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業界

インダストリアルメタバースの現在と製造業への AI 適用の可能性 ~Hannover Messe 2023 からのフィードバック~

2023 年 4 月 17 ~ 21 日に、ドイツのハノーバー国際見本市会場において、世界最大規模の産業見本市「Hannover Messe 2023(ハノーバーメッセ 2023)」が開催されました。コロナ禍以前を彷彿とさせる活況を見せるなか、マイクロソフトブースにも述べ 4 万人近いお客さまに来訪いただきました。本稿では、オンラインセミナー「製造業 DX フォーラム 2023〜進化する「ものづくり」最前線〜」のセッションでお話しした、ハノーバーメッセ 2023 のマイクロソフトブースで展開されたインダストリアルメタバースの最新事例や Azure Open AI Services の大規模言語モデルを使用したユースケースを中心としたフィードバックに加えて、製造業界の AI 活用における課題や可能性について述べさせていただきます。

ハノーバーメッセ 2023 を振り返って

ハノーバーメッセの来場者は主催者発表で約 13 万人でした。私自身も久しぶりの参加となりましたが、コロナ禍を経てかなり人出が戻ってきていることを実感しました。マイクロソフトブースには、述べ 4 万人近いお客さまにお越しいただきましたが、多くの方が OpenAI や ChatGPT に関する情報に興味を持たれていたようです。マスコミ各社の取材内容や報道にも同様の傾向があったように思います。

マイクロソフトブースには 36 の小ブースが設けられていました。その半分以上をパートナー企業、お取引先企業が占めていた点は、マイクロソフトの目指すエコシステムを象徴していたと思います。このなかには川崎重工、ソニーセミコンダクターソリューションズ、トヨタマテリアルハンドリング ヨーロッパという、我が国を代表する企業とマイクロソフトとの協業ソリューションを紹介するブースが設置されており、日本企業のプレゼンスの高さも感じました。
また、ミーティングエリアでは活発にミーティングが行われていました。マイクロソフトの開発チームと直接ミーティングできる場でもありますので、来年以降ご来場いただく皆さまにもぜひご活用いただければと思います。
なお、今年のマイクロソフトブースの展示においては「セールス & サービスのモダナイズ」「サプライチェーンのレジリエント化」「インテリジェントファクトリー」「イノベーションの創造・創出」という 4 つのテーマが設けられていました。これらのテーマはここ数年来踏襲されているものですが、これまでテーマのひとつだった「働き方のエンパワーメント」に関しては、領域に関わらないマイクロソフトの基本的なテーマに含まれるため、製造業向けのソリューションという範疇からはあえて除外されています。

ユースケースにこだわったマイクロソフトブースの展示

マイクロソフトブースには 3 つの出展傾向が見られました。
まず一つ目は「徹底的にユースケースに拘った展示」です。36 の展示すべてが、IT サービス単体ではなく、業務で実際に使用するシーンを想定したユースケースベースの提案となっていました。
ピッキング工程の設備やロボットのセッティングをデジタルツインで効率化した Rockwell 社の事例、同じく Rockwell 社のプロセス設備のメンテナンス省人化のためにデジタルツインと GPT を活用した事例、PTC 社の現場のトラブルから一気通貫で設計フェーズでの変更対応につなげるソリューション事例、weavix 社のプラント内における動線管理や報告・指示の効率化事例など、業務にフォーカスした事例が多く見られ、来場者からも高く評価されていました。

二つ目は「インダストリアル・メタバースをフルスタックで表現」です。現場の機械設備からのデータ統合からデータのモデル化、その活用に至るすべての工程において、マイクロソフトの持つ IT サービスを組み合わせたフルスタックのご提案が展示されていました。
川崎重工社のブースでは、ハノーバーと羽田に設置されたPCR検査装置をデジタルツイン化して、双方をリアルタイムでモニタリングしながら検査を行うデモンストレーションが行われていました。昨年も同様のソリューションが展示されていたのですが、複数のアームロボットや人型ロボット、ガイドレールなど、異なるコンテキストの制御で動いている機器のデータを統合してデジタルツイン化している点で、大きく進化した展示となっていました。
また Rockwell 社のブースでは、装置を IoT 化してそこからデータを取得し、機械学習を使って予兆検知を行うソリューションが展示されていましたが、昨年までのソリューションに加えて OpenAI サービスでボットを搭載することにより、自然言語でボットと会話しながらタスクを洗い出す機能が披露されていました。このユースケースは現在ご紹介し得るデジタルツインプラス GPT ソリューションのひとつの完結系になっており、非常に多くの関心を得ていました。

三つ目は「業務プロセスを E2E(End to End)で表現」です。業務プロセスにおいて Microsoft 365 をはじめとするコラボレーションツールや業務アプリケーション、またアプリ開発のためのローコードツール、AI 関係のソリューションに至るまで、業務の開始から完結に至るまでをカバーするマイクロソフトの強みを示す展示が多く見られました。 Northvolt 社の事例では、従来の予兆検知ソリューションに Azure OpenAI Serviceによる対話型のガイダンス機能 を実装することで、異常のあった現場の画像データから類似事象をピックアップしたり、メンテナンスの抜け漏れ防止のチェックポイントを順番に並べたりといった、業務を End to End で支援するデモンストレーションが展示されていました。

注目を集めた Generative AI のユースケース展示

ハノーバーメッセ 2023 のマイクロソフトブースでは、Generative AI を業務で活用するためのパイロット版とも言える事例の展示も、いくつか見られました。

Siemens 社は、設計業務において Generative AI を用いて PLM (Product Lifecycle Management) 内のさまざまな製品データから不具合の可能性やその原因を類推したり、古い言語で書かれていて解読不能なソースコードを言語化したりするソリューションを、Sight Machine 社は、工場内の MES (Manufacturing Execution System) やセンサーなどのデータを統合し、GPT を搭載したプロンプトベースのインターフェイスから多言語で自然言語検索ができるソリューションを参考出展していました。
また MSCC (Microsoft Supply Chain Center) のブースでは、調達業務においてインターネットをクロールして原材料の調達に関連しそうなニュースを要約したうえで、Dynamics 365 内のデータからそのニュースに影響を受けるサプライヤーの PO (Purchase Order) 番号を抽出し、担当者と交渉するためのメールのドラフト作成を行うデモンストレーションが展示されていました。

Generative AI に関しては、ハノーバーメッセ 2023 会場に限らず多くのお問い合わせをいただいています。私たちマイクロソフトとしても、Generative AI は設計・開発から製造、営業・マーケティング、保守サポートといったさまざまな部署、さらに間接業務領域においても多くのユースケースがあると考えています。
例えばメンテナンス業務においては、IoT ベースのモニタリング、予兆検知から始まり、要因調査や対応策検討のための作業リスト制作、作業後の報告書制作など、人間がインプットしたり作業指示を出したりしている場面で活用できるシーンが想定されます。

実際の Generative AI の業務利用に際しては、従来のウォーターフォール型の開発とは異なり、ユースケースに対してワークショップやアイデアソン、ハッカソンなどを通して、実際に手を動かしてアクションのスピードを早めることが重要です。その場面で、マイクロソフトの強みでもあるローコード開発ツールは非常に有用です。ぜひご活用いただければと思います。

製造業における AI 活用推進のために必要な考え方とは

本稿では海外のユースケースを多くご紹介してきましたが、私たち日本マイクロソフトとしては、日本の製造業の皆さまと価値あるユースケースを実装し、グローバルに向けて発信していきたいと考えています。

日本企業が自社業務に Generative AI を適用しようとする際に考えうる課題として、AI のような新しい技術を忌避する傾向が挙げられます。私たちが日本企業の方からよく聞かれるのが「どれくらいコストダウンできるのか」「どんなことに役立つのか」という投資対効果や実例についての質問です。
確実な実績を見てから動きたいという気持ちはわかりますし、新しい技術を適用する際には社内における基本的なルールづくりは非常に重要です。しかし一方で、新しい技術の適用は競争でもあります。実績を待ってからでは遅すぎるという意識と「まずは自分たちが学んでみよう」という姿勢を持つことが大切です。

そういう意味では、日本企業の IT 開発に対する姿勢も変革が必要かもしれません。AI の実装のように迅速な開発サイクルを回すことが重要なテクノロジー活用においては、これまでのように SIer に任せっぱなしにしていては立ち行かなくなる可能性が高いと感じています。これを機に、自らチャレンジするカルチャーの醸成にぜひ取り組んでいただければと思っています。

また、AI はなんでも解決してくれる魔法ではなく、必要な準備があるということも知っておいていただきたいと思います。
巷で話題になっている OpenAI の ChatGPT を例にとれば、こちらの問いかけに対してとても自然な言葉で回答を返してくるので、その内容が間違っていると「ChatGPT は嘘ばかり」という誤解を持つ人が散見されます。ですが、ChatGPT は自然な対話ができるインターフェイスであり、その裏側のデータソースに基づいて回答が帰ってくるという点を認識しておくことが重要です。 企業における AI 活用においても同様で、正しくアップデートされたデータソースを持つデータベースを用意しておくことが、これまで以上に重要となります。

マイクロソフトでは今後、さまざまなツールへの AI 実装を進めていきます。クラウドツールの Azure をプラットフォームとして、業務アプリケーションの Dynamics 365 や自社向けに業務アプリケーションをカスタマイズできる PowerPlatform、Teams を核としたコミュニケーションツールと Word、PowerPoint などのドキュメンテーションツール。これらを通して皆さまの業務に Endo-to-End でさまざまな価値をご提供してまいりますので、最大限活用していただければと思います。

※本セミナーは今後公開予定