するアプリの開発企業のご協力を得ながら、トライアルで進めています。トライアルのプロジェクトは、my melmo を使ってご自身の健康状態を入力する内容で、アンケート調査も実施しています。 

アンケート調査から見えてきたのは、更年期症状をお持ちの方の相談先がわからないという課題です。弊社はヘルスケア企業なので、一般的な企業と比べて「相談先がある」と回答される割合が高かったものの、結果全体を見ると、どこに相談して良いかわからないという方が多くいらっしゃいました。 

プログラムを通じて、育児休業制度をはじめとする福利厚生が社内に浸透しきっていないという課題も判明しました。そうした課題を踏まえると、出産・子育てに関する福利厚生へのニーズをくみ取るために、現場と人事部との連携も必要だと感じています。 


PHR サービスの好事例はどう作る? 

難波:女性の PHR の有効活用に向けては、まず社内での施策展開が好事例になっていくと思いますね。その点、フェムテックサービスを展開する皆様にご意見を頂戴できればと思います。 

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シミック株式会社臨床事業本部 關まり子 

關:弊社では、生理痛の症状といった PHR を人事部や医療機関に直接提供できる仕組みを作りたいと考えています。 

機密性の高い PHR を第三者に共有できれば、現場の上長に逐一相談する必要がありません。生理休暇も取りやすくなるでしょう。 

現状では、社内の生理休暇の取得率は、ほぼゼロの状態です。取得状況が良くないのは、生理休暇を取得する際に、生理痛の症状や生理痛が始まった時期などの情報を上長に伝えないといけないためですね。 

性別に問わず、グローズドな環境で生理痛の症状を上長に伝えるのは、容易ではありません。PHR を活用すれば、そうした問題は解決しやすくなるのではないでしょうか。 


データを収集するうえでの工夫とは? 

難波:健康管理を組織の問題にするうえでは、データの可視化が必要です。その点、 PHR の貢献度は大きいと思います。 

とはいえ、データを収集する中でさまざまなご苦労があったかと思います。データを収集する、集約するうえでの工夫をお聞かせいただけますでしょうか。 

那須:BtoC サービスのルナルナでは、ユーザーに情報を入力するメリットをご理解いただくのが重要だと思います。例えば、過去の記録をもとに生理日や排卵日が予測できるのは、情報入力によるメリットだといえます。 

しかし、生理日や排卵日の予測精度は、長期間記録していただくことで上がります。そのため、ルナルナに継続して情報を入力していただくために、サービス内でのコニュニケーションを通じてユーザーに入力いただくモチベーションをいかに持っていただくかも重要だと考えています。 

難波:長くサービスを活用していただくために、UXをどのように工夫していらっしゃるんでしょうか。 

那須:例えば、生理日の記録では、入力までの動線を工夫して設計していて、生理予定日が近くなると、 TOP 画面のタップしやすいボタンを設置してあげるといった施策がありますね。 

ルナルナはミッションとして女性に寄り添うことをかかげているので、サービス上でも「寄り添い」を感じられるUXを重要視しています。具体的には、生理日を入力後に「今回の生理で変わった部分はないですか」と人の温もりが感じられる問いかけを行っています。 


難しい出口戦略作り 

難波:ユーザーとのコミュニケーションを作るうえでの課題や、データ取得に関する課題はありますか。 

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株式会社エムティーアイヘルスケア事業本部電子母子手帳サービス兼 母子モ株式会社取締役 帆足和広 

那須:データを取得した後の出口戦略を作るかは非常に 難しいと思っています。 

ユーザーが「データ入力で自分の生活が豊かになる」と期待して情報を入力しても、ベンダーが集めたデータを使って新たなビジネスを構築するのは容易ではありません。 

例えば、生理日管理のデータ量は膨大ですが、データ単体での事業化は難しい部分があります。お預かりしたデータをユーザーの許諾を得たうえでビジネスや社会貢献につなげていくという出口戦略づくりが一番の課題ではないかと思います。 

難波:PHR 普及推進協議会では、出口を明確に描いたうえでの入口の設計を大切しています。しかし、女性のヘルスケアデータは長期的な収集を必要とするので、アウトカム(成果)の設計が難しいと感じますね。 

那須:不確定要素が多いだけに、1 回で当てようとせずに、絶えず仮説を立てて検証するといったチャレンジが必要ではないかと思います。 

難波:子育て・出産の分野は入口と出口の設計がしやすいかなと思うのですが、帆足さんはその辺りいかがでしょうか。 

帆足:おっしゃる通りです。われわれが今、子育て DX®︎ で協力している福岡県北九州市では、妊娠届の DX 化に 23 年度から取り組んでいます。運用開始 1 年後に利用状況を調べたところ、調査に協力した 93.8 %の人が、デジタル化した妊娠届を利用していました。 

利用が進んだのは、「紙よりもデジタルの方が楽ですよ」とお伝えできているのが大きいと思いますね。 

地方自治体の取り組みはサービスを導入すれば便利になると思いがちです。しかし、実際は、体験するまでのハードルを低く設計したり、ベネフィットをしっかり伝えたりしないと、サービスが使われないという状態になると思います。 


ポイント付与でモチベーションを維持 

難波:自治体がデジタルサービスを提供するうえでは、市民にとってのメリットを示すのが重要だと思いますね。データ取得のモチベーション維持という意味では、シミックさんはいかがでしょうか。 

藤岡:弊社が協力する岐阜県養老町の健康管理アプリ事業では、データの共有時や活動量の目標達成時に地域通貨と交換できるポイントを付与することでモチベーションを提供しています。 

ユーザーのモチベーション維持を目的とした施策はポイント付与だけではありません。高精度の測定器を集めた測定会を月に 1 度開催しており、ユーザーが体組成や活動量の管理をデジタルだけで終わらせないようにしています。「デジタルで健康管理をしてください」と依頼して終わるのではなく、定期的に測定会を開催することで、データ収集のモチベーションが保たれるのではないでしょうか。 

難波:健康管理アプリ事業のステップアップを検討される中での課題はありますか。 

藤岡:健康管理アプリ事業は、自治体に応じた設計をする必要があるのが課題といえます。実際、クライアントの中には、高齢者のフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)や認知症に焦点を当てる自治体もあれば、母子健康を課題に位置付ける自治体もあります。 

自治体ごとに収集対象とするデータが違うので、医療機関や研究者と話し合いながら適切な指標を設定するのが重要です。 


PHR普及推進協議会に期待することとは? 
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一般社団法人シンクパール代表理事/ PHR 普及推進協議会理事 難波美智代 

難波:最後に PHR 普及推進協議会に期待することを一言いただければと思います。 

那須: PHR 普及推進協議会の皆様には、PHR サービスの理想像を構築していただければと思います。 

現状では、PHR サービスのあるべき理想像が業界ごとに異なるのが実情です。そのため、明確な理想像を作っていただき、各社が事業化しやすい環境を構築していただけますと幸いです。 

帆足:PHR 普及推進協議会の皆様に期待するのは、PHRの普及をどうすれば早められるのかという点での議論の推進です。その観点で議論して施策に反映しなければ、PHR の利用が広がっていかないと思いますね。 

藤岡:弊社は、国や自治体で流通するPHRのデータベースの標準化に向けた協議を、PHR普及推進協議会と協力しながら進めていきたいと思います。協議会と一緒に進めたいのはデータベースの標準化だけではありません。PHR サービス事業者、協議会などと連携しながら、必要な PHR を事業者側から提供できる仕組みの整備も推進できればと考えております。 

關:弊社は、自社で提供しているPHRをほかのベンダーと共有できるプラットフォームの構築を目指しています。弊社としては、PHR 普及推進協議会にプラットフォームの構築を促していただければ幸いです。 

文:Omura Wataru 

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日本マイクロソフト主催 製薬業界向け AI 活用推進セミナー〜生成 AI が導く、ヘルスケア・製薬におけるイノベーションの加速〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/07/09/healthcare-pharmaceutical-seminar-0528/ Tue, 09 Jul 2024 07:45:47 +0000 2024 年 5 月 28 日に、日本マイクロソフト品川本社においてヘルスケア・製薬業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

日本マイクロソフトの AI ソリューション紹介に始まり、先進企業の取り組み、そしてパートナー企業によるソリューション発表で構成された本セミナーには多くの来場者が詰めかけ、ヘルスケア・製薬業界における生成 AI の注目度の高さを改めて実感する機会となりました。

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2024 年 5 月 28 日に、日本マイクロソフト品川本社においてヘルスケア・製薬業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

日本マイクロソフトの AI ソリューション紹介に始まり、先進企業の取り組み、そしてパートナー企業によるソリューション発表で構成された本セミナーには多くの来場者が詰めかけ、ヘルスケア・製薬業界における生成 AI の注目度の高さを改めて実感する機会となりました。



「マイクロソフトの製薬業界における取組と最新ソリューションについて」

日本マイクロソフト株式会社
医療・製薬営業本部長
清水 教弘

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オープニング セッションには日本マイクロソフト株式会社 医療・製薬営業本部長の清水 教弘が登壇。

まず、早期発見や創薬の促進といったアンメット メディカルニーズへの取り組みによって新たな価値創造を目指す製薬業界においては、PHR や RWE(リアルワールドエビデンス)を支える AI の活用が重要なポイントとなることを示します。

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そして清水は、生成 AI の活用事例として、Copilot による医療安全管理マニュアルからの情報の抽出と ChatGPT によるデータ構造の統一化を紹介。膨大な資料からのデータの検索や、医師の診断メモやウェアラブルデバイスで計測されたバイタルデータの FHIR 形式への変換など、身近な領域で生成 AI 活用が進んでいることが示されました。

続いて 5 月 27 日に日本マイクロソフトがリリースした「製薬企業向け Copilot for Microsoft 365 プロンプト集」が紹介されました。さまざまな職種で使える生成 AI のプロンプト例が掲載されており、日本マイクロソフトのホームページからダウンロードできます。

Copilot for Microsoft 365 活用シナリオ・プロンプト集 – 製薬業界のビジネスを加速する生成AIの活用法 – マイクロソフト業界別の記事

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清水は「創薬から臨床、製造、マーケティングまでさまざまな領域で、生成 AI が皆さまの業務を支援できると強く信じています。ぜひ生成 AI 活用を一緒に進めていきたいと考えています」と呼びかけて、オープニング セッションを終了しました。


「AI の価値ある取り組み方を成功させるためのノウハウ」

日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター
吉田 雄哉

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日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンターの吉田 雄哉からは、AI プロジェクトを成功させるために重要なふたつのポイントについて解説が行われました。

まず吉田は、さまざまな Copilot 製品がリリースされていることで錯覚しがちなものの、Copilot は「コンセプト」であり、アプリケーション利用時の支援を行うものであること。そしてそれはマイクロソフト製品に留まらない、と会場に語りかけます。

吉田はマイクロソフト製品ではない固有の社内システムでも UI を Copilot に合わせることが重要であり、それによってユーザーにシームレスなサポート体験を提供できるとし、Copilot 開発を共通化できる開発パターン「Microsoft Copilot stack」を紹介しました。

ふたつめのポイントは、生成 AI 活用においては業務プロセス全体のデータ化が重要であり、DX の達成度合いが生成 AI の活用促進につながるという主張です。

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吉田は、業務プロセスのデータ化が実現できれば、業務アプリケーションにプロンプトを埋め込むなど、生成 AI 活用の幅が広がることを示唆。そして、生成 AI を使いこなすためには通年通してやり続けることが重要であり、検証を重ねながら積み上げていくことで効果を最大化させられると強調。「そのためにはみんなの頭を変えていかなければなりません。これは文化の話なので時間がかかります」と、腰を据えた取り組みの重要性を語ってセッションを終了しました。


生成 AI 導入製薬企業様御登壇による事例紹介


「企業内における生成 AI 定着化のヒント」

小野薬品工業株式会社

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課 課長
田中 誠次朗 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
宗綱 葵 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
中村 哲文 氏

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このセッションでは、生成 AI を導入して業務改革を成功させている先進製薬企業による事例紹介が行われました。

田中氏によると、小野薬品では製薬業界でいち早く生成 AI 導入の検討を開始しており、2023 年 6 月には全従業員に ChatGPT 環境を開放、RAG を同年 7 月より検証開始。同年 11 月にサービス化し、16 のビジネスケースで展開をしました。現在は 40 のビジネスケースで利用されています。

田中氏は、インターネットの普及で後手に回った企業が衰退した姿を目の当たりにしてきた経験から、それに匹敵する激動をもたらし得る生成 AI には早期に対応しなければいけないという危機感があったと振り返ります。

田中氏とともに対応にあたった宗綱氏によると同社では、生成 AI 関連のサービス化施策においては、3 つのケースに分けて対応を行っているそうです。

まず同社で開発した「OnoAI Chat」と呼ばれる標準的な生成 AI の活用で解決できそうなケースでは、ヒアリングやプロンプト作成支援を行う「30 分クイック ミーティング」と、コミュニティの形成や情報共有を目的とした「専用グループ チャット」のふたつのサポートを提供。
さらに高度なケースでは、文書を学習させた生成 AI「OnoAI Navi」により RAG の環境を提供し、グループ チャットによる情報共有や全社共通のチャット ボットによるサポートを実施しているそうです。

さらに同社では、Microsoft Power Platform のツール群による市民開発と生成 AI の組み合わせでさらなる業務効率化を実現しようとしています。宗綱氏からは Excel に入力された報告書に問題がないかどうかを生成 AI が判断し、Microsoft Power Automate のフローを回すことで自動的に回答が返ってくるシステムの事例が示されました。

続いて中村氏から、Copilot for Microsoft 365 の活用施策についての解説が行われました。同社では Copilot の活用推進プロジェクトを実施しており、そこから約 130 の有効事例が生み出されているとのこと。1 日約 1 時間半もの業務効率化を実現できている例もあるそうです。

最後に田中氏から「ビジネスケースに歩調を合わせること」「ビジネスの声を聞くために、日常に接点を持つこと」「自走するための支援をすること」の3 点が生成 AI 活用促進のポイントとして示され、セッションは終了となりました。


「社内向け生成 AI システムを短期間で開発・全社リリースし、定着させるために行ったこと」

第一三共株式会社
DX企画部 全社変革推進グループ 主査
朝生 祐介 氏

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第一三共の朝生氏からは、同社の社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発・運用の概要に関する解説が行われました。

朝生氏は、大規模言語モデルの急速な進化と幅広い業務領域における活用の可能性、多様なモダリティへの技術応用の広がりを踏まえて「今後、生成 AI の積極的な活用が企業の競争力を維持するうえで不可欠になる」と考え、社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発を着想したそうです。

DS-GAI の開発は 2 フェーズに分けて進められましたが、特筆すべきはその開発期間の短さです。基本的な機能の全社リリースを行なったフェーズ 1 はわずか 1 ヶ月。フェーズ 2 においては、半年の間に次々と機能拡張が行われました。

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システムの構築にあたって「機能は豊富にしつつ、誰もが使いやすいシステムを目指しました」と朝生氏。「開発を進めることも重要ですが、このような新しい技術を実際に成果に結びつけるためには、定着を促すための取り組みが非常に重要」であり、定着化のために多くのリソースを注いで対応してきたといいます。

その結果、DS-GAI の利用者アンケートでは 8 割以上が業務生産性・品質向上を実感しており、「既存業務の効率化だけにとどまらず、生成 AI によってできなかったことができるようになった」といった声も上がっているそうです。

最後に朝生氏は、DS-GAI の短期開発に寄与した要因として、「明確な経営戦略によって先進デジタル技術活用の位置付けが明確だったこと」「早期から生成 AI に関する技術的知見を蓄積していたこと」「Azure OpenAI Service の採用」「Azure に精通した開発パートナーの選定」「MVP(Minimum Viable Product)開発とアジャイル開発をフェーズごとに組み合わせたこと」を挙げます。

そして早期定着の要因としては、「毎月のように新機能の追加を行って、ユーザーのわくわく感を誘うことによってユーザーの興味関心を引き続けたこと」「システム開発と並行して早期定着を図るための啓蒙活動に幅広く取り組んできたこと」の 2 点であることを示して、セッションを終了しました。


「生成 AI 事業化支援プログラム-パートナー様との取り組みについて」

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員
パートナー事業本部 副事業本部長
エンタープライズパートナー統括本部長
木村 靖

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木村はまず、日本マイクロソフトが提供する生成 AI 事業支援プログラムを紹介。このプログラムは、学習支援、構築や案件推進支援、有効なソリューションの横展開などを通して、生成 AI の活用に向けたビジネス機会の創出とスキルアップを提供するものです。

木村によると、本プログラムは 2024 年 1 月から 160 社のパートナー社とともに運営されており、半年ですでに 250 の事例が生まれているとのこと。木村は「協業を深めて、パートナー社からエンド ユーザーさまへの生成 AI のソリューション、サービスの展開を支援したい」と、パートナー社との共創を強調します。

そしてこれに続くセッションでは、日本マイクロソフトがまとめたヘルスケア業界向けの e-Book に掲載されているパートナー社のうち 4 社から、先進的なソリューションについての発表があることを伝え、ぜひ参考にしてほしいと会場に語りかけました。

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製薬業界向け最新eBook 最新生成AI導入事例&ソリューションを一挙にご紹介 (microsoft.com)


「パートナー企業登壇による製薬業界向け最新ソリューション紹介」


「TIS における生成 AI を活用した事例紹介 臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクト」

TIS株式会社
デジタルイノベーション事業本部
ヘルスケアサービス事業部 ファーマ&メディカルサービス部
セクションチーフ
嘉村 準弥 氏

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TIS の嘉村氏からは、生成 AI を活用した臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクトの紹介が行われました。

このプロジェクトでは、臨床試験のプロトコール文書の優先度の高い章に着目し、生成 AI を用いて文章生成を行おうとしているとのこと。長年製薬業界の統計解析業務を行ってきた同社だからこそ実現できるソリューションです。

このシステムは、試験実施概要書や参考文献の情報を Azure 上にアップすると生成 AI がドラフトを返送、人間による最終確認を経て完成稿を作成する構成。1 週間以内で環境を構築でき、学習済みモデルの生成 AI を使っているため、ただちに開発に着手できるそうです。

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また、臨床試験の関連文書は形式に沿った記述を行う場面が多いため、プロトコールの章に応じて生成方法を使い分けているとのこと。嘉村氏は生成された文書の例を示して、「ルールベースや機械学習でここまで流暢な文章を生成するのは困難」と、生成 AI を使うメリットをアピールします。

新しい技術であるゆえに、評価の仕方や著作権の考え方などで議論を重ねていると嘉村氏。「今後は文書の種類を増やしてプロトコール以外の文章にもチャレンジしたい」と目標を語ってセッションを終了しました。


「三井情報バイオヘルスケアソリューション”MKI-DryLab”紹介」

三井情報株式会社
DX 営業本部 バイオヘルスケア営業部営業室
室長
小川 哲平 氏

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三井情報の小川氏からは、バイオ ヘルスケア ソリューション「MKI-DryLab for Microsoft Azure」の紹介が行われました。MKI-DryLab for Microsoft Azure は生成 AI を使ったソリューションではありませんが、同社がこれまで取り組んできたライフサイエンス領域のデータ解析支援のノウハウが詰め込まれています。
サービスのひとつは Azure 上にユーザーのニーズに沿った計算解析基盤を迅速に提供する「MKI-DryLab Platform」、もうひとつはユーザーの課題を三井情報のスペシャリストが解決する「MKI-DryLab Consulting」です。

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小川氏は「研究用の開発環境だからこそ、セキュリティが重要」と述べ、MKI-DryLab のセキュリティ対策を解説します。クラウドサービスである Azure には強固なセキュリティが担保されていますが、さらに MKI-DryLab では人為的なエラーなども想定したセキュリティ オペレーション センター(SOC)が設けられているとのこと。SOC によってネットワークやシステムを 24 時間 365 日監視することで、セキュリティ脅威の検知やインシデントへの迅速な対応が可能となります。

小川氏は最後に「我々が長年培ってきたバイオヘルスケア技術とセキュリティの両面からお客さまの解析環境を支援いたします」と述べてセッションを終了しました。


「製薬企業向け AI を用いた SAS ソリューションのご紹介」

SAS Institute Japan株式会社
Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory Division
Sr. Business Solutions Manager
土生 敏明 氏

Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory
Sr. Industry Consultant
William Kuan 氏

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SAS の土生氏と Kuan 氏は、同社のライフサイエンス領域に使われているソリューションの紹介を行いました。その製品のうち、同社のプラットフォーム製品である「SAS Viya」は、パフォーマンス、生産性、信頼性が高い AI プラットフォームであり、また直近のリリースでは LLM のオーケストレーションや管理機能を追加したとの事です。

また Viya には Copilot 機能も今後搭載される予定であり、Azure AI Search や Azure OpenAI Service と連携して最適な返答を得ることができます。土生氏は、SAS プログラミングのコメントからの SAS コード生成機能、SAS プログラムのコード解析、プロシジャの例の提示やコードの最適化などの機能を挙げて説明。初心者であっても習熟した SAS プログラマーと同等のプログラムが書けるレベルを目指していると語ります。

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さらに同社では、LLM のプロンプト カタログの生成によってランダム性を排除する機能や、LLM の説明可能性を向上させて高品質な回答を生成する機能、LLM に関するガバナンス強化、チャットボックス機能の最適化など、SAS の持つナレッジと生成 AI の組み合わせにより、インダストリーに最適化したものを提供しようとしています。そして、将来的には臨床試験の分析と申請においても生成 AI の活用を見据えていると述べて、セッションを終了しました。


「富士通における生成 AI 活用の取り組み」

富士通株式会社
Healthy Living
瀬山 大祐 氏

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富士通の瀬山氏からは、生成 AI を活用した文書自動作成ツール「Digital Data Flow with AI」についての解説が行われました。Digital Data Flow with AI は、AI テクノロジーと医薬品開発におけるグローバル標準を取り入れたソリューションであり、Translate 社が提唱する Digital Data Flow と ICH M11 の標準化プロトコールに基づいて、蓄積したコンテンツ データから LLM による高精度かつ省力化した文書の自動作成が可能となります。

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Digital Data Flow with AI には 4 つの文書作成支援機能を組み合わせることでさまざまなユースケースに対応でき、さらにユーザーが指定したフォーマットのスタイルを維持しながら文書生成を行えます。

最後に瀬山氏は、ハルシネーションとデータ + プロンプト エンジニアリングへの取り組みの重要性を強調。ハルシネーション対策として RAG を使ってデータに基づいた出力を行うこと、プロンプト エンジニアリングでは複雑なタスクを単純なタスクに分割することの重要性を述べ、目的に応じて最適な技術を選択することでアウトプットの精度を上げられると説明しました。



こうして、3 時間にわたるセミナーが終了。クロージングでは日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 ヘルスケア統括本部長 大山 訓弘が事例講演の 2 社に謝意を伝えつつ、「共通していたのは IT のプロジェクトというより会社、ひいては業界にインパクトを与えていく思いだったのではいか」と感想を語りました。

またパートナー 4 社に向けては「Azure OpenAI Service は汎用的な部品。パートナー社の最後の料理があってこそ現場で使っていただける最終製品になる」と、さらなる共創を呼びかけました。

そして最後に「より良いヘルスケアのかたちへ」というスローガンを提示して、「パートナーさま、製薬企業の皆さまとパートナーシップを結び、最終受益者である患者さまのためにどんなことができるのかを念頭におきながら、ぜひご一緒させていただきたいと思います」と、より強固なつながりの構築を訴えかけて全セッションの終了を告げました。

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製薬業界における生成 AI 活用の最先端の情報に触れ、パートナー社による AI ソリューションの進化を目の当たりにした参加者にとって、とても有意義な 3 時間になったのではないでしょうか。

日本マイクロソフトでは引き続き、皆さまとともに製薬業界における生成 AI 活用の可能性を探求してまいります。興味をお持ちの方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。

ヘルスケア・製薬業界向け e-Book はこちらからダウンロードできます。

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Teams と電子カルテの連携によりコミュニケーションを活性化し、チーム医療を促進。社会医療法人愛仁会と明石医療センターが進める業務改革 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/26/innovation-by-aijinkai-and-akashi-medical-center-with-teams/ Wed, 26 Jun 2024 01:23:42 +0000 社会医療法人愛仁会は、1958 年に大阪市西淀川区の千船診療所を起源として設立。「貢献・創意・協調」をモットーとして、地域に密着した医療と介護事業を展開しています。
2024 年 6 月現在で急性期病院 4 施設、回復期病院 2 施設、介護施設 6 施設、健診センター 2 施設、看護専門学校 2 校を運営する同会では、近年の働き手不足、医療・介護需要の増加に対応するために、職員の働き方改革に取り組んでいます。

同会では、特定行為研修の実施や看護補助者育成事業などに積極的に取り組みながら、労働時間管理やタスク シフティング(業務の移管)などの改革を推進。同時に、デジタルの力による業務効率化にも力を注いでいます。
そのデジタル改革の一環として同会が開発したのが、Microsoft Teams と電子カルテを掛け合わせた新たな診療コミュニケーション ツールです。同会ではこのシステムをもとにして、コミュニケーションの活性化によるチーム医療の推進と業務の効率化を進めようとしています。

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社会医療法人愛仁会は、1958 年に大阪市西淀川区の千船診療所を起源として設立。「貢献・創意・協調」をモットーとして、地域に密着した医療と介護事業を展開しています。
2024 年 6 月現在で急性期病院 4 施設、回復期病院 2 施設、介護施設 6 施設、健診センター 2 施設、看護専門学校 2 校を運営する同会では、近年の働き手不足、医療・介護需要の増加に対応するために、職員の働き方改革に取り組んでいます。

同会では、特定行為研修の実施や看護補助者育成事業などに積極的に取り組みながら、労働時間管理やタスク シフティング(業務の移管)などの改革を推進。同時に、デジタルの力による業務効率化にも力を注いでいます。
そのデジタル改革の一環として同会が取り組んだのが、Microsoft Teams と電子カルテを掛け合わせた新たな診療コミュニケーション ツールです。同会ではこのシステムをもとにして、コミュニケーションの活性化によるチーム医療の推進と業務の効率化を進めようとしています。

社会医療法人 愛仁会
明石医療センター 院長
大西 尚 氏

社会医療法人 愛仁会
情報システム担当理事
明石医療センター 事務部 部長
中村 達也 氏

社会医療法人 愛仁会
愛仁会本部 情報システム部門 部長
田中 信吾 氏

満足して働ける職場環境を目指して、デジタルによる業務改革を推進

――明石医療センターについてお聞かせください。

大西 当院は兵庫県明石市にある一般病床 382 床(ICU 8 床、HCU 8 床、NICU・GCU 16 床)を有する急性期病院です。診療科目は 22 科あり、地域医療・救急医療・低侵襲医療(ロボット手術)・周産期医療を重点的に取り組んでいます。複数診療科の連携と多職種によるチーム医療を推進し、救急医療では、明石市を中心に 2023 年度は年間 5,936 台の救急車を受け入れました。また、周産期母子医療センターの認定のもと 24 時間体制で地域の周産期医療を担っています。低侵襲医療においては、ロボット手術・低侵襲手術支援センターを立ち上げ、da Vinci(ダヴィンチ)を用いたロボット手術を実施しています。

――貴会で DX を推進する背景や課題についてお聞かせください。

大西 私たちは地域に根ざした医療機関として安全で高度な医療を提供したいという思いを持っています。そして、それを実現するには職員の働き方改革は欠かせない要素のひとつです。医師をはじめとする医療スタッフが満足して働ける現場でなければ患者さまに良質な医療は届けられません。職員の満足度を向上し、患者サービスを充実させるために、当院ではデジタルの力に大きな期待を寄せています。

医療は、公定価格によって運営されているため、どうしても費用対効果に対して厳格にならざるを得ず、それがデジタル化の推進にはひとつの障壁となってしまいます。また、セキュリティや法規制への対応も大きな課題といえます。

社会医療法人 愛仁会
明石医療センター 院長
大西 尚 氏

そういった事情もあり、これまでは当院もデジタル化が進んでいるとは言い難い状況でしたが、近年は医師と管理職スタッフへのスマートフォン端末の配布、業務ツールとしての Office 365 の導入など、デジタルの力を取り入れた業務改革を進めています。さらにその動きを加速するために現在進めようとしているのが、電子カルテと Microsoft Teams を連携させたコミュニケーション ツールの導入です。

Teams 活用の機運を捉えて、チーム医療を促進するコミュニケーション ツールを開発

――このコミュニケーション ツール開発に至る経緯についてお聞かせください。

田中 当会では、2018 年に Office 365 を法人全体で導入し、全職員にアカウントを配布し、業務ツールとして活用していました。2020 年頃、新型コロナウィルス感染症の流行にともなう働き方の変化によって Teams の活用が急増するという動きがありました。この動きを分析した結果、Teams を活用することによって意思決定のプロセスが変化したという示唆を得られました。

中村 病院が機能分化するなかで、とりわけ明石医療センターのような急性期病院にはさまざまな諮問委員会が存在します。これまでは同じ場所に集まる必要があったのですが、コロナ禍を経て Teams の活用が進むなかで、リモート参加が可能になったり、Teams での資料共有を有効に活用したりしています。

社会医療法人 愛仁会
情報システム担当理事
明石医療センター 事務部 部長
中村 達也 氏

田中 そこで私たち IT 部門としても「コミュニケーションが変われば働き方が変わる」という考えのもと、Teams の活用範囲拡大に取り組むことにしました。コミュニケーションを円滑にしてメンバーの力を最大限業務に生かせる Teams は、チーム医療のコンセプトそのものです。ちょうど明石医療センターで電子カルテシステムの更新が予定されていたこともあり、電子カルテ端末のなかで Teams を使える仕組みをつくろうと、取り組みを進めた形になります。

――どのような機能を持っているのですか?

田中 Teams 上で患者さまの状態や治療方針を共有し、必要に応じて検査結果などを貼りつけ、困ったときはすぐチームに相談でき、その場にいなくてもチーム全員が治療に参加できる、また電子カルテ画面を共有してミーティングも可能といった機能を有しています。

これまでの情報共有の場といえば、カンファレンスやミーティングが中心でした。また対話や電話での情報伝達も多く、チームに情報が行き渡らない、情報伝達に時間がかかってしまうといった課題がありました。このツールによって、時間や場所、手段にとらわれないコミュニケーションを確立でき、チーム医療の促進と、業務の効率化、高度化に貢献できると考えています。

社会医療法人 愛仁会
愛仁会本部 情報システム部門 部長
田中 信吾 氏

また、セキュリティの観点から閉域ネットワークに置かれることが多い電子カルテシステムですが、近年はセキュリティにおける考え方や対処法が変化してきたことで、少しずつ外の世界とつなごうという動きが生まれてきました。このツールにおいても、電子カルテベンダーのオプション機能と Azure AD Premium1+Defender for Cloud Apps による制御、運用ルールの策定によってセキュリティを担保し、診療系ネットワークから安全に Teams を利用できる環境を構築しています。

中村 法人の情報システム担当理事であり、事務部長でもある私の立場からすると、セキュリティに対しては必要以上に気を配る必要がありました。それを解決できる手立てが得られたことで、プロジェクトを進めることができました。
当院では医師にはスマートフォンを配布しているのですが、それ以外のメンバーでも電子カルテ端末から Teams 会議に参加できるようになったのは大きなメリットだと思います。今後は急性期病院と転院先の医療施設との情報共有など、院外の医療連携にも活用していけるようになると、より便利に使えると感じています。

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誰もが自然に使えるデジタル環境を追求し、働き方改革を前進させる

――導入の効果と今後の展開についてお聞かせください。

田中 いまは明石医療センターで先行導入してその効果を測っている段階なので、確実なデータが取得できているわけではないのですが、明石医療センターにおける導入後の Teams チャネルやチャットのメッセージ数は増加傾向にあります。
またチーム数にも増加が見られ、そのなかにはチーム医療に関連するチームがいくつか含まれているので、アーリー アダプター的なユーザー層では、電子カルテの情報を見ながらコミュニケーションを図るような活用が進んでいるのではないかと推察しています。
まずは明石医療センターで実績を重ねて、法人内の他の医療機関にも展開していければと考えています。

その先ですが、利用率の拡大とスマートフォンでの活用、Office 365 ソリューションや Teams アプリケーションとの連携などを考えています。
また、デジタルに忌避感を持つ職員に無理やり押しつけるような運用は避けたいと思っています。むしろ彼らが違和感なく使いこなせるような工夫を続けることで、いつか水道や電気のように、日常に欠かせないものとしてデジタルツールを捉えられるような環境を構築していきたいですね。

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――新しい技術への期待や、将来に向けた展望をお聞かせください。

中村 まだ当院では全職員にスマートフォンを支給できる状況ではありません。事務処理においてもすべてが電子化されているわけではなく、非効率な部分は多々残っています。デジタルの世界ですべての手続きが完結できる環境を目指したいと思います。

新しい技術といえば、ChatGPT の進化は目覚ましいですね。マニュアル検索の仕組みができあがれば、若手医師がいつでもアクセスできることで彼らの心理的安全性の確保にもつながると思います。事務的な使い方としては、カンファレンスやインフォームド コンセントの記録などにも活用できるのではないでしょうか。

田中 生成 AI に関しては大きな可能性を感じています。現在当会でも Azure OpenAI Service を活用した検証環境を構築しており、Copilot for Microsoft 365 についても導入検証を進めています。
まずは院内に多数存在するマニュアルを検索できる仕組みをつくりたいと考えています。さらに、診療行為のなかで発生する文章の作成支援や会議の要約システムなども構築していますので、それらの検証を通して活用方法を検討していく予定です。将来的には、Teams や電子カルテに組み込んでの活用や患者さま向けサービスなどへの展開も見据えています。

大西 IT 部門の尽力もあって、以前と比べるとずいぶん便利になり、働く環境も変わりました。今回導入されたコミュニケーション ツールによって場所を問わずに診療に参加できますし、画像を見るためだけに出勤するといったこともしなくて済むようになりました。

一方で私たち経営陣としては、医師の負担が大きい主治医制度の改革や保守的になりがちな職員の意識変革などにも取り組む必要があると考えています。職員がよりよいパフォーマンスを発揮して、患者さまによりよい医療を提供するためにも、デジタル環境の充実はもちろん、職員がやりがいを持って働ける環境を提供するために努力していきたいと思います。

各業界で新しい時代の働き方が模索されているいま、医療業界においても変革の意識を高める必要があります。そして、変革を進めるにはデジタルの力は欠かせません。予算編成の難しさやセキュリティといった壁を地道にクリアしながら、一歩ずつ働き方改革を進める社会医療法人愛仁会と明石医療センターの挑戦は、新たなコミュニケーションツールの開発という実績以上に、多くの医療機関の参考になるのではないでしょうか。

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大阪急性期・総合医療センター・ソフトウエア協会様・日本マイクロソフト株式会社:医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に係る連携・協力に関する協定について http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/17/agreement_strengthening-security-dx-cooperation-for-healthcare/ Mon, 17 Jun 2024 11:28:11 +0000 大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会と日本マイクロソフト株式会社は、2024 年 6 月 3 日、連携協定 (以下、本協定) を締結しました。本協定は大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会及び日本マイクロソフト株式会社が相互に連携・協力を行い、医療におけるITセキュリティ環境の構築、働き方改革に資する業務効率化の推進及び未来の医療環境に資するデータ活用基盤の構築を行い、その取組事例を発信することにより、全国の医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に貢献することを目的としています。

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大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会と日本マイクロソフト株式会社は、2024 年 6 月 3 日、連携協定 (以下、本協定) を締結しました。本協定は大阪急性期・総合医療センター、ソフトウエア協会及び日本マイクロソフト株式会社が相互に連携・協力を行い、医療におけるITセキュリティ環境の構築、働き方改革に資する業務効率化の推進及び未来の医療環境に資するデータ活用基盤の構築を行い、その取組事例を発信することにより、全国の医療機関における情報セキュリティ強化とDX推進に貢献することを目的としています。

① 国際的なセキュリティ基準に合致したシステム環境での医療継続性の担保

  • 大阪急性期・総合医療センターの運用する病院総合情報システムについてマルウエア対策を含めたセキュリティ環境の整備を行う
  • 整備に向けてソフトウエア協会、日本マイクロソフト株式会社は実装時の技術支援の他、利用教育の実施等実運用を踏まえた環境整備の支援を行う
  • 大阪急性期・総合医療センターにおいて実施されたセキュリティ対策を日本国内のモデルケースとすべく全国の医療機関に向けた事例発信を行う

➁ 働き方改革に資する業務効率化の推進

  • 日本マイクロソフト株式会社から提供されるTeamsを中心とするM365サービスを活用した医療従事者の働き方改革の検討、実装支援、教育支援を行う
  • ソフトウエア協会は病院総合情報システムにおける安全なクラウドサービスの活用について適切は助言を行う
  • 大阪急性期・総合医療センターは医療従事者の働き方改革の改善について定性的、定量的な評価を行い2者と協力のもと全国の医療機関に向けた事例発信を行う

③ 医療機関におけるデータ活用の推進

  • 3者の協力のもと病院総合情報システムに格納されているデータ等を安全に活用し医療経営の効率化を図る仕組みづくりを行う
  • 生成AIの医療機関における活用についてセキュリティや倫理面を考慮した上での実証を行い、全国の医療機関に向けた事例発信を行う
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大阪急性期・総合医療センター
  総長     嶋津 岳士
  病院長    岩瀬 和裕

一般社団法人ソフトウェア協会
  副会長  豊田 崇克
  理事     板東 直樹

日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長  佐藤 亮太
業務執行役員・ヘルスケア統括本部長  大山 訓弘

大阪急性期総合医療センター:
3者協定の締結について | 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター (opho.jp)

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Azure OpenAI の活用シナリオと最近の動向 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/06/14/azure-openai-%e3%81%ae%e6%b4%bb%e7%94%a8%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%aa%e3%81%a8%e6%9c%80%e8%bf%91%e3%81%ae%e5%8b%95%e5%90%91/ Fri, 14 Jun 2024 08:21:19 +0000 Executive Summary 

生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 

長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 

生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 

Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。

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Executive Summary 

  • 生成AIに対する関心が高まり、企業等での利用だけではなく公的機関でも、職員の働き方改革や市民サービスの質向上が期待されています。一方で医療の分野では、医師の時間外労働の上限規制が始まり、医療従事者の就労環境改善が必須となっています。 
  • 長時間労働の原因となっている文書関連の事務作業の負荷軽減のため、診療サマリーやヒヤリ・ハット事例などの文書作成に生成AIを活用した、業務効率化と誤記防止が期待されています。 
  • 生成AIは大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、利用開始のハードルが低く、一定の精度で処理が可能な点がメリットです。ハルシネーションのリスクに対しては、RAGモデル等による対策が進んでいます。 
  • Azure OpenAIは進化を続け、他のAzure Data & AIソリューションと組み合わせることで多様なデータと利活用シナリオへの対応が可能になっています。 

昨年から何度かこのヘルスケアブログでも取り上げている生成AIについて、世の中の関心はますます高まっており、様々な業種において具体的な導入・検証が盛んに進められています。この動きは一部大手の民間企業だけのものではなく、政府、行政機関をはじめとする公的なサービスを担う組織においても、職員の働き方を変革していく手段として、また市民へのより質の高いサポートを実現するための道具としても期待が寄せられています。 

医療の世界においても、生成AIの活用による効率化が期待されている分野の一つとして、病院に勤務する医師の長時間労働の改善が挙げられます。特に令和6年4月からは、医師の時間外労働の上限規制の適用が始まったことも背景として、医療従事者の就労環境の改善が必須となっています。 

参考 厚生労働省 「医師の時間外労働の上限規制の解説」 

001183185.pdf (mhlw.go.jp) 

以下の調査結果は、厚生労働省の調査研究からの引用に基づく、医師の長時間労働の原因に対するアンケート結果です。この中で、②の記録や報告書作成、書類の整理といった文書関連の事務作業の負荷が高いことが見て取れます。併せて④⑤のように、調整のためのコミュニケーションに要する時間や自己研鑽のための時間も、残業の増加につながっていると回答されています。 

【調査結果】 病院医師の勤務実態 – 主な時間外労働 

長時間労働の主な要因: 

  1. 緊急対応(80%) 
  1. 記録・報告書作成や書類の整理(80%) 
  1. 手術や外来対応等の延長(70%) 
  1. 多職種・他機関との連絡調整(40%) 
  1. 会議・勉強会・研修会等への参加(30%) 

※パーセントは時間外労働の原因であると回答した医師の割合 

出典:医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究.pdf (mhlw.go.jp) 

こうした課題の解決を支援するために、生成AIがどのように活用可能かについて、次にご紹介します。 

1.医療現場での活用シナリオ(例) 

NPO法人日本医師事務作業補助研究会によると、医師や事務作業補助者による主な文書として以下のような例が挙げられています。 

文書例: 

  • 保険会社・病院様式診断書 
  • 外来診療情報提供書 
  • 外来内服薬の処方 
  • 入院退院サマリー 
  • 入院診療情報提供書 
  • 入院診療記録 

など 

出典:NPO法人日本医師事務作業補助研究会 

≪添付資料②≫ (kokushinkyo.or.jp) 

ここでは「診療サマリー」を生成AIによって作成するシナリオについてご紹介します。 

こちらは、電子カルテから出力した診療記録の生データとなっています。このデータをもとに、Azure OpenAIに対して図の上部記載の「あなたは医者です。患者情報を迅速に確認したいです・・(以下略)」といった、プロンプトを実行します。プロンプトとは、生成AIに対する指示や要求を与えるための入力文です。具体的で明確に指示をすることで、より正確な結果を得ることができます。 

実行結果がこちらとなります。診療記録のサマリーの体裁で、AIが文書を自動整形してくれることで、転記・二重入力の負荷が下がり、誤記や漏れ等も防止できます。ただし、幾つかの項目はAIが専門用語の意味を理解できない等の原因で拾えないケースもあるため、その点は医師等による追記は必要となりますが、一から全て手作業で作成するよりも業務効率化を実現できると考えられます。 

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もう1つヒヤリ・ハット事例収集の業務への適用例をご紹介します。 

下記の図の左側にある看護記録例には、赤枠部分にヒヤリ・ハットの事案が記載されています。 

ここでAIに対して、「以下の看護記録から、医療事故情報収集等事業で記載されている各項目を抜き出し(以下略)」のプロンプトを実行した結果が、図の右側の表となります。 

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従来は看護記録から転記していたこのような業務も、生成AIを活用することによりその多くの作業を効率化できると考えられます。 

こうしたケースは、さらに汎化してとらえると、一つの様式のデータをカルテで作成し、別の様式に転記や二重入力していた業務、別々のシステムをそれぞれ使用して非効率となっていた作業を、生成AIをチャットのような汎用的なインターフェースから利用することで、代替できる可能性を示しているといえます。生成AIは、人が都度入力するのではなく、システムの中でデータ連携することで、指示・回答を自動化することもできます。 

  1. 生成AI(LLM)のメリットと回答精度の向上策

ご存じの通りAzure OpenAI に代表される生成AIサービスは、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる自然言語処理技術が基礎となっています。LLMは、既に過去の大量の公開情報を学習しており、ユーザが特別に意識することなく直ぐに使用でき、前章で述べた例のようにある程度の精度の高さで処理が実行されるという点で、利用開始のハードルが低いという点が大きなメリットです。 

一方で、「ハルシネーション(幻覚)」と称されるような、事実に基づかない情報を生成する可能性もあり、それらは学習データの偏りや誤り、入力された質問(プロンプト)の文脈を正しく理解できない場合に生じうる挙動であることも知られています。医療情報のように一般の事務よりも高い精度が要求される業務においては、こうしたリスクに対して、生成AIの利用に慎重な面もありましたが、実績によりハルシネーションへの対策が明確になり、利用検討が活発にされるようになりました。 

ハルシネーションの対策として取り上げられる方式として、RAG(Retrieval Augmented Generation)モデルがあります。これは、生成AIのLLMモデルが使用する公開情報によるトレーニング済みデータに加えて、多様なデータソースからの情報検索を組み合わせる仕組みです。これにより、学習済みデータを補完し、正確な回答を応答することに寄与します。 

ファインチューニングという、必要な学習データを準備して、既存の生成AIに追加学習させる方法もあります。必要な学習データを準備して学習させ、追加学習させた生成AIモデルを管理することが継続的に必要となります。既成の生成AIモデルと検索を組み合わせるRAGモデルと比べると運用負荷がかかるため、RAGモデルから検証を始めるケースがスタンダードになっています。 

下の図は、組織内の情報を検索するシステムにおいて、Azure OpenAI Serviceと全文検索エンジンAzure AI Searchを組み合わせて利用することで高度かつ自然な回答内容を生成してユーザに返す仕組みを実現するためのサンプルアーキテクチャです。 

このアーキテクチャは、Azure OpenAI を使用する際のRAGモデルの一例であるとともに、加えてオンプレミス上の院内ネットワーク上にある電子カルテ等の業務システムDBをクラウド(Azure)上にレプリケーションすることで、電子カルテ等のデータを検索対象として組み入れることを可能とし、同時に災害時のバックアップデータをクラウド上に退避させることもできます。Azure Arcを組み合わせて使用すると、さらなるメリットを享受できます。Azure Arcは、Azure以外の場所にある分散したサーバ環境をAzure上で一元管理するためのサービスです。具体的には、オンプレミスにある業務システムや他のパブリッククラウド環境の既存の仮想マシンなどの様々なリソースをAzure Arcに接続することで、統合管理ができるようになります。 Azure Arcを導入すると、オンプレミスに設置された電子カルテのデータベースSQL Serverをクラウド上で一元管理したり、クラウド利用料金のように利用時間単位の月額払いで使用したりすることも可能となります。 

さらに2023年後半にリリースされた新しいサービスであるMicrosoft Fabric を利用することにより、Azureだけでなく他社クラウド上にあるデータも仮想化して、あたかも実態があるかのように検索対象とすることができます。生成AIの活用による業務効率化を進めるためには、業務上必要なデータが点在していることが課題になります。Microsoft Fabric は、サイロ化し分散したデータの「民主的なデータメッシュ」として機能し、データを一箇所で中央集権的に管理するのではなく、各部門やチームが自分たちのデータを自律的に管理・活用できるようにし、組織全体のデータガバナンスに寄与します。 

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  1. 他のAIを組み合わせることで広がる利用シーン 
    生成AIの歴史は未だ始まったばかりであり、日々進化を遂げている途上でもあります。Azure OpenAIも、GPT-3.5からGPT-4、GPT-4-Turboへとアップデートしており、扱えるトークン数(文字数をカウントする値)も大幅に拡大しています。規約やガイドラインといった長文のコンテンツを、直接プロンプトにインプットし、過去の文例を参考にしながら改定されたドキュメントを自動で下書きさせるといった用途へも広がりを見せています。かつ、トークン当たりの価格は、以前のバージョンよりも安価であるという点でも、利用しやすさのメリットが向上しているといえます。さらに、直近ではGPT-4o という新しいバージョンのモデルの提供も開始し、さらなる精度と応答速度の向上により、利用シナリオの拡大が見込まれています。 
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  また、LLMは言語領域だけでなく画像や動画、音声もインプットデータとして処理できるようになってきており、これを大規模マルチモーダルモデルと呼んでいます。下図はその一例ですが、医療の分野でも画像等のデータを扱うシステム(PACS等)との組合せや、音声の記録や会議録を入力としたり、逆にテキストから音声によるガイダンスを自動生成したり、といった利用シナリオへと発展する可能性が期待されています。 

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下図は、異業種ですが金融業界におけるコールセンター業務へ生成AIの活用イメージとなります。お客様とオペレータのやりとりを音声からリアルタイムにテキスト情報に変換し、その内容に基づいて生成AI側がバックヤードで電話対応のレポートを自動作成することで業務効率化を図るといった例です。ここからさらに過去のQA記録に対するナレッジ検索AI、生成AIによる自然言語処理、そしてテキストを音声に変換するAI等を組み合わせて、お客様に対する音声回答まで自動で行う仕組みが考えられます。そして、これらはAIの翻訳サービスと組み合わせることにより、外国人のお客様や相談者に対する多言語での応対をAIにより実現する仕組みへと発展させることも可能と考えます。 

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最後に 

このブログでは、生成AIの医療分野での活用シナリオから始まり、進化を続けるAIの様々なサービスコンポーネントを上手く組み合わせることによって、より精度の高い回答、より多くの種類のデータの取り扱いが可能となってきていることをご説明いたしました。 

ここまでご紹介してきたAI活用のベースになるのは、元となる情報・データが適切に記録され蓄積されていることが前提となります。医療の現場で使用される電子カルテ等についても同様です。診療と平行して行う入力作業の負荷軽減にも併せて対処が必要であり、そこではAzure AIのSpeech to Text を使用し音声⇒テキスト変換を組み合わせるといった方策も考えられます。 

Microsoft Azureでは、下図に示すようにOpenAI サービス以外にも各種ラインナップを取り揃えており、お客様の実現したい利用シナリオを柔軟に構築することが可能です。 

ここでご紹介したAzure OpenAIサービスは、既にISMAPへも登録済みです。またサービス契約に関する管轄裁判所も日本となり、SLAも設定されており、サポートもMicrosoftで一元的に提供が可能です。 

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ぜひ、皆様のこれからの顧客サービス向上、業務効率化をプランニングされる際に、Microsoft Azureをご検討いただけますと幸いです。 

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Copilot for Microsoft 365 活用シナリオ・プロンプト集 – 製薬業界のビジネスを加速する生成AIの活用法 – http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/05/27/copilot-for-microsoft-365-utilization-scenarios-and-promptshow-generative-ai-can-accelerate-business-in-the-pharmaceutical-industry/ Mon, 27 May 2024 01:18:33 +0000 製薬業界は、医療の進歩や社会のニーズに応えるために、常にイノベーションを求められています。しかし、その一方で、厳しい規制や競争、コストや時間の制約など、様々な課題に直面しています。そこで、製薬業界のビジネスを加速するために、AIアシスタントのCopilot for Microsoft 365をご紹介します。Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに統合されたAIアシスタントです。皆様の言葉や文書を理解し、適切なレスポンスや提案を生成します。Copilot for Microsoft 365は、様々な業務シーンに応用できる機能を提供しており、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

日本マイクロソフト株式会社では、この度、製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をまとめたドキュメントを作成しました。本ブログでは、MR(医薬情報担当者)向け、研究開発向け、バックオフィス向けの一部シナリオとプロンプトをご紹介します。全シナリオとプロンプトに関しましては、以下リンクからダウンロードください。

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Executive Summary 
製薬業界は、医療の進歩や社会のニーズに応えるために、常にイノベーションを求められています。しかし、その一方で、厳しい規制や競争、コストや時間の制約など、様々な課題に直面しています。そこで、製薬業界のビジネスを加速するために、AIアシスタントのCopilot for Microsoft 365をご紹介します。Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに統合されたAIアシスタントです。皆様の言葉や文書を理解し、適切なレスポンスや提案を生成します。Copilot for Microsoft 365は、様々な業務シーンに応用できる機能を提供しており、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

日本マイクロソフト株式会社では、この度、製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をまとめたドキュメントを作成しました。本ブログでは、MR(医薬情報担当者)向け、研究開発向け、バックオフィス向けの一部シナリオとプロンプトをご紹介します。全シナリオとプロンプトに関しましては、以下リンクからダウンロードください。

「製薬企業様向けCopilot for Microsoft 365 プロンプト集」ダウンロードリンク:製薬企業様向け Copilot for Microsoft 365 シナリオ・プロンプト集

Copilot for Microsoft 365の概要 

Copilot for Microsoft 365は、Microsoft 365のアプリケーションに連携し、皆様の言葉や文書を理解し、データ作成や整理などの業務を遂行できるAIツールです。Copilot for Microsoft 365は、以下の特徴を持っています。 

  • 大規模言語処理(LLM)の技術を用いて、皆様の意図や目的を推測し、最適な回答や文章を作成します。 
  • Microsoft 365のアプリケーションとシームレスに連携し、Word、PowerPoint、Excel、Teams、Formsなどで利用できます。 
  • 様々な業務シーンに応用でき、皆様の作業効率や品質を向上させます。 

詳細:Microsoft Copilot for Microsoft 365 – 機能とプラン | Microsoft 365 

製薬業界にCopilot for Microsoft 365 の活用シナリオとプロンプト例 

製薬業界におけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト集では、MR向け、研究開発向け、バックオフィス向けの実践的な活用例をまとめております。本ブログでは、3つのカテゴリーから一例ずつご紹介いたします。 

MR向け活用シナリオとプロンプト例 

MRは、医師や薬剤師などの医療関係者に対して、製品の特徴や効果、安全性などを説明し、信頼関係を築くことが重要な業務です。しかし、MRは、膨大な情報や資料を管理しながら、時間や場所に制約されることも多くあります。Copilot for Micorosoft365では以下のようなシナリオで文書作成業務をご支援できると考えております。 

以下は、MRが医師に向けて講演依頼書を作成する際、そのドラフトをCopilot in Wordに出力させた例です。 

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研究開発向け活用シナリオとプロンプト例 

研究開発は、製薬業界の中核を担う重要な業務です。研究開発では、最新の研究動向や論文を追いかけたり、臨床試験の結果を分析したり、研究成果を発表したりすることが求められます。しかし、研究開発は、高度な専門知識や技術を必要とするだけでなく、多くの時間や労力を要することもあります。以下は、研究者が創薬研究セミナー(英語)に参加した際に、セミナー内容のキャッチアップをCopilot in Teamsに出力させた例です。 

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graphical user interface, text, application, email

バックオフィス向け活用シナリオとプロンプト例 

バックオフィスは、製薬業界の経営や人事、総務などの業務を担っています。バックオフィスでは、社内外のコミュニケーションや文書作成、アンケート調査などの業務が多くあります。しかしバックオフィスは作成する資料が多くその効率化が求められます。以下は、経営企画部門が新入社員に全社行動規範を説明する為の資料をCopilot in Power Pointに出力させた例です。 

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まとめ 

本ブログでは、製薬業界のMR向け、研究開発向け、バックオフィスにおけるCopilot for Microsoft 365の活用シナリオとプロンプト例をご紹介しました。これらのシナリオとプロンプトは、あくまで一例であり、皆様のニーズや状況に応じてカスタマイズできます。Copilot for Microsoft 365は、製薬業界のビジネスを加速するための強力なパートナーです。Copilot for Microsoft 365をお試しいただけますと幸いです。 

最後に、本ブログのドラフトはCopilot in Wordで作成致しました。ご参考までにプロンプトを掲載いたします。皆様も様々な業務でCopilot for Microsoft 365を是非お試しいただき、生産性・業務品質向上に向けて生成AIを使いこなしていただけますと幸いです。

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#命令

日本マイクロソフト株式会社として製薬企業様向けの”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”、”製薬業界のビジネスを加速するAIアシスタントの活用法 “というタイトルでブログを公開します。”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”はリンクからダウンロード形式で提供し、ブログ内でダウンロードURLを掲載します。ブログでは、”Copilot for Microsoft 365 活用シナリオとプロンプト集”からMR向け、研究開発向け、バックオフィス旨のシナリオからそれぞれ1例を紹介します。そのブログ内容を作成してください。

#条件:

以下項目とそれぞれの説明文を作成してください。但し、実際のプロンプト例の作成不要で、箇条書きでは無く、ナラティブで作成してください。

・Executive Summary

・Copilot for Microsoft 365の概要

・製薬業界にCopilot for Microsoft 365 の活用シナリオとプロンプト例

1. MR向け活用シナリオとプロンプト例

例: Copilot in Word – 講演依頼文書

2. 研究開発向け活用シナリオとプロンプト例

例:Copilot in Teams – 研究セミナーの要約・詳細確認

3. バックオフィス向け活用シナリオとプロンプト例

例: Copilot in Power Point – 新入社員に全社行動規範を説明する為の資料

作成

・まとめ

まとめには以下点を考慮したクロージングの内容を作成してください。

– 皆様でも色々ためしてほしい

– 最後にこのブログのドラフトを作成したこのプロンプトを紹介

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【PHR普及推進協議会】PHR座談会第1回「患者と医療者をつなぎ支えるPHRサービス」 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/04/03/phrsyposium_phr-services/ Wed, 03 Apr 2024 11:11:17 +0000 PHR普及推進協議会が「患者と医療者をつなぎ支えるPHRサービス」をテーマにした座談会を開催し、マイクロソフト コーポレーション(米国本社)インダストリーブラックベルト社会保障事業推進室長 石川智之 と日本マイクロソフト株式会社 ヘルスケア統括本部 医療・製薬営業本部アカウントテクノロジーストラテジスト 大嶽和也 が参加しました。 

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PHR普及推進協議会が「患者と医療者をつなぎ支えるPHRサービス」をテーマにした座談会を開催し、マイクロソフト コーポレーション(米国本社)インダストリーブラックベルト社会保障事業推進室長 石川智之 と日本マイクロソフト株式会社 ヘルスケア統括本部 医療・製薬営業本部アカウントテクノロジーストラテジスト 大嶽和也 が参加しました。 

(左から)阿部達也・大嶽和也 ・ 古屋博隆 ・安達幸佑・ 石見拓 ・ 田中倫夫 ・ 石川智之 ・ 大山 訓弘(敬称略)

個人の生活に紐づく健康・医療・介護等に関するデータであるPHR(Personal Health Record)は、患者への適切な医療の提供、質の向上だけでなく、現場の負担軽減にもつながることから、医療機関を中心に注目を集めています。PHR普及推進協議会はこのほど、「患者と医療者をつなぎ支えるPHRサービス」をテーマにした座談会を開催。3社の賛助会員企業が参加し、医療機関とPHRサービス事業者の連携や、PHRと医療機関の連携が患者様や現場の方々にもたらすメリットについて語りました。PHRの普及推進につながるヒントが多く出てきた座談会の様子をお伝えします。 

【座談会参加者】 

  • 石見拓  PHR普及推進協議会代表理事/京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻予防医療学分野教授  
  • 田中倫夫 アストラゼネカ株式会社執行役員/メディカル本部長  
  • 安達幸佑 テルモ株式会社 メディカルケアソリューションズ  
         カンパニーライフケアソリューション事業 デジタルヘルスマーケティングリーダー  
  • 古屋博隆 テルモ株式会社 メディカルケアソリューションズカンパニー ホスピタルケアソリューション事業 部長  
  • 石川智之 マイクロソフト コーポレーション(米国本社)インダストリーブラックベルト社会保障事業推進室長  
  • 大嶽和也 日本マイクロソフト株式会社 ヘルスケア統括本部 
         医療・製薬営業本部アカウントテクノロジーストラテジスト  

【聞き手】 

  • 阿部達也 一般社団法人PHR普及推進協議会専務理事/株式会社ヘルステック研究所 代表取締役 
  • 大山訓弘 一般社団法人PHR普及推進協議会理事・広報委員長                                              日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 ヘルスケア統括本部長                                                         

患者の治療記録を一元管理できるスマートフォンアプリを開発 

石見:まずは皆様の事業内容をご紹介いただければと思います。

アストラゼネカ株式会社執行役員/メディカル本部長 田中倫夫 

田中:アストラゼネカは、大きく分けて3つのPHR関連の開発に取り組んでいます。 

1つ目は、患者さん自身の健康管理を支えられるシステムの開発です。システムは予防と治療の2段階に分けられ、予防では、ビッグデータに基づくAIアルゴリズムにより、患者さんの健康状態を予測し、罹患を防ぐことを目指します。治療では、早期介入することで、重症化を防ぐことを目指した 仕組みとなっています。 

2つ目は、個人健康情報管理プラットフォームサービスを提供するパートナー、例えば株式会社Welbyと連携して開発・提供するスマートフォンアプリです。共同開発するスマートフォンアプリは、患者さんが日々の状態を記録することで自身の治療記録を一元管理し、可視化も図ります。 

3つ目は、薬の副作用を事前検知するシステムです。その一例は、患者さんにウェアラブルデバイスを装着していただき、血中の酸素濃度等から体調をモニタリングします。さらに、モニタリングしたデータを解析し、健康状態が悪化するとアラートを発出することに繋げる仕組みを考えています。 

安達:テルモは、糖尿病をお持ちの方向けサービスとして「メディセーフデータシェア」というクラウド型データマネジメントシステムを提供しています。糖尿病の治療ステージがいくつかある中で、メディセーフデータシェアは、インスリンを投与している方に向けたサービスという位置付けです。 

メディセーフデータシェアは、NFC(近距離無線通信)を搭載した弊社の血糖測定器と連携させることで、簡単に血糖値を記録できます。また、食事や運動などの生活習慣記録や、他のバイタルデータも記録可能です。さらに、患者さん、医療機関の双方のアカウントを連携させることで、医師が診察の中でも活用できるサービスとなっています。 

電子カルテとPHRのデータを統合する重要性 

石見:アストラゼネカのアラートシステムにせよ、テルモのメディセーフデータシェアにせよ、家庭で収集したデータをいかに医療者につなぐかが大事な役割になるのかなと思います。家庭で収集したデータを医療者につなぐという役割について、マイクロソフトはどのようにお考えですか。 

石川:データを総合的に集めていく重要性については昔から言われていますが、医療機関の多くはAI(人工知能)を駆使するためのデータを集めることに苦労しています。データの細分化により、電子カルテとPHRのデータ・情報が分かれてしまっているためです。これらをいかに統合するかが重要ですね。 

さらに、テクノロジーのサイロ化により、医療データの収集や分析、活用といった各領域にいるプロフェッショナルな人材が分断されているという課題があります。このような状況のため、最初のデータ収集で時間がかかり、AIの活用がなかなか進みません。 

あとはユーザーインターフェース(UI)も課題に挙げられます。各データ領域で、UIが違うので、現場のスタッフや患者さんの思考がストップしてしまっています。この現状を踏まえると、今後は、患者さんが自ら操作する時でも自動的にデータが1つのプラットフォームに吸い上げられていくといった世界観の実現が求められています。未来図は見えていますので、各システムで収集したデータを統合し、いかに医療者につなげていくかが鍵になると思います。 

PHRと医療機関の連携によって、患者の治療に対するモチベーションが維持される 

石見:続いて、PHRと医療機関がつながると、患者さんにどういったメリットがあるかについてお伺いできればと思います。 

田中:メリットは短期、長期の両方で切り分けられると思います。短期的には、服薬状況や体温、副作用といった日々の状態を病院側と共有することで、患者さんと担当医とのコミュニケーションが円滑になるのがメリットといえるでしょう。 

長期的には、データの経過的な観察により、疾病の長期的なリスクを特定できるのがメリットです。疾病のリスクは、ピンポイントのデータだけではわかりません。日々の患者さんのデータが手元にあって初めて、変化が現れます。 

テルモ株式会社 メディカルケアソリューションカンパニーライフケアソリューション事業 デジタルヘルスマーケティングリーダー 安達幸佑

安達:PHRと医療機関の連携によるメリットは、患者さんの糖尿病治療に対するモチベーションが維持されることです。 

糖尿病をお持ちの方の中には、就業者を筆頭に、受診間隔が1カ月、長い方で3カ月くらい空いてしまう方が少なくありません。観察できるデータのタイムラグが起きると、そうした方は徐々にモチベーションを低下させてしまいます。 

一方、PHRを活用すると、受診間隔の長短に問わず、患者さんがデータを記録・観察できます。例えば、メディセーフデータシェアには、患者さんがアップロードした写真を介して医師とやり取りできる機能があります。この機能により、患者さん側は優しく見守ってもらっている気持ちになり、治療のモチベーション維持につながります。この点、PHRは、受診間隔が空いてもその間隔を埋めてくれる存在ともいえると思います。 

成功体験を積み重ねることで、ロールモデルを構築できる 

石見:家庭で収集したデータを医療者につないで、患者さんのエンゲージメント向上につなげるというアプローチについては、かなり活用されていますね。 

安達:ただ、医療者側の認識としては、PHRの連携を多用すると、業務負担につながるという懸念があります。このため、PHR連携による成功体験を患者さん、医師の双方で積んでもらうのが、有用ではないかと思います。現在の普及状況から考えると、何人かに対象者を絞って使っていただいた上で成功体験を積んでもらうのがベターです。成功体験を積んでもらった後、PHRと医療機関の連携が広がるかと思います。 

石見:今はPHR連携による成功体験を積み重ねる段階ですね。成功体験の積み重ねにより、ロールモデルができると思います。 

PHRは、患者さんが継続的な検査をしているかを測定するうえでも有用です。検査の実施状況のデータもPHRに残っていれば、患者さんが医療機関に訪れた際に過去のデータが共有され、実施すべき検査が明確化されます。 

安達:石見先生のお話を聞くと、PHRによって異なる診療科の先生が、既往歴を一目で確認できる世界観が実現できるのではないかと思います。例えば、眼科の先生が、糖尿病の既往を把握するといった形です。これにより、患者さんが検査の必要性に気づく頻度が増え、重症化予防の領域が進むのではないでしょうか。 

石見:おっしゃる通りですね。私は循環器内科が専門ですが、普段は電子カルテを読み込み、別の診療科の診療録を調べるといった行為はしません。しかし、PHRがあれば、簡単に他科での診療経過も共有できるようになると思います。 

古屋:診療録の共有は、電子カルテが統合されていなくても、別のソフトウェアを立ち上げるだけでも可能なのでしょうか。 

石見:診療録の共有は、段階があると思います。最終的には電子カルテを通じた情報共有が理想ですが、電子カルテは運用上の制約が多々あります。このため、短期的には先ほどの成功体験のような話で、簡易のタブレット等を経由して情報が伝わる形で十分かと思います。 

PHRの普及には、標準化されたプラットフォームの構築が鍵 

マイクロソフト コーポレーション(米国本社)インダストリーブラックベルト社会保障事業推進室長 石川智之 

石見:しかし、今はPHR連携の成功体験がないので、医療機関側に電子カルテの改修といったモチベーションがありません。マイクロソフトはその点についてどのようにお考えでしょうか。 

石川:厚生労働省は、「医療DX令和ビジョン2030」の中で標準型電子カルテの開発に本年度から取り組む予定ですが、「PHRを取り込む仕組みを入れよう」といった意見は聞こえていません。 

今は病院ごとにPHR連携の仕組みを構築するのが難しいので、PHRを取り込む前提で標準型電子カルテを作っていけば、PHRと医療現場に溶け込んだ世界が実現されるかと思います。いずれにせよ、PHRの普及に向けては、国が音頭を取って、PHRを取り込むプラットフォームを構築するのが重要です。 

石見:おっしゃる通りで、標準化されたプラットフォームの構築が本日の議論の鍵になるかと思います。標準化されたプラットフォームへの連携を想定しながら、まずは生活習慣病や救急災害といったPHR連携のメリットが分かりやすい領域にフォーカスし、日常的なデータを複数の医療者と共有して医療の質が高まるといった実績を積み重ねるのが理想的と考えています。 

標準化するのはプラットフォームだけではありません。PHRの指標や基準を標準化するのも重要ですよね。例えば、酸素飽和度や体重といった指標の基準を標準化しておき、どのPHRサービスでも基準を見られるようにするといった形です。 

そのうえで、受診する医療機関に関係なく、各医療機関の医療者がPHRを見られるようにします。これにより、ガン専門の医師が気づけない疾患を、循環器の医師が気づけるといったメリットも生まれるでしょう。 

安達:ただ、こうしたPHR連携が進むと、患者さんの病状の変化を見逃した時の責任の所在が問題になるかと思います。PHR連携を進めるだけなく、PHRを通じた病状のスコア化、可視化も重要です。そのスコアもガイドラインで規定されていれば、医療機関によるPHRサービスの普及が進むと思います。

PHRによる責任の増加を懸念していては、医療が永遠に発展しない 

石見:おっしゃるようなPHR連携の課題については、医療が発展していく過程の中での課題ではないかと思います。このような課題は、AED(自動体外式除細動器)が普及する過程でも起きました。 

AEDは2024年7月に、市民による使用が許可されて20周年を迎えます。AEDは当初、学校に設置されていないのが当たり前だったので、使わなくても責任を問われませんでした。 

しかし、今はAEDが当たり前になったので、学校がAEDを適切に使用できなかったら責任を問われます。AEDの普及活動を始めた当初、弁護士さんから「基準が変わるので、責任を問われる方が出てくることも覚悟しなければいけませんよ」と言われていましたが、基準の変化により、責任範囲が広がるのは、医療が発展するということだと思います。 

PHRの場合も、データ連携により見える範囲が広がり得るので、「医療者の責任が問われやすくなる」といった懸念はあります。しかし、責任増加の懸念により、PHRを普及させないという姿勢では、医療が永遠に発展しません。 

テルモ株式会社 メディカルケアソリューションカンパニー ホスピタルケアソリューション事業 部長 古屋博隆 

古屋:そういう意味では、AEDも当初は医療者が使えなかった一方で、現在はわれわれも使えるようになっています。もしかしたら、PHRも医療者だけではなく、一般人のわれわれも一定の判断基準のもと、使えるようになると、すごく世界が広がるのではないかと思いますね。 

石見:PHRの場合は、AEDよりもデータが複雑です。このため、一概に言えないのですが、PHRの運用にあたって医療者に対するサポートもないと、医療者側も二の足を踏んでしまいますよね。普及に際しては、多くの情報処理に追われることがないように医療者の負担を軽減する仕組み、機能の導入や、法律やガイドライン等で医療者に過度の責任を求めることなく、PHR連携の活用が進むようサポートしていくことも重要です。 

対話型AIが必要なデータの抽出を簡素化する 

日本マイクロソフト株式会社 ヘルスケア統括本部医療・製薬営業本部 アカウントテクノロジ-ストラテジスト 大嶽和也 

大嶽:やはり、PHRの普及にあたっては、インターフェースを1つに統一することが重要です。われわれは、医療者もPHRを活用できるように、インターフェースを統一したうえでデータ収集・分析といった1つ1つの作業を簡略化する開発姿勢を非常に重要視しています。 

1つのパッケージの中で、時にAIの力を借りながら、いろんなPHRサービスにあるデータを分析できるプラットフォームが理想です。こうしたプラットフォームであれば、利用者側に専門的なスキルが必要ありません。われわれは、医療者が簡単に患者さんの状態を確認できる形を目指し、プラットフォームづくりを進めています。 

石川:われわれは、双方向でやり取りできる対話型AIを実装した電子カルテについても、構想を描いています。構想する電子カルテでは、医師が質問すると、AIが必要なデータを可視化したり、現状の健康状態から逆算した検査数値の予測値を出したりしてくれます。対話型AIを実装した電子カルテのように、今後は、たくさんのデータからほしいデータを引き出せるソフトウェアの開発が重要だと思います。 

石見:その辺りがまさにインタラクティブAIがサポートしてくれる領域だと感じますね。 

古屋:医療者が必要なデータは限られていると思います。複数のデータをビジュアライズして見やすくする方法もありますが、一番重要なのは、必要なデータの抽出です。この点、AIが必要なデータを抽出する上で役に立つかもしれません。 

田中:それでも、AIが抽出するデータが現場の医師が使うデータと全く同じであれば、AIが大きく大きな発展しないのではないかと思います。 

AIで抽出したデータと現場の医師が使うデータの間に若干の違いが出てしまうのが、ある意味、理想です。AIを通じたデータの収集・分析を進める上では、通常の診察よりも広い範囲のデータを集めつつ、要所で大事なデータを取捨選択できるのが重要だと思いますね。 

現場の医師の意見をもとにしたPHRサービスの構築が重要

PHR普及推進協議会代表理事/京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野教授 石見拓 

石見:PHRを医療現場とうまく連携させるためには、PHRサービス事業者と医療機関の双方がやり取りすることが必要です。多くの医療機関では現状、電子カルテを構築する際にも現場の医師の意見が十分に反映されていないように思います。 

先日、ガン治療を専門にする医師が、「多くの患者さんがしんどくても自宅にいたいので、すれすれの状態まで頑張って苦しいと言わないんです。そして、最後に耐え切れなくなって救急搬送されるケースも多いので、自宅での酸素飽和度や患者さんの自覚症状を把握できる機能が欲しい」とおっしゃっていてなるほどと思いましたが、こうした現場の医師の意見をもとにしたPHRサービス、医療との連携の構築が重要ですね。 

現在、ICT(情報通信技術)の発展により、診察時の情報だけでなく、1日単位の体重や血圧など、詳細なPHR(ライフログ)データの収集が可能になりました。これにより、医療情報が増えるという側面がありますが、「一定のラインを超えるとアラートが出る」といった機能を設けることで、現場の負担も減らしつつ、PHRデータを活用することが可能です。PHRサービス事業者の皆さまには、そうした点を意識しながら、サービス開発を進めてもらえればと思います。 

文:Omura Wataru

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ヘルスケア業界の未来 〜医療現場から見た医療 DX と AI〜  http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/03/28/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part5/ Thu, 28 Mar 2024 03:58:32 +0000 2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI  が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI  が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

京都大学医学部附属病院の黒田 知宏 氏は、院内 IT の責任者であると同時に、電子カルテの自動化に関する研究に携わり、政府が進める次世代医療情報基盤法の認定事業者の理事を務めるなど、医療 DX に深い造詣をお持ちです。

黒田 知宏 氏(京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授)

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

長く院内 IT に携わり、医療 DX の第一人者として活躍

河野 まず、黒田先生が現在取り組まれているお仕事についてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

黒田 所属している京都大学病院のなかでは、大学教授としての教育・研究のほかに、病院長補佐の立場で病院の電子カルテを含めた情報システム全体の設計管理の責任者として働いています。また CIO としてシステムから上がってきたデータをもとに病院経営に携わる役割も担っており、当然ながら情報セキュリティについても責任を負う立場でもあります。

学外のプロジェクトとしては、内閣府が立ち上げた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参加して、自動でカルテ作成を行える電子カルテの開発研究に取り組んでいます。これは、医療機器のデータや医療者の行動状況をすべて正しく自動で記録することで、インシデントの予測や人為的なミスの軽減など、電子カルテが医療者に寄り添うパートナーとなる世界を目指したプロジェクトです。

実は私は、最初から医療情報を志していたわけではないんです。専門分野は人間とコンピュータの関係性をどのように整えるか、いわゆるヒューマンインターフェイスで、博士号は手話工学で取得しました。病院情報システムをつくる人間の顧客となるのは、患者さんというよりは医師や看護師です。そういう意味では、今取り組んでいる電子カルテ医師や看護師がいかに快適に仕事をできるか、そのためのシステムを考える研究は自分の専門や興味に合致していると感じますね。

河野 この後の AI の話にもつながってくると思うのですが、ユーザーが何かを判断するために必要なデータを正確に収集して、さらにわかりやすく示すことはとても重要ですよね。

黒田 おっしゃる通りです。医療業界は特に、データに頼る傾向が顕著です。医療者は患者さんの顔を覚えていなくても、X 線の画像を見れば「あの患者さんか」と思い出すという話が笑い話のように話されることがありますが、実はそれは実態に近くて、医療者にとって、データは患者さんそのものと言っても過言ではないんです。

何かの拍子にある患者さんの体重を誤って入力してしまえば、薬の処方量に影響が出て、患者さんの健康を害しかねませんよね。だから私は 20 年来、データ入力プロセスの改善にエネルギーを注いできたんです。

医療 DX におけるデータの価値と次世代医療情報基盤について

河野 医療 DX を進めるにあたって、データの可搬性や標準化はホットなテーマだと思うのですが。

黒田 標準化については、完全なものはつくれないと思っています。私は、集中すべきはコンテンツ、中身そのものだと考えています。患者さんの情報を入力する際に、名前、体重、値といった形で必要とされる情報の組み合わせはある程度決まってきます。その組み合わせを変えないでデータを伝えられれば、いくらでも変換はできるはずなんです。それが、この標準でやらなければいけないとか、この標準では使いにくいといった議論に陥ってしまう。手段を目的化するのではなく、本質を見定めて議論をしなければ、当初考えていた世界とは異なる結果が生じてしまいかねません。

河野 データの有効利用という点でもう少しお話をお聞きしたいのですが、政府は次世代医療情報基盤法を定めて、医療情報の活用を進めようとしています。この動きについて先生はどのように評価されますか?

黒田 次世代医療情報基盤法の趣旨は、個々人の医療情報を匿名化して研究開発での活用を促進することですが、施行以来、活用された事例はわずか 20例強に止まっています。これも、手段の目的化が大きな要因だと考えています。制定の過程で、セキュリティリスクを過大に恐れるあまり、研究開発に必要な情報が取得できないなど、非常に使い勝手の悪い仕組みになってしまったのです。もちろん個人の医療情報は大切なものですが、これではなんのために法律を定めたのかわかりません。

この結果を受けて 2023 年に改正が行われ、より制約の少ない仮名加工医療情報の採用や、以前は利用できなかった公的データベースとの連結といった改善が行われました。一方、議論の流れを見ているとやはり手段と目的をはき違えがちなのが現状です。国には、目的を忘れずに政策設計に本気で取り組む姿勢を示してほしいと思います。

社会の生産性を高めるためには、手段と目的を履き違えないことが大切

河野 セキュリティの専門家としてこれを言うのはちょっとおかしいかもしれませんが、IT 基盤を構築するときにセキュリティに注力しすぎという議論があります。私は、もっと生産性に軸足を置いた議論になればいいのに、と常々思っているんです。

黒田 私もそうあるべきだと思います。社会全体の生産性を高めるためには、専門家に預けるべきなんです。次世代医療情報基盤法のそもそもの出発点も、専門家にデータを集めて管理してもらい、そこに責任を持ってもらう。責任を持つ能力があるかどうかは国が認定しますよと。だから医療機関の方もサービス提供する方も個人の方も情報を提供してください、それによって社会全体で情報の流通が始まります、というものですからね。それをわざわざ流通させにくく、扱いにくくしてしまうのは本末転倒です。

河野 IT は本来、人を楽にすることが目的ですからね。次世代医療情報基盤法の整備が進めば研究開発が進んで幸せになれる人が増えると思うので、私たちも期待しています。

情報基盤の有効活用にもつながる話ですが、これからは個人が PHR(Personal Health Record)データをいかに多く提供してくれるかが重要になると思うのですが、より多くの人が安心して PHR を提供できる仕組みも必要ですよね。

黒田 そうですね。ただ、「安心できないこと」はデータを提供しない理由にはなるけれど、「安心できること」は必ずしもデータを提供する理由にはならないと思っています。データを提供してもらうのであれば、提供者にどのような「利益」を提供できるかを考えなければいけません。

データの話になると、つい「データが集まれば新しい知見が得られて新しい技術が生まれて社会が豊かに…」といった二次的な利益の議論がなされがちです。それは間違いではないのですが、それではなかなか個人には響かないですよね。「データを提供すれば商品やポイントがもらえる」といった一次的な動機づけの方が重要だと思います。

IT は大きな力になる。大切なのは、なんのための技術なのかという意識

河野 ゲノム領域における IT の可能についてお話をお聞きしたいのですが、まずクラウドの活用という観点ではどのような評価をされていますか?

黒田 データ分析にはクラウドは大変価値があると思っています。まずクラウドは基本的に従量課金サービスですよね。大量のデータを扱うデータ分析の世界では、従量課金でないといくらお金があってもたりなくなってしまいますから、そこはとてもありがたいですね。

それから、柔軟性の高さも評価しています。いくつかあるクラウドプラットフォームのどこかにデータを置いておけば、CPU リソースやライセンス、分析エンジンなど必要なリソースを組み合わせて仕事ができる。これが私たちにとってのクラウドのメリットであり、クラウドの本来のありようでもあると思います。

河野 続いて AI についてもお話を聞かせていただければと思います。例えば、画像に関する質問に回答できる VQA(Visual Question Answering)という技術でも自然言語による会話機能が実装されています。こういった技術は医療分野では有用なのではないかと思うのですが。

黒田 確かに、その技術を使えば、看護師による体位転換や食事介助が行われた事実を画像から判断できるようになりますね。AI が画像を読んで「体位転換が行われた」とカルテに書き込んでくれるようになれば、電子カルテの運用はかなり変わるはずです。個人的には、新しい技術は片っ端から導入したいと思っています。

河野 あらぬクレームを受けて看護師さんが疲弊してしまうというお話も聞くので、仲介者としての AI という使い方もあると思うんです。事実が客観的に示されることで、医療者の緊張感を緩和できないかと。

黒田 そういった使い方も考えられますね。ですが本来は、自分を守るために記録を取らなければいけないというのは不幸なことだと思うんです。何度も恐縮ですが、記録を取ることが目的化してはいけません。そもそもなんのために診療記録を取得しているのかまで立ち返って考えることこそが、重要だと思います。

河野 最後に、私たち日本マイクロソフトへの評価や期待することがあればお聞かせください。

黒田 先ほどからお話をしてきたように、結局は手段と目的という話になるのだと思います。マイクロソフトさんは手段を提供されている会社でありながら、目的に一番近いところでお仕事されている印象があります。つまり、クラウドプラットフォームが整備され、そこでさまざまなツールを提供する会社が乱立するなかで、一番国民生活に近いツールを揃えていらっしゃる。これはマイクロソフトさんの強みだと思います。

この次のステップとして私が期待するのは、顧客サービスの先にある外商です。お持ちのさまざまなリソースを生かして、顧客のサービスを代理で行えるようなところまでいける可能性をお持ちだと思うので、そこを目指していただきたいと思います。

「ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜医療現場での AI 普及シナリオ〜」記事

「ヘルスケア業界 Data & AI 対談 〜今まさに顕現化しつつある AI 活用の課題と可能性〜」記事

【対談】ゲノム & AI 見えてくるヘルスケア業界の未来 〜バイオインフォマティクスの発展を支援するデータ & AI〜」記事

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ヘルスケア業界の未来 〜情報基盤の整備から見える医療 DX のかたち〜 http://approjects.co.za/?big=ja-jp/industry/blog/health/2024/03/28/data-and-ai-conversation-in-medical-industry-part4/ Thu, 28 Mar 2024 03:57:07 +0000 2022  年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

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2022 年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用され、厚生労働省の「保健医療分野 AI  開発加速コンソーシアム」で AI  開発促進のための工程表が策定されるなど、ヘルスケア業界では AI  技術の活用拡大への期待が膨らんでいます。

ただし、消化器系内視鏡分野や MRI  の補助診断装置などですでに AI が活用されている一方で、データの主体や正確性の担保をどのように考えるのかといった課題も指摘されています。

これからのヘルスケア業界において AI  とデータはどのような役割を期待され、どのように活用されるべきなのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社  Chief Security Officer  河野 省二が、ヘルスケア業界におけるデジタル変革のキーパーソンをお招きして「Data & AI」をテーマに実施した対談の模様をお届けします。

大阪公立大学病院 医学研究科 血液腫瘍制御学(臨床検査・医療情報医学兼任)の岡村 浩史氏は工学系の修士課程を修了して就職した後に医学部に編入し、臨床医になったという異色の経歴の持ち主。現在は AI や機械学習を使った研究を行う上で必要とされる情報基盤の開発に取り組んでいます。

岡村 浩史 氏(大阪公立大学病院 医学研究科 血液腫瘍制御学(臨床検査・医療情報医学兼任))

河野 省二 (日本マイクロソフト株式会社 Chief Security Officer)

工学から医学に転身し、AI 活用のための情報基盤構築に尽力

河野 岡村先生は工学から医学への転身というご経歴をお持ちですが、なぜ今のキャリアを志すようになったのでしょう?

岡村 私は工学の修士課程を修了して、SE として働いていたのですが、自分の仕事が具体的にどのように社会の役に立っているかが見えにくかったこともあり、臨床医を目指したいと思うようになりました。思った通り臨床医はとてもやりがいのある仕事で、当初は熱中して働いていたのですが、あるとき先輩から臨床研究に誘われたんです。

そこで見た研究は、かつて工学を専門としていた私の感覚からすると、自動化が進んでおらず極めて非効率的なものでした。そこで、自分の権限内でデータ収集の自動化ツールなどをつくって使っていたところ、口コミでそのことが広がって、医療情報部から声をかけていただいた、という流れです。

河野 大変興味深いキャリアを積まれているのですね。先生が現在取り組まれているプロジェクトについてお聞かせください。

岡村 医療情報分野では大きく分けてふたつのプロジェクトに携わっています。ひとつは、AI や機械学習のような予測モデルを用いた研究を行う分野で本学の情報学と共同研究を行っています。もうひとつは、そのような AI 開発のトレーニングに使うための診療情報を収集・活用する基盤の開発と、医療情報標準化の取り組みです。

AI が実現する将来は非常に夢のあるものだと感じていますが、一方で、AI を開発・発展させるためには優れた情報基盤が必須となります。AI の開発をスポーツカーの設計に例えると、情報基盤は道路整備です。質の良い道路が整備されなければ、スポーツカーの性能を検証することもできませんよね。私は、医療 DX における AI 活用においては、この道路整備の部分にボトルネックがあると考えています。

医療情報活用を阻む壁と、それを超えるためのアイデア

河野 他の業界においても道路整備の部分、つまりデータの収集や活用の仕方は課題になっているようです。医療業界においては、具体的にどのような障壁があるのでしょうか。

岡村 技術的なことというよりもむしろ、我が国特有の組織体制や規制、文化などに見られる不合理に課題があると私は考えています。例えばステイクホルダーの多さ。プロジェクトを進めるためには、患者、医療現場、病院管理者、医学研究者、システムベンダー、製薬企業、行政といったような多岐にわたるステイクホルダーの足並みを揃えるところから始めなければいけません。

さらに、足並みを揃えるための調整が必要となります。そのためには AI やコンピュータの知識、医学の知識はもちろん、臨床現場の実態も知らなければいけません。また、医学研究の倫理や個人情報の扱い方といった規制にも詳しくなる必要があります。ところが、我が国ではこれらの知見を総合的に備えた人材はなかなかいない現状があります。

法整備や運用についても、合理的に考える必要があります。我が国では公的データベースは個々に存在するのですが、それぞれ独立した法律や枠組みに基づいて管理されているために、せっかくビッグデータがあっても、それらをマージして付加価値を生み出せない法体制になっています。機微な個人情報のセキュリティを担保する重要性は認識していますが、それを踏まえても現状の枠組みは非合理的な点が多いように思います。

河野 なるほど。岡村先生のように工学と医学の知識を兼ね備えた人材を増やしつつ、法整備についても国に訴えかけていく必要があるようですね。

岡村 電子カルテがネットワークに繋げられない問題も、日本特有の文化に根ざしていると思います。医療情報と同じようにお金という機微な情報を扱う銀行や証券会社は、10 年以上前からオンラインで手続きができるようになっているのに、なぜ病院で同じことが実現できないのか。これは、誤った閉鎖系神話と、病院側に変化に対応するインセンティブがない点が大きな要因だと思っています。この病院の「ノーチェンジ・ノーリスク思考」に対しては、行政による評価系の転換を期待したいところです。

河野 私は専門がサイバーセキュリティなのですが、トラブルもありつつ銀行がうまくいっているのは、全銀連のようなセンターがデータを安全管理してくれているからだと思っています。医療業界でも、情報バンクのようなものができて一時的なセキュリティを担保してくれるのであれば受け入れやすいと思うのですが、いかがでしょうか? 技術的には難しい話ではないと思います。

岡村 なるほど。医療以外の領域のセキュリティについては、まさにお聞きしたかったお話です。確かにそのご提案は非常にリーズナブルですし、医療業界でもそういった枠組みがつくれたらいいと思いますね。

データ活用を進めるための医療情報標準化と全体最適

河野 情報基盤の構築に際しては、データの標準化が重要ですよね。先生もFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)による標準化プロジェクトに取り組まれています。

岡村 医療情報の標準化は、医療 DX において必須だと思います。とはいえ、標準化の作業は非常に泥臭く、油断するとベンダーや医療機関ごとに異なる FHIR データ がつくられてしまうといった、部分最適が横行する危険性も孕んでいます。先ほどの障壁の話にもつながるのですが、効率的にプロジェクトを進めるにあたっては、常に全体最適の視点・意識を持つリーダーシップが重要になると考えています。

河野 標準化の過程で、データが構造化できるかどうかは重要なテーマですよね。私たち日本マイクロソフトのようなテックベンダーも、例えば非構造化されたデータを構造化したデータベースをご提供するなど、お役に立てることはあると思うのですが。

岡村 おっしゃる通り、電子カルテを例にとると、血液検査結果や薬剤情報など構造化されたデータがある一方で、カルテ記事やレポートのような自由記載文は構造化されていません。でも実際は、そこにしかない貴重な情報がたくさんあるわけです。医師はさまざまな検査結果を統合して評価するわけですが、その所見は自由記載欄にテキストで記入することになりますからね。このようなデータは、今後 LLM(Large Language Models)を活用することで大きな価値を生み出すはずなので、テクノロジーに期待したい分野です。

河野 PHR(Personal Health Record)についてもご意見をいただきたいのですが、ウェアラブルデバイスを身につけて、その情報から健康管理をするようなアプリやサービスも増えています。そういった個人の健康情報は先生が考える情報基盤にもあるべきだとお考えでしょうか?

岡村 はい、もちろん必要です。同じ病気であっても、先天的な要因、後天的な要因が作用することで、表現される症状は多彩ですから、その患者さんのライフログのような形であらゆるデータを集約しておいて、あらゆる表現系に対する解析ができるようにしておくことが、基盤として理想的な形だと思います。またデータというものは、集約あるいは統合することによって付加価値が生まれていくので、PHR のデータ収集は私たちとしても目指していきたいところです。

河野 なるほど。ただ、自分のデータを無償で提供するのはなかなか理解が得られませんよね。先生は、どのような報酬が望ましいとお考えでしょうか?

岡村 ひとつは、情報銀行のような考え方です。個人が自分の情報を預けたり提供したりすることで、ポイントやサービスなどを得られる仕組みが有効に機能する可能性はあると思います。もうひとつは、私が実際にプロジェクトとして取り組んでいることなのですが、「見守り機能」の付帯です。今私は、患者さんがスマートウォッチやアプリ経由で入力したデータを集約して、その情報から AI で危険な兆候を検知するアプリの開発プロジェクトを進めています。

他国の例を見ると、仏国ではアプリによって患者さんの健康を管理するいわば「情報薬」とも呼べるものが実現されていて、実際に肺がん患者の予後が改善したという報告もあります。ですから、今取り組んでいるこのプロジェクトは、患者さんにとっても医師にとっても非常に有効なものだと考えています。

データ活用実現後の課題と日本マイクロソフトへの期待

河野 データと AI を活用した予兆検知のような医療サービスは、非常に画期的だと思います。ただそうしたサービスが普及することによって、医療者の皆さんの業務負担や訴訟リスクが増えることも考えられるのではないかと思うのですが。

岡村 その点は、この領域において常に議論になっています。しかし、私はデータと AI の活用によってトータルで見た医療者の業務負担は減るのではないか、と予想しています。予兆検知システムが構築された場合、医師が 24 時間大勢で対応しなければいけないようなイメージを持たれるかもしれませんが、予測精度の高い AI によるアラートを受けて適切な患者に対して医療者が早期治療介入できれば、重症化リスクを削減できます。その結果、先々の診療コストや人的資源の削減につながりますし、コストを減らせればその分人員を増やすこともできますから、全体で見れば医療者の負担を減らせると考えています。

訴訟リスクについては、前提条件によって整理することが可能だと思います。米国では、患者さんと医療者が電子カルテに搭載されたチャット機能で会話できるシステムが利用されているところがありますが、緊急時はチャットではなく直接電話で連絡するといったルールを設けて運用されています。訴訟社会の米国でこれが運用できているのですから、日本でも実現できるはずです。

河野 最後に、私たちマイクロソフトにご期待いただいていることがあればお聞かせください。

岡村 私は、医療 DX の直近の目標は、産業界において適切なルールに基づいて、安全かつ効率的に医療情報の流動性を担保できる環境を整備することだと思っています。逆に言えば、それができなければ、医療 DX の持続可能性はなくなってしまうと思うのです。その目的に向けたコンセンサスやルールづくりの実現が必要です。

そこで日本マイクロソフトさんにはぜひ、医療情報の価値を高めるために力を貸していただきたいと思っています。例えばこの先、Microsoft Copilot によって LLMの民主化が起きれば、医療業界からも「電子カルテでも Copilot を使いたい」というニーズが出てくるはずです。そうすれば、一気に電子カルテのオンライン化に向かうといった未来も描けます。そのイメージを共有していただき、起爆剤となっていただけることを期待しています。

それからもう一点、我が国のアカデミアには、小さいけれど有望な、研究のシーズがたくさんあります。それらを育てるための産学連携研究にも積極的に取り組んでいただきたいと思っています。

Windows というグローバルに普及している OS をお持ちのマイクロソフトさんには、一夜にして世界を変える力があると思っています。その強力なパワーを、よりよい社会の実現に役立てていただけることを期待しています。

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