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業界

日本マイクロソフト主催 製造業界向け AI 活用推進セミナー〜AI が加速するインダストリアル DX〜

2024 年 5 月 22 日に、日本マイクロソフト品川本社において製造業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

多くの活用事例が生まれ活用の幅も広がりつつある生成 AI の現在地が紹介され、なかでもアズビル株式会社を招いてのセッションは、生成 AI 活用の生の声を聞ける貴重な場となりました。

会場から自然と質問の声が上がるなど、生成 AI が製造現場の人手不足や業務効率化などの課題を解決する手段として大きな期待を集めていることを肌で感じられるセミナーとなりました。

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会場の様子

「ごあいさつ 製造業における生成 AI 革命」

日本マイクロソフト株式会社

執行役員常務 インダストリアル & 製造事業本部長
横井 伸好

ご挨拶の様子

ご挨拶の様子

横井は冒頭で、ChatGPT が登場から 500 日足らずで世の中に大きなインパクトを与えていることに触れ、技術的な進歩と利用する側のアイデアや知見が蓄積されていると同時に「責任ある AI」の重要性を指摘。それらがこのセミナーのテーマであることを示します。

そして、日本の GDP が 4 位に転落し、労働生産性が OECD 加盟国 38 カ 国中 30 位という現状に対して「DX、そして AI の活用を真剣に進めていかなければ」と訴えかけました。

続いて横井は、Microsoft では製造業の顧客の AI 導入と利活用を支援するために「設計開発」「製造現場」「サプライチェーン」「顧客体験」の 4 つの分野に注力しており、多くの事例が蓄積されつつある状況を示します。

さらに横井は、企業における AI 導入の進展を 4 つのステップに分けて解説。現在、多くの日本企業がステップ 2(安全な環境での LLM の利用)からステップ 3(内部データとインターネット上の LLM の組み合わせ)に移行しつつあり、一部の先進的な企業はステップ 4(自社独自のCopilotや専門的な LLMの開発)に取り組み始めていると分析します。

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そして最後に、これまでは、製造業の現場には膨大なデータが蓄積されているにもかかわらず、活用方法がわからなかったという課題を指摘。生成 AI が人間とデータを結びつけることで、ビジネスをより効率のよいものに進化させることが可能になると述べ、データ、AI、人間の三位一体で業務効率化を図ることの重要性を強調しました。

「AI Transformation 生成系 AI で仕事を革新させる」

日本マイクロソフト株式会社

執行役員常務

技術統括室 CTO

野嵜 弘倫

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セッションの様子

まず野嵜は、Microsoft が実施する 4400 億円規模の日本への投資について説明。「企業の研究機関と Microsoft の研究機関が連動して、新たなものを日本でつくりたい」と述べ、本セミナーに参加している企業にコラボレーションを呼びかけました。

さらに野嵜は、「生成 AI による経済効果が 2025 年までに中小企業で 11 兆円、日本全体で 34 兆円に上ると予測されており、企業が AI に 1 ドル投資すると 3.5 ドルのリターンが見込まれる」というデータを示したうえで、生成 AI 活用に挑戦する日本企業のユースケースを紹介していきます。

Ecbeingでは、社歴わずか 4 年のエンジニアが、わずか 3 ヶ 月で AI チャットボットを作成。誰もが生成 AI を活用できるユースケースとして紹介されました。また、富士フイルムではインドで展開する人間ドックサービスにおいて、画像データからの舌がんの発見フローを生成 AI によって自動化。さらにチャットボットによる問い合わせ対応も実現しています。そして PKSHAは、Microsoft Research の発表したアーキテクチャを理表した新しい LLM を開発し、非常に高いパフォーマンスを得ているそうです。

graphical user interface, website

次に紹介されたのは、アイシンが開発した聴覚障害者向けの文字起こしアプリです。このアプリはすでに 60 万ダウンロードを達成しており、Microsoft Build 2024 でも大きく紹介されたものです。野嵜によると、特筆すべきは当初想定されていなかった翻訳アプリとしてのニーズへの対応。Azure Translate を追加することで 22 言語に対応し、公共機関の受付などで活用が進んでいるそうです。

野嵜は実際にこのアプリを動かし、ディスプレイに翻訳が映し出される様子を紹介。本業ではない分野でもここまでのヒット商品を生み出せる、すなわち生成 AI の可能性の広大さを示すユースケースであるとして、セッションを締め括りました。

「ChatGPT を業務で活かすための要素たち “Prompt is all you needed”」

日本マイクロソフト株式会社

シニア クラウドソリューションアーキテクト

畠山 大有

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セッションの様子

このセッションでは、畠山が技術的な観点から生成 AI を紹介。テキスト入力からマルチ モーダルへと進化を遂げつつある生成 AI の現在地を、デモンストレーションを交えながら解説しました。

まず畠山氏は、ChatGPT を効果的に仕事で活用するためのコツとして、適切なプロンプトの作成が重要だと述べます。畠山によると、ChatGPT を仕事で使う主なシーンは参照データからの変換と抽出です。

畠山はメールから案件情報を抽出するプロンプトを示しながら、プロンプトによって結果が変わってくることを説明します。そのうえで畠山は、プロンプトではやりたいことが伝わればよく、抽出に必要なデータを保存しておくことこそが重要であると強調しました。

graphical user interface, application

続いて畠山は「次世代の話をしたいと思います」と、音声入力を用いて HTMLの Web ページを作成するデモンストレーションを実施。入力の精度が低くても、ChatGPT が話者の意図を汲み取ってプログラムのコードを生成し、ほぼ 100 % に近い形で動作する様子が展開されます。

デモを終えた畠山は「今日時点で存在している OS の Speech to Text のエンジンで、LLM は十二分に操作ができます」と、すでに誰もが使える技術であることを強調。今後の AI の進化においてはマイクやカメラなどのセンシング機能こそが重要であり、マルチ モーダルのプロンプト生成を活用すれば生産性は爆発的に向上する、と語ります。

最後に畠山は、生成 AI 活用は長期計画で当たることが重要であり、PC のキーボード操作やスマートフォンのフリック入力のように、プロンプトを身につけることが今はなにより重要であることを訴えかけて、セッションを終了しました。

「Microsoft の責任ある AI への取り組み」

日本マイクロソフト株式会社

制作渉外・法務本部 業務執行役員 法務部長

弁護士・ニューヨーク州弁護士

小川 綾

まず小川は AI を船に例え、「AI は危険だから使わないのではなく、危険を乗り越えて使っていくという考え方が必要」と、100 % 安全ではない AI をどのように責任ある形で管理していくかが重要であると述べました。

小川によると、Microsoft は「公平性」「信頼性と安全性」「プライバシーとセキュリティ」「包括性」「透明性」「説明責任」の 6 つの原則を掲げ、AI の責任ある開発と利用に取り組んでいます。かつ、2016 年から責任ある AI の体制を整えて AI システムの開発要件を定め、取締役直下の「責任ある AI オフィス」が、研究、ポリシー開発、技術開発を各部門と連携しながら取り決めをつくり込んできた歴史があります。

さらに Microsoft は、Azure AI Content Safety などのセーフティ システムを導入し、有害コンテンツのスクリーニングやユーザーによるコントロールを可能にしています。また、プライバシーやセキュリティに関しても、ユーザーのデータが基盤モデルのトレーニングに使用されることはなく、他のユーザーに共有されることもありません。

そして著作権に関しても、著作権侵害のプロンプトがブロックされる仕組みを備えており、ユーザーが適切に使用したうえで著作権侵害コンテンツが生成された場合は Microsoft が法的防御を引き受けるという著作権コミットメントを発表しています。

最後に小川は、「100 % 安全なシステムはありません」と改めて強調。リスクを管理しながら使っていくことが重要であり、Microsoft もそのリスクを常に意識しながら、安心・安全な AI 利用のための取り組みを進めていると語ってセッションを終了しました。

「アズビルが沼った 生成 AI による DX のススメ」

アズビル株式会社 AI ソリューション推進部

佐藤 適斎 氏

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セッションの様子

佐藤氏は「いまアズビルは、完全に生成 AI 沼にどっぷりハマっています」と、自社における生成 AI の普及具合を表現。製造業向けソリューションを提供する同社では、2023 年 4 月頃から生成 AI の実証実験を開始し、夏ごろには社員向けエンタープライズ版チャットボット アプリをリリースしました。

佐藤氏によると、このプロジェクトは情報システム部だけで動かすのは難しいとの判断から、組織横断型のタスクフォースを組んで進めてきたとのこと。現在は国内外約 1 万名の従業員のうち 6000 名ほどがチャットボットを利用しており、「社内のシステムとしては、おそらく普及スピードは圧倒的 1 位」と佐藤氏。生成 AI が同社の業務を強力に支援していることを示します。

タスクフォースのメンバーは、生成 AI 普及のために SharePoint で特設サイトを作成してバージョン アップの情報やプロンプト事例の紹介を行い、社内向けウェビナーを実施するなど、さまざまな工夫を行なったそうです。

なかでも佐藤氏がポイントに挙げたのは、経営陣にも推進活動に協力してもらったこと。トップが働きかけることで、社内に生成 AI 活用の雰囲気醸成に成功しました。さらに佐藤氏らは全国の拠点を直接訪問して、交流を深めながら現場の理解を深めていきました。

続いて佐藤氏は、同社内での活用事例を紹介していきます。メールや提案書の作成、特注品の材料選定、知財戦略、IR など、幅広い業務で生成 AI が活用されており、なかでもエンジニアリング部門では特別プロジェクトを展開した結果、業務の半分以上を生成 AI で変革できる可能性が示されたといいます。

また、同社はベテラン従業員の比率が高く、技術伝承が課題となっていましたが、ベテランと若手の混在チームでプロンプトを作成する試みに取り組んだところ、ベテランの暗黙知を形式知化するプロセスが生み出され、課題解決の方向に向かっているとのこと。この活動を聞いた社長からは「この活動はアズビルの技術伝承のプロトタイプになる」とコメントがあり、社内でも効果が認められて横展開が進んでいるそうです。

さらに同社では生成 AI と安全の関係にも注目し、「生成 KY」と呼ばれるリスク アセスメントを支援するチャットボットを開発・実証しています。このチャットボットには RAG(Retrieval-Augmented Generation)が用いられており、作業員の入力に応じてリスクを分析し、過去の類似案件も参照して回答することができます。

佐藤氏によると、製造業界では業務の安全性が高まった結果、危険に接する機会が減ったことで安全に対する意識が下がってしまう事態が懸念されています。佐藤氏は、このチャットボットを活用することで「天才新人の新たな気づきとベテランの安心感、両方を得られる」と述べ、マンネリ化しがちな危険予知に新たな視点を提供する効果を見込めると説明しました。

佐藤氏は、ネガティブな意見もあるなかで同社が生成 AI 導入を推進できたのは、「ここが技術転換点であるという判断をトップ層がしてくれたことが大きい」と分析します。

そして生成 AI が提供する価値として「業務変革」「技術伝承」「人間拡張」を挙げ、生成 AI を活用するポイントとして「安全で安心な環境の提供」「トップ自らの考えの発信」「全員参加の重要性」を提示。「生成 AI はベテランに寄り添う技術。彼らにいかに早期に生成 AI を触らせるかが、仕事を変える鍵になる」と述べて、セッションを終了しました。

「事例対談 アズビル × Microsoft

アズビル株式会社 AI ソリューション推進部

佐藤 適斎 氏

日本マイクロソフト株式会社

執行役員常務 技術統括室 CTO

野嵜 弘倫

日本マイクロソフト株式会社

シニア クラウドソリューションアーキテクト

畠山 大有

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事例対談の様子

このセッションでは、日本マイクロソフトの畠山がファシリテーターを務め、アズビル株式会社の佐藤氏と日本マイクロソフトの野崎がパネリストとして登壇。アズビルの事例を深掘りしながら、生成 AI を活用する際の課題と取り組みについてのディスカッションが行われました。

まず畠山から「どうやって全社員に使ってもらうようにしたのか?」という質問が投げかけられました。野嵜は、「ライセンスの割り当てにおいて、特定の部門だけで使用すると温度差が出てしまう」と補足。佐藤氏は、企業が利用ユーザーを限定してスモールスタートで始める理由として「まずお金の話がある」と分析します。

佐藤氏によると、ユーザー課金の場合は大規模法人であるほどコストが膨らんでしまうことから、アズビルではトークン課金制を採用しているそうです。その結果、運用コストを一人あたり月間 50 円ほどに抑えて全社的な利用促進に成功。「チャットを使う程度であればこの方法で問題ないと思うので、気軽に全世界展開すればいいのでは」と佐藤氏は語ります。

またアズビルではウェビナーによる全社への情報発信を行いつつ、各拠点に赴いて現場の社員と直接対話し、不安の解消・活用のためのシナリオについてディスカッションすることで、生成 AI の全社展開を進められたといいます。そしてその場限りで終わらせないための工夫として、各拠点の支社長や社員にインタビューして、それをウェブサイトで紹介しているとのこと。「イベントが終わって休憩していると、オフィスでみんなが生成 AI の話をしているんです。それを目の当たりにして、やってよかったと思いました」(佐藤氏)

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質疑応答の様子

続いての質問は、生成 AI の活用シーンでベテランが活躍しているアズビルで若手とベテランのギャップをどうやって埋めたのか。

佐藤氏によると、大切なのは「まずは、腕組みして口だけ出してくるようなご意見番たちの腕組みを解かせること」。生成 AI のプロンプトの部分は非常に明快で世代を問わないものであり、「まず手を動かしてもらうことで生成 AI のフィードバックを実感してもらい、活用の楽しさを知ってもらうことが大切」だと指摘。世代間ギャップを克服するためには、体験を通した理解が重要なことを強調しました。

ここで会場から、アズビルにおける技能伝承への生成 AI の活用について「まさに製造業の皆さんがご関心のあるところ」としてそのデータ参照先について質問が寄せられました。その質問に対して佐藤氏は、同社ではデータレイク構想を会社全体で進めており、工場などのデータを触りやすくするための基盤整備を進めつつ、並行して「どう使うか」を試行錯誤することが重要であると回答。「週報や日報、ミーティング資料などを参照しやすい状態にしておくことが大切」とアドバイスを送りました。

さらに会場から「うまく利用できなかったことで生成 AI に触れなくなってしまう空気感」について質問がありました。佐藤氏らは、自分たち自身がプロンプトのブラッシュアップに四苦八苦する、「試行錯誤編」とも呼ぶべきウェビナーを企画して配信するなど、うまく使えない人に寄り添う活動をして いるとのこと。「一緒に苦しみましょう」というメッセージを送ることで、継続的に生成 AI に挑戦する空気を醸成しているそうです。

また野嵜は、生成 AI はこの 2 年間で矢継ぎ早にバージョンアップされており、明らかにハルシネーションは減っているとし、さらなる品質や精度の向上にはユーザーからのフィードバックが欠かせないことを会場に伝えました。

最後に佐藤氏は、ユーザーが持っている情報を整理して、生成AIに明確に指示として伝えられるようになるためのプロセスを「修行」と表現。「私たちは、みんなを修行の旅に誘うような活動をしています」と、生成 A I活用の道のりを、苦しみも喜びもともにしながら歩むことが大切であることを示して、対談セッションは終了となりました。

「製造業における AI 活用のこれから」

日本マイクロソフト株式会社

インダストリアル & 製造事業本部

製造ソリューション担当部長

鈴木 靖隆

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セッションの様子

鈴木は、これまでのセッションのおさらいと 4 月にドイツで開催されたハノーバーメッセでの Microsoft の展示についての紹介を行いました。

「AI が出てきて一番変わったのは、人間と UI が劇的にナチュラルに近づくこと」であると指摘する鈴木。人間の使っている言語でコンピュータを操作できることが LLM の本質であり、Copilot の登場によってそれが実現しつつあることを示唆します。

さらに鈴木は、AI の活用段階を提示。すなわち「Everyday AI」は生産性向上に主眼を置いた普段使いの AI 活用であり、「Game-changing AI」は今までできなかった仕事やサービス提供を可能にする領域です。鈴木は、Everyday AI から始めることは重要ではあるものの、世界ではすでに Game-changing AI 領域の AI 活用が始まっていることを、ハノーバーメッセの展示を例に説明していきます。

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VOLVO PENTA の Hololens 2 活用事例では、従来の MR を用いたガイドに加えて、Copilot  による対話型の作業指示ソリューションがプレビュー段階に入っているとのこと。また、シュナイダーエレクトリックと KUKA の制御プログラム生成ソリューションや SIEMENS の製品設計支援ソリューションでは、自然言語でのプログラム改善や設計が可能になっていることが紹介されました。

最後に鈴木は今回のセミナーのまとめとして、「技能伝承の観点での LLM 活用」「データ統合の重要性」「単体からプロセスの Copilot へ」という 3 つのポイントを提示。アズビルや VOLVO PENTA のような技能伝承への活用可能性と、今後ますますデータの重要性が高まるという課題感の共有、そしてプロセス全体を生成 AI が支援する未来への展望について語り、「皆さんと一緒に、日本発のプロジェクトを来年のハノーバーメッセに持って行きたい」という思いを訴えて、セミナーを締め括りました。