【インタビュー】120%の能力を発揮するためにシステムができること~Office365活用事例(株式会社パソナ)
※ この記事は 2017年06月16日に DX LEADERS に掲載されたものです。
2016年より日本政府は「働き方改革」を提唱している。労働人口が継続して減少している中、長時間労働・残業が日本の生産性低下の要因となっているためである。また、子育てや介護中の人がより働きやすくなる仕組みとして、在宅勤務なども推奨されている。本記事では、ITの力で働き方改革を推進した企業にスポットをあてる。
総合人材サービスの株式会社パソナは、人材派遣、人材紹介、再就職支援、アウトソーシングなどのさまざまなサービスを全国、世界規模で展開している。
同社は、育児を終えて、「もう一度働きたい」と願う主婦に働く場を提供したい、女性の社会進出を応援したいという目的で1976年に創業以来、女性活躍を推進している企業である。2017年、『日経WOMAN』(発行:日経BP社)と日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施した「企業の女性活用度調査」の結果、「女性が活躍する会社BEST100」の総合ランキング5位、管理職登用度部門でも5位に選出されている。
Office365の導入は、同社の働き方改革に大きく貢献している。今回は、株式会社パソナグループ グループIT統括部の椎名 司氏と尾崎 隆氏にお話を伺った。
フレキシブルな働き方ができる、Office365を導入
同社がOffice365を導入したのは2013年。導入前は人材ビジネスという性質上、個人情報や機密情報などを大量に保有しており、社外から会社のシステムにアクセスすることや、パソコンを外に持ち出すことはセキュリティ上問題があるためできなかった。そのため、営業担当はメールを確認するために外出後は帰社しなければならない状況であったそうだ。
「人材ビジネスは競争が激しく、時間との闘い。たとえば、派遣社員の活用を検討している顧客は、当社だけではなく同業の派遣会社にもオーダーを出している。一番早く候補者を挙げてくれる会社に決める顧客も少なくない。そういうときに、打ち合わせ後に会社に戻って資料の確認や、上司に確認をする、となるとスピード面で勝ることはできません。もっとフレキシブルな働き方ができる仕組みを導入したいと、クラウドの検討を始めました」(椎名氏)
同社は、検討の結果、既存のマイクロソフト製品、認証基盤との親和性の高さや、セキュリティの面での担保、会社の規模(30社5000名が使用)というところを鑑みてOffice365の導入を決めた。
Office365を導入後、業務の短縮化・効率化が図れていると尾崎氏は次のように語っている。
「営業であれば、Office365導入前は、商談前には商談に向けて資料を事前にプリントアウトをし、商談時に営業担当で判断できない場合は持ち帰って検討する必要がありました。そのため、準備時間が掛かったり、その場での判断ができないこともありました。Office365導入後は、資料等はクラウド上から閲覧可能であるためプリントアウトは不要になりますし、商談中もSkypeのチャット機能を利用して上司に確認することも可能になったため、その場で判断することができることも増えました」
さらに、移動時間中も社内と同様にメールを利用できるため、移動時間の活用が進み、結果として勤務時間の短縮もできるようになった。また、社内の会議においても、会議室が確保できない、会議参加者との調整がうまくいかないなどの課題があったが、同社ではSkypeを活用し、自席での会議も可能にしている。特に全国に拠点がある同社は、他拠点との会議もSkypeを活用することによって、移動時間の短縮つながっているそうだ。
「Skype会議では、画面を相手に見せながら打ち合わせもでき、そばにいるのと変わりません。よくあるWeb会議だと、顔だけが写り、お互い紙を出して紙を見ている状態になりますが、Skypeの会議システムだとリアルタイムでの画面共有もできます。資料の共有はもちろん、修正も同時に行ったり、場合によってはデモを行ったり、議事録を取りながら会議ができるようになりました。意思疎通もしやすいです」(尾崎氏)
仕事をシェアする文化で、無理のない在宅勤務体制を実現
Office365の導入を行ったことで、営業社員、内勤社員において時間の短縮やスピード感のある意思決定につながったと言える。次に、政府としても推進している在宅勤務におけるOffice365の活用・効果についても伺った。
「売り手市場が続いていることと、若年層の労働人口の減少の影響で、人手不足が叫ばれている。この状況の中で、パソナとしても働きかけをしていかないといけない、ということで、Office365を活用して、在宅勤務への取り組みを実験的な形で行っています」(椎名氏)
どこにいても、どんな状況でも、インターネットにつながっていれば働ける。少しでも労働人口を増やしていこう、というのが取り組みの背景といえよう。
同社が在宅勤務を行うために掲げている方針をいくつか紹介する。
「1つめは女性が働きやすい環境。2つめは、社員間のコミュニケーションの効率化を図ること。在宅ワークでは孤独を感じがち。在宅であってもぬくもりを感じるコミュニケーションを取るというところがポイントになっています。例えば、Skypeを使って顔を見ながらミーティングをするといったことを取り入れています。3つめはサービス品質の向上と、活躍機会の拡大の両立として、場所・時間にとらわれない働き方を推進するという点。4つめは、安全性の高い業務環境。情報漏えいのリスク、セキュリティ的な不安を取り除き、便利でセキュアなシステム環境を提供していく、というところです」(椎名氏)
この施策の効果も出始めている。特に、子どもの病気などで急に会社を休まざるを得ない女性社員にとっては、Office365を使えば在宅でも仕事ができるため、「休んで仕事を止めてしまった」という罪悪感に苛まれることが減ったという。また、時短勤務でどうしても時間に制限がある社員にとっては、移動中を活用してメールチェックを行い、会社に着いたらすぐに業務に入るといった、隙間時間の有効活用も可能になったそうだ。
また、在宅勤務のトライアルを行ったIT部門のアンケート結果も興味深い。コミュニケーションの部分で若干難はあるものの、総合的には出社するよりもメリットがある。という結果となったそうだ。特にメリットを感じたところが、計画的に、高い集中力で仕事に取り組むことができる点。会社にいると集中するのが難しいこともあるが、在宅は集中力を維持して、物事を取り組むことに関して適していることが分かったそうだ。
「その結果を受け、在宅勤務は積極的に使えるのでは、という話もしています。たとえば、在宅勤務は週1で、その一日は資料作りに寄せるといったスケジュールを組む。うまく在宅勤務を使いこなすスタイルにするとさらに効率的になるのではないか、と考えています」(尾崎氏)
在宅勤務や社外での仕事ができるようになった一方で、気を付けなければいけない点もある。まじめな人ほど、背負いすぎてしまい、仕事と家庭の区別がつけづらくなるという問題だ。それについて、同社はこう語っていた。
「お互いにコミュニケーションを取り合って個々の背景を理解し合う。たとえば育児中の社員であれば、会社のファミリーデーなどに子どもを連れてきて、会社の方にも家庭環境を知ってもらう。ここまでは難しいけれども、これならばサポートできる、などみんなでコミュニケーションを図りながら、助け合って働きやすい環境を作ることがとても大事になってきます。また、Office365という名前からして、365日働かないといけないのか…と、いつでもどこでも、追いかけられるのではないかという印象も持つかもしれません。しかし、自分で時間も選べずに追いかけられるのではなく、自分で時間を選べるようになったのではないでしょうか。たとえば、今日は家庭の事情のため16:00で帰るけれども、19:30~21:00まで仕事をする、という選択の余地ができた。その分、仕事をしやすくなったという声も出てきています。これまでは、就業時間が終わるまでオフィスにいないといけませんでしたが、その人のコアタイムを自分で選び、無理のない範囲で仕事をする。かつ、同僚や上司とコミュニケーションをとることが大事だと言えます」(椎名氏)
同社は、仕事のシェア文化も進んでいるそうだ。たとえば会社の電話は直通や携帯ではなく、部署の電話を使用している。これは個人が仕事を抱えるという意味ではなく、チームとして仕事をシェアする表れだそうだ。これはIT環境が整っても同様で、情報や予定の共有ができているため、育児中の女性が急にお休みすることがあってもただ周りに迷惑が掛かるだけではなく、カバーしあえる環境が整っているそうだ。
社内の情報をポータルで一元化。よりわかりやすく、伝わりやすい仕組みを構築
Office365を導入したことで、IT部門にとっても恩恵があったそうだ。
「オンプレミスの時は、5年おきにリプレイスをしなければいけなかったのですが、この作業から解放されました。HWの交換や、OS/ミドルウェアのバージョンアップなどの手間が掛かる作業がなくなりました。リプレイスは、環境を維持するためのもので新機能が追加されるようなものではなかった一方、Office365は日々新しい機能がリリースされるので、新しいことにたくさん取り組んでいける。非常に前向きになりました」(尾崎氏)
他にも同社は、社内の情報共有ツールとしてMicrosoft SharePointを利用して、グループポータルを作っている。パソコンを立ち上げると自動的にポータル画面が立ち上がる。ここには、社内の新着情報や、グループ会社でのイベント一覧、グループ共通のお知らせなどがまとめられている。
「社内報は存在していましたが、一元的に最新情報が入っているポータルのような仕組みは今までありませんでした。この画面は、パソコンを立ち上げると強制的に出てきますので、社内の出来事が確実に届けられるようになっています。こういった仕組みがあることによって、社内の情報共有に役に立っていますし、在宅勤務の社員も閲覧可能なので、会社に行かずとも、会社のことを知ることができます」(尾崎氏)
社内の業務のIT化が進み、在宅勤務も有効活用される中で、懸念されることの一つはコミュニケーションの問題、と同社も語っていた。ここで、IT部門が広報部門とコラボし、社内の情報を早く伝えること、閲覧する側にとっても楽に伝わる仕組みを構築していくことは、社内のコミュニケーションを活発化させるためにも重要な役割を果たしていると言える。
インタビューの最後に、尾崎氏は以下のように語った。
「働く人の前提として、それぞれ個人の事情があって働いている。システムがある程度お手伝いすることによって、制約にとらわれず120%の能力を発揮して働けるのが理想だと思っています。Office365は、日々様々な新機能がリリースされるので、働き方改革の助けになるようなものを活用していきたいですし、Office365であればそれができそうです。自分の会社に合う形で提供していくことが我々の腕の見せ所です」
同社が語ったように、仕事量に比べて、若年層の労働人口は減少の一途を辿っている。そのために子育て、介護中の方など、時間や場所に制約がある方たちも無理のない範囲で働ける環境を作ることが重要だ。そのためにOffice365などのシステムを導入し、いつでも・どこでも働ける仕組みを整えていくことも手段の一つだ。ただ、制約がある方も含めてすべての人が気持ちよく働けるようにするには、システムの導入だけではなく、お互いにコミュニケーションを取り、それぞれが抱える多様な状況を理解することが必要である。今後、働き方改革の一環として在宅勤務を検討する企業においても、何のために、どんなポリシーを持って、どんな課題を解決したいのかを考え、システム面だけではなく、人間的な面にも目を向けて導入することが重要ではないだろうか。
取材・文:池田 優里