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Microsoft Retail Open Lab : 流通小売業界が AI 時代を生き抜くためのアドバイス

生成 AI の進化がもたらす変化は大きく、その波は流通小売業界にも押し寄せています。 

流通小売業界において、本部と店舗などの現場も協働して 生成 AI の強みを生かし、個人として、さらには組織としてその効果を最大化するにはどうすればよいのでしょうか。

日本マイクロソフトのお客さまを見渡すと、すでに多くの小売業や消費財メーカー業の皆さまが、「トップダウンでの戦略立案」「各個人でまず触ってみる」「全社で利用しノウハウを蓄積する」「一部、業務システムと結合してみる」など、システムやユーザーによる生成 AI の仮説検証の場を戦略的に創出し、日々の業務生産性や品質向上のための挑戦を始めています。 

本稿では、それらのお客さまの事例から得られる洞察や、今後の流通小売業界における AI 活用のヒントをお伝えしていきます。

流通業界で高まる生成 AI へのビジネスプロセスの変革の期待

生成 AI は、その活用によってビジネスを変革し、現代における業界のニーズへの対応に必要な効率化とイノベーションを実現できると注目されています。生成 AI を活用できる場面としては、下記の大きな4つのテーマが挙げられます。

流通小売業界が生成 AI を活用できる4つの場面

1. 顧客の期待進化 

この数年間、流通小売業者は、変化と不確実性に対応する術を学び、顧客の期待進化に対応するために、さまざまな施策を展開してきました。

顧客がデジタル体験の利便性を知ることで、モバイルペイメント、BOPIS (Buy Online, Pick Up in Store: オンラインで購入して実店舗で受け取る仕組み)、アプリから簡単に申請できる返品、アプリ上での LTV(顧客生涯価値)の可視化、デリバリーやネットスーパー、ライブストリーミングによるショッピング、パーソナライズされたチャットボットなどの利便性が顧客ロイヤルティを形成すると同時に新しい基準となっています。

多くの小売業者は、デジタルを手段として位置づけつつも、改めて戦略を再考しなければならないケースが多く発生しています。 

 2. パーソナライズされたエンゲージメント 

外出先でも利用できる購入体験を求める傾向が強まるにつれ、オムニチャネルは流通小売業者にとって、いっそう欠くことのできないものになっています。

特に従来のマーケティングの考え方から、デジタルアプリや SNS、オンラインとともにリアル店舗も包括する顧客体験が重視されるようになったことから、データの取得、有効化、収益化、デジタルを活用したビジネス成長に注力するニーズが生まれています。すべては、顧客の期待を理解し、あらゆるチャネル上でのカスタマージャーニーを最適化することが目的となっています。

 各サービスに紐づく既存 ID や顧客基盤など各種マスタの統合により、あらゆる事業領域が繋がることで、その個人の状況やニーズに応じて広告を含むサービスの最適化やデータ価値の最大化による体験を高め、収益の拡大が期待されています。それらのサービスに対しても生成 AI の活躍事例が生まれつつあります。

3. 人材とスキル育成 

流通小売業界は、これまでに設計されたオペレーションやプロセスに対して、「繰り返し作業の自動化」という課題に取り組んでいます。デジタル化の加速によりさまざまなデジタルデバイスやネットワークと常時接続された機器を店舗内に設置し、マーケティングや防犯のためのエッジ AI を導入するなど、電流やインターネット機器との常時接続でなければ稼働しないデバイスがさらにただでさえ忙しい現場の負荷は高まりつつあります。

たとえば、リテールメディアなどを代表し、店舗内に設置されたモバイルペイメント機器、スマートカート、AI ビーコンや AI カメラ、電子棚札、リモート接客などです。これらの機器が故障した際にもお客様の体験に直結するため、そのための新しい対応プロセスが店舗の中に組み込まれ、従来とは違う働き方やスキリング、お客様への接客スタイルや説明マニュアルも更新されています。

そういった現場を維持するために、従業員には、新しいテクノロジに適応し、より高度なスキルを習得することが求められます。また従業員にキャリア成長の機会を促すためにも、AI やデジタルに関連するアップスキリングおよびリスキリングなどの会社全体施策を展開する企業も増えています。

デジタル人材の不足が叫ばれるなか、PowerApps などを使った市民開発コミュニティと情シス IT 部門などが行うプロ開発が協力し合うことで、これまで費用対効果の薄い業務システムやサービスインターフェース、店舗において現場の社員や巡回するエリアマネージャーのためのアプリケーション開発が盛んになり、デジタルの民主化が進みつつあります。

4. コンプライアンスと信頼 

「このカメラによる取得されたデータはサービス改善や防犯、マーケティングなどに利用しています」そのような個人情報保護に関連する張り紙などが店舗内にデジタルが浸透することにより、見かけるようになりました。透明性、倫理的慣行、個人情報などに関連するデータ保護に対する顧客の要望はますます高まっています。

すなわち流通小売業者は、顧客からの信頼を醸成するために、規制基準を遵守し、より堅牢なプライバシーとセキュリティ対策の構築を求められています。また今後、生成 AI に影響を受ける市場においても、レスポンシブル AI(責任ある AI)に基づく信頼性を高めるための施策により、労働法、知財保護、製品安全規制、公正な商慣行に関するコンプライアンスを維持することも不可欠となっています。 

このような潮流が加速していくなかで、流通小売業界においては、AI によるシームレスな顧客体験の向上と同時に、確かな情報に基づいた意思決定を促し、オペレーションを合理化する方法が求められるのではないでしょうか。

そこで今回は、「Microsoft Retail Open Lab」の活動を通じて、マイクロソフトが流通小売業のお客さまたちをどのように支援しているのか、その一部をご紹介するとともに、AI 施策を始められる皆さまが事前に理解すべき「プロンプトエンジニアリング」とはなにかをご紹介します。 

参考:「AI 新時代における流通業界の共創に向けた第一歩。Microsoft Retail Open Lab 第一回セミナー「生成 AI の可能性とビジネスへの実装に向けて」現場レポート」

プロンプトエンジニアリングは「AI への指示命令書」 

プロンプトエンジニアリングとは、AI に対して効果的な指示を出すための技術のことです。AI は、人間が使う言葉(自然言語)や音声・画像を解析し、それに応じてコンテンツを生成することができますが、その際には、どのようなコンテンツを生成したいのか、どのような形式や品質で生成したいのかなど、具体的かつ明確な指示が必要です。指示の仕方が悪いと、望む結果を得られません。プロンプトエンジニアリングは、そのような指示を作成・改善するスキルです。 

それはいわば、店員に対して商品の陳列や販売方法を指示することに似ています。店員は、過去に蓄積した経験とともに購買実績や在庫情報などのデータを確認しながら、商品の特徴や需要を理解し、それに応じた売り場を構成するためのタスクを生成します。 

その際には、どのような商品を陳列したいのか、どのようなレイアウトやディスプレイで陳列したいのかなど、だれが、どのようなスケジュールでそのタスクを完了するのか、具体的かつ明確な指示が必要です。 指示の仕方が悪いと、望む売上や顧客満足度は得られません。

プロンプトエンジニアリングは、そのような指示を作成・改善するスキルと言えるでしょう。

下記の図にプロンプトの例を挙げてみましょう。皆さまも実際に、Microsoft Bing Chat や ChatGPT を使って、いくつかのプロンプトの例を入力し、出力結果を確認してみてください。  

リンク:Microsoft Bing Chat

プロンプトの説明

<弊社クラウドソリューションアーキテクトの資料を掲載> 

さて、皆さまのプロンプトの出力結果はいかがでしたでしょうか?上記の入力の例などを参考にして出力結果を眺めてください。 AI とのプロンプトのやり取りは基本的には対話形式で行います。そのため、一般的な検索エンジンのように「店舗 陳列 指示」といった検索キーワードを 1 度入力して終わり、ではなく何度か対話をして出力したい結果に近づけるように、目で見て、読んで、判断をしていきます。

これは、生成 AI の技術の世界では「インコンテキストラーニング (あるいはインコンテクストプロンプティング)」と呼ばれています。AI のモデルの中身(パラメータなど)を更新することなく、プロンプトの説明文や入出力例を見るなかで学習することです。 

たとえば 生成 AI はユーザーとのプロンプトを通じた対話のなかで、ユーザーはなにを聞きたいのか、どんな返答が適切なのか、どんな言い回しが自然なのかを学習しています。これにより、さまざまな話題や質問に対応できるようになるのです。

インコンテキストラーニングは、生成 AI モデルが柔軟にタスクを理解し、適応する能力を高める技術です。なお「学習」という言葉が使われていますが、 AI モデルそのものの更新を行っているわけではありません。そのため、この対話および学習は一時的なものであり、ブラウザなどの画面を閉じてしまえば、これまでの対話情報などを 生成 AI モデル は覚えていません。生成 AI モデルにもシステムである以上、覚える情報量の限度などがあるのです。

流通小売業の中で、具体的にどう使えそうか?

それでは、AI がどのようなケースに使えるのか、例を挙げてご説明します。

例えば、人事部門が教育のためのドキュメントを整備中、ABC 分析に関して説明する文をリード文や目次として使いたい場合に、即座に要約してくれます。  また営業部門から問い合わせを受けた管理部門やシステム部門が、下記のようなクエリ(データベースから必要な情報を抽出するために、SQL というコードを生成する)を書くことで、そのクエリコードを即座に入手し、検証することができます。

テキスト要約やコード生成について

他の例も見てみましょう。

例えば、店舗でのお客さまからの問い合わせやクレームなどが日々数千件届く部署があり、それらを分類する業務なども行われているとします。 

それらの仕分け作業も下記のようなプロンプトで 生成 AI に分類(どのカテゴリに属しそうか)を指示することができます。

こういった内容を吟味し、どのカテゴリーに属するかを表形式のソフトやアプリケーションを使いながら人の手作業や部分的なマニュアル作業を行い、社内で各部署や関係者と調整を行うことに時間が多く費やされている企業も多いのではないでしょうか。

生成AI を取り込んだシステムによってそのような反復作業などを自動化し、同僚や取引先との対話やコミュニケーション、施策などの検討や実行に費やす時間を創り出すことにより、顧客のための業務改善につなげることが肝要です。 

お客様からの問い合わせ内容をカテゴリで分類する例

<お客様からの問い合わせ内容をカテゴリで分類する例> 

良いプロンプトと悪いプロンプトとは? 

業務を実行する従業員に対して、指示が的確で丁寧な方が本部の方や現場責任者の方は大勢いらっしゃると思います。

その指示による仕事の成果が期待されるものと近いかどうか、それは指示(プロンプト)に対して、良いものと悪いもの、あるいは、コンテクスト(そのタスク背景や経緯、いつまでに誰が何をいくつ、やるのか、どういった結果が望ましいのか、例を添えるなど)を包含した指示(プロンプト)が重要になってきます。具体的なプロンプトの例を挙げてまいります。

プロンプト(良くない例)

「お客様が」という一言だけの入力(プロンプト)をすると、社内に対するメール文書を書いていきたいという意図などが含まれていないため、生成 AI は一般的な回答を生成します。

プロンプト(少し良い例)

そこで、「次の文に続く文章を完成させてください。」という意図を入れた指示を追記してみます。すると、”お客様が” に続きそうな文章を生成してくれました。プロンプトを利用する際に、指示をしっかり記述することの重要性がわかります。 

プロンプト(もっと良い例)

最後に、より具体化してみましょう。

「あなたはフレンドリーで有名な店長である」という役割を与えた後に、「お客様からいただいたお褒めの言葉に関する社内メールを書きたい」という指示を与えてみます。すると、メール形式であることが伝わり、件名など文書も “お客様が” に続く、それらしい文章を生成してくれました。

プロンプトを入力する際は、このように人間が人間に丁寧に指示をするような視点や感覚を持つことが重要です。基礎的な話ではありますが、このスキルを身につけることにより、 生成 AI をより便利に使いこなせるようになるのです。 

プロンプトデザインワークショップを通じて実践する 

基礎的ではありますが、プロンプトの重要性をご理解いただいたところで、続いては AI の出力結果をうまくビジネスや業務効率化につなげていくにはどうすればよいのか?という論点をよりクリアにしていくために、「Microsoft Retail Open Lab」がお客さまと取り組んでいる事例のひとつをご紹介します。

我々はそれを「プロンプトデザインワークショップ」と名づけました。プロンプトデザインワークショップでは、業界やお客さまにマイクロソフトのクラウド製品や技術理解を深めていただくとともに、生成 AI を使いこなすシーンやプロセス、顧客への期待に対する対応や従業員の日々の業務の効率化、生産性向上などについてチームを組んで議論し、AI リテラシーを高めるとともに実際にプロンプトを行っていきます。 参加者は自分たちでプロンプト記述して、その出力結果をもとにまた議論を社員間で重ねていきます。「お客さまはなにを喜ばれるのか?」「課題を解決するためにどのようなアイデアがあればよいか?」といったクリエイティブとコミュニケーション、そしてコラボレーションに費やす時間をたくさん持つ体験を通して、参加者の皆さまは AI 時代における働き方やスキルの醸成についての理解を深められるはずです。

AI を副操縦士として組織や人の対話を活性化するスノーピーク社の事例

スノーピーク社の事例をご紹介します。

この画像は同社のプロンプトデザインワークショップの様子です。本社のサービス開発者からデジタル部門まで、会社横断形式で集まり、日本マイクロソフトの専門家たちとともに生成 AI や Azure Open AI services を検討できるアイデアなどを、現在の経営課題や日々の業務課題、あるいは現状に市場やお客様に対して提供している製品やサービスの価値を高めるためのアイディエーションを行い、議論していきます。

ワークショップ中の様子

このブログの冒頭でも書いたとおり、すでに多くの小売業や消費財メーカー業の皆さまが、「まず触ってみる」「全社で使ってみる」「一部、業務システムと結合してみる」など、システムやユーザーによる AI との対話や仮説検証の場を戦略的に創出し、日々の業務生産性や品質向上のための挑戦を始めています。

営業や商品企画、物流、サービス開発などの事業部門やデジタル部門、既存の社内システム部門と横断的に対話を活性化させ、企業全体の取り組みの方向性や取り組み優先度の再考などを通して、進むべき道を修正し続ける。データ戦略などの環境変化に対する組織マネジメントとしての人材育成や、システム環境のモダナイゼーションに取り組んでいく。

不確実性の高い時代であるからこそ、生成 AI の誕生による業界のインパクトを追い風に変えているスノーピーク社のような事例を、マイクロソフトリテールオープンラボなどの場を通じて、今後も皆様にお伝えしてまいりたいと思います。

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