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業界

新たな産業革命を引き起こすデジタル変革は CIO が主導すべき

デジタル技術が新たな産業革命を引き起こす。CIO がデジタル変革を主導すべき

IoT やクラウド、人工知能など、デジタル化が一層進む現在、CIO や IT リーダーには、自ら進んで最新テクノロジーを活用した新しいビジネス モデルの創出や、イノベーティブな顧客体験の創造に取り組むことが求められている。こうした状況の中、マイクロソフトの IT 部門ではデジタルトランスフォーメーションを推進。CIO としてこのプロジェクトの中核を担うジム・デュボワが、同社の取り組みの概要やデジタルトランスフォーメーション時代の CIO の在り方について語った。

日本マイクロソフトの IT 組織を統括する廣﨑 淳一は、冒頭で「今、IT を活用して、どのように会社を変革していくかが問われています。今回のラウンド テーブルで紹介するマイクロソフトの取り組みが、少しでもヒントになれば幸いです」と語った。

CIO が企業のデジタル変革を主導

デュボワは 20 年ほど前にマイクロソフトの日本法人に駐在。約 2 年間、日本からアジアの IT 全般を統括した経験を持つ。その後、米マイクロソフトに戻り、2 年前に CIO に就いた。このように長きにわたって IT 部門を統括してきた立場からデュボワは現在の状況を以下のように表現する。「IT に関わっている者にとって、現在は非常に重要な時代です。というのも IT に対する考え方がこれまでとは全く違うものになりつつあるからです」。

この象徴とも言えるのが、2016 年 1 月に開かれた世界経済フォーラムの年次総会(通称、ダボス会議)だ。ダボス会議に集まった世界のリーダーたちは「我々は今、第 4 次産業革命のまっただ中にある」と宣言したという。

この新たな産業革命の源泉は、人工知能 (AI) やドローン、3D プリンター、生産ラインのスマート化をはじめとするデジタルテクノロジーである。あらゆるモノやプロセスに IT が埋め込まれて有機的に連携することで、これまでの延長線上にはない変革が起こりつつあるのだ。

デジタルテクノロジーは、企業経営にも大きな変革をもたらす。世界中の先進企業がデジタルテクノロジーを活用した変革、すなわち「デジタルトランスフォーメーション」に挑み始めている。デュボワは、デジタルトランスフォーメーションを「既存の業務プロセスをデジタル化することではなく、お客様のエクスペリエンスを再構築すること」と位置づける。例えば、銀行がスマートフォンのアプリを顧客接点として、わざわざ窓口に来なくても済むような仕組みを作ることが、これに該当するという。

「多くの CEO (最高経営責任者) がデジタルトランスフォーメーションを重要な課題と位置づけるようになってきました。CIO はその課題解決に大きく貢献できるし、大きな影響力を持つことになるのです」と、デュボワは CIO がデジタルトランスフォーメーションを主導する役割を担うべきだと主張する。

企業の IT 部門というと、従来は業務の省力化や自動化のための情報システムを企画・開発・運用することが主要な役割だった。しかし、デュボワは、デジタルトランスフォーメーションに取り組むと IT 部門の担う役割は大きく変わると強調する。デジタルトランスフォーメーションでは、顧客や他社、社会とつながる仕組みがこれまで以上に重要な位置づけとなるからだ。

「デジタルトランスフォーメーションでは、ビジネスのやり方そのものが変わってきます。ですので、IT 部門の役割は社内システムの枠組みの中で完結するわけではありません。これから先、私たちはいろいろなことに取り組んでいくことになるでしょう」(デュボワ)

顧客エクスペリエンスの変革が重要

マイクロソフトは現在、ソフトウェアのライセンス販売から、クラウド サービスのサブスクリプション契約へ主力となるビジネス モデルの変革に挑んでいるところだ。「ビジネス モデルを移行することは、我々にとってのデジタルトランスフォーメーションだと考えています。デジタルトランスフォーメーションに取り組む場合は、まずお客様のエクスペリエンスをどのように変革するのか、その実現に向けてお客様とのエンゲージメントをどう確立していくのかを考えることが重要です」とデュボワは指摘する。

顧客エクスペリエンスの変革に挑んでいる事例としてあげられるのが、マイクロソフトの顧客サポート サイト「support.microsoft.com」での取り組みだ。現在、このサイトでは顧客への対応に AI を活用。顧客からのリクエストのうち、10 ~ 15% は AI エージェントが回答しているという。

AI エージェントは、顧客からの質問に答える中で新たな知見を学習する。時間が経過するともに、サポートの質が改善されるわけだ。この AI エージェントは、社内のヘルプデスクでも使えるようにしている。現在は試験中だが、人事や財務といった業務にも活用したいと考えているという。

顧客エクスペリエンスの変革に関する一連の取り組みは、マイクロソフトが掲げている企業ミッションに基づいたものだ。2014 年 2 月に CEO に就いたサティア・ナデラは、企業ミッションを「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」と位置付けている。

「直接のお客様だけではなく、お客様がさらにその先のお客様に対して、多様な支援を提供できるようにすることが、私たち IT 部門のミッションだと考えています」とデュボワは語る。「これを実現するためには、モビリティ (可動性) が重要。世界中のどこにいても、クラウドを通してモバイルのエクスペリエンスを軽快に感じられるような仕組みが必要です」(デュボワ) 。

顧客エクスペリエンスの変革に取り組む中で、企業文化も変わりつつあるという。「これまでは、お客様に対して我々が提供する製品、つまり IT の領域だけを支援してきました。しかし、現在は多くの社員がお客様のビジネスやワークスタイルの変革、あるいは企業活動全体に貢献したいと考えるようになりつつあります。実際、それを高く評価してくれるお客様の声も届いています」とデュボワは述べる。

ファースト ユーザーとして自社の事業を評価

デジタルトランスフォーメーションに向けた、マイクロソフトの IT 部門の役割は、ビジネスのデジタル化だけではない。もう 1 つ重要な役割となるのが、最初に自社製品を利用することである。つまり、マイクロソフトの新たな製品やサービスに対して、自身が最初の顧客になって評価を行っているわけだ。

同社の世界中の IT 組織が「Office 365」や「Dynamics CRM Online」「Azure」などのクラウド サービスを利用し、サービスを使った対価を支払う体制になっている。対価を払って実際にサービスを使用すれば、ユーザーとしての視点を持って改善点を開発チームにフィードバックできるため、機能の改善につながる。そうしてブラッシュアップしていけば、自信を持って顧客に自社の製品やサービスを推奨できるようになる。

IT スキルの管理にも変革が必要に

デジタルトランスフォーメーションに取り組む中で、IT に関するスキルやケーパビリティー (組織的な能力) に対する考え方も変わってきたという。伝統的な IT 組織では、既存の IT 資産やケーパビリティーを前提に将来の計画を立案している。現状を起点として何をやらなくてはならないのか、どう改善しなくてはいけないのかということを計画するのだ。しかし、デジタルトランスフォーメーションでは、こうしたやり方が通用しなくなる。

従来は、IT 資産の開発には必ず IT 部門が携わってきたが、クラウド サービスを利用する場合は、そうとは限らない。デジタルトランスフォーメーションおいては、LOB (事業部門) の主導の下、クラウド サービスを利用して新たな事業を立ち上げるケースもある。

マイクロソフトでは、こうした場合を含めて、IT 部門がエンド・ツー・エンドでサポートできるような体制を目指している。ただし、そのためには乗り越えなければならない “壁” も出てくる。新しい環境では、既存のスキルやケーパビリティーには含まれないサービスやテクノロジーをサポートしなければならないケースもある一方で、逆に徐々に使われなくなるスキルもあるからだ。クラウドへの移行が進むにつれて、データセンターの管理、サーバーやストレージの管理といったスキルの重要性は低くなる。その反面、例えば BYOD (私物端末の業務利用) を導入すれば、それに関係する無線ネットワークなどのスキルを身に付けなければならない。

「こうした壁を乗り越えるためには、最初にスキルやケーパビリティーに対する将来のビジョンを作り、そこに到達するためには何をしたらいいのかというロードマップを作ることが必要です」とデュボワは指摘する。このほか、社内で利用するサービスの提供者との関係を考えることも重要なポイントとなるという。

ただし、ロードマップを作ったからといって必ずしも成功に導けるわけではない。「まずは何をどれだけ達成したら成功であるのかを定義することが必要です。取り組みの途中で効果を測定することも欠かせません」とデュボワは語る。

「経営環境が激変する現在、どの企業にも新しいビジネスを迅速に立ち上げる体制が求められます。このためには、デジタルトランスフォーメーションが必須といっても過言ではありません。CIO の方々には、ぜひ、この革新的な取り組みを主導する役割を担っていただきたいと考えています」。デュボワは、最後に日本企業の CIO にこのような言葉を贈った。

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