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業界

IT Leaders xChange サミット 2018 Spring レポート

デジタルによる変革は「不可避」。いま企業のリーダーたちに求められる姿勢とは

2018 年 2 月 20 日、日本マイクロソフト主催の「IT Leaders xChange サミット 2018 Spring」が開催された。実践の時代に入ったデジタル トランスフォーメーションは、企業の将来を左右する重要な経営課題になろうとしている。変革はどのように進め、誰が主導すべきなのか。成功に向けた戦略や提言、実践的な事例が紹介された。

■重みを増す「デジタル変革なき経営は後退」という言葉

三井住友フィナンシャルグループ
取締役 執行役専務 グループ CIO
谷崎 勝教 氏

オープニング セッションで登壇したのは、IT Leaders xChange の会長を務める三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役専務 グループ CIO 谷崎勝教氏だ。同氏が 1 年半前に日本マイクロソフトの代表取締役 社長 平野拓也氏との対談で語った「デジタル変革なき経営は後退」という言葉は、今や多くの企業にとって重要な提言となっている。

谷崎氏によると、三井住友フィナンシャルグループでは、中期経営計画に「デジタライゼーション」の実現を掲げ、顧客体験価値の向上や生産性の向上、データの利活用などに生かす取り組みを進めている。AI の領域ではマイクロソフトと協働で、Microsoft Azure 上で稼働するコンタクト センター用のチャット ボットを開発した取り組みについても紹介した。

最後に、ユーザーの一代表として、今後もマイクロソフトの製品を徹底的に使いこなしていきたいと抱負を語った。

■IoT で建設現場の働き方を革新する「スマートコンストラクション」

コマツ
スマートコンストラクション推進本部
システム開発部 部長
赤沼 浩樹 氏

最初の事例セッションでは、IoT を駆使して建設現場の革新に取り組むコマツのスマートコンストラクション推進本部 システム開発部 部長を務める赤沼浩樹氏が登壇、「コマツの IoT への取り組み "スマートコンストラクション" について」と題して講演した。

建設機械 (建機) に ICT を活用することで建設施工の自動化、効率化に取り組んできたコマツ。IoT という言葉が一般的になる前から、建機にセンサーを取り付け、稼働管理の仕組みを構築してきた先進企業だ。現在では、従来の ICT 建機による施工の効率化にとどまらず、前工程や後工程も含む施工全体を一元的に捉え、全体最適の視点で建設現場の安全性、生産性、品質の向上を実現する取り組みを進めている。

この取り組みを推進するために、コマツが提供しているのが、ドローンや 3D 解析、クラウド/エッジ コンピューティングなど最先端の技術を駆使し、建設現場の見える化や最適化を実現する施工ソリューション「スマートコンストラクション」である。これを使って、測量から設計、施工、保守までの建設プロセス全体を 3D データでつなぐことにより、人、機械、土 (量や形状) などの状況を見える化し、プロセス全体を最適化することが可能になる。

建設生産プロセスを 3 次元データ (+時間) でつなぎ、全てのプロセスを見える化して最適化する「スマートコンストラクション」

スマートコンストラクションでは、工事が完成したときのイメージが 3 次元データで見られるようになる。今後は、刻々と変化する現場の状況 (3D 地形など) を日々測量し、見える化すること。そして、現場に関与する全ての人、機械、材料、サプライヤーなどの仕事量も日々見える化することだという。

コマツではこうした課題の解決に向け、日々発生する大量の 3D データなどをクラウドに送る前に現場で高速に処理するエッジ コンピューター「Edge Box」を開発し近日中に LANDLOG 社より提供可能となる。

LANDLOG 社は、建設現場で発生するさまざまなデータを集め、「コト」化をするオープン プラットフォーム「LANDLOG」提供のために、2017 年 10 月にコマツ、NTT ドコモ、SAP ジャパン、オプティムの 4 社で設立された。

現在、ドローンを使って現場全体の地形変化を日々計測するシステムや、動画カメラを使って現場で動く全ての建機やダンプ トラックなどの動線や作業内容をリアルタイムで解析して見える化し、効率的で安全な施工を支援するシステムの開発にも着手しており、こちらも近日中の LANDLOG 社からの提供を予定している。

■設計、開発から配送、管理まで全てを革新した、Jabil の未来のデジタル工場

Jabil Green Point Div.
Vice President & CIO
May Yap 氏

2 つ目の事例セッションに登壇したのは、製造、設計エンジニアリング事業を世界規模で展開するJabil の Green Point 部門で Vice President と CIO を務める May Yap 氏だ。「Manufacturing at the Speed of Digital (デジタルにより加速する製造業)」と題して講演を行った。

世界最先端の技術力を持つ製造ソリューション企業への進化をゴールに掲げるJabil では、発案から設計、計画、開発、配送、管理までのソリューションをエンドツーエンドで提供しており、その適用分野は、スマートフォンや自動車、医療機器などの産業分野や多様なビジネス分野まで多岐にわたっている。同社はそのゴールの達成に向けて、顧客やパートナーを巻き込みながらデジタル トランスフォーメーションの最前線に立っている。

Yap 氏は、デジタル トランスフォーメーションの取り組み状況についてこう語る。「顧客を取り巻く環境は大きく変化し、さらに加速しつつある。そうした変化のスピードに顧客が対応しているように、われわれ自身も変革する必要がある。幸いなことにテクノロジーの進化は変革を容易にし、われわれもデジタルにより変革が加速化している」

しかし、デジタル トランスフォーメーションは、IT 部門単独では実現することはできない。Yap 氏は、「仕事のやり方を変え、人や組織全体が変わらなければ真の変革は実現できない」と強調する。こうしたゴールを達成するために不可欠になるのが、変革の取り組み全体を管理したり、それを主導するリーダーを配置したりするなどの、適切な「チェンジ・マネジメント」である。

実際に、Jabil はどのようなやり方でデジタル トランスフォーメーションを実践しているのか。同社が最初に取り組んだのは社内変革の基盤となる「デジタル エンタープライズ」をクラウドベースで構築することだった。この基盤は、以下の 3 つにより構成される。

  • 社員同士のコラボレーションやナレッジの共有、プロダクティビティ向上を実現する「デジタル ワークスペース」
  • 基幹業務のリアルタイム統合やプロセスの自動化、実用的な分析を実現する「デジタル バックオフィス」
  • 工場を刷新し、工場間の連携や高度なエッジ解析、共通アプリケションレイヤーなどの環境を整備した「デジタルファクトリー」

デジタルファクトリーに関しては、製造の在り方を変えるインダストリー 4.0 を実現するための基盤として位置付けており、モビリティやロボティクス、人工知能 (AI)、コネクティビティなど最先端の技術や方式を駆使して工場の自動化・効率化を実現する。Jabil はすでにマイクロソフトと協力して、デジタルファクトリー側で、店舗の売れ行き情報を予測して生産計画に反映させることができる店舗分析ソリューションを開発している。

「われわれが目指しているのは、未来のデジタル工場であり、これによって製造のやり方が根本から変わると考えている。これを実現するためには強力なパートナーシップも不可欠だが、すでにわれわれはその基盤を確立している」と Yap 氏は力を込めて語った。

■人口 130 万人のエストニアがなぜデジタル先進国になれたのか

エストニア共和国大使館
エンタープライズ・エストニア 日本支局長
山口 功作 氏

最後の事例セッションでは、国家レベルでデジタル トランスフォーメーションに取り組むエストニア共和国の在日大使館でエンタープライズ・エストニア 日本支局長を務める山口功作氏が「デジタル社会の未来を垣間見る」と題して講演した。

日本の九州とほぼ同じ国土面積に 130 万人の人口を抱えるエストニア共和国。同国は、欧州委員会の EU デジタル経済・社会指標 (公共サービス) で 1 位、OECD の財務競争力で 1 位を獲得するなど、電子行政サービスの先進国として世界の国々から注目されている。

エストニアでは、国民の 99% が ID カードを保有し、健康保険や年金、投票、印鑑証明といった公的サービスをはじめ、会員カードや処方箋、定期券などの民間のサービスを含めて、2,000 以上のサービスをインターネットで利用することができる。現在、公的サービスのうちインターネットで利用できないのは、立会人を必要とする結婚と離婚、公証人を必要とする不動産売買だけだが、開発中の電子公証人システムが完成すれば、不動産売買もインターネットで行うことが可能になるという。

エストニア共和国の政府が提供する主な電子サービス

エストニアは国家レベルでのデジタル トランスフォーメーションをなぜ実現することができたのか。山口氏は、その理由の一つとして政府トップのリーダーシップを挙げる。「エストニアは 1991 年に独立を回復したが、首都タリンに人口が集中していたため、役所や公的機関がそれぞれの地方都市に通常の窓口を設けて、ユニバーサル サービスを提供することは困難だった。そうした状況の中、前大統領の強いリーダーシップの下で、行政サービスの全面的なデジタル化に取り組むことになった」と山口氏は話す。ちなみに、前大統領は IT エンジニア出身であり、プログラミングもできたという。

デジタル トランスフォーメーションを実現できたもう一つの理由は、デジタル化の考え方を深く検討し、守るべき原則を定めたことだ。1 つ目は、国民から 1 度聞いたデータと同じデータを 2 度聞いてはならない「ワンス オンリー」の原則。2 つ目は、加速度的に進む技術革新に対応するために同じ基本システムを 12 年以上使ってはならない「ノー・レガシ」の原則。3 つ目は、証明書やデータはあくまでもデジタルが "正" であり、紙は "副" (コピー) である「デジタル・ファースト」の原則である。

エストニアでは、デジタル化の取り組みによって、実際にどのような効果を得たのだろうか。例えば、電子署名では GDP 換算で年間 2% の行政コストを削減、警察では検挙率を 1.5 倍にアップ、病院では患者の待ち時間を 3 分の 1 に短縮、徴税効率では世界一を達成、選挙では関連費用を 5 分の 2 に縮小した。

しかし、山口氏は、「こうした効果は、単にサービスを電子化しただけでは得ることはできない。電子化にはイニシャル コストが必要になることを忘れてはならない」と忠告する。そのうえで、「重要なのはサービスをどのように統合化するかであり、それによってコストや人員の削減といった多くの効果を生み出すことが可能になる」とアドバイスする。

企業や組織はどのような姿勢でデジタル トランスフォーメーションに取り組むべきなのか。山口氏は、「われわれが向かおうとしているデジタル社会にはあらかじめ決められた道はなく、自身の手で切り開いていく必要がある。道はわれわれが進んだ後ろに自然とでき上がるものであり、みなさんには開拓者の精神を持って取り組んでほしい」とエールを送った。

■デジタル トランスフォーメーションを加速する日本マイクロソフトの支援策

日本マイクロソフト
代表取締役 社長
平野 拓也

クロージングセッションには、日本マイクロソフトの代表取締役 社長 平野拓也が登壇し、企業のデジタル トランスフォーメーションを推進する 2 つの支援策を紹介した。

1 つ目は、個人や組織に焦点を当て、そのポテンシャルを最大限に引き出す「働き方改革」だ。クラウドを基盤に AI や MR など最先端技術を有効活用することにより、デジタル トランスフォーメーションを提案、支援する。

2 つ目は、業種や業態に合わせてデジタル トランスフォーメーションを提案、支援する「インダストリーイノベーション」である。業種、業態に最適なクラウドベースのソリューションをユーザーやパートナーと連携して開発し提供する。

今後のデジタル トランスフォーメーションの推進に向けて平野は、「要素技術を理解したうえで、お客さまのビジネスに合わせてデザインを行うデジタル アーキテクトを育成するほか、お客さまとパートナーさまを引き合わせる各種イベントを開催、特定のテクノロジーやソリューションに特化した各種コミュニティを創設するなど、さまざまな支援策を実施していく」と締めくくった。

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