いよいよ本格化するプロセス製造の DX、課題解決のカギを握るデータ活用
コロナ禍を契機に DX (デジタル トランスフォーメーション) を加速する機運が産業界で高まっています。こうした中、化学製品、石油、金属、ガラス、鉱物などを扱う、いわゆるプロセス製造業では、社会や市場の変化とともに日増しに深刻化する業界の課題を乗り越えるために、デジタル技術による変革に取り組む動きが本格化してきました。自動車や電子機器などさまざまな部品を集めて組み立てるディスクリート製造業とは、特性が大きく異なるプロセス製造業ですが、変革を進めるうえでの大きなカギを握っているのは、ディスクリート製造業と同様に「データ活用」です。
「製造業」には多くの業種がありますが、これを大きく 2 つに分けて「プロセス系」と「ディスクリート (組み立て) 系」と呼ぶ慣習は、いまや業界にすっかり定着しています。プロセス系は、流体・ガス・粉体など形が一定ではない材料を主に扱い、反応や合成といった工程を使って製品を製造する企業のカテゴリを表しています。具体的には、化学製品、石油、金属、紙・パルプ、薬品、ガラス・セメント、鉄鋼などを手掛ける企業が、このカテゴリに含まれます。一方、形のあるさまざまな部品を組み合わせる工程を連携させて製品を製造する業種のカテゴリが「ディスクリート系」です。自動車や電子機器などが、このカテゴリの主な業種になります。ここでは、プロセス系の業界を、「プロセス製造業」と呼び、この業界の DX を巡る状況と、DX を進めるうえでのキーポイントについて解説します。
プロセス製造業は、ディスクリート系の業界に比べて特性が大きく異なっています。プロセス製造業の大きな特徴は、ディスクリート系にくらべて事業全体の流れがゆっくりしていることです。例えばプロセス製造業では多くの場合、製品のライフサイクルが長い。10 年以上という製品が珍しくありません。中には 50 年に及ぶ製品もあます。これにともなって生産設備が長年にわたって使われているようで、ディスクリート系の業界に比べて設備を更新する時期の間隔が長いことが多いです。これに加えて消費者が手にする最終製品の市場が変化したときに、その影響が生産に及ぶまでの時間が長いのもプロセス製造業の特徴です。比較的、短い場合で数か月。長い場合は数年ということもあります。
デジタル革新が不可避な状況に
こうした特性を備えたプロセス製造業では、ここにきて DX に乗り出す企業が増えています。この背景には、従来の取り組みの延長では解決できない深刻な問題が浮上していることがあります。その 1 つが、少子高齢化に伴うベテラン技術者の不足です。プロセス製造業の工場では、反応や合成という工程が多いことから、気温や湿度など環境の変化に応じた工程の調整が必要になります。この調整の作業は現場の技術者の経験や勘に頼っていることが多く、どうしてもベテランが担当することになります。ところが最近、多くの企業が若い人材の確保に苦労しています。このためベテラン技術者の知見やノウハウの継承が危うくなっている状況です。いまのところ安定して稼働している工場も、ベテラン技術者が定年を迎えて現場を離れると、現状を維持することが難しくなります。ひとたび大きな問題が発生すると、迅速かつ適切な対応をとることができなくなるのではないかという不安の声を業界の皆さんから聞く機会が、ここ数年増えています。
さらに製品サイクルの短期化も大きな課題として浮上しています。日本をはじめとする工業先進国のプロセス製造業では、新興国に比べて人件費が高いことなどから、多くの企業が、携帯電話など付加価値が高い最終製品にかかわる市場にターゲットをシフトしています。こうした最終製品の市場では製品サイクルの短期化が進んでいるうえに、パーソナル化の傾向が進んでおり、少量多品種生産の製品が増えています。こうした動きに対応するために、製品サイクルの大幅な短縮を迫られているプロセス製造業の企業が増えてきました。もはや従来のペースで開発や生産を続けることが難しくなっているということです。同時に、日本のように人件費が高い地域では、製造コスト削減に向けて省力化も考える必要があります。
さまざまな領域の革新を支援
これらの大きな課題は、現場の改善活動など従来の取り組みの延長だけで解決することは、なかなかできません。そこで注目を集めているのがICT (情報通信技術) やAI (人工知能) などの先進技術を活用して、従来の業務やものづくりの仕組みの根本的な変革を図ること、つまり DX というわけです。デジタル化は、研究開発の効率化、製造現場における生産管理の高度化、品質向上、省力化などプロセス製造業のさまざまな工程の変革に貢献します。
こうした状況を受けてマイクロソフトでは、プロセス製造業のデジタル革新に向けたソリューションの強化を図っています。さまざまな課題解決を図るうえでのキーポイントは「データ活用」です。バリューチェーン全体から収集した、種類や頻度、形式の異なる情報をデジタル化し、そのデータを一元管理できる環境を構築。そのうえで多様なデータを有機的に組み合わせることで課題解決の新たなアプローチが生まれるでしょう。そのためのさまざまな仕組み作りを支援する考えです。
具体的には、リモートワークや効率的な情報共有、工程の自動化による「働き方改革」。デジタルマーケティングなどによる「顧客接点の強化」。データを活用した「生産の高度化」。シミュレーションや企業の枠を超えた情報連携による「サプライチェーンの最適化」など幅広い観点でプロセス製造業の新たな進化を支援する考えです。
(監修: 日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)
この投稿は前後編です。
後編「「データ活用」で進化するプロセス製造業、情報の一元化がもたらす新たな可能性」