「DX は成長戦略の大きなチカラ」、大胆な取り組みを着々と展開
特集: 加速する製造業の変貌 ~ポスト・パンデミックのDX実践アプローチ~ 第 4 回
ポスト コロナを見据えて DX (デジタル トランスフォーメーション) を重視する動きが製造業において活発化してきました。コロナ禍によって大きな打撃を受けたことで製造業が抱えていた本質的な課題が、改めて浮き彫りになったからです。これによって、これまで必要性を認識していながらも、喫緊の課題と捉えていなかった経営者や現場で、DX に本腰を入れる動きが出てきたようです。こうした中、いち早く DX への取り組みを開始した企業の動向が注目を集めています。その中の1社が、THK です。装置の正確な直線運動を可能とする機械要素部品「LMガイド (Linear Motion Guide)」を業界に先駆けて開発し、その世界市場で大きな存在感を示している同社は、DX の概念を先取りした製品やサービスを 2019 年から次々と市場に展開しています。こうした同社の取り組みの指揮を執る同社執行役員 IOT イノベーション本部 本部長 坂本 卓哉氏に、DX に対する同社の考え、今後の展開などについて聞きました。前半では、DX を推進する動機と、DX を巡る同社の現状についてお話していただきました。
THK 株式会社 執行役員 IOTイノベーション本部 本部長
坂本 卓哉 氏
―― Web をベースにしたコミュニケーションプラットフォーム「Omni THK」や製造業向け IoT サービス「OMNIedge」など、ICT (情報通信技術) を駆使した新サービスを 2019 年に相次いで立ち上げられました。この取り組みから DX に対する積極的な姿勢がうかがえます。DX に力を入れている理由を教えて下さい。
坂本 卓哉氏 (以下、坂本氏)「Omni THK」や「OMNIedge」などの DX を意識した新しいサービスの開発は 2016 年ころから徐々に始めていました。生産性の向上や市場の変化に応じたビジネス変革を重視する機運が産業界全体で年々高まる中で、お客様と私たちのそれぞれが抱えている課題を解決するためには、根本的な取り組みが必要なのではないかという考えが社内にあったからです。これが新サービスの開発を始める元々の動機です。そこに IoT (Internet of Things)、AI (人工知能) など最新の ICT を活用することも、当初から念頭にありました。
DX を巡る社内の動きは、この 3年間に加速しています。キッカケは、2016 年初めに経営トップが新たな成長戦略を打ち出し、この中で DX を推進する方針を明確に示したことです。従来からの成長戦略である「グローバル展開」「新規分野への展開」に加えて「ビジネススタイルの変革」が示されました。DX をチカラにして、これらの戦略を推進することで成長を加速する考えです。そのための取り組みの第一弾として登場したのが「Omni THK」や「OMNIedge」です。
―― DX関連の「Omni THK」や「OMNIedge」を推進しているのは IOT イノベーション本部ですね。
坂本氏 IOT イノベーション本部は、2020 年 1 月に新たに設けた本部です。従来は DX 関連のプロジェクトが複数の部署に分散しており、それらが横串で連携する形で活動していました。そこで情報を一元管理し、より効率的にプロジェクトを推進できるように、1 つの組織に統合しました。こうして生まれたのが IOT イノベーション本部です。傘下に開発、営業、企画 / マーケティングの部門があります。つまり、ビジネスに必要な基本機能をコンパクトにまとめた機動性の高い組織です。
IOT イノベーション本部の組織
IOT イノベーション本部は、ビジネス領域の階層で言うと従来よりも上位のレイヤーを担当します。つまり、これまで THK の産業用機器事業では、機械要素部品を提供するコンポーネントのビジネスと、コンポーネントを組み合わせたユニットなどを提供するメカニカル システムのビジネスを中心に展開してきました。IOT イノベーション本部は、メカニカル システムと共に提供するメカトロニクス領域や、それをベースにした各種 IoT/AI サービスを提供するビジネスを担当します。
接するお客様も従来と少し異なります。これまでは、機械要素部品を実装する産業機器メーカーの方々を中心に接してきました。これに対して IOT イノベーション本部は、産業用機器を使って製品を製造するエンド ユーザーの方々との関わりも増えてまいります。つまり市場と THK の接点が増えるわけです。
IOT イノベーション本部の目下のミッションは、大きく 3 つあります。第 1 は、「OMNIedge」を中心にした DX による新しいビジネスの創出。第 2 は、お客様とのコミュニケーションのデジタル化。つまり「Omni THK」の展開です。第 3 は、IoT/AI やリニア制御技術など革新的な技術を活用した既存商材の付加価値向上です。
―― 「Omni THK」を開発した経緯は。
坂本氏 我々がコミュニケーションプラットフォームと呼んでいる「Omni THK」は、インターネットを介してお客様の設計や購買のプロセスをサポートするシステムです。クラウドをベースにした PaaS (Platform as a Service) を利用して開発しました。2019 年 7 月から稼働させています。具体的には、短納期で調達できる品種のリストの中からお客様が最適な製品を選択して発注できる「Fast Delivery」。過去にお客様が発注した特殊製品の図面データの管理および、それらを解析した情報などを提供する「Your Catalog」。見積書の作成依頼や製品の発注をサポートする「Orders」。お客様、販売代理店、当社の情報を連携させて生産計画、在庫状況と納品を管理する「Forecast」の大きく 4 つの機能を、現在は提供しています。
「Omni THK」のシステム構成
「Omni THK」 が生まれた背景には、THK の基幹事業である機械要素部品のビジネス プロセスの多くを対面業務が占めており、かなりの人手がかかっていることがあります。このままビジネスが拡大すると、いずれは人が足りなくなる、あるいはプロセスが複雑化して管理が難しくなるなどの問題が生じ、そこで THK の成長が頭打ちになるのではないかという危機感が社内にはありました。そこで、こうした構造的な問題を根本的に解決するには、対面業務を減らし、プロセスの効率化につながる新しい仕組みが必要だという考えが浮上してきました。ただし、お客様にとっての利点も提供しなければ、新しい仕組みは市場に受け入れていただけません。このため 「Omni THK」 は、お客様の抱えている課題やニーズを起点に開発を進めました。
―― 「Omni THK」は、お客様と THK が直接つながるインタフェースです。取り引きの仕組みが大きく変わるのでしょうか。(以下、後編に続く)
(監修: 日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)
IoT 活用事例集カタログ
IoT を活用して DX を推進している国内外の事例を集めたカタログがダウンロードできます。
この投稿はシリーズです。
第 1 回「コロナ禍で加速する製造業 DX、的確かつ迅速な「現場」の変革が不可避に」
第 2 回「現場が“腹落ち”する製造業 DX、手戻り最小限で速やかな変革」
第 3 回「先行する製造現場の DX に素早く追随、最適な筋書きを浮き上がらせる 5 つのメニュー」
第 5 回「製造業 DX は確実に加速、柔軟な姿勢で多様なエコシステムを構築」
第 6 回「現場で鍛えた ICT を活用する局面へ「先人の知恵」を生かして製造業 DX を加速」
第 7 回「ビジネス変革を見据えた製造業 DX、データモデル「CDM」の強化で基礎を整備」