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業界

テクノロジーが支える未来の人とモノの移動と働き方 ~旅客・運輸業界~

2030 年には、日本の人口は 1 億 1600 万人あまりに減少し、人口の 30%以上が高齢者になると言われています。労働人口の減少や経済成長の停滞が懸念される中、2030 年までにキャッシュレス決済を 80%にしていくなど、高齢者に対するデジタルデバイドをなくしながら、デジタルを活用してより効率的で、快適なストレスの少ない暮らしや生活を実現していくことが期待されています。

私たちの生活では、ワンクリックで注文した商品が即日自宅や指定場所に届いたり、自分の嗜好に沿った商品提案や情報を無意識に入手したりすることは既に当たり前となっていますが、今後はより高い水準の顧客体験への期待が高まるでしょう。
また仕事では、これまでは手書きまたは都度パソコンやシステムに打ち込んでいた文章入力が不要になり、音声入力が可能になったり、どこからでも機械を遠隔操作できるようになったり、従業員体験も変化することが予想されます。

一方で、世界規模の課題となっている CO2 排出量の削減、限りある資源の再利用、災害や地政学リスクへの対応、そして日本が直面している少子高齢化と労働力の減少などの社会課題を解決しながら豊かさを実現していくには、AI などの先端テクノロジーを積極的に活用していく必要があります。私たちマイクロソフトは、2030 年に向けて、デジタルとテクノロジーの両方を駆使して、より豊かで快適でストレスフリーな暮らしを実現することを目指しています。

本ブログでは、2030 年の「人とモノの移動と働き方」の中心となる旅客・運輸業界(鉄道・交通・物流・航空・旅行・海運)に焦点を当て、これから起こり得る働き方の変化とテクノロジー活用の可能性を、マイクロソフトの部門横断バーチャルチーム(V-Team)で考察していきます。

2030 年の人やモノの移動や働き方はどうなるか

2030 年、今から 10 年足らずでやってくる未来の生活はどのようなものになるでしょうか。Bing AI チャットに「2030 年の人やモノの移動や働き方」はどうなっているか問いかけてみると、以下のような回答が返ってきました。

(*1)シンギュラリティ:AIが人類の知能を上回る「技術的特異点(転換点)」やその際に起きる人類の生活の大きな変化のことを指す

AI の回答にも表れているように、2030 年、「人やモノの移動」に関しては、移動を支える乗り物自体の進化や交通手段の多様化が実現していると予測されています。超高速輸送システム(ハイパーループ)により、これまで何時間もかかっていた場所へたった数十分で到着できたり、自動運転車で眠りながら夜に移動できたり、ドライバー不足補完のために自動運転トラックが荷物を運ぶことで、2024 年問題解決の糸口が見えてくると考えられます。

また、「働き方」に関しては、マシンラーニングやディープラーニング、ビックデータ解析を含む AI などのテクノロジーや AI ロボットが、働き方を大きく変えることが予測されています。他にもデジタルツイン、メタバース、量子コンピューターなど、さまざまなテクノロジーを組み合わせることで、少子高齢化と人口減少が進む日本の働き方が変化することが考えられます。

このように、さまざまなテクノロジーが未来の人とモノの移動と働き方を、持続可能な形で変えていくことが予想されますが、私たちマイクロソフトが描く未来像では、大きく 5 つの変化とともに、旅客・運輸業界が変革していくと考察しています。

テクノロジーが旅客・運輸業界に巻き起こす 5 つの変化

1. AI が導く安心・安全・コスト低減

AI の介入は、これまで完全には防げなかったヒューマンエラーの防止に役立ちます。たとえば、鉄道保線に AI を利用した予防保全を取り入れることで、保全費用を最適化しながら安全性を高めることが可能です。加えて、人々がこれまで担っていた「調べる・計算する・まとめる」というような定型業務が自動化されることで、人間はクリエイティブな仕事に専念できるよう働き方を変えることが可能です。

さらには、AI ロボットが登場し、コールセンター、駅、空港、旅行代理店などでお客さま対応の前線に立ち、お客さまの感情や声に応じて最適な応対をすることで、人件費やオペレーションコストなどのコスト低減のみならず、現場従業員のストレス軽減、さらにはお客さま満足度の向上にも寄与することが期待されています。

2. バーチャル活用が導く働き方の変化

日本企業に浸透している三現主義(現地・現物・現実)も、これからはデジタル空間(バーチャル)を取り入れる方向になるでしょう。従業員は働く空間を選択できるようになり、いつでもどこからでも働けるようになります。

また遠隔コントール技術により、鉄道、トラック、バス、船などの乗り物に乗らなくても遠隔で操作・運転できる時代が到来します。都市部に住んでいない人々や高齢者も都市部の乗り物を操作できるようになるので、地方創生や極度な過疎化防止につながり、ギグワーカーの登用にもつながるでしょう。

さらには、デジタル上にある仮想空間だからこそ、実際に現地でモノを動かすのではなく AI を活用してデジタル上に現場と同じ環境を再現してシミュレーションを行ったり、不具合が起きた際は設備やしくみを壊さずに原因究明を行ったりすることが可能になります。

そして、デジタルコミュニケーションだからこそ実現可能な、同時翻訳や通訳の機能が追加されることで、言語の壁もなくなります。デジタル空間(バーチャル)は、外国人の車掌やドライバーなどを含め、多様な人材による多様な働き方を実現する基盤になると考えます。

3. 匠の技とイノベーションを融合

高水準と言われる日本のものづくり・サービスですが多くの熟練スタッフによって支えられているのが現状です。旅客・運輸業界も例外ではなく、物流・鉄道車両やインフラの保守・整備、鉄道のダイヤ改正、空や海の航路策定、営業トークまで、熟練社員の匠の技や研ぎ澄まされた感覚に依存した業務が数多く存在しています。

今後は、これまで人の頭のなかだけにあった暗黙知が、テクノロジーを活用して形式知化されることで、後世への継承が容易になるでしょう。
たとえば、物流・鉄道車両整備の熟練工やパイロット、船長たちの視線や航路をデータにして分析することで、最適な作業ステップや、運行中の状況に応じた判断をモデル化することも可能です。この技術は、新しい人材を即戦力に変えていくオン・ボーディングの過程にも活用することができます。

このような暗黙知や匠の技とイノベーションとの融合には、高水準の日本のサービスとクラフトマンシップを守り、さらに高めていくことが期待されています 。

4. 持続可能な移動と輸送

2030 年、私たちは今よりもさらに環境への配慮を求められることが予想されます。移動は鉄道・トラック・空・海を組み合わせたマルチモーダルにシフトし、環境負荷の低い輸送が始まっているでしょう。
また、輸送の効率化が進み、ラストワンマイル配送、貨客混載、配送マッチングサービスなどの浸透や、特定区域での自動運転などを通じて、人にも環境にも優しい仕組みが構築されていることが予想されます。 さらには、リアルタイムデータとマシンラーニングを活用して、その時々に応じた最適な輸送価格を算出し(ダイナミックプライシング)、温暖化ガス排出量やコストを考慮した輸送経路の最適化を行うことで、渋滞緩和や CO2 削減に貢献しているはずです。

5. お客さまの移動体験を再定義

これまでの移動を「Have to move (移動しなければいけない)」と表現したとすると、2030 年の移動は「Want to move(移動したい)」へ変化していくことが考えられます。
すなわち、「お客さまのわがままに応える世の中」の到来です。これまでは、目的地での行動を目的に移動をしていましたが、今後は移動自体の意味が変わっていくことが予想され、お客さまの移動体験を再定義することが必要になります。

たとえば、移動中に電車や飛行機内で完結するゲームやエンターテイメントを提供することで、移動自体を目的化して移動需要を喚起したり 、お客さまの行動・嗜好・属性データなどを活用して、移動した先でお客さまごとにパーソナライズされた新たな目的を創出・提案するサービスの創出などが考えられます。

旅客・運輸業界にとっては移動をとりまく全てのジャーニー(移動前・中・後)が新たなビジネスチャンスとなり、これまでにない、新たな「移動ジャーニー」のあり方を提案することで、従来にないビジネスモデルの創出機会が生まれると考えます。

マイクロソフトはお客さまと未来像を描きながら伴走

ここまで見てきたとおり、今後、旅客・運輸業界は大きな変化が到来することが予想され、テクノロジーとビジネスの融合がひとつのテーマとなります。このテーマを前に進めるためには、外部・内部環境の変化や課題への対応のみならず、未来像を描き、バックキャストの考え方で新たな世界を実現していくことが必要です。

マイクロソフトはさまざまなチームおよびパートナーが一丸となって、お客さまのデジタル変革を支援します。具体的には、マイクロソフトはお客さまのデジタル変革を未来像策定から定着化まで End to End で支援するチーム(Digital Transformation推進) 、デザイン思考や人間中心設計を通じてデジタル変革やイノベーションを促進するチーム(Customer Innovation)、変革を実現する実行チーム (Industry Solutions) 、そして、お客さまの業界と個社別の状況・課題・未来像をひも解きながら最適なソリューションをご提案するチーム(Account Technology Unit)を有しています。
これらのチームがそれぞれの特性を生かしながら協働することで、マイクロソフトは今後も多角的な視点で、お客さまの未来像の策定からソリューションの実装、展開・定着化まで、ビジネス変革の成功を支えるパートナーとして伴走してまいります。

※記事内に掲載されているチーム名称は 2023 年 6 月時点のものであり、記事掲載以降、変更される可能性があります。


ⅰ国立社会保障・人口問題研究所推計 (日本の将来推計人口 (令和 5 年推計) )

ⅱ経済産業省「キャッシュレス将来像の検討会」( 2023 年 3 月)

ⅲ デジタルデバイド:インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差 (経済産業省)