AI が加速させる インダストリー トランスフォーメーションセミナー ~第三回開催レポート~
2024 年 6 月 12 日、Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe において、「第三回 インダストリー トランスフォーメーションセミナー」が開催されました。(第一回/第二回)このセミナーは、主に AI の利活用を視野に入れている製造事業者向けの内容となっており、最新の AI 事情やユースケースがリアルに体感できる Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe で開催することにより、より自分ごととして AI の利活用を捉えていただくことをひとつのテーマとしています。
最終回となる今回は、ドイツで開催された「ハノーバーメッセ 2024」で発表された先進企業のユースケース紹介や、すでに現場での実装が進んでいる製造業向け生成 AI ソリューションのユースケース紹介などを通して、目覚ましい進化を続ける生成 AI の現在地と実践的な活用方法を肌で感じられる貴重な機会となりました。
「AI が加速させるインダストリー トランスフォーメーション
ハノーバーメッセ 2024 フィードバック」
マイクロソフト コーポレーション
執行役員 常務
製造・モビリティ インダストリー
アジア担当ゼネラルマネージャー
畑 義和
登壇の様子
最初に登壇した畑は、世界最大級のトレードショーであるハノーバーメッセ 2024 が 13 万人もの来場者数を記録し、マイクロソフトのブースには 3 万 8000 人が訪れたことを紹介します。ハノーバーメッセ 2024 の展示を紹介する動画では、メカニカルなものとソフトウェアを組み合わせた展示が多く映し出され、先進企業は既に実用レベルの技術を活用していることが示唆されました。
畑は、本セッションの目的として「ハノーバーメッセで展示されていた先進企業のユースケース紹介」「Microsoft Copilot in Manufacturing の実装ベースでのユースケース紹介」そして「End-to-End でのデータ活用ユースケース紹介」の 3 点を挙げ、アルファコンパス福本氏を壇上に招き入れました。
「ハノーバーメッセ 2024 から見えてきたこと
〜つながるデータを生成 AI 活用により社会還元する動き」
合同会社アルファコンパス
代表 CEO
福本 勲 氏
登壇の様子
福本氏は、ハノーバーメッセ 2024 の概要を説明したあと、ハノーバーメッセ 2024 の主要テーマのひとつだった、ドイツにおけるデータ連携基盤をピックアップして解説しました。
ドイツでは、自動車業界に特化した「Catena-X」をベースとして、製造業全体にセクター横断で広げていくプロジェクト「Manufacturing-X」プロジェクトが開始されています。現在ドイツでは、この Manufacturing-X を主軸として、階層や業界、技術ごとにサブプロジェクトが展開されており、工場に特化した「Factory-X」や、航空機製造業界に特化した「Aerospace-X」、自動運転技術に特化した「PLC-AAD」プロジェクトなどがその代表的なものとして挙げられます。先行している Catena-X もサブプロジェクトのひとつに位置付けられることになりました。
福本氏によると、現在さまざまな国とデータ連携の足並みを揃える「International Manufacturing-X」設立の動きも活発化しているとのこと。福本氏は「グローバルに広がった製造業のサプライチェーンを支える国際的な産業データエコシステムの推進が進み始めている」と分析し、日本の製造業においても、国や業界の垣根を超えたデータ連携に注視する必要があることを示唆しました。
続いて、ハノーバーメッセ 2024 における先進企業の展示ユースケースが紹介されました。
EPLAN グループは、制御盤の設計製造を一貫してデジタルで支援する仕組みづくり訴求。デジタル ツインによるロボット配線の自動化や、加工機との連携による穴あけ・折り曲げの自動化などを展示。これにより、人の介在を減らしつつ、安定した品質の制御盤製造を実現することを目指しています。
Dassault Systemes は、バーチャル ツインを製造プロセスに継続的に統合することで、競争力を高められることを訴求。オムロンの搬送装置やロボットを使用し、3D EXPERIEMCE プラットフォーム上で End-to-End のプロセスを再現するショーケースを展開しました。このショーケースでは、バーチャル空間で課題を特定・解決してからフィジカルに反映することで二度手間を減らし、作業を効率化することを目指しています。
AVEVA では、インダストリアル インフォメーション データの可視化、分析などの活用をサポートする共通クラウド プラットフォーム「CONNECT」の展示により、オープン プラットフォームの必要性を訴求。AVEVA 以外のエコシステム パートナーのソリューションも利用でき、オペレーション データやエンジニアリング データなどを統合、可視化することで、多角的な経営判断に役立てられるプラットフォームの提供を目指しています。
PHOENIX CONTACT では、「Empowering the All Electric Society」というコンセプトを掲げ、コネクタやエレクトロニクスのテクノロジーを活用して、EV の充電テクノロジーや再エネの安定供給などに貢献することを訴求。さまざまなテクノロジーを束ねることで All Electric Society の実現を目指しています。
SAP は、「Bring Out Manufacturing Excellence」というコンセプトで、サプライチェーン支援のソリューションを展示。デザインからオペレートまでの全プロセスを繋ぎ、そこから得られるデータをもとに、生成 AI を活用して効率化を図ることが提案されました。また、企業を超えてバッテリー パスポート情報の連携を行い、データ交換を容易にする「Digital Twin Ecosystem」や人の作業をデジタルが支援するショーケースも展開。福本氏によると、こうした標準化技術によるトレーサビリティの確保は、多くの企業によって訴求されていたそうです。
Siemens は、自動車、半導体、フード & ビバレッジ、化学などの業種に特化した特別展示を実施。「Siemens Xcelerator」のようなプラットフォーム、インダストリアル メタバース、デジタル ツイン、生成 AI などを活用したイノベーション テクノロジー、スマート マニュファクチャリングなどに焦点を当てた幅広い展示を展開していました。
Microsoft は、「Accelerate industrial transformation with AI」というコンセプトで、生成 AI や Copilot の活用事例をショーケースで展開。ロボット制御プログラムや過去のコネクタ設計情報の変更を自然言語で行えるショーケースの展示や、他社ソリューションと組み合わせてデジタル ツイン+インダストリアル・メタバースを構成するショーケースの展示などが実施されていました。また Copilot のショーケースとして、作業手順などの確認や翻訳を Copilot が行う仕組みを展開。トレーサビリティの確立された工場オペレーションが示されていました。
Beckhoff Automation は、PLC のラダー言語プログラミングを ChatGPT が支援する「TwinCAT Chat」や、学習データの正誤判断と誤判定理由の把握が可能な機械学習ソリューションを展示。これらにより、制御プログラムの生産性向上や、デジタルの力を借りた対応の効率化を目指しています。
Schneider Electric は、企業のサステナビリティを支える次世代オートメーション技術を訴求。ハードウェアに依存しないコントローラを実現する「EcoStruxure Automation Expert」の展示を行いました。また生成 AI を適用した製品ポートフォリオの進化を推進する Copilot の活用ソリューションでは、ロボットや PLC などの制御アプリケーションのプログラミングを Copilot がサポートすることで、効率化、高度化が可能になることが示されていました。
Bosch は、水素を始めとしたサスティナブルな取り組みを支えるエネルギー テクノロジーの展示を中心に展開。デジタル化やオートメーションを進める際にはエネルギーの見直しが重要であり、そのためにはパートナーシップが不可欠であることを訴求しました。
福本氏は最後に、ハノーバーメッセ 2024 を通して見えてきた、日本企業の考え方や取り組むべきことについて言及。欧米人や中国人が「できる」ことに眼を向けるのに対して日本人は「できない」ことに眼を向けがちであり、この姿勢の違いが 5 年後に差を生むのではないか、と危惧を表明しました。
また、「生成 AI の進化によって、今後人はルーチン業務や記憶の必要性から解放されるのではないか」と予想。「人でなければできない仕事に特化することで、生産性は確実性に向上する。つまり、人がやるべき仕事とはなにかを真剣に考えなければならない」と訴えかけました。
ドイツや EU ではすでに業界をまたいだプラットフォーム・エコシステムの実現やデータ スペースに関する取り組みが、精緻な制度設計のもとで進められています。福本氏は、日本でもこの仕組みづくりの動きを注視すべきであり、「生き残っていくためには、経営層をはじめとした皆さんが課題を理解して、本気でこういった技術を見ながらデジタル トランスフォーメーションに取り組んでいかなければいけない」と呼びかけてセッションを終了しました。
「ハノーバーメッセ 2024 マイクロソフト・ブール・フィードバック:
テクノロジー・イン・アクション!実装例で示す最新 Industry Copilot」
シュナイダーエレクトリックホールディングス株式会社
インダストリアルオートメーション事業部 商品企画部 部長
川田 学 氏
日本マイクロソフト株式会社
インダストリアル & 製造事業本部 製造ソリューション担当部長
鈴木 靖隆
登壇の様子
鈴木はまず、「Microsoft は Copilot というコンセプトによって、より多くのユーザーあるいはパートナーにこの技術を活用していただけるベースをつくっています」と Microsoft の現在地を解説。「生成 AI が世界中の知識と組織の知識にアクセスするのに役立つ新しいユーザー インターフェースになる」という目標の達成に向けて、パートナー企業とともに技術開発を進めていきたい、と語りかけました。
そして、いまや生成 AI は世界中のデータや組織内のナレッジから回答を探し出す Digital Personal Assistant として従業員の生産性向上に役立てられ始めているとし、HoloLens 2 と Copilot を用いた VOLVO PENTA 社の作業支援ソリューションの事例を、動画を用いて紹介しました。
鈴木は、このソリューションによってテクノロジー ギャップを埋められ、新しい技術に慣れないベテラン従業員の業務スキル活用と若手従業員への技術承継を同時に実現できることを強調。人手不足が進む日本の製造業においても有用なテクノロジーであることを示唆します。
続いて鈴木は、自然言語でリクエストするだけで 2D の設計図面を書き起こし、熱解析からヒート マップ作成、さらには 3Dオブジェクトの作成まで行える SIEMENS の製品設計支援ソリューションを紹介。生産準備分野においても生成 AI が活用されていることを示します。そして、この後のシュナイダーエレクトリック川田氏のセッションでは、制御分野における生成 AI 活用ソリューションが紹介されることを予告。川田氏を呼び込みました。
登壇の様子
川田氏は、シュナイダーエレクトリックが開発中の生成 AI を活用した産業ソフトウェア「Automation Copilot」について解説を行いました。
川田氏によると、産業ソフトウエア開発においては「膨大な開発工数」「ソフトウェア人材の不足」「習熟の難しさ」という 3 つの課題があるとのこと。これらの課題を解決するために、Copilot を活用した Automation Copilot 開発に取り組んできたそうです。
Automation Copilot は、同社の Automation Manager というソフトウェア開発環境をモダンにアップグレードするためのひとつの部品であり、生成 AI でプログラミングを自動化することにより、開発工数を最大 30 % 削減することを目的としています。
主な機能としては、自然言語によるチャットを使った制御プログラムの開発サポート、テスト仕様書の自動生成、モーションや制御パラメータの最適化などが挙げられます。また、シュナイダーエレクトリック独自の LLM が使われているため同社の製品知識は学習済みで、かつユーザーが入力した学習データはシュナイダーエレクトリックの学習データとは分離して管理されるため、外部に漏出する危険はありません。
続いて川田氏は、デモンストレーションを交えながらいくつかのユースケースを紹介した後に、Automation Copilot は「信頼性の高い制御プログラムを自然言語で問い合わせることによって作り込む試みであり、設計、開発工数の削減やプログラム品質の向上、さらには人材育成にも役立つソリューション」であることを強調。2025 年の初頭にはリリースする予定であることを告げてセッションを終了しました。
川田氏の発表を受けて鈴木は、生成 AI を活用するためには、データの統合とコンテキスト化が重要であると指摘。そのふたつのステップを経ることにより、IT が不得手な人材でも生成 AI を通して業務に参加できる「インサイトの民主化」が見えてくる、と語ります。
さらに鈴木は、「製造業におけるひとつのコンセプトの体現事例」として、ハノーバーメッセ 2024 の Microsoft ブースで展開されていた、バリューチェーン全体を通したインダストリアル・トランスフォーメーションのデモンストレーションの様子を画像で提示。「このデモンストレーションで使われたデータはどのように準備されたのか、最後のセッションで整理していきます」と述べて、セッションを終了しました。
「製造オペレーションでの AI 活用を推す
Manufacturing Data Solutions と Copilot Template」
マイクロソフト コーポレーション
製造・モビリティ インダストリー インダストリーアドバイザー
濱口 猛智
アバナード株式会社
Industry X チーム マネージャー
鈴木 聡 氏
登壇の様子
濱口は、製造データ活用のためのデータサービス「Manufacturing Data Solutions(MDS)」と、Microsoft 製品に組み込まれた Copilot サービス群と OT データを活用するためのテンプレート「Copilot Template for Factory Operations」についての解説を中心としたセッションを行いました。
MDS は「ISA95 のオントロジー モデルを使って、皆さまが Copilot をご自身で開発していただきながら、製造プロセスのなかでデータを活用するための仕組み」と説明する濱口。これは Microsoft 一社だけで提供するのは難しいものであり、さまざまなパートナーとのエコ システムによって実現しているものであると強調したうえで、アーキテクチャを図示して解説していきます。
濱口はここでユースケースの動画を流し、製造現場でトラブルに対処する際に、自然言語による生成 AI との壁打ちが可能になることで、トラブルが起きている箇所を効率的に特定、問題を解決できる仕組み「Microsoft Cloud for Manufacturing」を紹介。これは製造業の顧客が DX を実現するためのギャップを埋めるためのツールであり、そのフレーム ワークはユーザーが独自の Copilot を開発する際の共通開発パターン Copilot stack に紐づけられることを示します。
そして、具体的にどのようにパートナーのソリューションに落とし込めるのかについて、アバナードの鈴木氏から具体的な展開例が語られることを伝えてセッションを終了しました。
登壇の様子
濱口からの紹介を受けて登壇した鈴木氏からは、Microsoft Cloud for Manufacturing を用いて同社がソリューション化している Avanade Manufacturing Copilot の紹介が行われました。
鈴木氏によると、アバナードが開発している Avanade Manufacturing Copilot は、基本的には Microsoft Cloud for Manufacturing のソリューションを踏襲したもので、それを拡張して実装していくソリューションです。
鈴木氏によると、これを用いることでより少ない廃棄物で優れた製品の製造や現場担当者の業務支援などが実現できるとのこと。稼働パフォーマンスのレポート作成や原因分析、ドリルダウン調査を瞬時に実行でき、実行時には自然言語でやり取りできます。
鈴木氏は、こうしたソリューションを活用した問題解決による品質や効率の先には従業員の生活の向上があり、そのインパクトは今後「未来の工場のあるべき姿」として大きな訴求ポイントになるだろうと語り、自然言語での工場データ操作を円滑に行うためには、曖昧さ回避のためのデータのコンテキスト化、根本原因の特定、履歴データの分析がポイントになることを示しました。
最後に鈴木氏は、アバナードのソリューション提供の流れとハノーバーメッセ 2024 で展示された Smart Manufacturing の事例について説明。「お客さまの実際の課題、どういったパラメータをどのように制御したいのか、会話をさせていただき、最適なソリューションを提供できれば」と語り、顧客の求める最適解を共に探求する同社の基本姿勢を訴求してセッションを終了しました。
クロージングセッションでは、畑が 3 時間にわたる本セミナーを総括。生成 AI の進化はスピード感を増しており、それを表す現象として、ハノーバーメッセ 2024 から 1 ヶ 月後に開催された Microsoft Build 2024 では「Copilot+PC」や SLM(小規模言語モデル)の発表、NTT データの SLM が MaaS(Model-as-a -Service)に採用されたことを紹介しました。そして、これらの情報を日本語で展開する Microsoft Build JAPAN への参加を促しました。
そして畑は、本セミナーの会場でもあり、AI と IoT を活用したイノベーション創出を目的とした施設「Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe」について説明。Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe では専任のエンジニアやプロジェクトの推進プログラムなどを提供しており、アイデアが市場に届くまでの課題を解決し、イノベーションの迅速な実現を支援するとアピールしました。
登壇の様子
最後に一般社団法人 AI Co-Innovation Lab Kobe 活用推進協議会の青木氏が登壇。より詳細な AI Co-Innovation Lab Kobe のミッションや活動内容を紹介し、ここを拠点とした我が国の製造業 DX と、産業の垣根を超えたオープン イノベーションの推進を呼びかけました。
こうして幕を閉じた「製造業界のお客様向け AI が加速させるインダストリー トランスフォーメーション」セミナー。過去 2 回と比べても、より実践的でハイレベルなプログラムで構成されており、参加者はよりリアルに生成 AI 時代の到来を感じられたのではないでしょうか。この AI Co-Innovation Lab Kobe から生まれたイノベーションが世の中に送り出されるのも、そう遠い未来ではないことを予感させるセミナーとなりました。
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