もはや待ったなしの「働き方改革」― AI の活用で「量」と「質」の改善が可能に
優秀な人材の確保、長期労働の是正、生産性の向上などを目的に、働き方改革を推進する企業が増えている。改革の目標として労働時間の短縮を掲げる企業が多いが、それでは企業として、収益の向上は見込めない。働き方の「量」だけではなく「質」を改善することが重要だ。いかに同じ労働時間で、より多くの成果を生み出すか——。クラウドや AI (人工知能) などの最新テクノロジーを活用すれば、こうした環境を短期間に実現することが可能だ。
働き方改革の推進によって事業生産性を 26% も向上
政府は 2017 年 3 月 28 日、働き方改革実現会議を開き、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の導入などを盛り込んだ実行計画をまとめた。この計画では 9 分野における改革の方向性が示されており、その中には時間外労働に対する罰則付きの上限規制や、テレワークの推進が盛り込まれた労働環境の整備などが含まれている。日本企業にとって、働き方改革はもはや待ったなしの状況だといえるだろう。
日本マイクロソフトで 10年以上にわたって自社の働き方改革を主導してきた小柳津 篤は、これから改革を推進していく企業に対して、次のようにアドバイスを送る。
「改革のためには IT ツールなどへの投資が必要になります。せっかく投資するのですから、単に労働時間を短縮するだけでなく、『儲かる』ような働き方に変えましょう」
労働時間の短縮は、いわば働き方の「量」の改善である。一方の「儲かる」、すなわち収益に結びつく改革とは、働き方の「質」を変えることにほかならない。つまり、同じ労働時間でも、より多くの成果を生み出すような働き方のことだ。小柳津は、この秘訣を「社員同士が組織を超えてコラボレーションをしやすい環境を作ることです」と指摘する (図 1 )。
実際、日本マイクロソフトにおける近年の働き方改革では、これを重視した取り組みを行ってきた。「Offi ce 365」が装備するオンライン会議「Skype for Business」を中核として、いつでも、どこでも、どのデバイスからでも、ほかの社員とコミュニケーションをとれる環境を整備している。例えば、何か新しいアイデアを思いついた社員が、その場で遠隔地にいる他部門の社員と事業化へ向けた議論を行う。あるいは、出先にいる営業担当者が、顧客の問い合わせに対してオフィスにいる専門家に尋ねることができる環境だ。
こうした環境を社員が駆使するようになった結果、事業生産性が大きく向上した。2015 年の調査では、社員 1 人当たりの売上高が 2010 年に比べて 26% も向上している。このほかにも、残業時間が 5% 減、旅費・交通費が 20% 減、女性の離職率が 40% 減、ワーク・ライフ・バランス満足度が 40% 向上など、様々な側面で効果が表れている。
マイクロソフトだけでなく、数多くの企業も Office 365 を活用した働き方改革に取り組んでいる。コミュニケーション改革に Skype for Business を活用する資生堂、社外の建設現場を含めて全社のコミュニケーション基盤として Office 365 を導入した大成建設、Office 365 で社内外のコミュニケーションや組織横断のコラボレーションを推進する三井住友銀行などが、その一例だ。日本では、日経平均銘柄に採用されている 225 社のうち、80% が Office 365 を導入済みだ。
働き方改善の気づきを与える MyAnalytics
日本マイクロソフトは現在、AI (人工知能) を活用した働き方改革にも取り組んでいる。Office 365 の最新版に搭載された「MyAnalytics」と「Office Delve」という機能を活用して、働き方の質の改善に努めているのだ。
クラウド サービスである Office 365 では、メールの利用履歴やスケジュールのデータがクラウド上に蓄積される。MyAnalytics と Office Delve は、これらの情報を AI 技術の一種である機械学習で分析し、個々人の働き方を可視化するとともに改善点や仕事の支援策を提示する機能を提供する。
Office マーケティング本部の輪島 文は、これらの機能について「MyAnalytics は、時間の使い方とコラボレーションに関する気づきを与えてくれるツール。Office Delve は、自分が気づかなかった有益な情報や、その時々でコラボレーションすべき相手を教えてくれるツールです」と説明する。
例えば、MyAnalytics を立ち上げると、過去 1 週間で会議に 30 時間、メールの送受信に 13.6 時間を費やしていて、残業時間が 16.7 時間だったことがダッシュボード上に示される。仕事に集中できる「フォーカス時間」 (会議のない 2 時間以上の連続した時間) は 1 週間で 19 時間しか取れていないことも分かる (図 2)。
ダッシュボードの下部には「検討事項 (注目点)」が示される。輪島の検討事項には「32% の会議が Tomomi Hirose さんと一緒でした」「分担することで、両方の予定表に余裕ができます」と提案されている。これに基づいて、2 人が一緒に参加する会議を分担すれば、会議時間から 4.8 時間 (30 時間 × 32% ÷ 2) を削減できる。
メールと会議の時間を 1 週間に 2 時間削減
MyAnalytics には、メールや会議の実態を可視化する機能もある。メールの場合は、受信したメールの開封率と自分が送信したメールに対する相手の開封率が示される。会議では、自分が「内職」した会議 (会議中に送信したメールが 1 時間当たり 3 通以上、または読んだメールが同 5 通以上の会議) や勤務時間後の会議、長時間の会議などを示してくれる。これらの情報を基に無駄な時間や生産性の悪いコミュニケーションなどの気づきを得て、働き方を変えることも可能だ。
例えば、メールの送信に長い時間を費やしているのに相手の開封率が低ければ、そこには無駄なコミュニケーションが含まれていると判断できる。このような場合は、相手に伝える内容によって、対面の会議や Skype for Business によるオンライン会議、社内 SNS の「Yammer (ヤマー)」など伝達手段を使い分けることで、コミュニケーションの生産性を大きく向上できる。
これまでに MyAnalytics を導入した米国企業での実績では、メールと会議に費やす時間を 1 人当たり週に2 時間削減できている。社員数を 1000 人と仮定すると、会社全体では 1 か月当たり 8000 時間を節約していることになる。これは社員 50 人の増員に相当する。
近い将来、MyAnalytics はチーム単位で働き方を可視化・改善するためのツールに進化する予定である。輪島は「ハイパフォーマー (優れた成績の社員) のコンピテンシー (行動特性) を分析することも可能になります」と語る。
最後に輪島は「これからの働き方改革では、AI をはじめとする最新テクノロジーを活用して、働き方の質を改善することが重要な課題となっていくでしょう。働き方の質を高めて組織全体の事業生産性を上げることは、従業員満足度の向上につながります。働き方改革に対するモチベーションが上がるので、継続的に取り組んでいくことが可能になります」と強調した。
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