製造業 DX に聖域なし、研究開発業務のデジタル変革が加速
コロナ禍を契機に一段と加速する製造業の DX (デジタルトランスフォーメーション)。その取り組みが及ぶ領域は、ものづくりのプロセス全体にわたります。創造性を重視することから ”聖域” になりがちな研究開発も、例外にはなり得ません。新たな事業価値につながる革新的な成果を創出するために、研究開発にまつわる業務全体の変革を迫られています。その変革を進めるうえで大きな課題の 1 つとして浮上しているのが、広範囲に及ぶ膨大な情報を最大限に利活用するための新たな仕組みづくりです。
近年、製造業において DX に取り組む機運が高まっている背景には、社会の変化にともなって「大量生産・大量消費」を前提にした従来のビジネスを続けることが難しくなってきたことがあります。しかも、従来に比べて市場ニーズの多様化が進み、製品やサービスのサイクルが短期化。さらに従来に比べて事業環境が不安定になっていることから、変化に迅速に対応できる柔軟性もビジネスも求められるようになっています。これらの課題の解決するための有力なアプローチがデジタル技術を活用した事業変革、すなわち DX です。2020 年初めから顕在化したコロナ禍によって製造業が抱えている課題の一部が具体的な問題として浮き上がってきたことから、DX に取り組む動きが一段と加速しています。
製造業における DX を巡る話題は、これまで製造工程に関するものが目立っていました。さらに最近では、コロナ禍をキッカケにリモート化や働き方改革をはじめ、コロナ禍によって多くの問題が発生したサプライチェーンに関する話題も増えています。ただし、本来の DX の目的は、業務プロセス全体を変革して新たな事業価値を創出することです。その実現に向けた取り組みは、製造業のバリューチェーン全体に及びます。当然、バリューチェーンに上流にある研究開発においても様々な変革が求められています。しかも、研究開発は新たな事業価値のタネとなる革新的な技術を創出する役割を担っています。製造業の DX を推進するうえで重要なポイントであることは間違いありません。
埋もれてしまいかねない革新的技術
DX によって解決することが期待されている企業の研究開発に関する目下の大きな課題の 1 つが、「イノベーション・サイクルの高速化」です。事業環境の変化に柔軟に対応しながら、市場競争力を維持するためには、新しい付加価値につながる革新的な成果を、一段と効率よく、短い期間で生み出す必要があります。実際、研究開発における課題として「効率化」や「高速化」を挙げる企業は少なくありません。特に、化学製品、石油、食品・飲料、金属、紙・パルプ、薬品、ガラス・セメントなど素材を扱う企業が多いプロセス系と呼ばれるカテゴリの業界で、研究開発の「効率化」や「高速化」を重視する機運が高まっています。
この理由は、業界全体の基調として研究開発の負荷が年々増えているからです。例えば、この 10 年間は毎年 100 種類以上の新しい化学物質が開発されています。ところが、それらを製品化するには、それぞれについて応用や量産技術など、さらに多くの開発が必要です。このため毎年増え続ける新物質の全てについて製品化に向けた開発を進めることは、なかなかできません。しかし、全ての新物質が製品につながるとは限りませんが、可能性を追い切れなかった物質の中に、革新的な物質がないとは限りません。そこで、多くの新物質の中に埋もれてしまいかねない、大きな可能性を秘めた物質を見出すために研究開発の高速化や効率化が求められているわけです。
研究開発における高速化や効率化を阻んでいる具体的な問題は数多くあります。例えば、研究者間の情報共有が進んでいないことなどから発生する実験の重複。複雑化する法規制に関する情報の収集や対応にかかる作業負荷の増加。低い実験精度に起因する研究開発の遅れ。研究開発にまつわる膨大な情報の検索にかかる時間や作業負荷の増加、などの要因があります。研究開発の高速化や効率化を進めるには、これらの課題を解決する必要があります。
イノベーション・サイクルの高速化を妨げる要因と解決法
イノベーションを効率よく生み出すためのインフラが必要に
さらに研究開発を起点としたイノベーション・サイクルの高速化を図るには、研究開発だけでなく、生産、販売 (市場) までイノベーション・サイクルにかかわる一連のプロセス全体を視野に入れて、新規事業開発におけるアイデア創出から市場投入までの一連の工程を管理するインフラが必要です。つまり、研究開発のテーマを考案するための「市場調査・ニーズの特定」にはじまり、「過去情報や手順の検索」「ラボテストの実施」「製品・処方の確定」「少量生産テスト」「商業生産処方・プロセス確定」「生産ノウハウ蓄積」「品質不良原因解析」といったアイデアの発案から製品化した後の市場からのフィードバックまで網羅する一連のサイクルの各プロセスで、情報探索、実験・検証、データの記録など多くの作業が発生します。さらに、これらをプロセス間で速やかに情報を共有する必要もあるでしょう。これらの作業の強化を図るとともに速やか進めることができる環境を実現することがインフラの役割です。
研究開発の業務フローとそれを支えるインフラの役割
さらに重要なことは、こうしたインフラを構築することで、アイデア創出から市場投入までのプロセスの節目、いわゆる「ステージゲート」を明確にし、各ステージゲートにおいて、次の段階に進めるか否かの判断ができるようになることです。これによって、問題を引きずったまま製品化を進めてしまい、最終段階で事業化を断念、あるいは事業化してから大きな問題が発生して撤退を余儀なくされるといった事態を防げるでしょう。早い段階で事業化の可否を判断できれば、いち早く次の新規事業案に着手することができるので、より多くの新しい可能性に挑むこともできます。マイクロソフトは、こうしたインフラの構築に役立つソリューションを提供し、研究開発における DX を積極的に支援する考えです。
(監修: 日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)
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「世界のプロセス製造業における DX 事例と進め方のポイント」
この投稿は前後編です。