【インタビュー】画像認識で、100種のパンも楽々お会計! AIレジが可能にした会計業務の効率化(株式会社ブレイン)
※ この記事は 2018年09月15日に DX LEADERS に掲載されたものです。
会計やレジ業務の効率化はここ1年で非常に進化してきている。例えばAmazonがシアトルにオープンする予定の『Amazon Go』ではそもそもレジが存在しない。入店の際にアプリを開くだけで、商品を手に取りそのまま退店出来る。AIが商品を判断しネット上で購入が完了する仕組みだ。
また、国内に目を向けてみるとGUでは商品についたRFIDタグを読み取るセルフレジの設置を進めており、ローソンでもパナソニックと共同開発した『レジロボ』を利用することで、RFIDタグを読み取り、更には袋詰めまでしてくれるという。コンビニ大手5社は2025年までにセルフレジを国内全店舗に導入する予定で、今後はレジ業務の効率化が進められていくだろう。
無人の会計を実現するコアとなる技術であるRFIDだが、商品のひとつひとつにRFIDタグをつけることの手間やコストの問題があげられる。そもそも値札やRFIDタグをつけられないパンや生鮮食品などに対してはどのように効率化を図るべきだろうか。
その課題を画像識別で解決した会社がある。画像識別でパンの種類と数量を判断し、会計する『Bakery Scan』を開発し、ベーカリーショップのレジ業務に革新をもたらした。株式会社ブレイン 代表取締役社長 神戸壽(カンベ ヒサシ)氏に話を伺った。
リーマンショックの逆境を乗り越え、自分たちの強みをより活かす
同社が画像識別技術に取り組む背景には、画像全般を得意とする業務内容が関係している。本社のある兵庫県西脇市は先染織物『播州織』の産地であり、先染織物のデザインや設計をサポートするCADシステムをメインに開発していた。
「創業から1年程経過した1984年にNHKニュースセンター9時のプロ野球・為替表示に採用されたことをきっかけに、画像に関する業務が軌道に乗っていきました。」(神戸氏)
当時PCで作成した多くの画像はドットフォントが粗く、放送に耐えうる品質ではなかった。そこで研究を重ねた結果、ニュース番組の画面表示に抜擢され、それ以来、画像が得意な会社として認知されるようになった。
「繊維の画像解析などの製品を開発する傍ら、大手企業のパートナー会社として仕事をしていましたが、リーマンショックの影響を受け仕事が激減しました。原点に立ち返り、自分たちの強みである“画像処理”を軸とした自社製品を作って、売り出していく必要があると感じました。」(神戸氏)
瞬撮会計により、レジ業務の効率化を図る
その第一歩となったのが『Bakery Scan』だ。『Bakery Scan』は、トレー上にある複数個のパンをカメラで撮影することで、パンの種類と数量を瞬時にレジに入力し金額を計算するシステムである。
「開発のきっかけは、ある外食業者からベーカリー事業を海外で展開する計画があり、相談されたことです。国内の実験店舗で分かったことですが、パンの種類が30種類より100種類の方が単位面積当たりの売上げが1.5倍となるのです。しかし、多品種になったためにレジ担当者の負担が増え、バーコードをつけるために包装したところ売上げが1/3となってしまいました。そのため、画像識別でレジ業務が出来ないかと相談を受けました。」(神戸氏)
筆者も学生時代はパン屋でアルバイトをしていたことがあるが、パンの種類と値段を一致させるには結構な時間がかかり、戦力となるまで先輩が隣でサポートしてくれたことを思い出した。一つずつパンの写真を撮り、夜な夜な商品名と値段を覚える。新作が出た時はまたその繰り返しである。しかし習得期間が短縮されることで誰でも即戦力になれるのである。
プログラムに100%を求めるのではなく、足りないところは人が補えばいい
パンは通常の工業製品と違い特殊な性質であるという。販売されているパンを思い出してみると、異なるパンでも似たような形や、同種のパンでも形や焼き加減に個体差があることに気付かされる。これらの特長、性質を踏まえてパンを見分ける必要があるのだ。
「今までの技術だと、同じパンでも焼き加減によっては違う種類のパンだと認識してしまうので、焼き色の規則性を発見し、フィルタリングすることで同じパンだと判断する要素を盛り込みました。」(神戸氏)
実用化への壁は他にもある。実験を繰り返すうちに実験室の中では50種類のパンを97%の確率で識別できるようになったが、実店舗では季節や天候・時間によって環境光が変化したり、トレーに並ぶパン同士が接触したりすることで識別が難しかったという。
「精算業務は当然100%の正確性が求められていましたが、画像識別は実験を重ねても完全な識別ができませんでした。そこで、レジに人間がいるのだから、人間がサポートすれば良いのではないか?と考えました。」(神戸氏)
まさに発想の転換である。そこで3段階の識別信頼度の表示をつけ、信頼度の高いものは緑で囲い、信頼度の低いものに関しては黄色、不明なものは赤で囲むようにした。実際の手順は以下である。
- レジ担当者が識別信頼度を確認
- 信頼度の低い商品をタッチすると類似した商品の候補が表示される
- 候補の中から正しいものを選択することで自動学習する
これにより、使用のたびに識別機能が向上し、毎日変化する製品の状態を学習することで安定した識別が可能になる。学習時間も多くはかからず、20回位の識別で100%に近づくため、新商品が出てもその日の午前中でほぼ識別が可能になるという。
「最近では機械と自動釣銭機をお客様側に向ける商品も発売し、お客様が会計をしている間に店員が包装することで、業務効率も上がり、さらに衛生的であると好評を得ています。」(神戸氏)
『Bakery Scan』をきっかけに、同社は画像識別技術と機械学習技術を合わせたシステムを『AI-Scan』と名付け、新たなビジネスへ展開している。
パンの識別だけでなく、X線レーザー顕微鏡による1555万枚の画像解析への活用や、錠剤をカメラで識別するシステムも開発した。珍しい事例では値札やバーコードが付け難い、お札やお守りを識別する授与品識別装置も開発し、繁忙期に一役買っているという。
画像識別技術は、生鮮食品のセルフレジでも利用することができる。リンゴや青物等でも細かな特徴を捉え、品種を識別する。セルフレジの多くはバーコードを通すか、商品名をタッチするか、店員を呼んで商品を判別してもらうという方法だが、画像識別とAI技術を用いることで、今後は更にレジ業務の効率化がすすめられそうだ。
技術が進むとレジ担当業務者の仕事がなくなるのでは? と思いがちだが、AIで足りない部分を人間がサポートしたり、人間味溢れる接客に時間を注いだりすることができるのではないだろうか。今後は効率化した部分をどこに還元するかが重要となりそうだ。
取材・文:加藤文奈