アジア・アントレプレナーシップ・アワード 2022 マイクロソフト賞受賞のロボットベンチャーに聞く、ベンチャーと顧客との幸せな関係。
2022 年 10 月 26、27 日の 2 日間にわたり、「アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)2022」が全編オンラインで開催されました。本アワードは、産官学が一体となったアジアのベンチャー育成・支援のエコシステム構築を目指して 2012 年から開催。11 回目となる今回は、アジアの 9 つの国と地域から選抜された 24 社のスタートアップ企業が、プレゼンテーションや質疑応答を通して事業の革新性や日本での事業展開の可能性などを競い合いました。
AEA2022 に特別協賛企業として参画した日本マイクロソフトでは、参加企業のなかから「マイクロソフト賞」を選定。見事に受賞したのは、建設現場で使用される重機の遠隔操作ソリューションを開発している ARAV 株式会社でした。今後は、IoT Asia のテクニカルスペシャリストによる Azure 上での IoT システム構築に関するアーキテクチャーレビューとコーチングなどのサポートが提供されることになります。
本インタビューは同賞のインセンティブの一環として企画されたものですが、単なる事業紹介にとどまらず、同社のソリューションとその背景にある思いの先に、日本の未来を照らす光明が見えてくる内容となりました。ぜひご一読ください。
マイクロソフト賞選定コメント
ARAV 社は、IoT データ活用を最も検討している企業であり、再現性と拡張性の可能性から、マイクロソフトが連携することで最もインパクトのある支援ができると考え、1 位に選定しました。
ARAV 社は現在、建設機械を通じて産業労働者の安全性と効率性の課題に取り組み、デジタルソリューションを通じて従来のビジネスを支援しています。 その市場インパクト、展開の可能性、IoT ビジネスの関連性は高く、日本の建設機械や農業機械の業界の大企業と高度に連携し、社会的インパクトと持続可能性を促進することができます。
マイクロソフトの立場から、エコシステムパートナー、機器メーカー、その他のコネクテッドシステムとともに、その成長を加速させ、データ/AI/エッジコンピューティングと組み合わせた産業用メタバースの実現を支援することができます。
ARAV 株式会社
代表取締役社長
白久 レイエス樹 氏
マーケティング・DX 戦略統括マネージャー
中本 武範 氏
この受賞を機に、信念を軸としながらこれまで以上の飛躍を目指す
――マイクロソフト賞の受賞、おめでとうございます。
白久 ありがとうございます。他の参加社は素晴らしいベンチャーの方ばかりでしたので、当社のような地味な研究事業は表彰なしを覚悟していたのですが、受賞させていただき大変光栄に思います。一方で、1 位が取れなくて安心した部分もあります。というのは、審査員全員が是とするようなビジネスモデルだと競合が多く発生することが予想されますので。社内外の仲間たちとの信念を軸に、これまで以上に事業に励みたいと思います。
中本 当社の事業と Azure は非常に親和性が高いと感じておりますので、もしかしたら受賞は必然だったのかもしれません。マイクロソフトは世界を代表する、私たちも子どもの頃から知っていた企業です。マイクロソフト賞に選ばれたことは大変名誉なことだと思っていますし、この賞をいただいたことで当社の行く末の幅はかなり広がったと感じています。
――AEA に応募された背景や参加してみた感想をお聞かせください。
白久 応募のきっかけは、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大 IPC)からの推薦です。当社はリソースも少ないスタートアップ企業ですので、ピッチの準備と本番 2 日間の参加は大きな負担ではありましたが、一方で英語によるピッチを行う機会はこれまで滅多になかったため、勉強になることは多かったです。社内の外国人エンジニアとの意思疎通が以前よりスムーズになったという副次的な効果もありました。
また、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)からメンターを派遣していただき、本番の 1 ヶ月前からピッチの指南をしていただいたのですが、そのメンタリングが非常に的確で、私個人にとっても大きな収穫になりました。とても感謝しています。
実践的な開発フローにより、創業3年目にして実用レベルの製品をリリース
――貴社の概要についてお聞かせください。
白久 当社は 2020 年に創業した東京大学発のスタートアップ企業です。所属するエンジニアのほとんどがロボット業界や自動車業界にバックボーンを持っており、そこで培った知見を現在のコアビジネスである重機の遠隔操作や自動運転に活用しています。
中本 当社の大きな特徴としては、創業初年度から積極的にエンドユーザーにソリューションを利用していただいている点が挙げられると思います。
たとえプロトタイプであってもメリットとデメリットを正直にお客さまにお伝えし、実際に使っていただき、そしてフィードバックを得るという短期のサイクルを何度も回すことで、ソフトだけでなくハードの強化も図りながら、過酷な現場でも長期間ご利用いただける製品を輩出できるフローを構築してきました。
短期間で頓挫するロボットベンチャーも多いなかで、当社が 3 年という短い期間で実用レベルの製品をリリースでき、さらに売り上げ目標も達成できている背景には、このフローの存在があると考えています。
――貴社の提供する遠隔操作システムの特徴についてお聞かせください。
中本 まずはアタッチメントですね。現状、日本の市場における重機は油圧で動作するタイプが大半を占めています。私たちの遠隔操作システムのアタッチメントは、カスタマイズによって市場に出回っている油圧で動く重機のうち約 84% に対応できるように設計されています。ちなみに残りの約 16% はそもそも遠隔操作の必要がない小型重機ですので、私たちのシステムはほぼすべての日本中の重機に対応可能と言えると思います。
また、遠隔操作には操作者による円滑な操作が欠かせませんが、UI の工夫による、実物の重機と遜色のない操作性も大きなポイントだと思います。
――こういった分野に取り組もうとしたのはなぜですか?
白久 もともとは、人材不足、後継者不足を懸念した土木建設業界の方から、その解決のために私たちのソリューションが使えないかというご要望があり、それに応じる形で、いわば受動的な始まりでした。ですが今は、人材不足の原因のひとつでもあり、他業界に比べて非常に多い土木建設業界の事故をひとつでも減らせるのであれば、私たちの事業には大きな意義があるのではないかという思いを胸に、日々励んでいます。
ともにソリューションを育て、波打ち際を走れる関係を築きたい
――今後マイクロソフトとのコラボレーションが進むわけですが、どのような期待をお持ちでしょうか?
中本 Office365 や Azure を一定期間、一定額まで無償で利用させていただけるということで、遠隔操作システムで発生する膨大なデータの処理など、さまざまな部分でシステムをグレードアップできると考えています。マーケティングという視点からも、マイクロソフト賞を獲得できた実績は各業界に向けて大いにアピールできると感じています。
――この先の展望についてお聞かせください。
中本 土木建設業界向けのソリューションで言うと、現在、危険な場所など現場でテストができないものについては、シミュレーターを活用することで実証実験を行う試みも行なっており、今後はそちらの領域にも事業を広げていきたいと考えています。
また、その他の業界への展開も構想しています。例えば海洋分野。東京湾のようなたくさんの船舶が往来する湾で発生する事故や危険性を排除するソリューションですね。また当社のソリューションは農業、林業、製鉄、さらには飲食といったさまざまな業界にも転用可能だと考えています。
今回の受賞経験を感謝にとどめることなく、この機会を生かしながらどこまでチャレンジできるか、楽しみで仕方がありません。
白久 当社のソリューションは、今のところは限定された業界の限定された対象物にしか展開できていません。当社の、お客さまと一緒にソリューションを育てるという方針に共感いただける方々、当社と一緒に世の中をよりよくしたいと考えていただける方々と、ともに波打ち際を走り続ける関係性を構築していきたいと思います。
――ありがとうございました。