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業界

製造業 DX は確実に加速、柔軟な姿勢で多様なエコシステムを構築

電子工場の製造ラインで製品を運搬する作業員

特集: 加速する製造業の変貌 ~ポスト・パンデミックのDX実践アプローチ ~ 第 5 回

DX (デジタル トランスフォーメーション) にいち早く取り組んでいる機械要素部品メーカーとして注目を集める THK。同社が推進する DX にまつわる先進的なプロジェクトの指揮を執る執行役員 IOT イノベーション本部 本部長 坂本 卓哉氏へのインタビューの後半では、DX を巡るトレンドや同社の今後の展開について話をしていただきました(前編はこちら)。

THK 株式会社 執行役員 IOTイノベーション本部 本部長 坂本 卓哉 氏

THK 株式会社 執行役員 IOT イノベーション本部 本部長
坂本 卓哉 氏

―― 「Omni THK」は、お客様と THK が直接つながるインタフェースです。取り引きの仕組みが大きく変わるのでしょうか。

坂本氏 誤解しないでいただきたいのですが、「Omni THK」はオンラインの直販 EC サービスではありません。つまり単純に既存の商流を合理化することを狙ったシステムではありません。あくまで既存のビジネス プロセスの良い部分はそのままにしながら、最適化を進めて、プロセス全体を発展させるためのシステムです。THK は、創業から約 50 年にわたって代理店や販売店のネットワークをグローバルに築いてきました。これは THK にとって大きな強みであり、大切な資産です。この資産をさらに進化、最適化することを前提に、「Omni THK」を開発しました。「Omni THK」は、これまでの強みを足掛かりに、さらなる成長を目指すためのシステムなのです。

THK は、「Omni THK」をグローバルに展開する考えです。すでに中国や欧州ではサービスを始めています。ただし、商流や業務プロセスは、世界中どこでも同じというわけではありません。このため 1 つのシステムを海外に展開するのではなく、商流や業務プロセスの違いに合わせて「Omni THK」の機能や仕組みを最適化しています。これによって、それぞれの市場の特徴に合わせて、もっとも効果的なサービスを提供するつもりです。今後、「Omni THK」が世界各地に広がるにつれて、システムのバリエーションが増えるでしょう。

―― 「OMNIedge」は、THK にとって新しい分野のビジネスですね。

坂本氏 製造業向け IoT サービス「OMNIedge」は、DX の本質である新しいビジネスを創出する取り組みの一環として開発しました。DX がもたらすビジネス変革の可能性はいろいろとあると思いますが、いまの時点で見えている 1 つの方向がサービス化。いわゆる「モノ」から「コト」へ付加価値の源泉が移行する動きです。この動きを先取りしたサービスが「OMNIedge」です。

「OMNIedge」の概要

「OMNIedge」の概要

 

「OMNIedge」は、私たちが提供する機械要素部品から収集したデータから、お客様に役立つ情報を抽出して提供するサービスです。LM ガイドなどの機械要素部品にセンサーを追加して、その部品の状態などに関するデータを集めます。これを分析して、故障の予兆など有意義な情報を取り出してお客様に提供することができます。「OMNIedge」が提供する機能は、部品の遠隔モニタリングだけではありません。機械要素部品から収集した情報から、部品だけでなく、部品を実装した機器の動作状態を検出することも目指しております。これによって、コストや手間を最小限に抑えながら装置全体の高度な遠隔監視が可能になります。しかも、「OMINIedge」は、いわゆるレトロフィットのシステムです。センサーを追加することで、既存の設備を進化させることができます。

THK は、この仕組みを構成するセンサー、ネットワーク、データを分析するシステムまで一式を提供します。従来のように、この装置を買っていただくのではなく、使用料を定額で定期的にいただくサブスクリプション方式のサービスです。2019 年 12 月から、まず主力製品である LM ガイドを対象にサービスを開始。すでに約 50 社のお客様が、このサービスを利用されています。2020 年半ばには、ボールねじを対象にしたサービスも開始する予定です。もちろん THK 製品のみならず他社製品、部品、部位へも展開を加速します。

予兆検知は、つけるだけ。OMNIedge

―― DX にまつわる取り組みの先駆けとしてコミュニケーションプラットフォーム「Omni THK」や製造業 IoT サービス「OMNIedge」を立ち上げたところですが、今後の展開をどのように考えておられますか。

坂本氏 「Omni THK」や「OMNIedge」は、これから世界に展開し、3 年~5 年の間に新しい THK の成長エンジンに育てたいと思っています。前述の通り「Omni THK」は、すでに中国や欧州で提供していますが、さらにほかの国や地域でも導入に向けた検討が進めているところです。一方、「OMNIedge」は、機械要素部品のビジネスに注力してきた THK にとって、全く新しいビジネスです。まずは国内を中心に普及を図り、ある程度のノウハウを蓄積してから海外への展開を一気に加速する方針です。

DX に向けた新しいビジネスやその仕組みを普及させるのは容易ではないことは承知しています。すでに多くの企業が、IoT などの最先端の ICT を利用した製造業向けの新しい製品やサービスを展開していますが、新しい事業の柱と言えるところまで進んでいる企業は、まだほとんど見当たらないのが現状ではないでしょうか。THK は、世界で大きな市場シェアを誇る LM ガイドという製品を持っているという独自の強みを生かすことで、DX による新しいビジネスを有利に進めることができるのではとの思いはありますが、他社と同様に向かう先の状況は甘くはないと認識しています。

―― 難題に挑戦するうえで重視していることは。

新しいサービスやビジネスを成功させるための大きなカギの 1 つは、それらを支えるエコシステムを構築することだと思っています。THK は、これまで製品の開発から販売まで一貫して自社で手掛けてきました。これに対して、DX から生まれる新しいビジネスについては、必要なリソースが自社内ですぐに揃うとは限りません。このため社外との連携が必要になります。足りない部分を補うだけでなく、より良いサービスや商材を提供するために、新しいリソースが必要になることもあるでしょう。また国や地域に合わせてサービスを最適化する際に、その市場における実績に基づくノウハウも必要です。こうした場合に、業界や分野の枠を超えて様々な企業と連携し、最適なサービスを安定して提供するためのエコシステムを素早く実現するつもりです。必要あればこれまで競合していた企業と連携することもあるかもしれません。

電子工場の製造ラインのロボットアーム

とにかく重要なのは構想を実現するスピードです。ポスト コロナを見据えて、これから世界の製造業において DX のトレンドが加速するのは間違いありません。DX に関連する取り組みを進める上で、ますますスピードが重要になるでしょう。ただし、DX を巡る新しいビジネスを拡大するのは現状では容易なことではありません。具体的な問題が大きく顕在化していないかぎり、革新的なことに取り組むことに少し躊躇する、お客様が少なくないからです。

THK は、これまで機械要素部品を提供することで、幅広い産業の基盤を支えてきました。いわば、「縁の下の力持ち」です。この立ち位置は、大きく変わることはないと思っています。ただし、DX を積極的に進めることでビジネスや企業の性質は大きく変わるでしょう。

DX は、数年前から世界の製造業における大きな話題の焦点になっています。ただし、THK のように、その実践に向けて一歩を踏み出した日本企業は、まだ限られているのが現状です。その理由として、DX に対する切迫感が業界全体に不足していることを指摘する声は少なくありません。しかし、今回のコロナ禍によって、現状のものづくりの仕組みが抱えている問題が浮き彫りになりました。しかも、感染対策にテレワークが役立ったように、問題を解決するうえで DX が有力なアプローチであることを実感する機会もありました。DX に慎重な構えを見せていた企業は、いまこそマインドを変えるときだと言えるのではないでしょうか。

(監修: 日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)

環境変化への対応(オンデマンド ウェビナー)

McKinsey & Company のゲスト講演者を迎えた、製造業における現在の環境を踏まえた破壊的変化への対応についての オンデマンド ウェビナーをご覧いただけます。
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この投稿はシリーズです。

第 1 回「コロナ禍で加速する製造業 DX、的確かつ迅速な「現場」の変革が不可避に
第 2 回「現場が“腹落ち”する製造業 DX、手戻り最小限で速やかな変革
第 3 回「先行する製造現場の DX に素早く追随、最適な筋書きを浮き上がらせる 5 つのメニュー
第 4 回「「DX は成長戦略の大きなチカラ」、大胆な取り組みを着々と展開
第 6 回「現場で鍛えた ICT を活用する局面へ「先人の知恵」を生かして製造業 DX を加速
第 7 回「ビジネス変革を見据えた製造業 DX、データモデル「CDM」の強化で基礎を整備