40 を超える学内システムを Microsoft 365 の活用によるローコード開発で内製。香川大学の取り組みをレポート
2023 年 2 月 10 日・17 日の 2 日間、香川大学地域人材共創センターは令和 4 年度香川大学リカレント専門講座として『「Kadai DX塾」 ゼロから始めるデジタル トランスフォーメーション』を開講しました。
香川大学は 2022 年 5 月 20 日より日本マイクロソフトと連携協定を締結し、昨今ニーズが高まっている DX 推進人材の育成を通して大学改革と地域活性化に取り組んでいます。
日本マイクロソフトが後援する形で開催された本講座では、香川大学が実践してきたノウハウや実際の成果が共有されるとともに、変革の最前線で活躍する教員や現場担当者によるハンズオン セミナーが提供され、Microsoft 製品による業務効率化や DX の奥行きと可能性を感じさせるものとなりました。
このレポートでは、1 日目におこなわれたセッション「香川大学における DX 推進の取り組み」についてまとめます。
関連記事:日本マイクロソフト後援による香川大学リカレント専門講座「Kadai DX 塾」開催。香川県における DX 推進の取り組みを語る
本質的なニーズに迫るため、ローコード開発でシステムをアジャイルに磨き上げていく
セッションにおいて香川大学の取り組みを紹介するのは、香川大学創造工学部創造工学科 情報システム・セキュリティコース教授/香川大学情報メディアセンター センター長/CDO(Chief Digital Officer)デジタル化統括責任者/学長特別補佐である八重樫 理人氏です。
八重樫氏はまず、自動車普及の立役者であるヘンリー・フォードの名言「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」を引用し、こう話しました。
「この名言は、顧客がみずからのニーズを把握することの難しさを的確に表しています。そしてこれは、われわれ大学教職員においても同じことです。大学 DX では、外部のベンダー等にシステム開発を委託する機会もあるでしょう。しかし、自分たちのニーズを正しく捉えないままにベンダーに丸投げするようでは、よくて『速い馬』が手に入るだけです。『自動車』ほどのイノベーションを享受したいならば、みずからの業務をどう最適化すべきか、それに向けてどのようなシステムが必要になるのかを正しく把握し、定義することが望ましいのです」(八重樫氏)
つかみどころのない本質的なニーズをどのようにして捉えればよいのでしょうか。八重樫氏は MVP(Minimum Viable Product: ユーザが真に必要とする最低限の機能を有するプロダクトやサービス)という考え方を紹介したうえで、「ごく簡単なシステムを開発し、評価や改善を繰り返しながら MVP を探っていく『仮説検証型アジャイル開発』をおすすめしたい」と提言します。
「はじめから大きなシステムを開発しようとするのではなく、簡便に実現できるシステムをまずは作ってみて、それをすこしづつ改善していく。この改善サイクルをすばやく回すためにも、とにかく小さく始めることが DX を成功させる秘訣です。香川大学の場合、それを可能にしたのが Microsoft 365 の製品群でした」(八重樫氏)。
日本マイクロソフトによるイベントで開発ノウハウを習得、40 を超えるプロジェクトを内製へ
八重樫氏によれば、香川大学においても、DX を大きく推進させるきっかけになったのは、やはりコロナ禍だったと言います。幸いなことに同学には、コロナ以前より四国における 5 つの国立大学と連携し、大学教育を共同実施する事業(知プラ e 事業)を推進してきた実績がありました。事業のなかで 1 万人にもわたる学生に向けてオンデマンド型の動画授業を提供してきたことから、「必要なインフラは整っている状態」だったといいます。
「コロナ以前にも香川大学では、香川大学 Moodle(学内 LMS:Learning Management System)をフル活用するのはもちろん、Microsoft 365 をはじめとするクラウド サービスを活用したオンライン授業などの取り組みを実施してきました。とくに学内 LMS の活用とそれらクラウド技術の活用によるコミュニケーションが日常化していたのは大きなアドバンテージでした」(八重樫氏)
こうして当座の目的であるオンライン授業の提供を叶えつつも、同学はさらに先の未来を見据えていました。すなわち、大学業務全体を DX することによる合理化です。
八重樫氏いわく、香川大学には 4 つのキャンパスがあり、本来であれば統合的に行うべき業務が各キャンパスで独立して行われるなど、非効率的な部分が多く残されていました。ここを少しずつでも合理化できれば、教職員や学生にメリットを提供できるだけでなく、大学経営にもプラスの影響をもたらせるのではないかと見込んだのです。
そんな同学の強い味方となったのが、情報工学を専攻する学生たちの存在でした。彼らが中心となって結成されたチームは「DX ラボ(DX 推進チーム)」と名付けられ、教職員へのヒアリング(業務 UX 調査)をもとに、業務上の課題を解決する仕組みづくりやシステムの開発に携わりました。
その具体例が、「電話中心の業務により、業務が中断されることへの課題感」から生まれたDX 事例です。従来は内線電話番号を記した電話番号帳が配られ、用事があるたびに電話で連絡をしていたところを、Microsoft Teams のプロフィール欄に内線番号を記載する形へと変更。これにより相手のステータスが分かるだけでなく、軽微な用事であればそのまま Microsoft Teams のチャットで連絡をするなど、電話の本数を削減することに成功しました。
なおかつ DX ラボのメンバーは、日本マイクロソフトによる開発者向けイベント「de:code 2020」に参加し、Microsoft 365 製品を活用したローコード開発のスキルも習得。2022 年 7 月現在で 40 を超える開発プロジェクトを内製しており、今もプロジェクト数は増え続けているとのこと。
「たとえば通勤届のシステムなどは、DX ラボの学生がわずか 1 週間で作り上げたものが実際に稼働しています。このシステムでは通勤ルートの申請を Microsoft Forms で行い、入力されたデータをもとに移動距離を AI が自動計算。取得されたデータは Microsoft Power Automate によって自動的に処理され、Microsoft Sharepoint に記録される仕組みです。このほかにもすぐれたプロジェクトが多数進行しており、ローコードでの開発による DX の可能性は限りなく広いと感じます」(八重樫氏)
ポイントは「1 ヶ月以内で開発」。Microsoft 365で実現できる規模にあえて限定することが重要
ただしシステムの内製にあたり、八重樫氏は「すべてを Microsoft 365 で解決できるわけではなく、切り分けが重要」だと強調します。
「Microsoft 365 を活用したローコード開発では、相当に幅広いニーズが実現できますが、すべての要望を叶えられないのは当然のことですし、その必要もありません。むしろ複雑すぎるシステムは、冒頭で問題提起したような『ニーズと実態のミスマッチ』を引き起こすリスクがある。だからこそ DX チームでの内製開発では、『打ち合わせは最大 4 回』『プロトタイプの制作までは 1 ヶ月以内』などのルールを決め、あえて小さな規模での開発にとどめることを意識しています。このような割り切りをすることで、ローコード開発が得意とする“スピード感のある価値提供”を実現することができるのです」(八重樫氏)
八重樫氏は学外に向けても Microsoft 365 を活用した開発ハンズオンを提供しており、とくに高校生対象のハンズオンでは、「大人が驚くほどの速さで開発を進めてくれた」と手応えを語ります。今後は学内 DX の推進に向けて、データドリブンによる大学運営・大学経営に踏み込んでいきたいという展望が語られました。
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