Retail Open Lab「AI 時代の流通業会のプラクティスと新たな展望」開催レポート
流通業界のお客さまやパートナー企業さまと伴走し、流通業の皆さまとともに DX の推進を加速するために企画された 「Microsoft Retail Open Lab」。過去二回にわたって生成 AI についてのさまざまな情報をお届けし、議論を深めてきましたが、6 月 21 日(金)の第三回でいよいよ最終回を迎えました。
過去二回のテーマはそれぞれ「知る」「行う」。今回は「伝える」をテーマとして、生成 AI の活用実例や成功に導くための取り組みの紹介に焦点をあてて開催。業界向けパートナーソリューションや Microsoft技術の最新動向についてのセッションも組み込まれ、盛りだくさんの内容となりました。本稿ではその模様をレポートします。
基調講演
「生成 AI と流通・小売業の未来」
株式会社セブン & アイ ・ ホールディングス
グループ DX 本部 デジタル イノベーション部 シニア オフィサー
伏見 一茂 氏
日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務エンタープライズ サービス事業本部長
三上 智子
基調講演は、セブン & アイ ・ ホールディングス伏見氏による講演と、伏見氏と日本マイクロソフト三上とのパネル ディスカッションという形式で展開されました。
伏見氏は講演の冒頭で、同社が掲げる「生成 AI ファースト」というテーマについて説明。これは、既存および新規のすべての業務において、「まず生成 AI を使ってみたらどうなるかを考える」という方針です。
これまでの DX 推進においては、基本的にシステム担当部署など専門家の力を借りる必要があり、それが障壁となる場合も多かったと伏見氏。生成 AI の登場によって「誰もが独力で DX を進められる時代になった」と、その可能性に大きな期待を寄せていると語ります。
同社では生成 AI の活用に向けて「人財の育成」「環境の整備」「知見の集積・コミュニティ化」の 3 つの柱を設定しています。なかでも、一般的な資格取得などと比べて習得が早く有効性が高いことから、グループを挙げた生成AI人財育成の取り組みを進めているそうです。
同社の人材育成施策では、マイクロソフトのエバンジェリスト西脇による生成 AI概論研修と、社内で実施する生成 AI プロンプト研修を組み合わせた独自のプログラムを展開。伏見氏によると、これらの研修によって社内の雰囲気は大きく変わり、受講者の 98 % が「生成 AI の理解が深まった」と回答し、なんと 100 %の 受講者が「自分の業務に生成 AI を活用したい」と答えたといいます。
また、生成 AI の活用を一過性のブームで終わらせないため、定例会やMicrosoft Teams のチャットグループ、SharePoint の社内ポータル サイトなどを通してコミュニティ形成と知見の共有にも力を入れています。「取り組みを始めてまだ 1 年も経っていませんが、加速度的に生成 AI の活用が広まっています」と伏見氏。引き続き行われた三上とのパネル ディスカッションにてその具体的な事例が紹介されました。
パネル ディスカッションでは、まず三上から経営陣のコミットメントとカルチャーづくりについて質問が投げかけられました。伏見氏は、「小さな事例づくりから始めて、その成果を経営陣にアピールすることで理解を深めていった」と明かします。その背景には、以前からデジタル部門以外でもデジタルを使えるようにするという全社的な方針があったそうです。
その具体的な例として「DX アンバサダー制度」を挙げる伏見氏。これは各部門から選抜された社員が DX を学び、知識を部門に持ち帰る仕組みです。伏見氏によると、こういった土壌があったからこそ、生成 AI の導入もスムーズに進んだとのことです。
続いての話題は、マーケティング部門での生成 AI 活用事例について。伏見氏によると、ポップアップ広告のテキストを生成 AI で作成したところ、予想に反してクリック率が下がってしまったものの、「生成 AI ファースト」の方針によって諦めずに改善を重ねた結果、「人間が考えた文言プラス生成 AI が生成した文言」のハイブリッドで最も効果が上がることがわかったそうです。
三上はこの事例について、生成 AI ファーストの成果であり、かつ「全部を AIがやるのではなく、使いこなすのは人間であって、それをサポートするのが AI」というMicrosoftの「Copilot」の考え方と一致すると評価。ふたりは、人間と AI の協調が重要であるという点で意見を一致させていました。
続いての話題は人財教育について。三上は、今後は業務における要件定義力や生成 AI との会話力が必要になってくるとし、社内に生成 AI を学ぶ機運を広める重要性を指摘します。伏見氏は、ナレッジの蓄積、モチベーションの維持という観点で、同社では生成 AI コミュニティが重要な働きを示していると返答しました。
そして伏見氏は、自分が所属する部門における業務課題を理解し、生成 AI の活用の可能性を見出すエバンジェリストの重要性を強調。「生成 AI を使うとこういうことができるんじゃないかという、ある一定の翻訳をしてくれる」人財の育成が、全社的な活用推進に不可欠だと説明しました。
最後に伏見氏は、楽しみながら生成 AI を活用することの重要性を強調。三上も「生成 AI 活用の持続可能性を高めるためのキーポイントは楽しむこと」と同意して、パネルディスカッションは終了となりました。
伏見氏は、同社の取り組みはまだ始まったばかりであると述べつつ、「業界を挙げて事例の共有ができれば」と、業界全体での取り組みを推進することへの期待を表明して、基調講演を終了しました。
業界別 AI 取組紹介
1. サービス業
「従業員の問題解決をサポートする AI 実現に向けて」
イオンディライト株式会社
執行役員 IT 責任者
秋田 圭太 氏
イオンディライトの秋田氏からは、若手社員のアイデアから生まれた「AI マネージャー」の開発経緯とその意義についての解説が行われました。
AI マネージャー開発のきっかけとなったのは、Microsoft 365 の導入だったと秋田氏。サイロ化したシステムやセキュリティ対策、ファイル サーバーの一本化など、今後の DX を見据えた大刷新だったと語ります。
この動きと並行して社内では、若手社員がさまざまなアイデアを創出するプロジェクトも進められていました。そこで発表されたのが、誰もが即時に不明点を解消するための生成 AI の活用企画でした。
秋田氏によると、「社内の誰に聞けばよいのか分からない」「社内システムのどこに欲しい情報があるかわからない」といった問題を解決するため、「いつでも即座に質問できる環境の整備が必要」という提起があったそうです。
実はこのとき、日本マイクロソフトのエバンジェリスト西脇による啓蒙に触れた同社 IT 部門のなかで、生成 AI 活用の機運が高まっていたとのこと。秋田氏は「AI マネージャーのアイデアが提案されたタイミングとうまくつながって、スピード感を持った開発を展開できました」と明かします。
開発は、「現場に 1 日でも早く使ってもらうこと」を最優先事項として、アジャイル型の開発で 3 つのステップに分けて進められました。
まずステップ 1 では、社内規定や業務マニュアルに基づいた回答をする機能を、着手から 2.5 ヶ 月でリリース。ステップ 2 では業務システムのデータからも回答を導き出せるように機能を拡充し、ステップ 1 で課題となっていた、表形式の資料の回答精度が悪かった点の解決に取り組みました。そしてステップ 3 では、参照データにインターネット上の情報を加えることで利便性の向上を図り、スマートフォンへの最適化も行いました。
秋田氏によると、AI マネージャーには引用資料が表示される機能があるため情報の正誤を確認可能で、最下部に質問欄が設けることで自然言語による検索方法に馴染むUIが採用されています。さらに、質問数に応じて画面に配された樹木が成長するギミックを搭載。誰にとっても使いやすく、継続的に活用したくなる工夫が施されています。
導入効果としては、ステップ 1 から 3 にかけて月間の質問回数は 2.3 倍に向上しており、疑問解消にかかる時間は 617 時間の削減が想定されているとのこと。今後は「データが業務を支援してくれる未来」を目指したいと秋田氏。最後に「回答精度を高めていくためにもまずは、生成 AI に気軽に触れられる環境を整備する重要性」を強調してセッションを終了しました。
2.流通・小売業
「花王のチャレンジ〜生成AIをビジネスに活かすための人財教育と仕組みづくり〜」
花王株式会社
DX戦略部門 DX戦略デザインセンター センター長
桑原 裕史 氏
花王は、中期経営計画達成のためのエンジンは「人」であるとして、DX 人財への投資を進めています。その取り組みの一環として同社では、2024 年度から全社向けの DX 教育「DX アドベンチャープログラム」を開始しました。
このプログラムは 3 つの階層と 5 つのレベルに分かれており、社員のスキルレベルに応じた教育を提供しています。
「DX 理解者レベル」では、外部のオンライン学習システムを活用して個人のスキル診断に基づく学習プランを提供。その上の「部門 DX 推進者レベル」では、各部門の特性に応じたプログラムを提供しています。そして「全社 DX リーダーレベル」では、プロジェクトベースの学習やOJTなど、より実践的な教育を通じた高度な DX スキルの習得を目指しています。
また、部門 DX 推進者レベルが対象となる「Kao AI Academy」は、生成 AI 時代に対応する人財育成を目的としています。
全社員を対象とする「フレンドコース」では、生成AIの基礎知識と ChatGPT の使い方を学び、より高度なマスターコースでは、日本マイクロソフトのサポートのもとでプロンプトエンジニアリングやMicrosoft Copilot の活用方法を学びます。
特筆すべきは、社長自らがビデオメッセージを通じて AI 技術の重要性と潜在的リスクについて語りかけるなど、トップダウンでの推進を行っている点です。桑原氏は「トップからの巻き込み方がないとなかなかうまくいかない」と、経営層の関与の重要性を強調しました。
続いて桑原氏は、生成AI活用に向けてデータの整備が必要不可欠になるとの見解を示し、それを使いこなす人財の重要性を改めて強調。現在同社では、データを活用して現場の課題を自ら解決できる「シチズンディベロッパー」の育成に注力しています。
シチズンディベロッパーは、Microsoft PowerBI や Microsoft PowerApps などのローコードツールを活用して、情報システムの専門家が手をつけにくい、現場の課題に即した解決策を開発する役割を期待されています。彼らが開発した業務アプリは共有サイトを介して社内に展開され、年に 2 回開催される「シチズンディベロッパー EXPO」では優れた事例への表彰も行われているそうです。
また同社では、2018 年からデータレイクの構築を進め、社内データの統合と活用を推進。「今後は生成 AI を活用することで、さらにさまざまな活用方法を模索できる」と期待を語ります。
最後に桑原氏は改めて「DX は人」であると強調。社内に DX 人財を増やしてともに DX を進めていくことで中期経営計画の目標を達成したいと語り、セッションを終了しました。
「ソフトバンクによる生成 AI の取組と導入事例紹介」
ソフトバンク株式会社
法人プロダクト&事業戦略本部
クラウド技術企画統括部 クラウド技術企画2部 部長
森 五月 氏
アルフレッサ株式会社
コーポレート本部 経営管理部経営管理グループ
寺野 準也 氏
本セッションでは、日本マイクロソフトのパートナーであるソフトバンクの生成 AI 関連ソリューションと、同社ソリューションの導入企業であるアルフレッサの取り組みについて語られました。
まず登壇した森氏は、ソフトバンクでは流通小売業のバリュー チェーンのそれぞれの場面で提供可能なソリューションを展開していることを提示。同社が展開する生成 AI 関連サービスは「人材開発」「データ構造化」「プラットフォーム」の 3 つに分けられ、「ソフトバンクのソリューションの強みは、これらのサービスを統合的に提供できる点にあります」と、包括的なサポート体制を強調しました。
さらに森氏は実践的な活用例も紹介。日本マイクロソフトと協力して自社のコール センターに最新の生成 AI を導入、対応の質と生産性の向上を図っていることを説明しました。また、アイリス オーヤマでの活用例として、POS データの分析や標準化に生成 AI を活用する取り組みを支援していることを明らかにしました。
ここからアルフレッサの寺野氏が登壇。同社における生成 AI 導入の取り組みと、ソフトバンクとのパートナーシップについて解説しました。
医薬品卸業を展開するアルフレッサは、業務改革プロジェクト(BPR)の一環として生成 AI の導入を決定し、独自の AI アシスタント「Owl-One」を開発しました。
寺野氏によると、BPR プロジェクトを進める過程で、社内の問い合わせ対応に多大な時間が費やされていることが判明。従来のチャットボットでは回答用データの制限やシナリオ作成の煩雑さなどの課題があり、導入に踏み切れていなかったといいます。
「ですが、ChatGPT の登場によって潮目が変わりました」と寺野氏。生成 AIを用いた社内問い合わせツールの導入に道が開けたことを示唆します。
ツールの開発にあたっては「進化のスピードが凄まじい生成 AI の激流に飛び込むよりは、強力なパートナーに伴走してもらったほうがいい」という判断から、ソフトバンクが選定されました。選定理由として寺野氏は、「クローズドでセキュアな環境」「既存グループ ウェアである Microsoft 365 との親和性」「精度向上などの長期的な課題に対する伴走体制」を挙げ、決め手となったのは「ソフトバンクの凄まじい熱量」だったことを明かしました。
こうして開発された「Owl-One」は、社内情報と一般的な質問の両方に対応可能な AI アシスタントです。導入からの 1ヶ 月間で約 1700 名が利用しており、約 7 割が期待以上の評価をしているとのこと。現在は、回答可能な社内データの範囲拡大や精度の向上を目指して、Azure AI Document Intelligence や ChatGPT-4o の導入などを推進しているそうです。
寺野氏は、今後は生成 AI の浸透によって企業間の差別化がより困難になるため、人への依存度が高まるはずという予測を示し、「生成 AI によって付加価値を生める人材の育成や企業となり、持続的な成長を目指していきたい」と語って話を締めくくりました。
セッションの最後に、数ある生成 AI の活用シーンのなかから、社内問い合わせへの対応に最初に着手した理由を森氏から問われた寺野氏は、「生成 AI を使って何かしなければ、というよりは、課題に対応できるツールとして生成 AI を選んだ」と回答。生成 AI ありきではなく、課題に対してどんなツールを使うかを考えることが重要であることを示唆して、セッションは終了となりました。
「生成AI時代の流通業DX促進に向けたご支援策」
マイクロソフトコーポレーション
リテール&コンシューマグッズ 日本担当 インダストリー アドバイザ
藤井 創一
まず藤井は、シンガポールで開催された「NRF 2024 ASIA PACIFIC」の振り返りを行いました。この国際的な流通業界の展示会は、アジアで初めて開催されたという点で大きな注目を集め、日本からも多くの流通業者が参加していたそうです。
NRF 2024 ASIA PACIFIC はカンファレンスとエキスポで構成されており、エキスポ セクションで印象的だったのはイオンのブースだったとのこと。イオンは「同社が考える2030年の小売業の姿を踏まえて、消費者や従業員の体験を向上するためのテクノロジーを磨いていく」というアプローチを示しており、そこには「アジア地域でビジネスを展開していくにあたっての同社のビジョン」が見られた、と藤井は感想を述べました。
またカンファレンスセッションから受けた印象として、多様なアジアの市場を背景に「顧客中心主義」という共通のテーマがあり、そのためのデータ活用、さらには AIの有用性認識、という流れが見られた、と藤井。これはニューヨークで行われた NRF 2024 とも共通するテーマだったと総括し、世界の流通業界におけるデータと AI への注目度の高さを強調しました。
そして藤井は、マイクロソフトは「Retail Unlocked」をキーメッセージに掲げ、信頼できるデジタル基盤と価値の提供を通して流通業を支えていくという姿勢をアピール。その取り組みの成果として、Walmartとの生成AIでの協力関係、顧客体験向上アプリと従業員の業務効率化アプリを紹介、さらにアジアにおける生成 AI 活用事例として Lazada と Myntra の生成 AI によるカンバセーショナルなオンライン顧客体験革新事例を紹介しました。
藤井は各国市場特性によって多少の違いは見られるものの、社内 DX 以外のコア事業領域で、生成 AIが活用され始めていると分析。昨年の第 4 四半期から今年の第 1 四半期で、アジア圏流通業での生成AI採用企業は 60 % を超えており、ユース ケース検討数も200%増加し、過去にないすスピードで採用や検討が加速しているというデータを示しました。
続いて藤井は、Microsoft の一部の最新技術動向を紹介しました。5月に開催されたMicrosoft Build 2024 において、マイクロソフトは「Microsoft Copilot」「Copilot+PC」「Copilot stack」という 3 つの柱を発表しています。藤井は、マイクロソフトは、単一のAIモデルを推奨するのではなく、利用者の環境や目的に応じて、SLM(Small Language Model)やNTT データの日本語LLMなど多彩なAIモデルを最適に選択できるようにすることを説明し、さらにChatGPTなどの先進モデルなどではマルチ モーダル AI へ の進化の流れの中で新たなオンライン消費体験を創造可能となっていることも事例を通じて示しました。
藤井はここで NRF2024 では生成 AIのトレンドは理解したが、実際にどのようにの取り組んでいくのか悩む企業からの相談が多かったことを明かし、DX を通じた事業成果達成に不可欠な顧客や現場で働く従業員、経営者を巻き込み、、新たなステップに進めるのではないか、という見解を示しました。
一方で、DX の取り組みスピードと、AIの急速な進化にギャップが発生する可能性を、基盤テクノロジー提供サイドとして危惧していることを明かし、 今まで以上に流通企業と IT 企業が密連携することが必要であること、マイロソフトは「異次元な伴走支援」を提供することを強調。「AI 時代の DX をともに推進させていただきたい」と訴えかけてセッションを終了しました。
パネル ディスカッション
「AI 時代のマーケティングの今、そしてこれから」
Wisdom Evolution Company
代表取締役
Strategy Partners
代表取締役
西口 一希 氏
日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括 本部長
河上 久子
日本マイクロソフト株式会社
流通サービス営業統括 インダストリー テック ストラテジスト
岡田 義史
最後のセッションは、さまざまな業界でマーケティングや経営に携わり、数多くの成功例を間近で見てきた Wisdom Evolution Company、Strategy Partners 西口氏をゲストに招き、日本マイクロソフト河上がファシリテーター、岡田がパネリストとして登壇。流通小売業界におけるデータと AI 活用についての議論が展開されました。
河上から「いまのマーケティングのあり方や流通小売業界の動きに対する問題提起や課題感」について見解を求められた西口氏は、「内部を知っているわけではないのであくまで全体を見ながら」という前提で、2000 年代初頭に P & G に在籍していたときと印象は変わっていない、と回答しました。
同氏によると、当時から Walmart などの先進企業ではデータに基づくマーケティングが行われていたものの、日本ではデータを有効に活動できている企業はあまり見られなかったそうです。その後日本でもデータ活用の動きは進んでいるものの、まだデータの付き合わせなどは遅れている印象、という見解を示しました。
この見解に対して、河上はデータを組み合わせることでどのように顧客にリーチできるかを質問。西口氏は、「結局、お客さんを理解するしかない」と述べ、目先の売上などの数値だけを見るのではなく、「自分たちのサービスと顧客ニーズとの間に価値を生み出そうとする姿勢」が重要であることを示唆しました。 データの重要性を踏まえて、生成 AI 分野における Microsoft の取り組みについて問われた岡田は、伊藤忠商事の事例を紹介。同社の「FOODATA」は、Microsoft Fabric、Azure AI Studio、Azure OpenAI Service を活用してさまざまなデータを蓄積・可視化し、市場分析やコンセプト策定などの検証を行うことができます。岡田はこの事例のように「AI の進化によってこれまで不可能だったことが少しずつできるようになっている」という見解を示しました。
続いて河上は、日本の現場重視のカルチャーのなかで、生成 AI などの新しい取り組みをどう進めるべきか、西口氏に意見を求めました。
西口氏は「経営者として常に自分が心がけていること」として、短期的な売上と長期的な利益のバランスを取ることの重要性を強調しました。そして同氏は、自身が感じている AI のポテンシャルとして「なんでもかんでも、ぶちこんだものにロジックを見出すことができる」点を挙げ、3 年間程度の累計売り上げや ID ベースの POS があるのであれば、それを AI で分析して顧客のロイヤリティや購買傾向を分析することを提案しました。
さらに西口氏は、機会損失率という KPI の設定を提案。品切れは大いなる機会損失であるとし、時間単位の売上データと在庫データを組み合わせて AI で分析し、品切れ問題に対処する方法を示しました。西口氏は「自分がもしまた小売を担当したら、これはやりたいと思っています」と、これらの分析を通じてロイヤル カスタマーの維持と新規顧客獲得のバランスを取ることが重要であることを示唆しました。
最後に河上は、西口氏の提言を受けての Microsoft としての意気込みを岡田に促しました。岡田は「まずはお客さまとお話しをしたいと思います。一歩ずつ、一緒にやっていきましょう」と参加者に語りかけ、Microsoft の持つアセットを活用しながら流通小売業界に適した KPI や進め方をともに見出していく意向を表明しました。 これを受けて河上も「皆さまと一緒に何ができるかを真剣に考えていきたいと思います」と会場参加者と配信視聴者に語りかけ、パネル ディスカッションを終了しました。
全三回にわたって展開された Microsoft Retail Open Lab はこれにて一旦終了となりますが、第三回を終えてみて、急速な進化を続ける生成 AI 技術とそれに対する期待、そして課題に対応するためにも、継続的に情報共有の機会を設ける必要性を強く感じました。日本マイクロソフトはこれからも、さまざまな場面で流通小売業界の皆さまを支援し続けてまいります。